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本編

21.バースデー・アイス・ケーキ

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 くんくんと鼻を鳴らしながら、香りに誘われるまま歩いて、僕は誕生祭の会場から外に出た。
 ふらふらと香りを辿って歩いて行き、とある部屋の前に到着する。
 少し躊躇ちゅうちょしたものの、僕はどうしても香りが気になって、そっと扉を開けて中を覗いて見る。

「!!?」

 驚いてうっかり声を上げそうになってしまったが、僕は堪えた。

 誰も居ないようなので、こっそりと部屋の中に入り、近くまで寄ってそれをまじまじと見上げる。

(……うわぁー!? これはすごい! こんなの見た事ない!!)

 そこには見た事も無いような、それはそれは豪華で巨大なスイーツがあったのだ。
 僕は大興奮でふんふんと鼻息を荒げてしまう。

 鮮やかで華やかな色取り取りのアイスクリームやフルーツでデコレーションされた、巨大な芸術作品さながらの『バースデー・アイス・ケーキ』。
 緻密に計算し尽くされた、配色や飾り付けは見事としか言いようがなく、正に職人の技だ。
 その豪華なバースデー・アイス・ケーキはウエディング・ケーキみたいに何段にも積み重なり、高くそびえている。
 魔法でもかかっているのだろうか、美味しそうなそのケーキは、僕の目にはキラキラと光り輝いて見えた。

「……ごくり…………美味しそう……」

 キラキラのケーキを見ていたら、猛烈に食べたくなってしまい、僕は生唾を飲み込んだ。
 僕は美味しそうなそのケーキに思わず手を伸ばしそうになり、我に返り慌てて首を振って自分を叱咤する。

(だめだめ! このケーキはきっとこの後に誕生祭で皆に振る舞われるバースデー・ケーキだから!!)

 僕はそう自分に言い聞かせつつも、横目でチラッとケーキを見てしまう。
 より一層、美味しそうにキラキラと光り輝いているように見える。

「……めちゃくちゃ……美味しそう……ごくり……」

 僕の思考が理性と欲望の間でせめぎ合っていると、脳内で小さい白豚達が何やら呟き始める。

『美味しそうなケーキ・ぶひ』
『甘くとろけそうなアイス・ぶー』
『甘酸っぱそうなフルーツ・ぶう』
『早く食べたいじゅるるるる・でぶー』

(小さい白豚達よ……こういう時は『善良な天使と誘惑の悪魔』的な白豚が出て来るのがお決まりなのでは? それ、スイーツ見た只の感想じゃん……)

『スイーツ食べたいんだから仕方ない・ぶひ』
『ちょっとだけ、ちょっとだけ、一口味見するだけ・ぶー』
『これだけあるんだから、ちょっとくらい食べてもバレない・ぶう』
『もう我慢できない早く食べたいじゅるるるる・でぶー』

(善良な白豚天使どこいった!? 僕の脳内には誘惑の白豚悪魔しかいないのか!!?)

『そこに美味しそうなスイーツがあるのに、何を我慢する必要が?・ぶひ』
『今食べても後で食べても、食べる事には変わりはない・ぶー』
『あれだけの人数だと、本当に食べられるかも怪しい・ぶう』
『今日は誕生日なんだし、ちょっとくらい食べてもバチは当たらない・でぶー』

(いやいやいや、だめだめだめ! 待ってれば僕にも振る舞われる筈だから!! ……多分、だけど。……)

『目の前に聳えるは、我らが待望の豪華なスイーツ! この機を逃したら次いつまた邂逅かいこうできるか分からない!!・ぶひ』
『何故、スイーツを食べるのかって? そこにスイーツがあるからさ!・ぶー』
『一にスイーツ! 二にスイーツ! 三度の飯よりスイーツが好き!!・ぶう』
『スイーツを食うは一時の後悔! 食わずは一生の後悔!!・でぶー』

(そんなことわざはありません!! ……そうだよね、頭の中スイーツでいっぱいだもんね! ……うん、知ってた。……)

『我々はスイーツを要求する!!』
『『『スッイーツ! スッイーツ! それ、スッイーツ! ほれ、スッイーツ! やれ、スッイーツ!』』』

 脳内で小さい白豚達がスイーツ・コールを始めて、ぶーぶー騒いでいる。
 僕はモヤッとして、小さい白豚達を手で振り払って散らしてやった。

「僕は食べない! 善良な白豚王子になるんだから!! きっと後で僕も貰える筈だから!!!」

(僕は悪役を撤回するって決めたんだから……いくら嫌われていたって、誰かの分のケーキ奪っちゃう事はしちゃいけない。きっと、皆も楽しみにしているんだから……)

 ふんふんと鼻息を荒げ、僕は誘惑に挫けそうになる心を奮い立たせて決意した。
 ケーキをもう見ないようにして振り返り、誕生祭の席に戻ろうと僕は扉を開ける。

 すると、扉を開け放ったせいか、甘く濃厚な芳香がふわりと香った。――――……


 ◆
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