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20.エルフ・アダムとの決着

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 教員達が審査員席に着いたところで、続いて対戦者が入場する。

 最初に姿を表したのはアダムだった。
 空を駆けるペガサスに乗り登場したアダムは、後光が射して幻想的に輝き、見上げた魔族達は神々しい存在感に畏敬の念を抱く。
 そこかしこから、アダムを褒め称える声が上がり、感嘆の溜息がこぼれる。

「ああ、なんて美しい……神々しいまでに壮大な輝きを放っておられる」
「さすがはもっとも全知全能な人間に近いとされるエルフの次期代表だ」
「いずれ魔族の総統になるのは、アダム様で間違いないだろうな」

 魔族達が恍惚と眺めているところに、ノヴァと僕が会場入りする。
 僕達の姿を見て魔族達は目を眇め、なんとも言えない表情をしてこぼす。

「あれが噂のダークエルフか……比較にならないな」
「変なの連れて出てきたけど、なんなんだあれ?」
「人型の使い魔だったはずだが、なんとも珍妙だ……」

 僕はアダムと目を合わせない方針で、防御目的もあって分厚いゴーグルをかけていた。
 その他にも、みんながあれやこれやと防具をつけるものだから、スチームパンクを通りこして、ずんぐりむっくりしたメガネザルみたいな仕上がりになってしまったのだ。

(好き好んでしている格好では断じてない。そこは理解してほしい。背に腹は代えられないのだ。やむなしなのだ……)

 でも、だからといって指差されて笑われるのは腹立たしいもので、指差す魔族達を威嚇しておく。

「誰が妙ちくりんのちんちくりんだー! お前らも完全武装させて前衛的ファッションにしてやろうか、コンニャロー!!」
「「「うわぁ……」」」
「落ちつけ、余計に奇怪な生物に見えるぞ、お前」

 このずんぐりした見た目にはもう一つ理由があるのだ。
 それはとっておきの秘策、膨大な魔力消費に控えて魔力・体力を回復できるドリンク――名付けてマナ・・ポーションを大量に用意し、所持しているからなのである。

(食べ物からでも精気を吸って、少しずつ魔力を回復できることがわかったから、回復率の高い食べ物からエキスを抽出してポーションを作ってみたのだ。効果のほどは上々、これだけあれば準備は万全なのだ)

 対戦者と使い魔がそろい、教員が前に出てきて宣言する。

「これより、カースト順位・一位の座を賭けて決闘をおこなう!」

 審判員になる教員が勝負内容を発表する。

「ルールは定例通りの戦闘技能勝負。使い魔と共に戦い、相手に負けを認めさせるか、戦闘不能にした方が勝者となる。両者の準備ができしだい、決闘を開始する」

 双方が定位置に着き、アダムとノヴァは睨み合って火花を散らす。

「すぐさま貴様を底辺に突き落としてやる」
「はっ、それはこっちの台詞だ」

 双方の様子を確認し、審判員は開始の合図をする。

「いざ――はじめ!」

 審査員が声を張れば、アダムはペガサスに跨り、ただちに天高く飛び立つ。
 通常攻撃が届く高度ではない上に、逆光になって非常に視界が悪い。
 それでも、ノヴァは魔力を練り上げて飛び道具を作る。

 それは、僕がイメージを伝えて作り上げた拳銃――魔法銃だ。

「これでも食らえ! マジック・ショット!!」

 ノヴァはアダムへ狙いを定め、魔弾を撃ち放った。

 バギュンッ!

「!?」

 魔弾はアダムの首元をかすめ、撃ち抜かれて切れた髪がパラパラと落ちていく。
 観戦席の魔族達は見たことのない武器や攻撃に騒ぎだす。

「な、なんだあの武器は?!」
「この距離でも攻撃を当てられるのか!」
「とんでもなく短い詠唱だったぞ!!」

 予期せぬ攻撃を警戒し、アダムは上空を旋回しながら攻撃魔法を詠唱する。

「くそっ、飛び回って狙いが定まらない」

 続けざまにノヴァは魔弾を撃つが、高速移動するペガサスに躱されて当たらない。
 その間にもアダムは魔力を練り上げ、空中に無数の光の剣が出現していく。

「――シャイニング・スラッシュ!」

 アダムが唱えれば、上空を埋め尽くすほどの数多の光の剣が、ノヴァめがけて一斉に降り注ぐ。


 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ――――…………。


 轟音が響き渡り、ものすごい土煙が立ち昇って闘技場は何も見えなくなる。
 魔族達は、あれだけの斬撃を受けては肉片も残っていないのではないかと、戦々恐々とした面持ちで視界が開けるのを待った。

 土煙が舞う中から、巨大な黒い影が浮かび上がる。
 それは、ノヴァが瞬時に張った防御壁、シャドー・ウォールだった。
 激しい斬撃はすべて吸収され、僕達にはかすり傷一つついていない。

「私の光魔法を防ぎきっただと?!」

 光と影は表裏一体――光が強くなるほど、影もまた強くなる。
 ノヴァは闇魔法の天才だったのだ。

 アダムや魔族達がノヴァの力に驚嘆していると、ペガサスがいななく。

 ヒヒーンッ!

