地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢

文字の大きさ
7 / 12

第7話

しおりを挟む
 ――ある時は、学院の風紀を乱してやりました。
 平民を嘲笑う貴族の学院生を見かけ、その貴族よりも勝るわたくしの権力や財力をもってして、格の違いを見せつけてねじ伏せ、嘲笑ってやりました。
 驕り高ぶっている権力者が如何に醜悪で滑稽に人の目に映るのか、わたくしは我が身をもって分からせ、正しい王侯貴族のあり方を懇々と説いたのです。
 自分のことを棚に上げて、偉そうに言いたい放題お説教するなんて、わたくしったら中々に悪い女ではなくて?
 うふふ、立派に悪女ができていますわね! この調子で頑張りますわよ!

 また、貴族には眉をひそめられることですが、平民が着る制服をわたくしは好んで着ました。前々から可愛いと思っていたので、着てみたかったのです。
 多忙で参加できていなかった学院行事にも、積極的に参加しました。
 そうしている内に、貴族も平民も学院生はわたくしの真似をして、媚びへつらうようになりましたけども……。
 まぁ、ルベリウス殿下を除いて、学院内で一番身分の高いのは公爵家のわたくしですから……当然、学院で偉ぶっていいのは悪女のわたくしだけなのですわ!

「ガーネット、どうかなこれ?」

 学院の昼食休憩、ルベリウス殿下に声をかけられ、振り返ったわたくしは驚きました。

「ルベリウス殿下!? そのお姿は……」
「僕も君の真似をして、制服にしてみたんだけど、どう? 似合うかな?」

 わたくしの目の前には、制服を着崩して袖をまくり、首元を緩めて前髪を上げ、黒い色眼鏡をかけた彼の姿があったのです。

「なんと言いますか、とっても…………とっても、悪そうですわ!」

 元々は品行方正で気品があって優雅な雰囲気のある彼が、服装を乱しているだけで、なぜだか妙な色っぽさが溢れ出しています。
 大人びていながらも、大人になりきらない。悪戯っぽさがあどけなくも危うい、そんな色香を漂わせていて、わたくしなんだかドキドキしてしまいます。

「……特にその黒い眼鏡……格好良くて素敵ですわね……」
「髪を上げて顔を出すようにしたからね。これがあると昼間も眩しくないんだ」
「……良いですわ…………とっても、悪そう……」

 わたくしが彼にうっとりと見惚れていると、彼に見惚れているのはわたくしだけではありませんでした。
 周囲で昼食をとっていた方々も皆、彼の色気に当てられて頬を赤く染めていたのです。

 色めき立つ周囲の様子を見回した彼は、色眼鏡をずらしてわたくしに流し目を送り、片目を閉じて合図して見せます。

「どうやら、僕の顔は色々と使えるようだし、使えるものは使わないと、ね?」
「はぅ!」

 彼の合図と同時に、わたくしの胸は何かに射抜かれた気がして、変な声が出てしまいました。……もぅ、恥ずかしいですわ!

 ――またある時は、貴族の堅苦しい因習を唾棄してやりました。
 舞踏会の片隅で蹲る破けたドレスの乙女を見かけ、わたくしは閃いて自分のドレスを裂いてスカートの丈を短くしたのです。
 淑女の嗜みで裁縫は得意だったので、切った端切れでコサージュやリボンを作り、乙女とわたくしのドレスを見違えるほど豪華で可憐なドレスに仕上げました。
 女性が肌を露出するのははしたないと、足を見せるのはいやらしいと、忌避される因習なんて唾棄して、乙女の自由な愛らしさを知らしめてやったのです。

 こんなに破廉恥なことを堂々としてのける、わたくしったらなんて悪い女なのでしょう! 楽しくなってきちゃったので、もっと楽しくしてしまいましょう!!
 型破りな女性同士のダンスでも、乙女が楽しげに微笑んでいれば、魅了されるものです。
 壁の花になっていた乙女達も誘い、可憐な乙女に引き寄せられる紳士達も巻き込んでしまえば、もう誰も文句なんて言えませんわ!

