【完結】どうも、使い魔の人間です。~魔族しかいない世界でモフモフ魔族に溺愛されてます~

胡蝶乃夢

文字の大きさ
上 下
6 / 37

6.ワーウルフ・グレイとの邂逅

しおりを挟む
 各種族の中で最も人間に近い優れた者が集まるこの学園は、容姿が整っている者が多い。目の前に立つ男も結構な男前だ。
 銀色にも見える灰色の髪、切れ長で涼しげな水色の目、均等の取れた筋肉質な長身。
 耳と尻尾はオオカミのようで、どことなく野性的な印象を受ける。

「美味そうな匂いがすると思ったら、まさかのダークエルフじゃねぇか」

 ノヴァは大きな男を見返し、ひるまずに言葉を返す。

「なんだ? たいした用がないなら、他を当たれ。俺は忙しい」

 そんなノヴァを面白そうに見下ろし、男は笑う。

「ははっ、混ざり者の劣等種が、随分と威勢がいいじゃねぇか。聖人学園にダークエルフがいるなんて驚きだぜ。周りのやつらもみんな興味津々だろうよ、なぁ?」

 男が呼びかければ、周囲にいた他の魔族達の注目が一斉に集まり、僕達は見世物みたいに眺められる。

「これが人の精気を吸う淫魔の匂いってやつなのか? 美味そうな匂いで人を惹きつけて惑わすなんて、劣等種らしい陰気臭い能力だなぁ。匂いだけなら悪くない、極上なんだがなぁ……くんくん」

 男が言いながら近づいてきて、鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。

「くん……いや、違うな。これは――こっちか! この小せぇやつか?!」
「へ?」

 ノヴァをまじまじ見て僕には目もくれていなかった男が、ぐるんとこちらに視線を向け、詰め寄ってくる。

「くんくん、間違いねぇ。この小せぇやつから美味そうないい匂いがする。じゅるり……」
「ひぇ」

 肉食獣の目で見すえられて舌舐めずりされると、獲物としてロック・オンされたようで反射的にすくみ上がってしまう。

「地味で目立たんから気づかなかったが、よく見れば可愛いじゃねぇか。珍しい色に見たことない耳だな、何の種族だ? ピクシーか? そんな劣等種なんかにくっついてないで、こっちにこいよ」

 男が僕の方に手を伸ばしてくる。

「俺の使い魔だ! 手を出すな!!」

 ノヴァが伸びてくる手を払いのけ、僕を背に庇うようにして叫んだ。

「へぇ、人型の使い魔か、珍しいな。ますます気に入ったぜ」

 男はニヤリと笑い、目を爛々とさせて僕を覗き込み、告げる。

「決めた! その小せぇやつをオレのペットにする!!」
「えぇっ、ペット?!」
「はっ、ふざけんなっ!!」

 突拍子もない言動に困惑していれば、男はさらに明確に宣言した。

「オレはカースト順位・七位のワーウルフ(狼男)、グレイだ。最下位の劣等種にこのオレが決闘を申し込んでやるぜ」

 ノヴァは突然降って湧いた話に戸惑い、聞き返す。

「決闘、だと?」
「そうだ。オレが勝ったら、その使い魔をオレのペットにして、お前はパシリにでも使ってやるよ。もしお前が勝ったら、逆になんでも命令を聞く犬にでもなってやるぜ。まぁ、オレが勝つのは必然だろうがなぁ」

 ノヴァはしばし考え込み――

「決闘は……しない」

 ――ためらいがちに重々しく答えた。

「はぁ? 尻尾巻いて逃げんのか? せっかく、オレが決闘を申し込んでやってんのに、とんだ腰抜けじゃねぇか。さっきまでの威勢はどうしたよ?」

 グレイは苛立たしげに唸り、ノヴァを挑発してはやし立てる。
 ノヴァは後ろにいる僕へと視線を向け、小声で話す。

「まだ、魔力が回復していない。この状態で魔力源のお前を奪われたら、俺は――仲間達の未来は終わる。お前には悪いが、今の俺にはあいつに勝つすべがないんだ」
「ノヴァ……」

 悔しそうに奥歯を噛み締め、ノヴァは視線を落とした。
 十分に魔力があったら、決闘を受けていたに違いないのに、やるせない。

「ちっ、まったく興覚めだぜ! 所詮は最下位の劣等種か。出来損ないの混ざり者なんぞ、やっぱり家畜以下の種族だなぁ!!」
「っ!!」

 大事な仲間達もろとも侮辱され、ノヴァは息を詰めた。
 触れたままの腕からは、握りしめた拳の震えが伝わってくる。

「こんな負け犬が相手なら、オレのペットが相手でも余裕で勝てるわ、なぁ?」
「……!?」

 グレイが呼びかけると、グレイの両脇に巨大な犬――二首の魔犬と三首の魔犬が現れる。

「オレのペットのオルトロスとケルベロスだ。そこの小せぇの、オレのモノになれば可愛がってやるぜ。そんな劣等種の使い魔なんてやめて、こっちにこいよ、なぁ?」

 僕に流し目を送ってくるグレイは魔犬を従え、気軽に撫でて手懐けているように見えた。

「まぁ、嫌がっても力ずくでモノにしてやるんだけどなぁ。ははははっ」

 魔犬と戯れるグレイの姿を見て、僕は目を光らせて呟く。

「ノヴァ……決闘を受けよう」
「は? 何を言い出すんだ」

 戸惑うノヴァを力強く説得する。

「決闘を申し込まれた方がルールを決められるって言ってたよね? なら、こっちが圧倒的に有利! これは千載一遇のチャンスだよ!!」

 ノヴァの握りしめた拳を見て思うのだ。

(手段があるならノヴァだって決闘したいはずなんだ。血の気がなくなるほど、こんなに拳を握りしめて震えているんだから……なら、僕が道を切り拓いてやるまでだ)

