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転移陣編
Lv.72 助言
しおりを挟む同調による感覚共有で匂いや音を拾った後皆で話合いつつ、イヴァが調べていたぬいぐるみについて全員に報告があった。
「ぬいぐるみがどの程度力を持つか以前検証したからな、結果を伝える。知っての通り、色硬糸自体に追加効果がある為簡易的結界を張れる状態だ。距離ではなく触れているか否かで展開される範囲内に入るかどうかが決まる」
結界の影響が及ぶ範囲、強度はどの程度なのかなどが並べられた。追加効果が魔力の両断以外にないか調べたが、なかったと挙がる
「魔力の両断はするが、魔素自体を遮断する効果はないようだ。魔導具を設置して確認した。結界外部からの魔力は受け付けないが内部から放出する分には問題がない。よくある円形状の結界や壁のようなそれとは違い『ぬいぐるみが触れている対象』だけ器用に覆っているようだ。鎧のようなものだと考えてくれ」
〔ほう、これがか。中々興味深いな〕
「ぬいぐるみだと糸の量とか形にも意味があったりするかな」
「どうだろうな。そこは要検証だろう、時間がかかる」
皆興味はあるものの実験検証まではしたがらなかった。シュヒに至っては魔術師協会にでも依頼を出せばいいと言い、自分がやる気は全くないようだ。僕も結果は知りたいけど実験まではやろうと思えなかったので気持ちはわかる
「タスラくんの方はどうかしら、何か進展はあって?」
「協会にはあまり期待してないみたい。以前森で暮らしていたように拠点作りから始めるって」
「あら、随分たくましいのね」
「・・・コルラスが居るからね」
全員が納得したようにああ・・・と微妙な声を出した。
コルラスを見ているとなんとなく自分がしっかりしていないといけないという気分になるようだ。僕だけかと思っていたがどうやらそうじゃなかったみたいでなんとも言えない。
タスラは人任せにしていられない状況を思って動き出すのも早い。僕としては成長を垣間見れた嬉しさから感激半分、一人で大丈夫だろうかという心配半分だ。
「せめて支援品が送れればいいけど、そんなことが出来たら帰って来られるだろうし本人に頑張ってもらうしかないだろうねぇ」
「ラギスの言う通りよね。協会が気軽な様子見で送り出したからタスラくんは滞在用の道具なんてほとんど持っていないはずよ」
〔こちらが介入する手立てを見つけなければならないな〕
「俺たちのやるべきことは終わったからな、明日から魔女と使い魔がやってた調査に加わる」
「そうだね」
夕食時に報告があるものの、詳細な説明は必要だ。具体的な調査方法や二人が一体何を注視して町中を見ているのか聞いておかなければならないし、ナキアやイヴァが加わることで方向性が変わるかもしれない。
・・・の、だが。僕自身は魔法や魔術に関してはほとんどわからない。意見を出すことも出来ずにただ話を聞いているだけになってしまった。不甲斐ない
(コルラス、そっちはどう?)
〔今ねー お家作るしてる!〕
(タスラに頼まれたら手伝ってあげてね)
〔コル お手伝いする!〕
順調そうだ。目を閉じてから視界を共有してタスラの働きっぷりを視る。シュヒの話で聞いていたけどこうして見るとやっぱり違うな。森での生活はほとんどタスラに頼っていたと言ったけど、本当に手際がいい。迎えに行ったときのそれと同じような拠点が出来上がっていくのを見て素直に感心した。
(僕の声は届けられる?)
