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6.ワーウルフ・グレイとの邂逅
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各種族の中でもっとも人間に近い優れた者が集まるこの学園は、容姿が整っている者が多い。目の前に立つ男も結構な男前だ。
銀色にも見える灰色の髪、切れ長で涼しげな水色の目、均等の取れた筋肉質な長身。
耳と尻尾はオオカミのようで、どことなく野性的な印象を受ける。
「美味そうな匂いがすると思ったら、まさかのダークエルフじゃねぇか」
ノヴァは大きな男を見返し、ひるまずに言葉を返す。
「なんだ? たいした用がないなら、他を当たれ。俺は忙しい」
そんなノヴァを面白そうに見下ろし、男は笑う。
「ははっ、混ざり者の劣等種が、随分と威勢がいいじゃねぇか。聖人学園にダークエルフがいるなんて驚きだぜ。周りのやつらもみんな興味津々だろうよ、なぁ?」
男が呼びかければ、周囲にいた他の魔族達の注目が一斉に集まり、僕達は見世物みたいに眺められる。
「これが人の精気を吸う淫魔の匂いってやつなのか? 美味そうな匂いで人を惹きつけて惑わすなんて、劣等種らしい陰気臭い能力だなぁ。匂いだけなら悪くない、極上なんだがなぁ……くんくん」
男が言いながら近づいてきて、鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。
「くん……いや、違うな。これは――こっちか! この小せぇやつか?!」
「へ?」
ノヴァをまじまじ見て僕には目もくれていなかった男が、ぐるんとこちらに視線を向け、詰め寄ってくる。
「くんくん、間違いねぇ。この小せぇやつから美味そうないい匂いがする。じゅるり……」
「ひぇ」
肉食獣の目で見すえられて舌舐めずりされると、獲物としてロック・オンされたようで反射的にすくみ上がってしまう。
「地味で目立たんから気づかなかったが、よく見れば可愛いじゃねぇか。珍しい色に見たことない耳だな、何の種族だ? ピクシーか? そんな劣等種なんかにくっついてないで、こっちにこいよ」
男が僕の方に手を伸ばしてくる。
「俺の使い魔だ! 手を出すな!!」
ノヴァが伸びてくる手を払いのけ、僕を背に庇うようにして叫んだ。
「へぇ、人型の使い魔か、珍しいな。ますます気に入ったぜ」
男はニヤリと笑い、目を爛々とさせて僕を覗き込み、告げる。
「決めた! その小せぇやつをオレのペットにする!!」
「えぇっ、ペット?!」
「はっ、ふざけんなっ!!」
突拍子もない言動に困惑していれば、男はさらに明確に宣言した。
「オレはカースト順位・七位のワーウルフ(狼男)、グレイだ。最下位の劣等種にこのオレが決闘を申し込んでやるぜ」
ノヴァは突然降って湧いた話に戸惑い、聞き返す。
「決闘、だと?」
「そうだ。オレが勝ったら、その使い魔をオレのペットにして、お前はパシリにでも使ってやるよ。もしお前が勝ったら、逆になんでも命令を聞く犬にでもなってやるぜ。まぁ、オレが勝つのは必然だろうがなぁ」
ノヴァはしばし考え込み――
「決闘は……しない」
――ためらいがちに重々しく答えた。
「はぁ? 尻尾巻いて逃げんのか? せっかく、オレが決闘を申し込んでやってんのに、とんだ腰抜けじゃねぇか。さっきまでの威勢はどうしたよ?」
グレイは苛立たしげに唸り、ノヴァを挑発してはやし立てる。
ノヴァは後ろにいる僕へと視線を向け、小声で話す。
「まだ、魔力が回復していない。この状態で魔力源のお前を奪われたら、俺は――仲間達の未来は終わる。お前には悪いが、今の俺にはあいつに勝つすべがないんだ」
「ノヴァ……」
悔しそうに奥歯を噛み締め、ノヴァは視線を落とした。
十分に魔力があったら、決闘を受けていたに違いないのに、やるせない。
「ちっ、まったく興覚めだぜ! 所詮は最下位の劣等種か。出来損ないの混ざり者なんぞ、やっぱり家畜以下の種族だなぁ!!」
「っ!!」
