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18 溢れる気持ち
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風呂上がり、バスタオルを身体に巻いただけの格好で、遥奈は鏡を見ながらドライヤーで髪を乾かしていた。鏡の向こうに見える自分は、ほんのりと笑みを浮かべており、油断をすると声を漏らしてしまいそうである。
遥奈の背後では、寝巻きを着た亜紀が、なぜか布団の上に正座して姉の身繕いを待っている。何も聞かずとも、那津男の部屋へ行くのを今か今かと待ち侘びているのが分かる。
遥奈はさっきのお風呂で、那津男の事はなんとも思っていないかのような事を亜紀に言った。だがそれは恋愛的な意味であって、本当に無感情というわけでもない。むしろ、好きという感情は、自分の中でも大きなものだと思っている。
それは、父親として好きというわけではないと思う。
そして、男性として好きというわけでもないと思う。
妹に言った通り、家族として好きというのが、自分の気持ちを一番表しているのだと、遥奈は思うのだ。
ドライヤーを止め、頭を軽く振って髪が乾いたのを確認する。
「そろそろ、お義父さんのところに行きましょうか」
「うん!」
まるで遊園地に出かけるのが決まったかのように、亜紀は勢いよく立ち上がった。そして、着たばかりの寝間着を、当たり前みたいな顔をして脱ぎ捨てた。下着は最初から身に着けていない。
華奢でほっそりとした身体。膨らみ始めたばかりの乳房。少女から女に変わり始めた、幼さと淫らさを併せ持った、妖精のような身体つきだ。
「もう、隠す意味はないんだよね?」
「そうね……」
語尾に甘い蜜を滴らせて、遥奈もバスタオルを剥ぎ取って全裸になった。女らしさを示す乳房。丸みを帯びた腰つき。成熟した女より一歩手前の、わずかに青みの残った果実のような身体である。
と、バスタオルを部屋の隅に放り出した遥奈は、亜紀が自分の身体をじっと見ている事に気が付いた。
「なに?」
「……おっぱい、触ってもいい、お姉ちゃん?」
「はいい? ……まあ、いいわよ」
「わーい」
遥奈の正面に立った亜紀は、姉の乳房に両手をあてた。そして下から持ち上げるように、柔々と揉み始める。
「ん……」
「おっきーい。柔らかーい。……いいなぁ」
「さっきのお風呂でも思ったけど、亜紀も女らしくなり始めてるじゃない」
「それはきっと、パパのおかけだよ」
オトコを知れば、オンナは仕草も変わるという。
林間学校で留守にしていた前後で、亜紀の女としての雰囲気は明らかに変わった。たった二日で身体つきなど変わるはずもないが、色香という面で変わったように思える。
子供のように媚びるのではない。だが、あどけなさが抜けたというわけでもない。
ただ、魅力的になった。そんな気がする。
遥奈も思わず、妹の身体に手を伸ばした。膨らみかけの乳房に優しく触れる。
「亜紀もお義父さんに、オトナにしてもらったのね」
「えへへ……、うん……」
「優しくしてくれた?」
「あー……、激しくヤった……」
「……はい?」
「パパにしてもらったっていうより、あたしがパパに跨って、自分からしたの。こう……馬乗りになって?」
「ええと……、亜紀?」
「だって……、お姉ちゃんの初めてのコト、パパがすごく気にしてるみたいだったんだもん」
「だからって、なんで自分からなんて……」
自分も那津男と騎乗位でやった事はある。だが、初めての夜に、まるであの女のような事をするとは、遥奈は亜紀の事が信じられなかった。
「パパのためだよ。……ううん、お姉ちゃんも含めて、あたしたちのため、かな?」
「私たちの?」