 後日、新しく丈を短く仕立てたドレスをルベリウス殿下にお披露目したくて、彼の前でクルクル回ろうとしたら、裾を押さえられ止められてしまいました。

「うわぁっ!? ガーネット、それ以上は丈短くしちゃ駄目だよ! 踊ったら下着が見えちゃいそう……」
「あら、さすがに見えちゃうのはいけませんわね。うーん……そうですわ! 今度は見せる下着を作りましょう!」
「み、見せる下着? だ、大胆だね、ガーネットは……ちょっと煽情的すぎないかな?」

 ごくりと唾を飲み込んで心配そうに言う彼を後目に、わたくしは想像が膨らんでワクワクしてしかたありません。

「贅沢にフリルをたくさん寄せて作るフワフワのパニエとか、ドロワーズを豪華なドレスと同じ生地で作って重ね着したら、絶対に華やかで可愛いですわ! あぁ、次のパーティーに間に合うかしら? 今から楽しみですわね♪」

 うきうきと楽しい気分でわたくしがはしゃいでいると、彼は小さく溜息を吐いて呟きます。

「はぁ……君がそんなに楽しそうに笑っていたら、僕は駄目だなんて言えないよ……ただでさえ牽制しているのに、花に群がる虫を蹴散らすのは、相当骨が折れそうだ……」
「? ……庭園の蝶々のお話ですか?」
「いや、なんでもないよ」

 彼もニッコリと微笑んでくれるので、わたくしはやりたいようにやりますわ!

 ――そのまたある時は、市井に降りて民衆を惑わして馬鹿騒ぎしてやりました。
 作物の不作で商人に買い叩かれている農民を見かけ、わたくしは閃いて公爵家の財力でもって商人を黙らせ、その農民から作物をすべて買い上げてやりました。
 買い上げた作物を、農民が丹精込めて育てた作物を、わたくしは農民達の目の前で踏み潰してやったのです。
 キャーキャー、やってしまいましたわ! わたくったらなんて悪い女、極悪非道な悪女ですわね!!

 確かに見目の悪いブドウやベリーは、商人の言う通り売り物にするには不出来。
 ですが、糖度が高いものは変色し見目が悪くなるのだと、知識があったのです。
 すぐに痛んで食べられなくなる不出来な作物も、ジュースにすれば良いのです。
 糖度の高いジュースを保存して、発酵させればお酒にもなります。
 わたくしが踏み潰してジュースを作っていると、農民や市井の娘達も真似をして見目の悪い作物でジュースを作り始めました。
 キャッキャとはしゃいでいれば、騒ぎは大きくなって、街を上げてのお祭り騒ぎになったのです。ふふふん、してやったりですわ!

 汚れた足を水場で洗いながら、娘達と水を掛けあいバシャバシャ遊んでいると、ルベリウス殿下に膝を抱えられ持ち上げられてしまいました。

「ほら、もうおしまい。こんなに濡れて、風邪をひいてしまうよ」
「あはは。水遊びすごく楽しいですわ! もっと遊んでいたいくらい♪」

 同年代の娘達と騒いで遊ぶのがとても楽しくて、もっと遊んでいたくておねだりしてみますが、彼はわたくしの顔をじっと見て困った表情をしながら言います。

「……もう、そんなに良い笑顔しても駄目だよ。日が落ちて冷えてきたからね……それに、周りの男達の視線も気になるし……」

 水場の近くにいた男性達の方へと彼が顔を向けると、ヒィッと小さな悲鳴が聞こえて、男性達は散り散りにいなくなってしまいました。

 乾いた地面にわたくしを下ろし、彼は上着を脱いで掛けてくれます。
 どうやら、水に濡れて薄っすらとですが、下着が透けてしまっていたようです。
 しっかりした生地の見えてもいい下着なのですが、そんなわたくしの姿を見ないように彼は顔を背けていて、頬やお耳を赤く染めていました。

