【完結】どうも、使い魔の人間です。~魔族しかいない世界でモフモフ魔族に溺愛されてます~

胡蝶乃夢

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14.ドラゴニュート・リュウとの邂逅

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 料理対決を観戦していた多くの魔族達が興味を持ち、自らも料理に挑戦し始めたことで、急速に調理環境が整えられ、食生活は一変していった。
 それにともなって、空前のハンバーガー&フライブームが到来したのである。

「このサクサクでカリカリな食感、病みつきになるな。いくらでも食えそうだぜ」
「俺は同じ食い物ばかりで飽きると言っていた感覚がわかってきた気がするぞ」

 ジャンクフードばかりでは体にも良くないので、僕はヘルシーで美味しい料理も広めながら食文化の改革をし、学食でも気軽に料理が食べられるようになっていったのだった。

 決闘の翌日から、グレイだけではなく、なぜかブラッドまでもが押しかけてきて、僕にひっつくようになっていた。
 美味しい料理もたくさん増えたのだから、わざわざ僕のところまでこなくてもいいのに。

「マーナートー♡」

 僕を見つけるなり駆け寄ってきて、鼻を鳴らしながら匂いを嗅ぐ。

「今日も美味そうな匂いをさせておるのう。何を持っておるんじゃ? ふんふんふんふん」
「いつもいつも食べ物を持ち歩いてるわけじゃないよ……って言っても、今日はあるけどね。スラムのみんなにお裾分けしてもらった木の実でクッキー作ったんだ。少しだけど食べる?」
「もちろんじゃ! ワシにも分けてくれ」

 丸い耳をピコピコとさせて、期待に満ちた眼差しで目を輝かせるブラッドに、ついつい餌付けしたくなってしまう。
 包みから取り出したクッキーを一枚摘んで口元へと差し出す。

「はい、あ~ん」
「あ~ん、ぱくっ」

 ブラッドは大きな口を開けて、僕の指先ごとかぶりついた。

「あっ、僕の手まで食べちゃ駄目だよ!」

 ビックリして声を上げれば、ブラッドは僕の手を掴んで、クッキーだけ取って美味しそうに咀嚼し飲み込む。
 食べ終えても手を掴んだまま放さず、ブラッドは口惜しそうに僕の指先を見つめて呟く。

「この手を食ってしまっては、美味い料理が食えなくなってしまうからのう。食いはしないが……少しだけじゃ、味見させろ……ぺろり」
「うわっ、ちょっと! やめっ、ああ、そんな舐めないでよぉ、くすぐったい!!」

 指先だけでなく、指の間や手の平まで舌を這わされて舐められ、背筋がゾクゾクとして手を引こうとするのに放してもらえない。

「ひあぁっ、あっ、ひゃん!」

 思わず変な声か出てしまって、慌てて口元を押さえるけど、時すでに遅しで恥ずかしくて顔が赤くなる。

「こら、ブラッド! ダメだってば……やめないと、もう作ってあげないよ?」

 悔しくてなかば泣きべそをかきながら、キッと睨んで見上げるのに、ブラッドはうっとりとした表情を浮かべて囁く。

「マナトの手は甘露じゃのう……甘く誘う匂いといい、滑らかな舌触りといい、ハチミツみたいじゃ……食べてしまいたくなるほど愛い♡ ちゅっちゅっちゅっちゅっ♡」

 駄目だ、無我夢中で手に唇をつけて、一向に放してくれそうにない。
 そんなブラッドの暴挙を見て、わなわなと震えていたグレイが詰め寄ってギャンギャンと喚く。

「あ゛あ゛ん、このゲス野郎ー! てめぇばっかずりいじゃねぇか! オレだって舐めてぇの我慢してたのにぃー!! ガルルルル……オレにも舐めさせろ!」
「うわぁっ?! グレイまで、何言いだすんだよ! そこは止めに入るところでしょうが!!」
 
 反対の手までグレイに取られてしまって、僕は逃げるすべがなくなってしまった。
 魔族の中でもトップクラスの肉体派な二人に、ただの人間である僕が力勝負で勝てるはずもない。
 僕の手はこのままベロンベロンのベチョンベチョンに舐められてしまうのかと達観していると、背後からドスの利いた声が響いてくる。

