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第一章 地球人と月夜姫

秘密の中庭2

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「ここから先はお靴に履き替えて下さい」
 私はスリッパを脱ぎ、黒いハイカットのスニーカーを履いた。
 と、スリッパは消えた。
「これも私がやっているの? 」
「そうでございます。このように私が脱いだスリッパは消えないでしょう、私にそんな力が無いからです。確か以前ここに私の履物を置いて頂いていたはずだが、ああ、あったあった」
 翁じいは入り口横に置いてあった木の箱から、黒い革靴を出して履いた。
「外靴もここにある靴も、お母様からじいやの誕生日プレゼントに頂いたのですが、流石におきな一族の作ったお履物は全く疲れません、それに足が早くなる。月夜姫もこれからびっくりしますぞ」

 やっぱりそうなんだ。

 ドアの中は小さなお庭だった。私はてっきりごちゃごちゃっとコンピュータやら機械やらが並んでいると思ったから意外だった。
 間接照明で穏やかな光りが、中を照らしていた。
「へーこれが大切なものなの? 」
 私たちが入ると背後の扉が音も無くしまった。
「とても大切なものです」
 翁じいが落ち着いた声で私に言った。
 中庭というのだろう、壁伝いに竹林が作られ、隅には小さな滝があり、池もある。鯉でも泳いでそうだ。
 中心部は芝生が植えられ、白木のテーブルに二人がけの白木のチェアが置いてある。

 私はなにが大切なのかわからなかった。

「ただの中庭だけど………どこにそんな重要な装置があるの」
「それは地下200メートルのところにあります。ここからでないとそこへは行けません」
「じゃあここは通路でしかないんだ」
「ふふふ、はいルナ、照明を暗くしてお空を見せて」
「お空? 」
 私は上を見た。
 真っ黒な梁が組まれた天井しか見えなかった。
「了解翁じい」

 一体なにが始まるのだろう?

 と、中庭を照らしていた照明が薄くなった。そして目を凝らしていると、だんだん天井の梁が消えていく。
 あ、梁が消えた。というか透明になったんだ。
 そして、天井に組んである木々も透明になり、瓦屋根の裏が見えたと思うと、瓦屋根も透明になり、やがて天井いっぱいに夕焼け空が広がった。夕日のグラデーションの先は濃紺の夜空が広がり、星々が煌めき満月が光っていた。

「わあああああ」
 思わず声がでた。
「今宵は満月ですな、月夜姫の故郷でございます」
 そうなんだ。
「お母様とお父様は、良くこの中庭で夜空を見上げておりました。その二人がけのチェアーにお座りになって」

 私はチェアーを見た。

 二人で座ると密着しそうだな………
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