「ふふふ、ルベリウス殿下もそんなお顔をしますのね」
「えっ? そんな顔って、僕どんな顔してるの??」

 わたくしの言葉に驚いて、慌てて彼は振り返りました。

「お顔もお耳も、首まで真っ赤になっていますわよ」
「は、恥ずかしいから、そんなに見ないでくれるかな……」

 彼は両手を翳して顔を隠してしまいました。
 ですが、わたくしはその手を取って顔を覗き込みます。

「ふふん、駄目ですわ。いつもはわたくしばかり見られているんですから、ルー殿下のお顔も見せてください♪」
「わぁ! やめてガーネット! もう許して!!」

 恥ずかしがる彼の反応が可愛くて、悪女のわたくしは新しい遊びを覚えてしまいました。……じゃれつくのが楽しくて、猫になった気分ですわ!

 そんな、自分勝手に生きる『華麗な悪女』としての楽しい日々は、瞬く間にすぎていきました。
 ただ、ずっと気になっているのが、これだけ好き勝手に振る舞っているというのに、王家からのお咎めが何もないということです。
 それが、どうにも不可解で不気味に思えてしかたありませんでした。

「ルベリウス殿下……あの、王宮に出向くことがなくなったので、お訊きしたいのですが、クラウス殿下とエメラルダ嬢はどうされているのでしょう?」
「……あの二人は相変わらずといったところかな。真実の愛だの恋だのと言って、人目もはばからずにイチャついているし、公務もさぼり仕事そっちのけで色ご――ご、ごほん」

 言葉を濁す彼の様子から、クラウス殿下達の傍若無人な振る舞いで、王宮の方々は滞った仕事に追われ、わたくしに構っている余裕などないのだろうと推測されました。
 わたくしが放り出してしまったことで、他の方の負担になってしまったのなら、少し申し訳ない気持ちになります。

「そうなのですね。公務が滞って……皆さん大変ですわ……」
「その辺りは僕がなんとかするから、君は何も心配しなくて大丈夫だよ」

 彼が優しく微笑みかけてくれるだけで、わたくしはいつも不思議と安心しきってしまうのです。

 やがて、月日は流れ、学院卒業を一月後に控えるところまできてしまいました。
 悪夢の未来で婚約破棄され断罪された、あの卒業パーティーが日に日に近づいてきていたのです。
 わたくしは未来を変えるために『理想の淑女』をやめて、『華麗な悪女』としてすごしてきました。
 けれど、未来は変わっていると信じたいのに、どうしても一抹の不安が拭えきれません。

 ですので、わたくしはこれを最後・・にしようと決め、公爵家で大々的に社交パーティーを催すことにしたのです。

 ◆
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい

麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。 しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。 しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。 第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。

これって私の断罪じゃなくて公開プロポーズですか!?

桃瀬ももな
恋愛
「カタリーナ・フォン・シュバルツ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 卒業パーティーの最中、第一王子アルフォンスから非情な宣告を突きつけられた公爵令嬢カタリーナ。 生まれつきの鋭い目つきと、緊張すると顔が強張る不器用さゆえに「悪役令嬢」として孤立していた彼女は、ついに訪れた「お決まりの断罪劇」に絶望……するかと思いきや。 (……あれ? 殿下、いま小さく「よっしゃあ!」ってガッツポーズしませんでした!?)

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

悪役とは誰が決めるのか。

SHIN
恋愛
ある小さな国の物語。 ちょっとした偶然で出会った平民の少女と公爵子息の恋物語。 二人には悪役令嬢と呼ばれる壁が立ちふさがります。 って、ちょっと待ってよ。 悪役令嬢だなんて呼ばないでよ。確かに公爵子息とは婚約関係だけど、全く興味は無いのよね。むしろ熨斗付けてあげるわよ。 それより私は、昔思い出した前世の記憶を使って色々商売がしたいの。 そもそも悪役って何なのか説明してくださらない? ※婚約破棄物です。

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

婚約破棄!ついでに王子をどん底に突き落とす。

鏡おもち
恋愛
公爵令嬢パルメは、王立学院のパーティーで第一王子リュントから公開婚約破棄を突きつけられる。しかし、周囲の同情をよそにパルメは歓喜した。

王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!

ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。 なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。

処理中です...