 あとは葛藤するノヴァの背を押してあげればいい。

「たとえ有利でも、魔力がなければ俺は太刀打ちできない。勝算なんてないんだぞ?」
「何も戦闘だけが勝負じゃないよ。人間らしさが勝敗を分けるなら、勝機はある。仲間達のためにも、いずれ立ち向かわなければいけないんだ。ここが正念場だよ……大丈夫、僕を信じて!」

 震える拳を両手で包み込んで、真っ直ぐノヴァを見上げる。

「正念場か……そうだな。わかった」

 ノヴァは強い意思の宿る瞳でグレイを睨みつけ、宣言する。

「俺はカースト最下位の混ざり者、ダークエルフのノヴァ。その決闘、受けて立つ!」
「おう、やっとやる気になったか。そうこなくっちゃなぁ!」

 グレイは嬉々として返し、余裕綽々といった様子で言ってのける。

「勝負方法はなんでもいいぜ。どんなルールでもこのオレが劣等種なんかに負けるわけがねぇからなぁ。そいつをペットにできるのが、今から楽しみでしょうがねぇわ。じゅるり……」
「ひえぇ」

 またニマニマと僕を見て舌舐めずりするグレイに、ゾゾゾと総毛立ってしまう。

(ペットにするって何? いったい僕に何をしようとしてるんだ? あ、駄目だこれ、きっと深く考えちゃいけないやつ……)

 頭を振って余計な思考を振り払う。

「決闘の日取りは次の休日でどうだ? 細々としたことは任せるから、そっちで決闘申請しておけよ」
「ああ、わかった」

 ノヴァが承諾すれば、グレイは魔犬達を引き連れて歩きだす。
 途中、グレイはふと立ち止まって振り返り、ノヴァに念押しする。

「怖気づいて逃げんなよぉ? 出来損ないの劣等種」
「はっ、ほざけ! 最後に吠え面かくのはそっちだ!!」
「ははっ、いいねぇ。生意気なやつほど調教しがいがあるわ。じゃあまたなぁ、おチビちゃん♡」

 後ろ向きに手を振りながら立ち去っていくグレイに、たまらず叫ぶ。

「お、おチビちゃん?! 誰がチビだベビーだ、手乗りサイズ通りこして一口サイズだ、コノヤロー!」
「そこまで言ってない」

 冷静なツッコミが返されるが知ったことではない。無視する。
 意気込む僕はノヴァの手を引いて部屋へと戻り、作戦会議するのだ。


 ◆


 部屋に戻ってくるなり、ノヴァは僕の肩をガシッと掴んで振り向かせ、険しい表情で訊く。

「それで? いったいどんな方法で勝負するつもりなんだ? 勝算はあるんだろうな?」
「それはもちろん。さっきも言ったけど、こっちが勝負のルールを決められるなら、戦闘で勝負する必要はないよ。だから、今回はノヴァの魔力は使わない」

 立ち話もなんなので、ノヴァの手を引いてベンチに座り、顔を突き合わせて話す。

「人間に近ければ近いほど優れた者として認められるんだよね。ならば、攻略するべきはグレイではなく、そのペットの方なんだよ」
「あの魔犬か? オルトロスにケルベロスと言えば、魔獣の中でも獰猛な種類として有名だ。手懐けるのは至難の業だと聞くぞ。攻略するって、どうするつもりなんだ?」

 僕の閃いた勝負内容、その計画を話して聞かせる。

「そこで、スラムのみんなの協力が重要になるんだ。僕が考えるに――」
しおりを挟む
第12回BL大賞に参加中! 投票いただけると狂喜乱舞して喜びます!!「面白かった」「楽しかった」「気に入った」と思ってもらえたら、気軽に感想いただけると嬉しいです。
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は魔神復活を応援しません!

豆狸
ファンタジー
魔神復活! 滅びるのは世界か、悪役令嬢ラヴァンダか……って! どっちにしろわたし、大公令嬢ラヴァンダは滅びるじゃないですか。 前世から受け継いだ乙女ゲームの知識を利用して、魔神復活を阻止してみせます。 とはいえ、わたしはまだ六歳児。まずは家庭の平和から──

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる

琴葉悠
BL
十六夜時雨は諸事情から橋の上から転落し、川に落ちた。 落ちた川から上がると見知らぬ場所にいて、そこで異世界に来た事を知らされる。 異世界人は良き知らせをもたらす事から王族が庇護する役割を担っており、時雨は庇護されることに。 そこで、検査すると、時雨はDomというダイナミクスの性の一つを持っていて──

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

処理中です...