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第3章

鬼王神社の夏祭り 13(祭り当日)

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 ──鬼王神社夏祭り当日。

 新垣仁は午前中からキャバ嬢数名とともに、出店の準備に忙しかった。数年前からお祭りの日は、たこ焼きと生ビールの出店を開いている。
 今回の場所はBの20。
 鳥居をくぐって左の広場の真ん中辺だ。
 例年、お祭りの日はお店にほとんんどお客さんが来ないので、休みにしていたが、数年前に出店に参加してみたら、思いの外実入りが良かったので味をしめた。
 キャバ嬢たちも、臨時のお小遣いが入るので喜んで手伝っている。
 なにせ、綺麗どころが揃いの法被を羽織り、浴衣を着て、店の裏に置いた簡易テーブルで接客するのだから、男性客が後を絶たないのだ。
 材料の下準備や、ソースにマヨネーズ、削りブシを並べたり、容器の準備に加えたこ焼き用のデコボコした鉄板に火を通したり、油を塗ったりと忙しい。
 キャバ嬢たちも普段と違う雰囲気にきゃっきゃ言いながら手伝っている。
 そして、仁の一人息子、小学四年生のたもっちゃんの出番だ。

 たもっちゃんも、今日は夏祭りの揃いの法被に、ねじり鉢巻で焼きのお手伝いだ。
 生地をジュワー…鉄板に注ぎ込むと、
「きゃーたもっちゃん格好いい」
「お婿になってー」
「私もタコと一緒に焼いてー」
 キャバ嬢たちから、イケメンアイドルに次々声がかかる。
 たもっちゃんはいつものように全く動ぜず、淡々とたこの切り身を並べていく。
 と、隣の出店になにやら数名のイケメンたちが揃いのスーツに捻り鉢巻でやってきた。
 器具の様子から、隣の出店は綿菓子を売るようだ。
「げーなんだお前ら! 」
 そのメンツを見て仁が声を張り上げた。
 それは、三上伸と店のホストたちだった。
「仁、お前こそなんでこんなとこにいるんだ! 」
「何ってよ! たこ焼き売るんだ、伸、お前こそなんだ」
「なんだってよ、綿菓子売るに決まってんじゃなぇか!」
「なーんでくじ引きで場所決めてんのに、伸が隣なんだ」
「こっちのセリフだなーんで仁が隣なんだ」
「おい伸、どこまでおれのケツを追ってくんだ」
「おい仁、お前こそ真似すんな」
「伸、邪魔すんなよ」
「うっせー、仁、邪魔すんなよ」
「なんだとー! 伸」
「なんだとー! 仁」
『うー…』

 そんな二人をよそに、
『よろしくお願いします』
 普段はあまり話せないキャバ嬢とホストたちが、挨拶を交わす。
「ままま、ビールでも…」
 キャバ嬢たちは、紙コップに生ビールを注いで持っていく。
「あーあーすみません、うちも綿菓子作ったらお返ししますね」
「わー楽しみー」
 イケメン揃いにニッコニコだ。
「二日間どうぞ宜しくお願いします」
「こちらこそ、イケメンいっぱいで楽しいでーす」
『カンパーイ』
 ──生ビールで乾杯した。
 その掛け声にはっとなる仁と伸。
 店の裏を振り返って、お見合い状態のメンツをみた。
『何やってんだーお前ら、仕事しろ仕事! 』

 仁と伸の声が揃った。

 たもっちゃんは、そんな大人たちに見向きもせず、淡々とたこ焼きを焼いている。
 千枚通しの扱いも上手いもんだ。
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