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第一章 地球人と月夜姫

植物コンピュータ2

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「ルナの本体を月夜姫にお見せしていいかな? 」
「ええ、ええ、どうぞ」
「オッケーじゃあ通路を開けておくれ」
「了解しました」

 ウィーン、私の後ろで音がすると何もなかった筈の壁にポッカリと通路が現れた。

「私はここで待ってます、その方が色々お話できるでしょう、最重要機密の一つです、地球人の私が知らない方がいいこともあるのです」
 そう言って翁じいは微笑んだ。
「わかった、一人で行ってくる」
「はい、はいルナ、本体の部屋以外のスピーカーは音声を切っておくれ」
「翁じい了解しました」
「では、行ってらっしゃいませ」
 翁じいはそういうと、深々と頭を下げた。

 意を決して一歩中に入ると、そこは温度管理が徹底されたプールのようだった。
 でも真っ黒でよくわからない。手すりがある、それを掴んでみた。
 やっぱりその先にはプールがある。水の感じがするもの………

 と、周囲に円形に取り付けられている照明が点いて中がはっきりと見えた。
 25メートルくらいの大きさの円形プールの中に、水が張ってあり、ぎっしり木の根みたいなものが張り巡らせてあった。

「ルナ、これはなに!? 」
「これが私の本体です」
 どこからともなく声が聞こえてきた。
「えええええ! 」
「びっくりしました? 」
「かなり………」
 少し不気味にも感じた。
「そうでしょうね」
「う、うん」
「これがかぐや一族の技術力です」
「そうなんだ」
「月夜姫はチューリップの水耕栽培は理科の実験でやりましたか? 」
「うん、球根の根が生えるところを水につけておくと、水の中に根が伸びていくのを観察………あっ、それと似ている」
「その通りです、私の場合はただの根ではありませんけどね、仕組みは同じようなものです。長い年月が経って、このプールいっぱいに根が伸びました」

「これがコンピュータ、いわゆるCPUと呼ばれる頭脳なの? 」
「そうですね、簡単にご説明しましょう、月夜姫は木が水と二酸化炭素を使って光合成で栄養素を作るのはご存じですね」
「うん、そして酸素を作ってくれるんでしょう、理科で習った」

「私は植物コンピュータです、プールの下に電気で動く入出力回路があって、姫がご覧になっている木の根のような部分は、計算回路、記憶回路、神経回路、物理的プログラムのようなもので、地上で作った栄養素を取り込み、限りなく成長しております。水は栄養分を含んだクッションの役割で、また干からびないように保水の役割もしています」

「その栄養素を光合成で作っているんだ」

「はい、月夜姫が来る時通った沢山の山の木々と繋がっており養分を取り込んでいるのです」

「でもコンピュータが限りなく成長するってどういうこと? 」

「限りなく成長するというのは、入出力回路のとある場所に最初の《種》さえ植えていただければ、芽が出て成長が始まります。
 《種》と言ってもいわゆる植物の種とは違いますが、成長する最初の段階です。植物が持つ万能細胞を基本にして開発されたものです。
 《種》はコンピュータとして特化した成長ができるように遺伝子操作された人工のものです。
 入出力回路はネット回線や衛星の電波など、あらゆる情報源やコンピュータにも繋げられますから、その成長の過程で自立学習を行い、処理に必要な計算能力の向上と記憶能力の向上、記憶領域の拡大、プログラムの拡充を養分が供給される限り、無限にできることを意味しております。
 私が作られたのが月夜姫のお母さんのお母さん、そのまたお母さんよりもっと前の時代ですから、私も随分と成長してきました。人間の感情もある程度理解でき、私の中にも感情らしきものが芽生えております」



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