〔キサラ喋るしたい?〕
(うん)
〔喉貸してあげる~!〕
なんとコルラスの喉を借りて会話も出来るらしい。通信用の魔導具みたいなことも出来るなんて、森の主様は思っていた以上に心を砕いてくれていたのかもしれない。ちょっと始めはこう・・・何故コルラスが付けられたのか不思議だったけど、これだけたくさんのことが出来るなら僕にはもったいなかったようにも思う
「タスラ、キサラだよ」
「う、うわ?!」
タスラが驚いたのが見えた。驚いた声も同調で聞こえたんだけどね。皆はそれに気が付いたらしくこちらの部屋は静かだ。やる前に言っておけばよかったかな。次からちゃんと言っておこう。
「コルラスに頼めばこうして会話も出来るから、そっちで何かあったら連絡して欲しい」
「わかった。しばらくここを拠点にして近くを見てみるつもりなんだけど、他にやることってあるかな?」
「一応皆にも聞いてみるからちょっと待ってて」
同調を一旦切ってもらって皆に向き直る。タスラに伝えるべき重要事項はあるだろうか?と相談がしたかった。僕からすればあまり無理をしないように、ぐらいしか言うことはないけど他からすればもっと色々と出てくる気がしたのだ
「そうね、拠点作りも問題なさそうだし、実は彼が森での滞在期間中食糧確保に一番貢献していたのよ。向こうに居るだけなら大丈夫でしょうね」
〔魔法や魔術は極力使わない方がいいだろう。位置が特定される可能性がある。それから、付近に魔封じが施されているかどうか妖精に調べさせると良いだろう〕
「他に転移した奴らも居るはずだ。拠点が整った後余裕があれば近くに居ないか調べた方がいい」
「地形も調べておくとどの辺りかわかるかもしれないねぇ」
「わかった、伝えておく」
さすがに皆の方が冷静だ。僕なんかよりいい助言が得られて良いし、これからタスラから来た質問は相談してから返した方がいいだろう。
「キサラ・・・ひと段落ついたらちょっとだけ話し相手になってほしい、かも」
タスラが落ち着いたらコルラスを介して話をしようということになった。知らない土地で頼れる相手も居ないわけだから心細いのは当然だ。なるべく良い助言が僕からも渡せるようにならなくては
協会主導の会議にシュヒが呼ばれ、出席者は御伽ノ隣人限定となっていたので、僕らは待機後どんな話し合いがあったのかを聞くことになった。待ち時間は主にタスラが居る場所の特定をどう行うか、意見の出し合いや野営をするときに気を付けるべき点をまとめ、助言が出来るように整える。
「町自体に魔法使用の痕跡がないってことは転移陣を発動するための魔導具があるかもしれない、ってことでシュヒたちが調べてたんだよね?」
「そうだな」
「転移と召喚の違いって何?同じ移動でしょ?」
「転移は物に、召喚は意思ある者に使われる」
転移は主に物を移動させるときに使うもので、召喚は人間やあらゆる種族に対して行われるものであるらしい。なんでも転移には意思が必要なく、あっても強制的に移動をさせるものであり、召喚は『応じる』ため拒否すれば発動しないのだそうだ。だから「召喚に応じ参上」なのか
〔ここまで手間がかかっているのだ、背景には好からぬ企てが関わっていると見える。そこを掴む方が案外早いかもしれないな〕
「さっき言ってた、半成に意味があるってところ?」
〔そうだ。過去に同じことが起きていないとも限るまい〕
「なるほど、目的がわかれば自ずと誰がやっているのかもわかるってことか」
首謀者を捕まえてしまえば一気に片が付く、か。そこまでは考えていなかった。助け出すことばかり考えていたし、どこに居るのか特定することしか頭に浮かんでいなかった。強いて言うなれば今更ながらにこういった状況を作った相手がいることに気が付いて、許すもんかというやる気も出てきたぐらいだ
「・・・魔法使用が確実、連れ去りは売買目的の誘拐じゃないかって話が出た時点でそれが真実じゃなかったにしろ、阻止すべき対象があるのはわかってただろうが」
「いや、集団の件でその辺りはポロッと」
イヴァが大きくため息を吐いた。タスラやシーラを連れ去られたことで冷静さに欠けると説教までされてしまった。・・・反省してます。
そうこうしている内にシュヒが戻って来た。今後の方針については夕食時にパドギリア子爵から話があるだろうと前置きをされた上で、魔法関連の調査に関してはシュヒに丸投げされたと報告があった。呆れてしまうが余計なことをされるよりかはマシかもしれないと脱力した
旦那様から「引き続きの調査に期待している」といった話をされて終了し、その日は全員就寝した。