「おい……お前らはいったい何をしているんだ? いい加減に俺の使い魔から手を放せ、このケダモノ共!」

 手洗いから戻ってきたノヴァが、二人の頭を鷲掴みにして、僕から引き剥がしてくれる。もちろん、急速エナジー・ドレインつきで。

「ギャアァァァァッ! オレまだ舐めてねぇのにぃ~! 精気吸うのやめろ~!!」
「ウギャアーーーー! この感覚は慣れんのう! 脳みそが揺れとるぞこれー?!」
「やかましい、ケダモノ共が! 余計なことできんように干からびさせてやるわ!!」

 阿鼻叫喚してのたうち回る二人は、地べたに這いつくばって嗚咽をもらす羽目になった。

「「オエエェ……」」
「またやられるってわかってるのに、こりないね二人共。ははは……」

 頭を抱えてうなだれている二人を見て、僕は乾いた笑いをこぼす。

 昼食休憩中。
 学園の庭園で僕達が騒いでいたところ、見知らぬ魔族がツカツカと近づいてきて、苛立たしげに声をかけてくる。

「静かな庭園で冥想するつもりが、馬鹿騒ぎするやからのせいで台無しでござる! どんな品のない魔族が騒いでいるのかと思えば、落ちこぼれ共ではござらんか」

 そう言って現れたのは、シカのような枝角にトカゲのような尻尾を生やした長身の男だった。
 紺色の長髪を後ろで結い上げ、前髪から覗く黄色の目は鋭く、血の気を感じない青白い肌は冷淡な印象を与える。凛とした気位の高そうな美形だ。

 ブラッドはゆらりと立ち上がり、目を眇めて相手を睨みつける。

「なんじゃワレ……ドラゴニュートのリュウではないか。落ちこぼれとは聞き捨てならんのう」

 威圧的なブラッドにも臆することなく、リュウは堂々とした態度で言う。

「聞けば、使い魔に易々と敗北したという話ではござらんか。上位種が劣等種に使役された使い魔に劣るなど実に嘆かわしい、恥ずべきことでござる。まさに言葉通りの落ちこぼれ・・・・・でござろう?」

 馬鹿にしたリュウの態度に立腹して、グレイも目を吊り上げてがなる。

「好き勝手ぬかしてんじゃねぇぞ、てめぇ! マナトは並の使い魔とは違う、特別なんだ! てめぇは決闘も見てねぇだろうから、知らねぇだろうけどなぁ!!」
「どんな特別な使い魔だと言うのでござるか? おおげさに言っているだけで、どうせたいしたことはないでござろうに――」

 独特なござる口調もさることながら、着物みたいな服装をしていることもあって、どことなく日本の侍っぽい雰囲気がある。
 色々な動物の特徴を持ち合わせていることもあって、僕が興味津々に観察していると、不意にこちらを向いて目が合う――

「っ!?」

 ――その瞬間、リュウは固まって動かなくなってしまった。

「?」

 どうしたのかなと思って首を傾げて見つめていれば、リュウがぼそりと呟く。

「……理想だ……」

 リュウが急に詰め寄ってきて、僕の手を握って言う。

「理想の人でござる!」
「へ?」

 さっきまで細長かった瞳孔を真ん丸にして僕を見つめ、リュウが熱に浮かされたように語りだす。

「絹糸のような艶めく漆黒の髪、星が瞬く夜空のような黒曜石の瞳、滑らかで繊細な白皙の肌。控えめで奥ゆかしい佇まいに、思慮深い芯のある眼差しは、まさに竜人族が追い求める理想の人――日本人! 大和撫子でござる!!」
「へぇえ?」

 リュウの言動にビックリして、間の抜けた声が出てしまった。

(たしかに僕は生粋の日本人ではあるけど、大和撫子って女性を褒める古風な言葉だよね? 特徴もない平凡顔の僕に使われるのは違和感しかないんだけど? それに、竜人族の理想が日本人ってのも驚きだ。前にも日本人が召喚されていたのかな?)

 僕があれこれ考えていると、リュウが目を輝かせて問う。

「そなた、名はなんと申す?」
「えっと……根津真人。ネズが名字でマナトが名前だよ」
「ネズ・マナト……マナト殿か、良い響きでござるな……はぁ、声までなんと可憐なのでござろう……マナト殿が相手では、有象無象の魔族では太刀打ちできぬのも納得でござる……」

 うっとりとした表情で呟いていたリュウが、急に真剣な顔をして迫る。

「マナト殿、拙者の伴侶になってくれ! そなたを竜人族の花嫁として迎え入れたいでござる!!」
「へ……えぇえ?!」
「「「!!?」」」
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