10 / 17
残ライフ3
10.
しおりを挟む
「え~っと、つまり、義姉上の言葉を整理すると……」
セザリエに、すべてを打ち明けてしまった。
信じてはくれないかもしれないが──誰でもいいから誰かに、私の状況を分かってほしかった。
誰かひとりでも、この気持ちを理解してくれる人がいれば──それだけで救われるし、もしかしたら犯人探しに協力してくれるなんてことも、あるかもしれない。
「義姉上は、本当は99歳のおばあさんで、本当の義姉上と体が入れかわってしまって、何者かに命を狙われてて、これまでに二回死んでて、今夜また誰かに殺される?」
──そのとおりだ。
私は静かに頷いた。
すると、弟が動いた。
「侍女頭……いいか、マクベス様より先に今すぐ、医者を呼んでこい」
「セザリエ!?」
分かってた、分かっていたが──やっぱりそれでも切ない──。
私は本当のことしか言っていないのに、なぜ、信じてはもらえないんだ。
「侍女頭、待て! セザリエ、今言ったことはすべて、本当なんだ……また、誰かが私を殺しに来る!! 今夜、絶対に来るんだ!!」
「義姉上……」
弟は悲しそうに目を伏せた。
「打ちどころが、悪かったんですね……」
「言ったってどうせ信じてくれないじゃないか! セザリエのばかっ!」
「……申し訳ありません、義姉上……」
ダメだ、分かってはいたが、どうせ誰も私の言うことを信じてはくれない──。
馬鹿だ。秘めておくべきだったのに弟に吐き出してしまった、私は本当に馬鹿だ。
おまけに気が狂っているのだ。
今夜誰かが自分を殺しに来ると、そんな妄想を抱いている。
──本当なのに。
全部、本当なのに。
「とにかく、一度医者に診てもらったほうがいいと思います」
そう言うと、目線で侍女頭に指示を出した、そのとき。
バァン、とドアが開かれ、あきらかに怒気を含んだ声が響いた。
「いつまでこの俺を待たせる気だ?」
──さあ、三度目の正直だ。
またどうせ同じことの繰り返しなんだろ。
「……泣いているのか?」
このままではまたこの姑男に抱きしめられることになるが──。
もう否定する気力もない。
どうせまた死ぬんだ、もう何もかも、どうでもいい──。
「泣くなんて、おまえらしくない」
「……。」
──なんにも、分かってないんだな。
私は本当は泣き虫なんだ。
今まで、ずっと我慢して、耐えてきたんだ。
自分の家に住めなくなったって、自分の足が不自由になったって、家族に捨てられたって、じいさんと離ればなれにされたって、じいさんの死に目にあえなくたって。
この子だって、きっと、本当はそうだ。
王太子に他に愛しい人がいることにだって、そのくらいうっすらと気がついていたんじゃないか。
今夜殺されるのが、この子じゃなくてよかった。
私は、どうせもう死にたいと思ってたんだ。
99年も生きたんだ。
もう人生終わりにしていいと思ってたんだ。
神様仏様、満鶴さんと一緒のところに行かせてくれたって、もういいはずだ──。
「そんなに婚約を破棄されるのがいやなら……」
──いや。
いや、いやじゃない、が──。
その台詞とともに王太子の体がぐんと近づいてきて、私はジルさんを見た。
──俯いていた。
〝あいつなんかにあなた様はもったいない〟
そんなことを言ってくれた。
こんなおばばさえも、うんと気持ちを若返らせて、夜も眠れなくなるほど、ときめかせてしまう言葉を。
──私の言葉は、否定されても。
信じてはもらえないとしても。
本当だと思ってもらえなくても。
それだけは、せめてその言葉だけは、本当にしなくちゃ、駄目なんじゃないか?