「ふむ、さすがに今回はついて来なかったようだな」
満足そうにナキアが頷いてるのを見てから上を見上げた。相変わらず不思議な砂時計がサラサラと砂を落としている。そう、疑似空間である。
「同調の結果は言葉だけではわからないのでな。こうしてここで魔法による再現を、と思っていたのだ」
「そういう使い方もあるんだ」
「早速見せてもらおう、出来るか?」
匂いや音に関しても引き出されて二人で頭を捻る。ナキアは首をわずかに傾げ目を伏せ、腕を組んだかと思えば口元に指を置いて何事か考え始めた
「この匂いは花か?本当に無音のようだな。・・・・風もないか、夜のようだと聞いていたが確かに暗いな」
「うん、寝る前にタスラと話をしたんだけど時間が経ってもずっと暗いみたい」
「・・・・この国にそんな場所はあるのか?」
「ない、と思う。図書館で国内の領地について色々読んだけどそんなところなかった」
「ほう?何故それを調べた」
「『嘘つき冒険記』って知らない?」
「有名なのか?」
「題名にあるように、冒険の話なんだけど・・・それを読んだらちょっと旅って面白そうだなって思ってたんだよね。まさか自分が旅立つとは思ってもみなかったけど」
付け加えるなら商会の手伝いをし始めた頃、特産品や特色を領地ごとにある程度知っておいた方が業務が広がって給料も上がるため積極的に図書館に通って本を読んだ。知識は財産と口癖のように言っていた上司の影響が強かったようにも思う。
「紙自体が高価で本はとても手に出来るものではないからね。図書館でも一定期間利用するとお金が取られるし、持ち出しは原則禁止で、家に帰って読むことも出来ないからあまり活用する人は居なかったかな。蔵書は田舎だと思えない豊富で、ためになることも多かったよ。それこそ、色硬糸の生成方法とかね」
「随分と余裕があったようだな」
「写本の仕事をしてたんだ、図書館の蔵書を写して貴族様に売る仕事。依頼があった本の中身を写して渡すんだけど、貴族様の依頼はシュヒから聞くから時間に余裕があったんだ。せっかくだから興味のある本も読ませてもらったよ」
勉強も出来るしいい仕事だったと思う。実際写本の仕事や代筆で路銀を稼ぎながら移動をしようと思っていたし、この先そろそろ働く必要が出てくるはずだ
「事情はわかった、この国に存在しない場所の話であれば国外ということだな。範囲をあれだけきっちり南下させるのであれば正確に測らなければならない。・・・術者自体は近くにいるだろう」
「それじゃ、協会の人達が動いたのはすぐにわかるってこと・・・?」
「既に把握されている、ということもあるだろう。逃げられるかもしれないが、今は協会とやらの影に隠れていた方が都合もいい。その間に出来ることをする。例えば国外に該当する土地がないか調べることだ。確実に取れる手段と確保出来る情報はあった方がいいだろう」
国外にもし、タスラがいると思わしき土地があれば自然とその地に関係のある人間が関わったことがわかる。相手の素性がある程度明らかになれば仮に逃げられても捜索の範囲が絞れるかもしれない、とも言われた
「それらしき場所がなかったら・・・?」
「厄介だな」
「やりようはあるってこと、だよね」
「そういうことになる。場所の特定、魔導具調査、怪しい人物が居ないか洗い出し、似た事例が無いかの確認・・・何故半成が狙われるのか、目的を突き止める・・・どれから手をつけたものか」
横目で見られると、選べと促されているように感じた。焦ったってしょうがない、冷静に考えろと言われているような気もする。
「ナキアはどう進めるのがいいか、わかってるんじゃないの?」
「考えはあるな」
「・・・・どれから?」
「決まっているだろう、全てだ」
人手が全く足りないんだけど、とは言えなかった。
「協会とやらには引っかき回されたのでな、少しは役に立ってもらうか」
「え?」
「上手く誘導すれば場所の特定は出来るはずだ。常に夜の場所について情報を集めさせる」
「特定出来なかったら?」
「国外にも存在しないのであれば『無い』という事実で充分だ」
「・・・そのときに聞くよ」
「それが良いだろうな。・・・さて、魔導具調査は我々が行わなければならないことだ。が、手持ち無沙汰な子爵には不審な者が居ないか、そして過去に起きたことを調べる余裕はあるだろう。人員が削がれ通常の職務があるとはいえ、仮にも爵位持ちの貴族だからな。己が動けなければ金で雇えばいい」
疑似空間から抜けると、幾分かマシな気持ちで目が覚めた。
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