大事な仲間達もろとも侮辱され、ノヴァは息を詰めた。
触れたままの手からは、握りしめた拳の震えが伝わってくる。
「こんな負け犬が相手なら、オレのペットが相手でも余裕で勝てるわ、なぁ?」
「……!?」
グレイが呼びかけると、グレイの両脇に巨大な犬――二首の魔犬と三首の魔犬が現れる。
「オレのペットのオルトロスとケルベロスだ。そこの小せぇの、オレのモノになれば可愛がってやるぜ。そんな劣等種の使い魔なんてやめて、こっちにこいよ、なぁ?」
僕に流し目を送ってくるグレイは魔犬を従え、気軽に撫でて手懐けているように見えた。
「まぁ、嫌がっても力ずくでモノにしてやるんだけどなぁ。ははははっ」
魔犬と戯れるグレイの姿を見て、僕は目を光らせて呟く。
「ノヴァ……決闘を受けよう」
「は? 何を言い出すんだ」
戸惑うノヴァを力強く説得する。
「決闘を申し込まれた方がルールを決められるって言ってたよね? なら、こっちが圧倒的に有利! これは千載一遇のチャンスだよ!!」
ノヴァの握りしめた拳を見て思うのだ。
(手段があるならノヴァだって決闘したいはずなんだ。血の気がなくなるほど、こんなに拳を握りしめて震えているんだから……なら、僕が道を切り拓いてやるまでだ)
あとは葛藤するノヴァの背を押してあげればいい。
「たとえ有利でも、魔力がなければ俺は太刀打ちできない。勝算なんてないんだぞ?」
「何も戦闘だけが勝負じゃない。人間らしさが勝敗を分けるなら、勝機はある。仲間達のためにも、いずれ立ち向かわなければいけないんだ。ここが正念場だよ……大丈夫、僕を信じて!」
震える拳を両手で包み込んで、真っ直ぐノヴァを見上げる。
「正念場か……そうだな。わかった」
ノヴァは強い意思の宿る瞳でグレイを睨みつけ、宣言する。
「俺はカースト最下位の混ざり者、ダークエルフのノヴァ。その決闘、受けて立つ!」
「おう、やっとやる気になったか。そうこなくっちゃなぁ!」
グレイは嬉々として返し、余裕綽々といった様子で言ってのける。
「勝負方法はなんでもいいぜ。どんなルールでもこのオレが劣等種なんかに負けるわけがねぇからなぁ。そいつをペットにできるのが、今から楽しみでしょうがねぇわ。じゅるり……」
「ひえぇ」
またニマニマと僕を見て舌舐めずりするグレイに、ゾゾゾと総毛立ってしまう。
(ペットにするって何? いったい僕に何をしようと考えてるんだ? あ、駄目だこれ、きっと深く考えちゃいけないやつ……)
自分の体を擦って頭を振り、余計な思考を振り払う。
「決闘の日取りは次の休日でどうだ? 細々としたことは任せるから、そっちで決闘申請しておけよ」
「ああ、わかった」
ノヴァが承諾すれば、グレイは魔犬達を引き連れて歩きだす。
途中、グレイはふと立ち止まって振り返り、ノヴァに念押しする。
「怖気づいて逃げんなよぉ? 出来損ないの劣等種」
「はっ、ほざけ! 最後に吠え面かくのはそっちだ!!」
「ははっ、いいねぇ。生意気なやつほど調教しがいがあるわ。じゃあまたなぁ、おチビちゃん♡」
後ろ向きに手を振りながら立ち去っていくグレイに、たまらず叫ぶ。
「お、おチビちゃん?! 誰がチビだベビーだ、手乗りサイズ通りこして一口サイズだ、コノヤロー!」
「そこまで言ってない」
冷静なツッコミが返されるが知ったことではない。無視してやる。
意気込む僕はノヴァの手を引いて部屋へと戻り、作戦会議するのだ。
◆
部屋に戻ってくるなり、ノヴァは僕の肩をガシッと掴んで振り向かせ、険しい表情で訊く。
「それで? いったいどんな方法で勝負するつもりなんだ? 勝算はあるんだろうな?」
「それはもちろん。さっきも言ったけど、こっちが勝負のルールを決められるなら、戦闘で勝負する必要はないよ。だから、今回はノヴァの魔力は使わない」
立ち話もなんなので、ノヴァの手を引いてベンチに座り、顔を突き合わせて話す。
「人間に近ければ近いほど優れた者として認められるんだよね。ならば、攻略するべきはグレイではなく、そのペットの方なんだよ」