 ノヴァが闇魔法で生成した影の手、ダーク・バインドがペガサスの足を捉えたのだ。
 暴れて逃れようとするペガサスを無数の手が掴み、地上へと引きづり降ろしていく。

「ブラック・ネット!」

 さらに無数の手が絡み合い、伸縮性のある網となってペガサスの動きを封じる。
 だがしかし、網が体にかかる直前、アダムはペガサスから飛び降り、拘束を回避した。

「逃したか!」

 地面に着地するなり、アダムが光の剣を生成して投げ放つ。

「シャイニング・スラッシュ!」
「シャドー・ウォール!」

 すかさずノヴァが防御し、放たれ続ける光の剣を打ち消す。
 こうなると、使い魔のペガサスを奪われたアダムは圧倒的に不利だ。
 ただただ、光魔法で攻撃し続けても、消耗していく一方だと思われた。

「さっさと負けを認めたらどうだ?」
「はぁ、はぁ……この私が、負けることなどありえない!」

 息を切らせるアダムは啖呵を切り、ありったけの魔力で光魔法を乱れ撃ちし、再び土煙を舞い上がらせる。


 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ――――…………。


 そして、視界の悪さを利用し、急接攻撃に切り替えたアダムは特攻する。

「しまった!」

 アダムの狙いはノヴァではなく、近くでサポートしていた僕だ。
 繰りだされた斬撃をとっさに躱せば、ゴーグルが破壊され――僕はアダムと目が合ってしまう。

「っ!?」
「マナトッ!!」

 緑色の眼が妖しい光を放ち、目が逸らせなくなった。
 アダムは僕に命じる。

「ダークエルフを倒せ」

 一瞬、アダムの威圧感に硬直した僕は、ノヴァの方を見て――

「………………ん?」

 ――首を傾げた。

「何をしている、早く倒すんだ!」

 アダムが怒鳴って命令するが、僕は命令に従おうとは思わない。
 手をグーパーしてみたり、自分の体を見回して、変化がないか確認する。

(理性を失って操られるとか、一体どんな感覚になるのだろうと身構えていたけど、特になんの変化もないな……)

 ノヴァが心配そうな顔で僕を見て、訊いてくる。

「おい、大丈夫なのか?」
「うん、操られてるような感じはないよ」

 けろっとして答えると、アダムは愕然とした表情をして叫ぶ。

「な、なぜだ?! そんなはずは……うわぁ!」
「ダーク・バインド」

 ノヴァはアダムに向けて闇魔法を放ち、拘束して身動きを封じる。

「捕まえたぞ、これで終わりだ」

 影の手に押さえつけられ、アダムは地面に這いつくばる姿勢になった。
 魔法銃をアダムへと向け、ノヴァは審判員に判定を促す。
 唖然としてたい審判員は慌てて宣言する。

「そこまで! エルフの戦闘不能とみなし、勝者はダークエルフ!!」

 決闘の勝敗が決まり、カースト順位が覆った瞬間だった。

「やったね、ノヴァ! 僕達が勝ったんだ!!」
「ああ、これで俺達は……混ざり者の未来は守れたんだ」

 みんなも集まってきて、一緒に喜んでくれる。

「よくやった! 底辺からの下克上、最高にスカッとしたぜ」
「高飛車エルフを地に這いつくばらせて、実に愉快爽快じゃのう」
「でかしたでござる。これでマナト殿の地位は安泰でござるな」

 拘束を解かれたアダムは敗北を受け止められず、狼狽して喚き散らす。

「くっ……嘘だ、嘘だ嘘だ! この私が負けることなどありえない!! ……エルフの魔眼が利かない魔族なんて存在するはずがないんだ! 異常だ、異常なんだ……っ!?」

 喚いていたアダムはハッとして何かに勘づいた顔をし、声を大にして主張する。

「不正だ……これは不正だ! その使い魔は、魔獣でも魔族でもないのだから!!」
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