「そう。だって、アイツが消えてから、あたしたちとパパって最悪だったじゃない。そんな中で、お姉ちゃんの初めてって、無理矢理だったんでしょ? アイツのせいだっていうのはその通りなんだけど、それを無かったコトにするには、パパもお姉ちゃんも、けっこう真面目だしね」
深刻な話であるはずだが、それを分かっている為か、亜紀は少し茶化すように笑った。
「だから、あたしは自分からパパに乗っかったの。あたしがパパとしたの。大好きなパパが、何も気にしないで愉しんでくれるようにね」
亜紀の言葉に、遥奈は心臓がきゅうっとする思いがした。同時に、亜紀の事を子供扱いしていた自分が恥ずかしくなる。
年齢的には実際に子供であるし、守るべき妹であるのも確かだ。だが、亜紀もまた一人の人間である。単に守られるだけでなく、亜紀自身も姉と家族を守ろうとしていた事に、遥奈は嬉しくなってきた。心が温かくなり、妹への愛おしさが溢れ出す。
亜紀もまた、自分たち家族の未来の事を、彼女なりにちゃんと考えていたようだ。
遥奈は、母親に比べて発展途上である胸に、妹を抱き締めようとして腕を広げた。
「亜紀……」
「そうしたらさー、パパってスゴかったんだよ!?」
「……はい?」
「もう、ずっと繋がってるみたいな感じでさー。男の人って、一回終わったら打ち止めって聞いてたんだけど、昨日の夕方からお姉ちゃんが帰って来るまでの間、ずっとしてて、すっごく愉しかったよ♪ お風呂に入ってる時も、ご飯を食べてる時もしてたんだよ。あと、パパってお尻が好きなんだね。あ、お尻って言ってもお尻の穴じゃなくって、お尻そのものね。あたしを犬みたいに四つん這いにさせて、お尻を撫で回すの。その触り方がすっごくエッチでさー」
「ソウ……。タノシカッタノネ……」
「お姉ちゃん、笑顔がコワいよ」
遥奈と亜紀は裸のまま階下に降り、那津男の部屋をノックした。
「お義父さん、いい?」
「遥奈か。いいぞ」
親しき中にも礼儀あり。
初めの頃は、ささやかな反抗心からノック無しで那津男の部屋に入ったものだが、お互いに心を通わせるようになってからは、むしろキチンとノックしてから入るようにしている。
この部屋が自分の部屋にもなったとしたら、ノック無しで入るようになるのだろうか。
遥奈は、そんな事をふと思った。
『那津男の事を、好きにはならない』
だが、さっきの自分を思い出して、それを振り払うように遥奈は首を振った。
訝しんだ妹に微笑み、那津男の部屋に入る。
那津男はTシャツにトランクスという、普段の寝間着姿で、スマホを片手にベッドに腰かけていた。
「今夜は早いな。亜紀はもう寝た……、って、やっぱり二人で来たか。しかも、その恰好、やる気満々かよ」
全裸で自分の部屋に入ってきた義理の娘二人を目にした那津男は、呆れた声を漏らした。
「亜紀に私たちの事をあれこれ言うより、この方が早いでしょ?」
「……お前たち姉妹は本当によく似てるな。さっき、亜紀も似たような事を言ってたぞ」
「さっき?」
遥奈は、隣でニコニコと笑っている妹に視線を向けた。
「お姉ちゃんが林間学校から帰ってきたとき、あたしとパパが裸で抱き合ってたら、色々説明する手間が省けるなーって……」
「っていう事は、私が帰って来る直前までしてたってこと?」
「ああ、まあな……」
さすがにバツが悪いのか、那津男は、遥奈が帰ってきた時と同じように視線を逸らした。
「……お義父さんの変態」
「おいコラ」
「お姉ちゃんもいい勝負だと思うよ? 裸でパパのお部屋に行こうなんて、マンガでも見た事が無いよ」
「ちょ、亜紀!」
「あははっ! パパ、お姉ちゃんがコワーい!」
そう言うと、子供らしい闊達さで亜紀は那津男に抱き着いた。そして、当たり前のように、義理の父親にキスをする。
妹の自由さに軽く溜息を吐いた遥奈は、ベッドに腰かける那津男の隣に座った。亜紀とは反対側の位置である。
「ふふっ、両手に花だね、お義父さん」