「あの魔犬か? オルトロスにケルベロスと言えば、魔獣の中でも獰猛な種類として有名だ。手懐けるのは至難の業だと聞くぞ。攻略するって、どうするつもりなんだ?」
僕の閃いた勝負内容、その計画を話して聞かせる。
「そこで、スラムのみんなの協力が重要になるんだ。僕が考えるに――」
銀色にも見える灰色の髪、切れ長で涼しげな水色の目、均等の取れた筋肉質な長身。
耳と尻尾はオオカミのようで、どことなく野性的な印象を受ける。
「美味そうな匂いがすると思ったら、まさかのダークエルフじゃねぇか」
ノヴァは大きな男を見返し、ひるまずに言葉を返す。
「なんだ? たいした用がないなら、他を当たれ。俺は忙しい」
そんなノヴァを面白そうに見下ろし、男は笑う。
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男が呼びかければ、周囲にいた他の魔族達の注目が一斉に集まり、僕達は見世物みたいに眺められる。
「これが人の精気を吸う淫魔の匂いってやつなのか? 美味そうな匂いで人を惹きつけて惑わすなんて、劣等種らしい陰気臭い能力だなぁ。匂いだけなら悪くない、極上なんだがなぁ……くんくん」
男が言いながら近づいてきて、鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。
「くん……いや、違うな。これは――こっちか! この小せぇやつか?!」
「へ?」
ノヴァをまじまじ見て僕には目もくれていなかった男が、ぐるんとこちらに視線を向け、詰め寄ってくる。
「くんくん、間違いねぇ。この小せぇやつから美味そうないい匂いがする。じゅるり……」
「ひぇ」
肉食獣の目で見すえられて舌舐めずりされると、獲物としてロック・オンされたようで反射的にすくみ上がってしまう。
「地味で目立たんから気づかなかったが、よく見れば可愛いじゃねぇか。珍しい色に見たことない耳だな、何の種族だ? ピクシーか? そんな劣等種なんかにくっついてないで、こっちにこいよ」
男が僕の方に手を伸ばしてくる。
「俺の使い魔だ! 手を出すな!!」
ノヴァが伸びてくる手を払いのけ、僕を背に庇うようにして叫んだ。
「へぇ、人型の使い魔か、珍しいな。ますます気に入ったぜ」
男はニヤリと笑い、目を爛々とさせて僕を覗き込み、告げる。
「決めた! その小せぇやつをオレのペットにする!!」
「えぇっ、ペット?!」
「はっ、ふざけんなっ!!」
突拍子もない言動に困惑していれば、男はさらに明確に宣言した。
「オレはカースト順位・七位のワーウルフ(狼男)、グレイだ。最下位の劣等種にこのオレが決闘を申し込んでやるぜ」
ノヴァは突然降って湧いた話に戸惑い、聞き返す。
「決闘、だと?」
「そうだ。オレが勝ったら、その使い魔をオレのペットにして、お前はパシリにでも使ってやるよ。もしお前が勝ったら、逆になんでも命令を聞く犬にでもなってやるぜ。まぁ、オレが勝つのは必然だろうがなぁ」
ノヴァはしばし考え込み――
「決闘は……しない」
――ためらいがちに重々しく答えた。
「はぁ? 尻尾巻いて逃げんのか? せっかく、オレが決闘を申し込んでやってんのに、とんだ腰抜けじゃねぇか。さっきまでの威勢はどうしたよ?」
グレイは苛立たしげに唸り、ノヴァを挑発してはやし立てる。
ノヴァは後ろにいる僕へと視線を向け、小声で話す。
「まだ、魔力が回復していない。この状態で魔力源のお前を奪われたら、俺は――仲間達の未来は終わる。お前には悪いが、今の俺にはあいつに勝つすべがないんだ」
「ノヴァ……」
悔しそうに奥歯を噛み締め、ノヴァは視線を落とした。
十分に魔力があったら、決闘を受けていたに違いないのに、やるせない。
「ちっ、まったく興覚めだぜ! 所詮は最下位の劣等種か。出来損ないの混ざり者なんぞ、やっぱり家畜以下の種族だなぁ!!」
「っ!!」
大事な仲間達もろとも侮辱され、ノヴァは息を詰めた。
触れたままの手からは、握りしめた拳の震えが伝わってくる。
「こんな負け犬が相手なら、オレのペットが相手でも余裕で勝てるわ、なぁ?」
「……!?」
