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第2章
中道商店街の人々 5
しおりを挟むタタタ…
元気よく伸さんの店の前を走り去ったももとさくらとたもっちゃん。
とあるビルの横をスッと右手に曲がった。
そこは『タヌキの散歩みち』
ビルの角には『タヌキの散歩みち』と掲げられた木製看板が作られている。
大人がかろうじてすれ違えるくらいの道幅の裏路地で、車は入ってこれない。
ビルの裏のその通りには、瓦屋根の木造民家がひしめくように立ち並び、家の前には鉢植えの植物や盆栽などが所狭しと並んでいる。
水やりをしたり、掃除をしたり、新聞を取りに来たり、家の表に出てくる老人たちは一様に笑顔で、子どもたちと挨拶をかわす。
その老人たちに言わせると、昔はよくタヌキの通り道になっていたらしい。
三人はその路地も途中で横に曲がる。
そこは『猫のおやすみ通り』
ビルとビルの隙間の地図にすらのっていない小道だ。小道に面するように置いてあるエアコンの室外機の上には、食材を入れたダンボールやバケツ、醤油の一斗缶などが置かれ、自転車があったりと、物置として使われているような小道だが、東に面していて朝日が注ぎ込む。
そんな荷物の上で猫がたくさん寝ているのでそう名付けられた。
今朝ものんびりと猫たちが寝ぼけていた。
「ボスおはよう! 」
さくらが1匹の老猫に声をかけた。
岩石のようないかつい顔をした雄猫は日差しに囲まれて、
にゃー、とひと鳴き。
顔とは対照的に日差しにキラキラ光る真っ白い毛並みは、高貴ささえ漂わせている。同じように荷物の上で寝ている猫たちも一目置いている。ボスはここら辺の猫のボスなのだ。
子どもたちが毎朝通るのはどの猫も承知していて、逃げる事がほとんどなかった。驚いて逃げるのは、この町に来たばかりの新参者の猫だけだ。
そんなビルとビルの脇を抜けて、一方通行の通りに出ると反対側の路地へと駆け込む。
この路地もビルとビルの間にある子どもたちしか入らない隙間だ。
──この町にはこうした路地がたくさん。
この町で育った大人達も子どもの頃に、よく使っていた。
一つ一つに名称がつけられ、誰もが熟知している。
車が入れない路地は、どこに行くのにも安全で、どこに行くにも最短距離で移動できる、便利な通路なのだ。
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