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本編

15.白豚王子と黒狼王子の出会い

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 ガトー王子一行が案内係に付いて行くと、行く先の通路に人集りができており、通行の妨げになっていた。
 ガトー王子が人集に目を向けると、中心には一人の子供がいた。

 その子供の丸々とした容姿を見て、ガトー王子は御供達に小声で話しかける。

「……あれは? 他にも獣人がいるのか?」
「豚の獣人――の子供にしては少々丸々し過ぎでは? 獣耳も尻尾も無いように見えますが?」
「いいえ。あれは多分、噂の第一王子ではないでしょうか」

 ガトー王子とアーモンドは驚いてマカダミアに振り向き、また子供の方へと向き直り、まじまじとその子供を凝視した。

「……あれが? ……この国の王子……」

 身長はガトー王子よりも少し小さいだろうか――ただ、横幅は何倍もあり、尋常ではなく大きく丸い。
 ガトー王子は、ここまで丸々とした体型の者を獣人の者でも見た事が無い。
 色白の者が多い魔法使いの中にいても更に白い肌、淡い桃色の髪、少し尖った耳、顔は後姿で見えないので分からなかった。

 魔法使いは魔法に傾倒する故に、身体を鍛える事がほとんど無く、細身で華奢で色白な者が多い。
 また、魔法使い達はその傾向から、細くしなやかなで長い者を『美』『是』『善』とする感性があった。
 その印象が魔法使いへの一般認識だった事もあり、ガトー王子は尚の事驚いたのだ。

 御供達は第一王子についての噂を、ガトー王子に小声で説明する。

「はい。噂では妾妃が残したという第一王子かと……余り良くない噂の人物のようです……魔法使いの王族に生まれながら、王族としての勉学を厭い教養など無く、魔力は無いに等しく素養も無いとか……肥え太り酷く醜い容姿をしているとか……」
「ああ、アイス・ランド王国の第一王子の噂なら私も聞いた事が……確か噂では、王族である事を笠にする性悪で横暴な乱暴者で、手の付けられない問題児だとか……事ある毎に問題を起こしては、周りを揶揄って遊んでいるとか……また何か問題でも起こして、野次馬が集まっているのでは?」
「そうなのか…………」

 三人が話し込んでいると、事が収まったのか人集があっという間に掃けて無くなっていった。

 その場に残されたのは、第一王子と御付のメイドだけになっていた。
 メイドが歩き出し、それに付いて来るように第一王子が向き直り、ガトー王子の方へと歩みを進める。

 第一王子がガトー王子達に気付き、顔を上げた。
 そして、――


 ニチャァアー……


 ――第一王子のその表情を見て、ガトー王子、獣人一行は全身の毛という毛が逆立った。

「「「!?!?!?」」」

 その表情に戦慄しているガトー王子達を後目に、第一王子達は通り過ぎ、立ち去って行った。
 その後も、しばらく衝撃に立ち往生するガトー王子、獣人一行。

「…………今のは、何だ?」
「……な、なんでしょう? ……」
「……なんて、恐ろしい顔だ……」

 ガトー王子が呟くと、御供達はぷるぷると逆立った毛を撫でつけながら答える。

「……俺を見て、笑ったのか?」
「……わ、笑いましたね……それはもう不気味な笑みで……くうぅ~ん、ぶるぶる」
「……あんな、醜悪で凶悪な顔、見た事ない……あ、また毛が、ぶるぶるぶる」

 従者達はせっかく撫でつけた毛が、また先程の表情を思い出してしまい、ゾワゾワゾワと毛を逆立ててしまう。

「……あれは……笑ったのか? ……わらったのか? ……」
「「???」」

 ガトー王子の質問の意味がいまいち分からない、御供達の頭上には『?』がいっぱい浮かぶ。

 見た目こそ恐ろしく醜悪で凶悪な含み笑いだったが、ガトー王子は何故か第一王子からは侮蔑や嫌悪といった悪感情を感じなかった。
 獣人の中でも感情の機微に人一倍聡いガトー王子は混乱せざるを得なかったのだ。

(獣人を侮蔑する筈の魔法使いの王子が、俺を見て笑った? 嗤ったのではなく、笑った? でも何故――)

 固まる一行を待ちぼうけしていた案内係が、待ち兼ねて声を上げる。

「おほん! 行きますよ」
「……あ、ああ」

 ガトー王子は思考を中断し、案内係に向き直り歩みを進める。

「この国に長居は無用だ。さっさと用を済ませ本国に戻ろう」
「「御意(はい)!」」

 ガトー王子一行は本国の使命を果たす為、いさんで謁見の間へと向かった。


 ――ここから、白豚王子と黒狼王子の物語は始まり、二人の運命は大きく変わり始める。――


 ◆
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