グレイが呼びかけると、グレイの両脇に巨大な犬――二首の魔犬と三首の魔犬が現れる。
「オレのペットのオルトロスとケルベロスだ。そこの小せぇの、オレのモノになれば可愛がってやるぜ。そんな劣等種の使い魔なんてやめて、こっちにこいよ、なぁ?」
僕に流し目を送ってくるグレイは魔犬を従え、気軽に撫でて手懐けているように見えた。
「まぁ、嫌がっても力ずくでモノにしてやるんだけどなぁ。ははははっ」
魔犬と戯れるグレイの姿を見て、僕は目を光らせて呟く。
「ノヴァ……決闘を受けよう」
「は? 何を言い出すんだ」
戸惑うノヴァを力強く説得する。
「決闘を申し込まれた方がルールを決められるって言ってたよね? なら、こっちが圧倒的に有利! これは千載一遇のチャンスだよ!!」
ノヴァの握りしめた拳を見て思うのだ。
(手段があるならノヴァだって決闘したいはずなんだ。血の気がなくなるほど、こんなに拳を握りしめて震えているんだから……なら、僕が道を切り拓いてやるまでだ)
あとは葛藤するノヴァの背を押してあげればいい。
「たとえ有利でも、魔力がなければ俺は太刀打ちできない。勝算なんてないんだぞ?」
「何も戦闘だけが勝負じゃない。人間らしさが勝敗を分けるなら、勝機はある。仲間達のためにも、いずれ立ち向かわなければいけないんだ。ここが正念場だよ……大丈夫、僕を信じて!」
震える拳を両手で包み込んで、真っ直ぐノヴァを見上げる。
「正念場か……そうだな。わかった」
ノヴァは強い意思の宿る瞳でグレイを睨みつけ、宣言する。
「俺はカースト最下位の混ざり者、ダークエルフのノヴァ。その決闘、受けて立つ!」
「おう、やっとやる気になったか。そうこなくっちゃなぁ!」
グレイは嬉々として返し、余裕綽々といった様子で言ってのける。
「勝負方法はなんでもいいぜ。どんなルールでもこのオレが劣等種なんかに負けるわけがねぇからなぁ。そいつをペットにできるのが、今から楽しみでしょうがねぇわ。じゅるり……」
「ひえぇ」
またニマニマと僕を見て舌舐めずりするグレイに、ゾゾゾと総毛立ってしまう。
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自分の体を擦って頭を振り、余計な思考を振り払う。
「決闘の日取りは次の休日でどうだ? 細々としたことは任せるから、そっちで決闘申請しておけよ」
「ああ、わかった」
ノヴァが承諾すれば、グレイは魔犬達を引き連れて歩きだす。
途中、グレイはふと立ち止まって振り返り、ノヴァに念押しする。
「怖気づいて逃げんなよぉ? 出来損ないの劣等種」
「はっ、ほざけ! 最後に吠え面かくのはそっちだ!!」
「ははっ、いいねぇ。生意気なやつほど調教しがいがあるわ。じゃあまたなぁ、おチビちゃん♡」
後ろ向きに手を振りながら立ち去っていくグレイに、たまらず叫ぶ。
「お、おチビちゃん?! 誰がチビだベビーだ、手乗りサイズ通りこして一口サイズだ、コノヤロー!」
「そこまで言ってない」
冷静なツッコミが返されるが知ったことではない。無視してやる。
意気込む僕はノヴァの手を引いて部屋へと戻り、作戦会議するのだ。
◆
部屋に戻ってくるなり、ノヴァは僕の肩をガシッと掴んで振り向かせ、険しい表情で訊く。
「それで? いったいどんな方法で勝負するつもりなんだ? 勝算はあるんだろうな?」
「それはもちろん。さっきも言ったけど、こっちが勝負のルールを決められるなら、戦闘で勝負する必要はないよ。だから、今回はノヴァの魔力は使わない」
立ち話もなんなので、ノヴァの手を引いてベンチに座り、顔を突き合わせて話す。
「人間に近ければ近いほど優れた者として認められるんだよね。ならば、攻略するべきはグレイではなく、そのペットの方なんだよ」
「あの魔犬か? オルトロスにケルベロスと言えば、魔獣の中でも獰猛な種類として有名だ。手懐けるのは至難の業だと聞くぞ。攻略するって、どうするつもりなんだ?」
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