「そうだな。こんな思いが出来る『父親』なんて、この世に俺くらいなもんだろ」
と、そこで那津男は押し黙った。何かを言いづらそうにして、視線を天井に彷徨わせる。
「……………………お前たちが俺の側にいてくれて嬉しい。この点だけは、芙由美に感謝だな」
遥奈の反対側で、亜紀が那津男を抱き締める腕に力を込めたのが分かった。
遥奈も同じように、那津男の手を握る。
那津男の口から、母親の芙由美の事は聞きたくないと以前に遥奈は言った。亜紀も同じ気持ちだろう。
ここにいる三人は、いずれも芙由美に捨てられた人間だ。そして今のこの状況は、母親がきっかけである事も確かである。
しかし、今の自分たちの幸せに、芙由美は必要ない。形としては芙由美が三人を捨てたと言えるが、心では、遥奈の方も芙由美を切り捨てている。おそらくは、亜紀も、そして那津男も。
それを示すかのように、那津男は言葉を継いだ。
「だけどもう、あいつは関係ない。お前たちは、俺が守るよ。俺の大切な『家族』だからな」
「お義父さん……」
「パパ……。大好きだよ」
と、亜紀は義父の首越しに、遥奈に向って意味深な視線を投げかけてきた。
亜紀の視線が何を意味しているのか、遥奈は察した。だが、遥奈はそれを口にするわけにはいかない。
だから、それを誤魔化す為に、遥奈は那津男にキスをして囁いた。
「今日は、三人で川の字になって寝ましょうか」
「んん……ふ……」
那津男に跨りながら、遥奈は那津男と唇を重ねていた。舌を絡め、お互いの口の中を犯す。
「んあっ」
遥奈の蜜壷の中には、那津男のモノが収められている。熱く感じられる那津男の肉棒は、普段と変わらない硬さを保っていた。亜紀に聞いた話では、昨夜からほとんど寝ないで淫らな親子のスキンシップに励んでいたというのに。
遥奈は、横で眠っている妹に視線を投げた。亜紀の方は流石に、睡魔に耐えられなかったようだ。ほとんど寝ないで義父とのセックスを愉しんでいたせいか、遥奈と那津男の絡みを生暖かい目で見守りながら寝落ちしていた。
腰を前後に振りながら、那津男に視線を戻す。
「んふ……、夕べは、随分とお愉しみだったみたいね。あ……ん……」
「お前ばっかりズルいと言ってな、仲間外れにされてた分を取り戻すみたいに頑張ってたよ」
「クスッ、頑張るって……。ああんっ!」
と、那津男は自分に跨る娘のお尻をぐっと掴むと、少し真面目な口調で聞いてきた。
「……これで、良いのか?」
「これで、良いのよ。……お義父さん」
「『パパ』に『お義父さん』か。お前には言っておくけど、正直、『父親』をやれてる実感は無いな。何しろ、父親になってから、ほんの数か月だ」
「おじ……那津男さんは、良いお義父さんよ。私たちにとってね」
「うへあ……」
「何よ、不満? 可愛い娘たちと、こんなに愉しい事をしてるのに……あんっ!」
「いや……、お前に名前を呼ばれると……」
「名前を呼ぶのは、ダメ?」
「ダメじゃなくて……、なんだ、その……悪くない」
「ぷっ。何よ、それ」
遥奈は、自分の心がひどく揺れているのを感じた。自分の中の、嬉しくなる気持ちが止められない。義理とはいえ、父親とセックスをしている最中だというのに、交わりそのものよりも、こういう他愛のない会話に幸せを感じてしまう。
それに、妹の亜紀も、この情愛の場にいる。隠す必要がなくなって、心が軽くなったせいもあるのだろう。
自分の中にある、見て見ぬふりをしてきた温かい感情に名前を付けてしまいたくなる。
それは、本当なら誰もが持っている感情だ。
そして、妹の亜紀は、もう何度もそれを口にしている。
『パパ、大好き!』
しかし、遥奈はそれを、心の奥に封印している。決して表には出さない。
亜紀の為に。自分の為に。
自分のこの感情が、母親の呪いを上回るとは限らないのだ。なぜなら、遥奈は芙由美の娘なのだから。
「遥奈」
「なに?」
義理の娘に肉棒を突き入れたまま、那津男は隣で幸せそうな寝顔の亜紀にちらりと視線を向けた。
そして、再び遥奈に視線を戻すと、意を決したように口を開いた。
「芙由美を探そうと思う」
「……!」
那津男の口から母親の名前が出た瞬間、遥奈の心と身体が凍り付いた。自分の中にあったはずの温かい感情が、まるで霞に覆われたように感じられなくなる。喉元から、何か冷えた塊のようなモノが胃の腑に落ちていく感覚に、全身がマヒしてしまったかのようだ。
「なん……で……」
「けじめをつける。今はまだ、書類の上では俺と芙由美は夫婦のままだ。だから、ちゃんと離婚して、お前たちを引き取る。俺だけの娘にする」
――この人だけの……娘……。
思えば、母親は目の前から消えただけで、質の悪い幽霊のように遥奈と亜紀につきまとっていた。何をするにも、どこへ行くにも母親の影が離れない。
遥奈が那津男を受け入れ、関係が良くなり、芙由美のいた頃には考えられなかった色鮮やかな毎日を過ごしていても、ふと気付くと黒い何かが視界の隅にいる。振り払っても消えず、それどころか、気付いた事によってさらに大きくなる。
それは、不安。母親の呪い。
だから、遥奈は自分の華やかな感情を閉じ込めてきたのだ。
だが、那津男はそれを、祓ってくれるという。
「……出来るの?」
「出来るかどうかじゃない。やる。これでも、そこそこ金はあるんだ。裁判でも何でもやって、お前たちと芙由美を切り離す」
「信じても、いいの?」
「信じてるから、俺を『父親』と呼んでくれるんだろ? 任せろ」
娘の不安を吹き飛ばすかのように、那津男は好い笑顔を遥奈に向けた。
遥奈の中で、温かい感情が膨れ上がる。その感情は、閉じ込めていた扉の錠前を弾き飛ばし、遥奈の中でずっとわだかまっていた不安な感情を押し流していった。激流のような感情は遥奈の中で暴れまわり、やがて涙となって溢れ出した。
「ふ……うぐ……」
涙だけではない。心臓は早鐘を打ち、嗚咽と共に、自分の中の溢れる感情が止められない。
この感情の名前を、遥奈は知っている。
もう、堪える事は出来なかった。
本当は、ずっと前からそうだったのだ。
「こんな……、グス……、こんなコトしながら言うなんて、ズルい……」
「なに言ってるんだ。お前が一番感情を出している時だろ? 亜紀のいる前じゃあ、『いいお姉ちゃん』のお前だけど、俺としている時は本当に自由で良い顔してるぞ」
遥奈は、顔から火が噴き出す思いがした。顔を真っ赤にして涙を流すなど、良い顔どころかグシャグシャのヒドイ顔になっているはずだ。
「み、見ないでっ!」
遥奈は思わず、両手で顔を隠そうとした。だが、一瞬早く、那津男に両手を掴まれる。
「もっと笑え。あんな女の事は忘れて、幸せになれ。いや、俺がお前たちを幸せにする」
「む、無茶言わないでよぉ……」
「遥奈。なあ、遥奈。俺はお前たちが好きだ。亜紀も、俺を好きだと言ってくれた。お前はどうなんだ?」
「……言わなきゃ、ダメ?」
「ダメだ。聞きたい」
予想外に強い言葉で、遥奈は求められた。
言葉にしないと不安になるなどと言う話は、普通は男が言われるものである。だが逆に、那津男は色恋の言葉を躊躇わない。亜紀に隠れて那津男としていた時も、可愛いだの良い声だのと遥奈は言われていた。それが、思いのほか遥奈の気持ちを高めていたのは確かである。
『だから、ハルハルにも好きな人が出来たら、『好き』って言いなね。でないと後悔するよ』
唐突に、クラスメイトの言葉が遥奈の脳裏に思い浮かんだ。まるでこの瞬間を見透かしていたかのような千佳のアドバイスに、思わず笑いが漏れそうになる。
喜怒哀楽。
色んな感情が遥奈の中で合わさり、自分の顔がさらにヒドイものになっている気がした。
だが、もう迷いは無かった。
自分の心は、最初から一つだった。
義父に顔を近付け、キス未満の距離で一つの心を舌先に乗せる。
「お義父さん……那津男さん……大好きだよ」
遥奈の背後では、寝巻きを着た亜紀が、なぜか布団の上に正座して姉の身繕いを待っている。何も聞かずとも、那津男の部屋へ行くのを今か今かと待ち侘びているのが分かる。
遥奈はさっきのお風呂で、那津男の事はなんとも思っていないかのような事を亜紀に言った。だがそれは恋愛的な意味であって、本当に無感情というわけでもない。むしろ、好きという感情は、自分の中でも大きなものだと思っている。
それは、父親として好きというわけではないと思う。
そして、男性として好きというわけでもないと思う。
妹に言った通り、家族として好きというのが、自分の気持ちを一番表しているのだと、遥奈は思うのだ。
ドライヤーを止め、頭を軽く振って髪が乾いたのを確認する。
「そろそろ、お義父さんのところに行きましょうか」
「うん!」
まるで遊園地に出かけるのが決まったかのように、亜紀は勢いよく立ち上がった。そして、着たばかりの寝間着を、当たり前みたいな顔をして脱ぎ捨てた。下着は最初から身に着けていない。
華奢でほっそりとした身体。膨らみ始めたばかりの乳房。少女から女に変わり始めた、幼さと淫らさを併せ持った、妖精のような身体つきだ。
「もう、隠す意味はないんだよね?」
「そうね……」
語尾に甘い蜜を滴らせて、遥奈もバスタオルを剥ぎ取って全裸になった。女らしさを示す乳房。丸みを帯びた腰つき。成熟した女より一歩手前の、わずかに青みの残った果実のような身体である。
と、バスタオルを部屋の隅に放り出した遥奈は、亜紀が自分の身体をじっと見ている事に気が付いた。
「なに?」
「……おっぱい、触ってもいい、お姉ちゃん?」
「はいい? ……まあ、いいわよ」
「わーい」
遥奈の正面に立った亜紀は、姉の乳房に両手をあてた。そして下から持ち上げるように、柔々と揉み始める。
「ん……」
「おっきーい。柔らかーい。……いいなぁ」
「さっきのお風呂でも思ったけど、亜紀も女らしくなり始めてるじゃない」
「それはきっと、パパのおかけだよ」
オトコを知れば、オンナは仕草も変わるという。
林間学校で留守にしていた前後で、亜紀の女としての雰囲気は明らかに変わった。たった二日で身体つきなど変わるはずもないが、色香という面で変わったように思える。
子供のように媚びるのではない。だが、あどけなさが抜けたというわけでもない。
ただ、魅力的になった。そんな気がする。
遥奈も思わず、妹の身体に手を伸ばした。膨らみかけの乳房に優しく触れる。
「亜紀もお義父さんに、オトナにしてもらったのね」
「えへへ……、うん……」
「優しくしてくれた?」
「あー……、激しくヤった……」
「……はい?」
「パパにしてもらったっていうより、あたしがパパに跨って、自分からしたの。こう……馬乗りになって?」
「ええと……、亜紀?」
「だって……、お姉ちゃんの初めてのコト、パパがすごく気にしてるみたいだったんだもん」
「だからって、なんで自分からなんて……」
自分も那津男と騎乗位でやった事はある。だが、初めての夜に、まるであの女のような事をするとは、遥奈は亜紀の事が信じられなかった。
「パパのためだよ。……ううん、お姉ちゃんも含めて、あたしたちのため、かな?」
「私たちの?」
「そう。だって、アイツが消えてから、あたしたちとパパって最悪だったじゃない。そんな中で、お姉ちゃんの初めてって、無理矢理だったんでしょ? アイツのせいだっていうのはその通りなんだけど、それを無かったコトにするには、パパもお姉ちゃんも、けっこう真面目だしね」
深刻な話であるはずだが、それを分かっている為か、亜紀は少し茶化すように笑った。
「だから、あたしは自分からパパに乗っかったの。あたしがパパとしたの。大好きなパパが、何も気にしないで愉しんでくれるようにね」
亜紀の言葉に、遥奈は心臓がきゅうっとする思いがした。同時に、亜紀の事を子供扱いしていた自分が恥ずかしくなる。
年齢的には実際に子供であるし、守るべき妹であるのも確かだ。だが、亜紀もまた一人の人間である。単に守られるだけでなく、亜紀自身も姉と家族を守ろうとしていた事に、遥奈は嬉しくなってきた。心が温かくなり、妹への愛おしさが溢れ出す。
亜紀もまた、自分たち家族の未来の事を、彼女なりにちゃんと考えていたようだ。
遥奈は、母親に比べて発展途上である胸に、妹を抱き締めようとして腕を広げた。
「亜紀……」
「そうしたらさー、パパってスゴかったんだよ!?」
「……はい?」
「もう、ずっと繋がってるみたいな感じでさー。男の人って、一回終わったら打ち止めって聞いてたんだけど、昨日の夕方からお姉ちゃんが帰って来るまでの間、ずっとしてて、すっごく愉しかったよ♪ お風呂に入ってる時も、ご飯を食べてる時もしてたんだよ。あと、パパってお尻が好きなんだね。あ、お尻って言ってもお尻の穴じゃなくって、お尻そのものね。あたしを犬みたいに四つん這いにさせて、お尻を撫で回すの。その触り方がすっごくエッチでさー」
「ソウ……。タノシカッタノネ……」
「お姉ちゃん、笑顔がコワいよ」
遥奈と亜紀は裸のまま階下に降り、那津男の部屋をノックした。
「お義父さん、いい?」
「遥奈か。いいぞ」
親しき中にも礼儀あり。
初めの頃は、ささやかな反抗心からノック無しで那津男の部屋に入ったものだが、お互いに心を通わせるようになってからは、むしろキチンとノックしてから入るようにしている。
この部屋が自分の部屋にもなったとしたら、ノック無しで入るようになるのだろうか。
遥奈は、そんな事をふと思った。
『那津男の事を、好きにはならない』
だが、さっきの自分を思い出して、それを振り払うように遥奈は首を振った。
訝しんだ妹に微笑み、那津男の部屋に入る。
那津男はTシャツにトランクスという、普段の寝間着姿で、スマホを片手にベッドに腰かけていた。
「今夜は早いな。亜紀はもう寝た……、って、やっぱり二人で来たか。しかも、その恰好、やる気満々かよ」
全裸で自分の部屋に入ってきた義理の娘二人を目にした那津男は、呆れた声を漏らした。
「亜紀に私たちの事をあれこれ言うより、この方が早いでしょ?」
「……お前たち姉妹は本当によく似てるな。さっき、亜紀も似たような事を言ってたぞ」
「さっき?」
遥奈は、隣でニコニコと笑っている妹に視線を向けた。
「お姉ちゃんが林間学校から帰ってきたとき、あたしとパパが裸で抱き合ってたら、色々説明する手間が省けるなーって……」
「っていう事は、私が帰って来る直前までしてたってこと?」
「ああ、まあな……」
さすがにバツが悪いのか、那津男は、遥奈が帰ってきた時と同じように視線を逸らした。
「……お義父さんの変態」
「おいコラ」
「お姉ちゃんもいい勝負だと思うよ? 裸でパパのお部屋に行こうなんて、マンガでも見た事が無いよ」
「ちょ、亜紀!」
「あははっ! パパ、お姉ちゃんがコワーい!」
そう言うと、子供らしい闊達さで亜紀は那津男に抱き着いた。そして、当たり前のように、義理の父親にキスをする。
妹の自由さに軽く溜息を吐いた遥奈は、ベッドに腰かける那津男の隣に座った。亜紀とは反対側の位置である。
「ふふっ、両手に花だね、お義父さん」
「そうだな。こんな思いが出来る『父親』なんて、この世に俺くらいなもんだろ」
と、そこで那津男は押し黙った。何かを言いづらそうにして、視線を天井に彷徨わせる。
「……………………お前たちが俺の側にいてくれて嬉しい。この点だけは、芙由美に感謝だな」
遥奈の反対側で、亜紀が那津男を抱き締める腕に力を込めたのが分かった。
遥奈も同じように、那津男の手を握る。
那津男の口から、母親の芙由美の事は聞きたくないと以前に遥奈は言った。亜紀も同じ気持ちだろう。
ここにいる三人は、いずれも芙由美に捨てられた人間だ。そして今のこの状況は、母親がきっかけである事も確かである。
しかし、今の自分たちの幸せに、芙由美は必要ない。形としては芙由美が三人を捨てたと言えるが、心では、遥奈の方も芙由美を切り捨てている。おそらくは、亜紀も、そして那津男も。
それを示すかのように、那津男は言葉を継いだ。
「だけどもう、あいつは関係ない。お前たちは、俺が守るよ。俺の大切な『家族』だからな」
「お義父さん……」
「パパ……。大好きだよ」
と、亜紀は義父の首越しに、遥奈に向って意味深な視線を投げかけてきた。
亜紀の視線が何を意味しているのか、遥奈は察した。だが、遥奈はそれを口にするわけにはいかない。
だから、それを誤魔化す為に、遥奈は那津男にキスをして囁いた。
「今日は、三人で川の字になって寝ましょうか」
「んん……ふ……」
那津男に跨りながら、遥奈は那津男と唇を重ねていた。舌を絡め、お互いの口の中を犯す。
「んあっ」
遥奈の蜜壷の中には、那津男のモノが収められている。熱く感じられる那津男の肉棒は、普段と変わらない硬さを保っていた。亜紀に聞いた話では、昨夜からほとんど寝ないで淫らな親子のスキンシップに励んでいたというのに。
遥奈は、横で眠っている妹に視線を投げた。亜紀の方は流石に、睡魔に耐えられなかったようだ。ほとんど寝ないで義父とのセックスを愉しんでいたせいか、遥奈と那津男の絡みを生暖かい目で見守りながら寝落ちしていた。
腰を前後に振りながら、那津男に視線を戻す。
「んふ……、夕べは、随分とお愉しみだったみたいね。あ……ん……」
「お前ばっかりズルいと言ってな、仲間外れにされてた分を取り戻すみたいに頑張ってたよ」
「クスッ、頑張るって……。ああんっ!」
と、那津男は自分に跨る娘のお尻をぐっと掴むと、少し真面目な口調で聞いてきた。
「……これで、良いのか?」
「これで、良いのよ。……お義父さん」
「『パパ』に『お義父さん』か。お前には言っておくけど、正直、『父親』をやれてる実感は無いな。何しろ、父親になってから、ほんの数か月だ」
「おじ……那津男さんは、良いお義父さんよ。私たちにとってね」
「うへあ……」
「何よ、不満? 可愛い娘たちと、こんなに愉しい事をしてるのに……あんっ!」
「いや……、お前に名前を呼ばれると……」
「名前を呼ぶのは、ダメ?」
「ダメじゃなくて……、なんだ、その……悪くない」
「ぷっ。何よ、それ」
遥奈は、自分の心がひどく揺れているのを感じた。自分の中の、嬉しくなる気持ちが止められない。義理とはいえ、父親とセックスをしている最中だというのに、交わりそのものよりも、こういう他愛のない会話に幸せを感じてしまう。
それに、妹の亜紀も、この情愛の場にいる。隠す必要がなくなって、心が軽くなったせいもあるのだろう。
自分の中にある、見て見ぬふりをしてきた温かい感情に名前を付けてしまいたくなる。
それは、本当なら誰もが持っている感情だ。
そして、妹の亜紀は、もう何度もそれを口にしている。
『パパ、大好き!』
しかし、遥奈はそれを、心の奥に封印している。決して表には出さない。
亜紀の為に。自分の為に。
自分のこの感情が、母親の呪いを上回るとは限らないのだ。なぜなら、遥奈は芙由美の娘なのだから。
「遥奈」
「なに?」
義理の娘に肉棒を突き入れたまま、那津男は隣で幸せそうな寝顔の亜紀にちらりと視線を向けた。
そして、再び遥奈に視線を戻すと、意を決したように口を開いた。
「芙由美を探そうと思う」
「……!」
