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残ライフ3
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「え~っと、つまり、義姉上の言葉を整理すると……」
セザリエに、すべてを打ち明けてしまった。
信じてはくれないかもしれないが──誰でもいいから誰かに、私の状況を分かってほしかった。
誰かひとりでも、この気持ちを理解してくれる人がいれば──それだけで救われるし、もしかしたら犯人探しに協力してくれるなんてことも、あるかもしれない。
「義姉上は、本当は99歳のおばあさんで、本当の義姉上と体が入れかわってしまって、何者かに命を狙われてて、これまでに二回死んでて、今夜また誰かに殺される?」
──そのとおりだ。
私は静かに頷いた。
すると、弟が動いた。
「侍女頭……いいか、マクベス様より先に今すぐ、医者を呼んでこい」
「セザリエ!?」
分かってた、分かっていたが──やっぱりそれでも切ない──。
私は本当のことしか言っていないのに、なぜ、信じてはもらえないんだ。
「侍女頭、待て! セザリエ、今言ったことはすべて、本当なんだ……また、誰かが私を殺しに来る!! 今夜、絶対に来るんだ!!」
「義姉上……」
弟は悲しそうに目を伏せた。
「打ちどころが、悪かったんですね……」
「言ったってどうせ信じてくれないじゃないか! セザリエのばかっ!」
「……申し訳ありません、義姉上……」
ダメだ、分かってはいたが、どうせ誰も私の言うことを信じてはくれない──。
馬鹿だ。秘めておくべきだったのに弟に吐き出してしまった、私は本当に馬鹿だ。
おまけに気が狂っているのだ。
今夜誰かが自分を殺しに来ると、そんな妄想を抱いている。
──本当なのに。
全部、本当なのに。
「とにかく、一度医者に診てもらったほうがいいと思います」
そう言うと、目線で侍女頭に指示を出した、そのとき。
バァン、とドアが開かれ、あきらかに怒気を含んだ声が響いた。
「いつまでこの俺を待たせる気だ?」
──さあ、三度目の正直だ。
またどうせ同じことの繰り返しなんだろ。
「……泣いているのか?」
このままではまたこの姑男に抱きしめられることになるが──。
もう否定する気力もない。
どうせまた死ぬんだ、もう何もかも、どうでもいい──。
「泣くなんて、おまえらしくない」
「……。」
──なんにも、分かってないんだな。
私は本当は泣き虫なんだ。
今まで、ずっと我慢して、耐えてきたんだ。
自分の家に住めなくなったって、自分の足が不自由になったって、家族に捨てられたって、じいさんと離ればなれにされたって、じいさんの死に目にあえなくたって。
この子だって、きっと、本当はそうだ。
王太子に他に愛しい人がいることにだって、そのくらいうっすらと気がついていたんじゃないか。
今夜殺されるのが、この子じゃなくてよかった。
私は、どうせもう死にたいと思ってたんだ。
99年も生きたんだ。
もう人生終わりにしていいと思ってたんだ。
神様仏様、満鶴さんと一緒のところに行かせてくれたって、もういいはずだ──。
「そんなに婚約を破棄されるのがいやなら……」
──いや。
いや、いやじゃない、が──。
その台詞とともに王太子の体がぐんと近づいてきて、私はジルさんを見た。
──俯いていた。
〝あいつなんかにあなた様はもったいない〟
そんなことを言ってくれた。
こんなおばばさえも、うんと気持ちを若返らせて、夜も眠れなくなるほど、ときめかせてしまう言葉を。
──私の言葉は、否定されても。
信じてはもらえないとしても。
本当だと思ってもらえなくても。
それだけは、せめてその言葉だけは、本当にしなくちゃ、駄目なんじゃないか?
