【完結】どうも、使い魔の人間です。~魔族しかいない世界でモフモフ魔族に溺愛されてます~

胡蝶乃夢

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25.モフモフ魔族達との楽しい暮らし

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「……ア、アダム?!」
「どうして、こいつが?」

 思い返せば、決闘の後、学園でアダムの姿を見なくなっていた。

「ノヴァお願い、助けてあげて!」

 アダムを心配して集まっていた混ざり者達の声にノヴァはハッとし、急いでアダムに触れて回復魔法をかける。
 しかし、連日の作業で魔力消費が激しかったこともあり、思うように回復が進まない。
 ノヴァは苦しそうな表情で息を荒げ、脂汗を流している。

「はぁ、はぁ……っ……傷が深すぎて、魔力が足りない……お前らの精気を分けろ……」
「わかった」

 僕や集まっていた混ざり者達はノヴァに触れ、精気を分ける。
 ひどい眩暈がして、気を抜くと意識を失いそうだと思いながら堪えていると、ノヴァが呟く。

「なんとか傷は塞いだ……これが限界だ……」

 ふらふらとして後方に倒れるノヴァを抱きとめる。
 精気を分けていた混ざり者達もぐったりとした様子ではあるものの、笑ってノヴァにお礼を言う。

「ありがとう、ノヴァ」
「……ああ、お前らもな」

 見れば、先程まで死人みたいに真っ青だったアダムの顔に血色が戻っている。
 これでもう一安心だろうとホッと息を吐いていると、アダムの睫毛が震え、ゆっくりと目を開く。

「……、……? ……っ!?」

 虚ろな目で周りを見回したアダムは正気を取り戻し、飛び起きようとするが、体の痛みに表情を歪めてうめく。

「うぐっ……」
「あっ、まだ動かない方がいいよ。応急処置で傷は塞いだけど、完治してるわけじゃないから」
「なんでエルフのお前がスラムの端なんかで行き倒れていたんだ? それもそんな大怪我をして――」
「……全部、貴様らのせいだ」
「「?!」」

 ノヴァが訊くと、アダムはギロリと僕達を睨みつけて告げた。

「貴様に負けたからだ……最上位種のエルフである私が劣等種などに敗北したから……私はエルフの面汚しとして破門され、制裁を受けたのだ……そして打ち捨てられた……ただ、それだけのことだ……」

 アダムは視線を落とし、吐き捨てるようにして言う。

「捨て置けば良かったのだ……情けなどかけられる筋合いはないのだから……私にはもうどこにも居場所はない。行く宛などないのだ……じきに野垂れ死ぬだけだ……」

 自暴自棄になるアダムへ言葉をかけようとすれば、アダムを心配して集まっていた混ざり者達が前に出てきて言い募る。

「行くところがないなら、ずっとここに居たらいいよー」
「そうそう、あなたもうちの子になっちゃえばいいわ」
「おお、また家族が増えるな。賑やかになって楽しいぞ」
「なっ、なんなんだ貴様らは! 毛むくじゃらな手でべたべた触るな! おい、やめろ!!」

 面食らってあたふたとするアダムを見て、ノヴァが愉快そうに笑っている。
 僕は僕で、新しいオモチャを見つけてソワソワする猫みたいで可愛いと思ってしまう。

「縁も所縁もない赤の他人の子供でも拾ってここまで育て上げるくらいだ。そんじょそこいらの世話焼きやお節介とはわけが違うからな。何言っても通用しないから、さっさと諦めて世話されとけ……まぁ、よろしくな、兄弟」
「はぁっ?!」

 モフモフ魔族達にお世話してもらえるなんて、ちょっと、いやかなり、羨まけしからん。

「いいなぁ……」
「お前なぁ……俺で我慢しろ」
「え、ノヴァがしてくれるの?」

 指を咥えて羨ましげに見ていれば、ノヴァが頷いて返事してくれたので僕は上機嫌になる。
 それから、混ざり者のモフモフ達は率先してアダムの世話をしたのだった。


 ◆

 モフモフ魔族達は、丹精込めて作った栄養豊富な食事を手づから食べさせ――。

「ご飯の時間ですよ。食べさせてあげるわね。はい、あ~ん」
「介助などいらん。一人で食べ――むぐっ! ……もぐもぐもぐ、ごくっ。だから――むぐ!!」

 慣れない場所では心細かろうと、四六時中、側から離れず、夜は寝かしつけ――。

「添い寝してあげるねー。あと子守唄も歌ってあげる、得意なんだー。ららら~♪」
「いらんと言っているだろうが……と言うか、お前が寝てどうする。寝るの早い上に、イビキうるさい……」

