【完結】どうも、使い魔の人間です。~魔族しかいない世界でモフモフ魔族に溺愛されてます~

胡蝶乃夢

文字の大きさ
上 下
11 / 37

11.オーガ・ブラッドとの決闘

しおりを挟む
 改めて決闘についてノヴァに問う。

「ノヴァ、どうする?」
「そうだな。……最下位を脱して上位に並んだ時点で、こちらに危険を犯してまで決闘するメリットはない」

 あくまでもノヴァは冷静に考え、答えを決める。

「わざわざ仲間達の未来を危険に晒す必要はない。腰抜けだなんだと罵られようが、俺は決闘を断る」

 ノヴァが断言すれば、ブラッドは憮然とした態度で語りだす。

「まあ、順当に考えればそうじゃろうな。……じゃがなぁ、残念なことにワシはストレスが溜まると暴食に走る悪癖があってのう」
「? ……何が言いたい?」

 訝しげに眉を潜めるノヴァが問うと、ブラッドは不気味な笑みを浮かべて語る。

「決闘を断られたら、ワシは間違いなく暴食するじゃろう。それこそ、ストレス発散にそこら辺の動物を手当たりしだいに狩って食い漁るじゃろうな。その中に動物と見分けがつかん魔族――混ざり者が紛れ込んでいても、ワシは気づかんじゃろうなぁ」
「っ!?」

 それは明確な脅しだ。
 仲間達を何よりも大事にするノヴァには断わりようがない、卑怯な策略だった。

「何せ暴食している時のワシは我を忘れているからのう。間違えて食い殺してしまっても不思議はない。骨になってしまえば、もはや動物の骨か魔族の骨かもわからんしのう」
「この、外道が……」

 言葉を詰まらせるノヴァは吐き捨てて、ブラッドを睨みつけた。
 ブラッドはそんな様子をニヤニヤと眺め、改めて問う。

「さあ、もう一度訊こう。ワシからの決闘を受けるのか? 断るのか?」

 歯を噛みしめ唸っていたグレイが、見かねて吠える。

「はなから断る選択肢はなかったってことじゃねぇか! 鬼畜野郎が!!」
「断りたければそうすりゃいいだけじゃ。醜い混ざり者の数が多少減るだけのことじゃからのう」

 ブラッドは平然と言ってのけたのだ。
 仲間達の惨劇を想像し、目を揺らして動揺するノヴァは、苦渋の選択を迫られ――

「……っ……決闘を、受ける!」

 ――そう答える他ない。決闘することは確定してしまった。
 ならば、僕は頭を切り替え、ブラッドに質問してみる。

「ブラッドは美食家と言ってたけど、勝ったら僕をどうするつもりなの?」

 僕に視線をよこすブラッドは、にんまりと牙を覗かせて笑う。

「そりゃあ、もちろん食うに決まっとるじゃろう。すぐに食ってしまうのは勿体ないから、十分に匂いを堪能したあと、少しずつ味わうとしよう……まずは指一本、食い方はどうしようか、生でもいいが料理してもいい――」

 料理という言葉に閃いて、ブラッドに詰め寄って質問する。

「料理できるの! 料理方法は? どんな料理が好き?」

 僕の勢いに少し驚きつつ、ブラッドは考えながら返答する。

「そうじゃな、素材の味を活かすのが好みじゃのう。生の活造りか、素焼きか、塩茹でもいい」
「よしっ! 料理対決にしようっ!!」
「「?!!」」

 僕が勢いづいて断言すると、ノヴァとグレイが困惑した表情で詰め寄ってくる。

「お、おい、何を言ってるんだ!」
「料理なんてできんのかよ?!」
「うん、料理はわりと得意だから任せて」

 二人の方に振り返って、僕は自信満々に胸を張って言った。

「ほほう、このワシに料理対決を挑むとは面白いのう。勝つ気でいるのがなおさら愉快じゃ。かっかっかっかっ」

 ブラッドが豪快に笑い、ノヴァとグレイはうろたえて騒ぐ。

「おいおい、やっぱオレが対戦した方がいいんじゃねぇか?」
「あ゛あ゛、くそっ、魔力が回復していれば、俺だって戦えるのにっ!」
「くくくっ、ワシは料理対決でも、戦闘勝負でも構わんぞ。内容が決まりしだい決闘申請を出してくれ。それじゃあ、楽しみにしておるでのう」

 ブラッドは勝利を確信したようにほくそ笑み、立ち去っていったのである。


 ◆


 ノヴァの部屋へと戻り、三人で作戦会議する。
 誰が対戦するべきかという話になり、僕は自分の勝率が一番高いと主張する。

「ここは僕が料理対決するしかないと思うんだ。だってさ、同じ食事ばかりで食べ飽きているから、美味しいものを食べたい欲求が膨れ上がるわけで――」

 料理できる環境を整え、美味しい食事が提供されれば、ブラッドも魔族食いなんて偏食せずに、美味しい物を食べたがるはずだ。
 そのためにも、スラムのみんなに協力してもらって材料や道具をそろえてもらい、混ざり者達が美味しい料理を作るのに必要不可欠だと認識すれば、混ざり者を食べようなんて気は起こさなくなるはずだと力説した。