「俺が王になったら……」
「側室にするって話なら、お断りだ」
「!?」
私が両腕で王太子の体を拒絶すると、意外だったのか、少し驚いたような顔をしている。
──いや、当たり前だろ。
「側室じゃなくて、正妻だとしても……」
その額を、ピンと指で弾いてみると、パチクリと瞬く碧い目。
──申し訳ないが、正直に言わせてくれ。
「あんたみたいな最低男にこの私は、もったいないよ」
セザリエに、すべてを打ち明けてしまった。
信じてはくれないかもしれないが──誰でもいいから誰かに、私の状況を分かってほしかった。
誰かひとりでも、この気持ちを理解してくれる人がいれば──それだけで救われるし、もしかしたら犯人探しに協力してくれるなんてことも、あるかもしれない。
「義姉上は、本当は99歳のおばあさんで、本当の義姉上と体が入れかわってしまって、何者かに命を狙われてて、これまでに二回死んでて、今夜また誰かに殺される?」
──そのとおりだ。
私は静かに頷いた。
すると、弟が動いた。
「侍女頭……いいか、マクベス様より先に今すぐ、医者を呼んでこい」
「セザリエ!?」
分かってた、分かっていたが──やっぱりそれでも切ない──。
私は本当のことしか言っていないのに、なぜ、信じてはもらえないんだ。
「侍女頭、待て! セザリエ、今言ったことはすべて、本当なんだ……また、誰かが私を殺しに来る!! 今夜、絶対に来るんだ!!」
「義姉上……」
弟は悲しそうに目を伏せた。
「打ちどころが、悪かったんですね……」
「言ったってどうせ信じてくれないじゃないか! セザリエのばかっ!」
「……申し訳ありません、義姉上……」
ダメだ、分かってはいたが、どうせ誰も私の言うことを信じてはくれない──。
馬鹿だ。秘めておくべきだったのに弟に吐き出してしまった、私は本当に馬鹿だ。
おまけに気が狂っているのだ。
今夜誰かが自分を殺しに来ると、そんな妄想を抱いている。
──本当なのに。
全部、本当なのに。
「とにかく、一度医者に診てもらったほうがいいと思います」
そう言うと、目線で侍女頭に指示を出した、そのとき。
バァン、とドアが開かれ、あきらかに怒気を含んだ声が響いた。
「いつまでこの俺を待たせる気だ?」
──さあ、三度目の正直だ。
またどうせ同じことの繰り返しなんだろ。
「……泣いているのか?」
このままではまたこの姑男に抱きしめられることになるが──。
もう否定する気力もない。
どうせまた死ぬんだ、もう何もかも、どうでもいい──。
「泣くなんて、おまえらしくない」
「……。」
──なんにも、分かってないんだな。
私は本当は泣き虫なんだ。
今まで、ずっと我慢して、耐えてきたんだ。
自分の家に住めなくなったって、自分の足が不自由になったって、家族に捨てられたって、じいさんと離ればなれにされたって、じいさんの死に目にあえなくたって。
この子だって、きっと、本当はそうだ。
王太子に他に愛しい人がいることにだって、そのくらいうっすらと気がついていたんじゃないか。
今夜殺されるのが、この子じゃなくてよかった。
私は、どうせもう死にたいと思ってたんだ。
99年も生きたんだ。
もう人生終わりにしていいと思ってたんだ。
神様仏様、満鶴さんと一緒のところに行かせてくれたって、もういいはずだ──。
「そんなに婚約を破棄されるのがいやなら……」
──いや。
いや、いやじゃない、が──。
その台詞とともに王太子の体がぐんと近づいてきて、私はジルさんを見た。
──俯いていた。
〝あいつなんかにあなた様はもったいない〟
そんなことを言ってくれた。
こんなおばばさえも、うんと気持ちを若返らせて、夜も眠れなくなるほど、ときめかせてしまう言葉を。
──私の言葉は、否定されても。
信じてはもらえないとしても。
本当だと思ってもらえなくても。
それだけは、せめてその言葉だけは、本当にしなくちゃ、駄目なんじゃないか?
「俺が王になったら……」
「側室にするって話なら、お断りだ」
「!?」
私が両腕で王太子の体を拒絶すると、意外だったのか、少し驚いたような顔をしている。
──いや、当たり前だろ。
「側室じゃなくて、正妻だとしても……」
その額を、ピンと指で弾いてみると、パチクリと瞬く碧い目。
──申し訳ないが、正直に言わせてくれ。
「あんたみたいな最低男にこの私は、もったいないよ」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
男女比:1:450のおかしな世界で陽キャになることを夢見る
卯ノ花
恋愛
妙なことから男女比がおかしな世界に転生した主人公が、元いた世界でやりたかったことをやるお話。
〔お知らせ〕
※この作品は、毎日更新です。
※1 〜 3話まで初回投稿。次回から7時10分から更新
※お気に入り登録してくれたら励みになりますのでよろしくお願いします。
ただいま作成中
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる