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第二章 月人《つきびと》

月と地球の違い1

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 次の日。
 翁じいは月の湯温泉を堪能しているので、私は一人で散歩に出た。
 そして、かぐやの本体がある巨大な湖に来ている。
 湖にはアーチ状の橋がかけられ、その中程で、色とりどりの水草の下に、張り巡った根を見ていた。
 ゆらゆら動いてどことなく気持ち良さそうだ。
 と、
「今日は月夜女王様」
 地球で言えば幼稚園くらいの小さな女の子が声をかけてきた。
 私はしゃがみ込んで、視線を合わせた。
「今日は、お元気ですか? お名前は? 」
「ミーちゃんよ」
「そっかいいお名前ね」
「あんがと、私、女王様みたいにカッコよくなるもん」
「あれれ、私、カッコいいの? 」
 ちょっと照れた。
「うん、ばっちり」
「ありがとう」
 そこにお父さんとお母さんがやってきた。
「これはこれは月夜女王様、お散歩ですか? お会いできて光栄です」
 お父さんが微笑みながらそう言った。
「ミーちゃん、女王様のお邪魔しちゃダメよ」
 そういうとお母さんが頭を下げた。
「ジャマしてないもん」
「「ねー」」
 二人で声を合わせた。

「パパ肩車、ねー、肩車」
 ミーちゃんが突然叫んだ。さすがに子どもは切り替えが早い。
「わかったわかった」
 お父さんはミーちゃんを肩車した。
「失礼します」
 お母さんが私に丁寧にお辞儀したので、私も立ってお辞儀した。
 私は三人揃って橋を歩いて行く後ろ姿を見送った。

 私もパパに肩車してもらいたかったなぁ、そう思いながら、再びかぐやの本体を見た。
 湖面がキラキラ輝いていた。

「ねえかぐや」
 私はペンダントに向かって話しかけた。
「はい、月夜女王様」
 応答してペンダントが光った。
「女王様はなんだかこそばゆいから、姫の方がいい」
「あら、では月夜姫」
「ねえここにいる人たちは全員かぐや一族なの? 私と同じ、いわば親戚にあたる………」
「いえ、私にインプットされた歴史によると、元々は月にも沢山の種族がいましたが、ある時種族分けしても意味がない事に気がつき、全てを統合して後にかぐや一族と呼ばれるようになりました」
「意味が無いってどういう事? 」
「全員月人つきびとです、それ以外の区分けは必要ないのですね。
 では月夜姫にお聞きしますが、地球人として生きてきて、種族を分ける事で何かいい事がありましたか? 」

「うーん、伝統やいろんな物の考え方やら、宗教や儀式をまもったり、生活様式が同じで安心したり、そんなことしか思いつかない」
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