「人間の三大欲求の一つである食欲! その欲求を満たすことは極めて重要だけれど、ただただ栄養補給するだけの食事をしても真の食欲は満たせない。より美味しい料理を食べてこそ、人間の食欲は満たされて幸福を感じることができるんだよ!!」

 爛々と目を輝かせ料理への熱意を語る僕を見て、ノヴァは胡乱げな視線を向けて呟く。

「お前、まさか自分が料理を食べたいから、料理対決するとか言い出したなんてことはないよな?」
「そ、そんなことはないよ……」

 そろりとノヴァから目を逸らすと、反対側にいるグレイと目が合ってしまう。
 グレイがしょんぼりと耳を倒し、何とも言えない表情で呟く。

「マジかよ……マナトの料理は食ってみたいが、マナトが食われるのは嫌だぞ、オレ……」

 心配そうに言うグレイがちょっと可愛くて、頭を撫でながら言う。

「大丈夫だよ、僕より料理の方が断然美味しいから」

 僕が拳を握って断言するも、疑わしげな視線を向けて二人がぼやく。

「本当か? こんなに美味そうな匂いさせて、これよか美味い食い物なんて信じられねぇけどなぁ……くんくんくんくん」
「まったくだ。無駄に美味そうなんだぞ、お前」
 
 グレイは鼻を鳴らして匂いを嗅いでいるし、ノヴァまでうんうんと頷いている。

「えぇ……僕ってそんなに美味しそうだったんだ……」

 魔族にとって僕は被食対象なのかと、軽く衝撃を受けてしまう。
 ちょっと怖くなって、二人を上目遣いで見上げて首を傾げる。

「僕のこと食べちゃ駄目だからね?」
「それは………………そうだろ」
「じゅるり………………ごくん」

 不穏な間に慄いて、二人に詰め寄って喚く。

「今の間はいったい何? なんでまた舌舐めずりした?!」

 なぜか目を合わせてくれなくなった二人を説き伏せ、僕はなんとか料理対決で決闘する方向で押し切ったのだった。


 ◆


 再び申請していた決闘の当日。
 学園のコロシアムには、前回以上に多くの魔族達が集まってきていた。
 観戦者席はこれまでにない目新しい勝負内容に期待し、湧き立っている。

 公正な決闘の審査を務めるのは、前回と同じ教員達。トロール(巨人)のビューティ、ドワーフ(小人)のマイスタ、ピクシー(虫人)のグルーヴ、以上三名の審査員だ。

 教員達が審査員席に着いたところで、続いて対戦者の両名が登場する。
 対戦するのはもちろん、僕とブラッドだ。

「今回の対戦内容は料理対決!」

 僕は前に出て声を張り、勝負内容を発表し、号令をかける。

「制限時間は二時間。各自、持ち寄った食材で料理を作って提供する。先に仕上げた方から審査員に食してもらい、より美味しいと判断された方が勝者となる。では、決闘を開始する。レディー・ゴー!」

 ノヴァとグレイが固唾を呑んで見守る中、料理対決が開始された。

 ブラッドは血抜きして吊るしてある鹿肉や猪肉を解体していき、見事な包丁さばきを披露する。
 僕も用意していた生地を焼きながら具材を切ったり、調味料をまぶして下ごしらえしたりと、手早く調理していく。

 普段目にすることのない料理工程に、観戦者達は興味深そうに見入っていた。
 僕達の料理姿をじっくりと観察し、合間に審査員達がコメントする。

「両名とも、迷いなく調理しているようですわ。料理を作り慣れているのでしょうね」
「上位種の一部しか口にすることのない料理で対決とは、なかなかに面白い勝負ですな」
「そう考えると、常に上位種を維持してきたオークが有利そうだけど、あの使い魔は読めないからね。この勝負どうなるか楽しみだ」

 凄まじいスピードで料理を仕上げ、先に審査員席へと持っていったのは、ブラッドの方だった。
しおりを挟む
第12回BL大賞に参加中! 投票いただけると狂喜乱舞して喜びます!!「面白かった」「楽しかった」「気に入った」と思ってもらえたら、気軽に感想いただけると嬉しいです。
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は魔神復活を応援しません!

豆狸
ファンタジー
魔神復活! 滅びるのは世界か、悪役令嬢ラヴァンダか……って! どっちにしろわたし、大公令嬢ラヴァンダは滅びるじゃないですか。 前世から受け継いだ乙女ゲームの知識を利用して、魔神復活を阻止してみせます。 とはいえ、わたしはまだ六歳児。まずは家庭の平和から──

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる

琴葉悠
BL
十六夜時雨は諸事情から橋の上から転落し、川に落ちた。 落ちた川から上がると見知らぬ場所にいて、そこで異世界に来た事を知らされる。 異世界人は良き知らせをもたらす事から王族が庇護する役割を担っており、時雨は庇護されることに。 そこで、検査すると、時雨はDomというダイナミクスの性の一つを持っていて──

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

処理中です...