 元気が出るようにと励まして、愛情いっぱいに触れ合い抱擁する――。

「ノヴァはくっついてるとすぐに良くなるんだがな。きっとくっつきが足りないんだな……みんなでアダムをぎゅうするぞ」
「……っ……や、やめろ! もういい、もう治ったから! その撫でたくなるモフモフで私に抱きつくなっ! 私はあの使い魔みたいな変態じゃないっ!!」
「え、別に撫でてもいいんだよ? 撫でてくれたら嬉しいし、家族なんだから、そのくらいしても当たり前でしょう?」

 期待に満ちたつぶらな瞳で見つめられ、フワモコな魅惑のボディで誘惑されては、さすがのアダムもたまらずモフモフにそっと手を伸ばす。

「っ!!?」

 そんなこんなで、蔑んでいたはずの劣等種から献身的に世話され、頑なだったアダムもしだいに絆されていった。
 回復したアダムが「恩は返す」と言って他の仲間達に混ざり、スラムの改修を手伝うようになれば、モフモフ魔族達は大喜びする。

「アダム、元気になったんだね。本当に良かったー」
「こんな魔法を使いこなせるなんて、アダムはすごいわね」
「アダムが手伝ってくれるおかげで、だいぶ捗ったよ。ありがとう」

 モフモフ魔族達からお礼を言われれば、アダムはまんざらでもない表情を浮かべる。
 最近では、最上位種の重圧から解放されたこともあってか、アダムの表情はだいぶ柔らかくなっていた。


 ◆


 改装工事の休憩中、発展していくスラムが一望できる丘で一息ついていたアダムを見つけ、僕は話しかけてみた。

「ここでの暮らしはどう? 混ざり者達とも打ち解けて、仲良くやっているようだけど」

 アダムは少し考えて、離れたところで作業しているモフモフ魔族達の姿を眺めながら答える。

「こうまでして私を受け入れてくれるのは、混ざり者くらいだろう……こんな暮らしも案外悪くないのかもしれない……」
「それは良かった。みんなも家族が増えたって喜んでいたからね。ノヴァもなんだかんだ言って楽しそうだし」

 アダムが少し不安そうな表情でこちらを見つめる。

「お前は……本当に嫌ではないのか? 敵対していた私を受け入れるなど、一度は粛清して殺そうとまでした相手だ。憎まれ、疎まれても当然……」
「今は違うんだし、別に気にしなくてもいいんじゃない? 少なくとも、僕とノヴァは気にしてないよ」

 心配しなくて大丈夫だよと、僕は明るく微笑みかける。
 アダムは少しホッとしたように息を吐いて、はにかみながら呟く。

「お前は、なんと言うか……変わっているな」
「ノヴァにもよく変なやつって言われる。自覚はないけどね。フワモコなカワイイ魔族達大好きだし、好きなものを好きって言って何が悪いの? って感じ。みんな偏見なんか捨てて、もっと素直になればいいのに。モフモフ・キュートな魔族達は何をどうしたって可愛いんだからさ! ね、アダムもそう思わない?」

 僕が熱弁すると、目を丸くしていたアダムが噴き出す。

「ははは……たしかに変わっている。風変わりな、変な使い魔だ」

 以前の高圧的な態度からは想像もつかないほど、穏やかに笑う姿を見ると、なんだかほっこりして嬉しくなる。
 アダムと意気投合して、モフモフ魔族達の魅力について楽しく話していれば――

「それでね、巻き尾を伸ばしてもクルリンって戻るのがまた可愛くて」
「!!」

 ――不意にアダムが僕を押し倒し、覆いかぶさってきた。

「な、なに急に?!」
「しっ!」

 静かにするよう口元へ指を当て、小声で合図するアダム。
 その視線の先を追うと、フードを被った怪しい白装束の集団がいた。
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