那津男の口から母親の名前が出た瞬間、遥奈の心と身体が凍り付いた。自分の中にあったはずの温かい感情が、まるで霞に覆われたように感じられなくなる。喉元から、何か冷えた塊のようなモノが胃の腑に落ちていく感覚に、全身がマヒしてしまったかのようだ。
「なん……で……」
「けじめをつける。今はまだ、書類の上では俺と芙由美は夫婦のままだ。だから、ちゃんと離婚して、お前たちを引き取る。俺だけの娘にする」
――この人だけの……娘……。
思えば、母親は目の前から消えただけで、質の悪い幽霊のように遥奈と亜紀につきまとっていた。何をするにも、どこへ行くにも母親の影が離れない。
遥奈が那津男を受け入れ、関係が良くなり、芙由美のいた頃には考えられなかった色鮮やかな毎日を過ごしていても、ふと気付くと黒い何かが視界の隅にいる。振り払っても消えず、それどころか、気付いた事によってさらに大きくなる。
それは、不安。母親の呪い。
だから、遥奈は自分の華やかな感情を閉じ込めてきたのだ。
だが、那津男はそれを、祓ってくれるという。
「……出来るの?」
「出来るかどうかじゃない。やる。これでも、そこそこ金はあるんだ。裁判でも何でもやって、お前たちと芙由美を切り離す」
「信じても、いいの?」
「信じてるから、俺を『父親』と呼んでくれるんだろ? 任せろ」
娘の不安を吹き飛ばすかのように、那津男は好い笑顔を遥奈に向けた。
遥奈の中で、温かい感情が膨れ上がる。その感情は、閉じ込めていた扉の錠前を弾き飛ばし、遥奈の中でずっとわだかまっていた不安な感情を押し流していった。激流のような感情は遥奈の中で暴れまわり、やがて涙となって溢れ出した。
「ふ……うぐ……」
涙だけではない。心臓は早鐘を打ち、嗚咽と共に、自分の中の溢れる感情が止められない。
この感情の名前を、遥奈は知っている。
もう、堪える事は出来なかった。
本当は、ずっと前からそうだったのだ。
「こんな……、グス……、こんなコトしながら言うなんて、ズルい……」
「なに言ってるんだ。お前が一番感情を出している時だろ? 亜紀のいる前じゃあ、『いいお姉ちゃん』のお前だけど、俺としている時は本当に自由で良い顔してるぞ」
遥奈は、顔から火が噴き出す思いがした。顔を真っ赤にして涙を流すなど、良い顔どころかグシャグシャのヒドイ顔になっているはずだ。
「み、見ないでっ!」
遥奈は思わず、両手で顔を隠そうとした。だが、一瞬早く、那津男に両手を掴まれる。
「もっと笑え。あんな女の事は忘れて、幸せになれ。いや、俺がお前たちを幸せにする」
「む、無茶言わないでよぉ……」
「遥奈。なあ、遥奈。俺はお前たちが好きだ。亜紀も、俺を好きだと言ってくれた。お前はどうなんだ?」
「……言わなきゃ、ダメ?」
「ダメだ。聞きたい」
予想外に強い言葉で、遥奈は求められた。
言葉にしないと不安になるなどと言う話は、普通は男が言われるものである。だが逆に、那津男は色恋の言葉を躊躇わない。亜紀に隠れて那津男としていた時も、可愛いだの良い声だのと遥奈は言われていた。それが、思いのほか遥奈の気持ちを高めていたのは確かである。
『だから、ハルハルにも好きな人が出来たら、『好き』って言いなね。でないと後悔するよ』
唐突に、クラスメイトの言葉が遥奈の脳裏に思い浮かんだ。まるでこの瞬間を見透かしていたかのような千佳のアドバイスに、思わず笑いが漏れそうになる。
喜怒哀楽。
色んな感情が遥奈の中で合わさり、自分の顔がさらにヒドイものになっている気がした。
だが、もう迷いは無かった。
自分の心は、最初から一つだった。
義父に顔を近付け、キス未満の距離で一つの心を舌先に乗せる。
「お義父さん……那津男さん……大好きだよ」
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