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第3章
鬼王神社の夏祭り 15(祭り当日)
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その頃、たもっちゃんからたこ焼きを受け取ったどんとは、翼橋のダンボールハウスに来ていた。翼橋の下に流れる野川は、農地の用水路のようなもので水深20センチ、川幅も3メートル程しかない。
背の高い草が生えている土手を降りて、川面から1メートルくらいの高さにある平地を進むと、翼橋を屋根にして、周囲に隠れるようにブルーシートとダンボールでできた小屋がある。
草が目隠しをして、外からはほとんど見えていない。
ダンボールハウスの前では、一人の老人がボスに缶詰をあげていた。
老人の身なりは決して汚くない。
真っ白になった髪こそ少々長めだが、スラックスに白いシャツ、そして茶色のローファーを履いている──まるでホームレスに見えない格好だ。
ボスはキャットフードに夢中になっている、嬉しそうだ。
「おっ、ボスも来てたか…」
どんとがそういうと、ちらりと見た。
にゅあー…そして再び缶詰を食べだした。
「教授、たこ焼きとラムネ買ってきたよ、一緒に食べよう」
「おお、これはこれは、どんと君すまないのう」
「今日と明日はお祭りだから、明日はお好み焼き買ってくるよ」
「お小遣い少ないんだろ、無理しなくていいよ、わしゃお金がないわけでもないからね」
「へへへ、新聞配達してるから大丈夫」
「そうっか、じゃあ遠慮なく頂くかね」
というと予備のダンボールを持ってきて敷いた。二人はダンボールの上に座ると、川を見ながらたこ焼きとラムネを頂いた。
教授と呼ばれるこの老人と、どんとが出会ったのは二ヶ月ほど前。翼橋を自転車で通りかかったどんとが、ダンボールハウスを作っている老人を見て声をかけたのだ。
「こんにちは」
「おお、こんにちは」
「おじさんどこから来たの? 」
「うーん、人を探して日本中歩いてる」
「日本中! 」
「ああ」
どんとは興味が湧いた。
「家作るの手伝うよ」
そう言うと自転車を土手の上に置き、平たいところにおりていった。そしてダンボールハウスを一緒に作った。
すると、教授はショルダーバックの中から期限切れの大学の職員証を見せてくれた。
「期限は切れてるが本物じゃ、身元は一応しっかりしてる不審者ではない、人を探しているだけだよ」
「へぇー教授なんだ」
「昔話だ、今はしがない旅人だよ」
「ねえ、どんなところに行ったの、教えて」
「興味あるかい? 」
「うん」
「ははは、いいよ」
そうしてどんとは、教授と仲良くなり、時々色んな話を聞かせてもらうようになった。
教授の話は面白かった、行ったことの無い土地の名前がどんどん出てきて引き込まれた。
──それに話しているとお父さんと話しているみたいで、なんだか嬉しかった。
どんとと教授が楽しそうに話している横で、ボスはすっかり缶詰を食べ終わり、音も立てずにどこかに行ってしまった。
背の高い草が生えている土手を降りて、川面から1メートルくらいの高さにある平地を進むと、翼橋を屋根にして、周囲に隠れるようにブルーシートとダンボールでできた小屋がある。
草が目隠しをして、外からはほとんど見えていない。
ダンボールハウスの前では、一人の老人がボスに缶詰をあげていた。
老人の身なりは決して汚くない。
真っ白になった髪こそ少々長めだが、スラックスに白いシャツ、そして茶色のローファーを履いている──まるでホームレスに見えない格好だ。
ボスはキャットフードに夢中になっている、嬉しそうだ。
「おっ、ボスも来てたか…」
どんとがそういうと、ちらりと見た。
にゅあー…そして再び缶詰を食べだした。
「教授、たこ焼きとラムネ買ってきたよ、一緒に食べよう」
「おお、これはこれは、どんと君すまないのう」
「今日と明日はお祭りだから、明日はお好み焼き買ってくるよ」
「お小遣い少ないんだろ、無理しなくていいよ、わしゃお金がないわけでもないからね」
「へへへ、新聞配達してるから大丈夫」
「そうっか、じゃあ遠慮なく頂くかね」
というと予備のダンボールを持ってきて敷いた。二人はダンボールの上に座ると、川を見ながらたこ焼きとラムネを頂いた。
教授と呼ばれるこの老人と、どんとが出会ったのは二ヶ月ほど前。翼橋を自転車で通りかかったどんとが、ダンボールハウスを作っている老人を見て声をかけたのだ。
「こんにちは」
「おお、こんにちは」
「おじさんどこから来たの? 」
「うーん、人を探して日本中歩いてる」
「日本中! 」
「ああ」
どんとは興味が湧いた。
「家作るの手伝うよ」
そう言うと自転車を土手の上に置き、平たいところにおりていった。そしてダンボールハウスを一緒に作った。
すると、教授はショルダーバックの中から期限切れの大学の職員証を見せてくれた。
「期限は切れてるが本物じゃ、身元は一応しっかりしてる不審者ではない、人を探しているだけだよ」
「へぇー教授なんだ」
「昔話だ、今はしがない旅人だよ」
「ねえ、どんなところに行ったの、教えて」
「興味あるかい? 」
「うん」
「ははは、いいよ」
そうしてどんとは、教授と仲良くなり、時々色んな話を聞かせてもらうようになった。
教授の話は面白かった、行ったことの無い土地の名前がどんどん出てきて引き込まれた。
──それに話しているとお父さんと話しているみたいで、なんだか嬉しかった。
どんとと教授が楽しそうに話している横で、ボスはすっかり缶詰を食べ終わり、音も立てずにどこかに行ってしまった。
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