「俺が王になったら……」
「側室にするって話なら、お断りだ」
「!?」
私が両腕で王太子の体を拒絶すると、意外だったのか、少し驚いたような顔をしている。
──いや、当たり前だろ。
「側室じゃなくて、正妻だとしても……」
その額を、ピンと指で弾いてみると、パチクリと瞬く碧い目。
──申し訳ないが、正直に言わせてくれ。
「あんたみたいな最低男にこの私は、もったいないよ」
セザリエに、すべてを打ち明けてしまった。
信じてはくれないかもしれないが──誰でもいいから誰かに、私の状況を分かってほしかった。
誰かひとりでも、この気持ちを理解してくれる人がいれば──それだけで救われるし、もしかしたら犯人探しに協力してくれるなんてことも、あるかもしれない。
「義姉上は、本当は99歳のおばあさんで、本当の義姉上と体が入れかわってしまって、何者かに命を狙われてて、これまでに二回死んでて、今夜また誰かに殺される?」
──そのとおりだ。
私は静かに頷いた。
すると、弟が動いた。
「侍女頭……いいか、マクベス様より先に今すぐ、医者を呼んでこい」
「セザリエ!?」
分かってた、分かっていたが──やっぱりそれでも切ない──。
私は本当のことしか言っていないのに、なぜ、信じてはもらえないんだ。
「侍女頭、待て! セザリエ、今言ったことはすべて、本当なんだ……また、誰かが私を殺しに来る!! 今夜、絶対に来るんだ!!」
「義姉上……」
弟は悲しそうに目を伏せた。
「打ちどころが、悪かったんですね……」
「言ったってどうせ信じてくれないじゃないか! セザリエのばかっ!」
「……申し訳ありません、義姉上……」
ダメだ、分かってはいたが、どうせ誰も私の言うことを信じてはくれない──。
馬鹿だ。秘めておくべきだったのに弟に吐き出してしまった、私は本当に馬鹿だ。
おまけに気が狂っているのだ。
今夜誰かが自分を殺しに来ると、そんな妄想を抱いている。
──本当なのに。
全部、本当なのに。
「とにかく、一度医者に診てもらったほうがいいと思います」
そう言うと、目線で侍女頭に指示を出した、そのとき。
バァン、とドアが開かれ、あきらかに怒気を含んだ声が響いた。
「いつまでこの俺を待たせる気だ?」
──さあ、三度目の正直だ。
またどうせ同じことの繰り返しなんだろ。
「……泣いているのか?」
このままではまたこの姑男に抱きしめられることになるが──。
もう否定する気力もない。
どうせまた死ぬんだ、もう何もかも、どうでもいい──。
「泣くなんて、おまえらしくない」
「……。」
──なんにも、分かってないんだな。
私は本当は泣き虫なんだ。
今まで、ずっと我慢して、耐えてきたんだ。
自分の家に住めなくなったって、自分の足が不自由になったって、家族に捨てられたって、じいさんと離ればなれにされたって、じいさんの死に目にあえなくたって。
この子だって、きっと、本当はそうだ。
王太子に他に愛しい人がいることにだって、そのくらいうっすらと気がついていたんじゃないか。
今夜殺されるのが、この子じゃなくてよかった。
私は、どうせもう死にたいと思ってたんだ。
99年も生きたんだ。
もう人生終わりにしていいと思ってたんだ。
神様仏様、満鶴さんと一緒のところに行かせてくれたって、もういいはずだ──。
「そんなに婚約を破棄されるのがいやなら……」
──いや。
いや、いやじゃない、が──。
その台詞とともに王太子の体がぐんと近づいてきて、私はジルさんを見た。
──俯いていた。
〝あいつなんかにあなた様はもったいない〟
そんなことを言ってくれた。
こんなおばばさえも、うんと気持ちを若返らせて、夜も眠れなくなるほど、ときめかせてしまう言葉を。
──私の言葉は、否定されても。
信じてはもらえないとしても。
本当だと思ってもらえなくても。
それだけは、せめてその言葉だけは、本当にしなくちゃ、駄目なんじゃないか?
「俺が王になったら……」
「側室にするって話なら、お断りだ」
「!?」
私が両腕で王太子の体を拒絶すると、意外だったのか、少し驚いたような顔をしている。
──いや、当たり前だろ。
「側室じゃなくて、正妻だとしても……」
その額を、ピンと指で弾いてみると、パチクリと瞬く碧い目。
──申し訳ないが、正直に言わせてくれ。
「あんたみたいな最低男にこの私は、もったいないよ」
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