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冬の日、だるまと、女の子
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「いつか消えるよ、雪だるま。それでもつくりたいのかい?」
雪をせっせとこねていたわたしに向かって木の枝が、ささやきながら落ちてきた。
いつかは消える雪だるま。こさえる必要あるかしら? 冬の大きな黒い木を見上げてわたしは考える。答えはすぐには出てこない。
いつかは消える雪だるま。こさえる必要あるかしら? レインブーツの下にある雪を眺めて考える。
いつもの地面はそこにない。雪に覆われ、まっ白け。てんとう虫は見当たらない。雑草さえも探せない。地面の代わりに見えるのは、夜中に積もった雪だけだ。
わたしはしかし知っている。地面はそこにあることを。地面は雪の下にある。地面がなくなることはない。雪はいつかは消えるだろう。雪はなくなる運命だ。
「それでもつくってくださいよ」
わたしの頬に雪片が口づけしながらささやいた。
「いつかは消える雪だから遊んでほしいの、さっちゃんに。さっちゃんのために雪がある。あなたのために降ったのよ」
わたしのために降った雪。わたしの世界に雪が降る。わたしは雪をつかんでは、大きなだんごをこしらえた。どんどんどんどん転がして、大きなだるまをこしらえた。
だるまのお口は木の枝だ。とってもかわいい雪だるま。なんだかわたしにそっくりだ。
「もっともっと遊んでよ」
だるまと雪とが歌い出す。わたしは踊る、ゆうらりと。
「もっともっと遊んでよ」
わたしはだるまを抱きしめる。冷たいけれどあたたかい。わたしはとってもいい気持ち。
「いつもいつでもいつまでもわたしはいるよ。さっちゃんの心にわたしはいるんだよ」
だるまの声はあたたかい。
「わたしはそのうち消えるでしょう。すべてのものは消えるでしょう。からだはいつかはなくなります。それでも心はなくならない。ずっといつでもそこにある。だからからだがある間、もっともっと遊んでよ」
わたしはおととい息絶えた犬のレオルを思い出す。目から涙があふれ出す。
「レオルの心はここにある。レオルの心はなくならない。だからさっちゃん、泣かないで。もっともっと遊んでよ」
だるまはにかっと笑ったよ。わたしも思わず笑ったよ。抜けた前歯も気にせずに、一生懸命笑ったよ。
「そうそうその意気、いい笑顔」
だるまは大きな声を上げ、わたしをほめてくれたんだ。
いつかは消える雪だるま。それでもわたしはつくりたい。いっぱいいっぱいつくりたい。泣いたりしている暇はない。
わたしはせっせとこしらえた。髪の毛編んだ雪だるま。ぱっちりお目目の雪だるま。とってもかたい雪だるま。親指ほどの雪だるま。みんなかわいい雪だるま。せっせせっせとこしらえた。
そしてわたしは歌ったよ。だるまと一緒に歌ったよ。踊って、走って、転んだよ。いっぱいいっぱい笑ったよ。
わたしが笑えば笑うほど、だるまもレオルも笑ったよ。
いつかは消える雪だるま。それでもだるまはなくならない。だるまもレオルも消えはしない。わたしの心にちゃんといる。
いつかなくなるからだなら、いっぱいいっぱい笑うんだ。そして心をたくさんの歌と笑顔で満たすんだ。だって心はなくならない。
だってだるまが言ったもの。
雪をせっせとこねていたわたしに向かって木の枝が、ささやきながら落ちてきた。
いつかは消える雪だるま。こさえる必要あるかしら? 冬の大きな黒い木を見上げてわたしは考える。答えはすぐには出てこない。
いつかは消える雪だるま。こさえる必要あるかしら? レインブーツの下にある雪を眺めて考える。
いつもの地面はそこにない。雪に覆われ、まっ白け。てんとう虫は見当たらない。雑草さえも探せない。地面の代わりに見えるのは、夜中に積もった雪だけだ。
わたしはしかし知っている。地面はそこにあることを。地面は雪の下にある。地面がなくなることはない。雪はいつかは消えるだろう。雪はなくなる運命だ。
「それでもつくってくださいよ」
わたしの頬に雪片が口づけしながらささやいた。
「いつかは消える雪だから遊んでほしいの、さっちゃんに。さっちゃんのために雪がある。あなたのために降ったのよ」
わたしのために降った雪。わたしの世界に雪が降る。わたしは雪をつかんでは、大きなだんごをこしらえた。どんどんどんどん転がして、大きなだるまをこしらえた。
だるまのお口は木の枝だ。とってもかわいい雪だるま。なんだかわたしにそっくりだ。
「もっともっと遊んでよ」
だるまと雪とが歌い出す。わたしは踊る、ゆうらりと。
「もっともっと遊んでよ」
わたしはだるまを抱きしめる。冷たいけれどあたたかい。わたしはとってもいい気持ち。
「いつもいつでもいつまでもわたしはいるよ。さっちゃんの心にわたしはいるんだよ」
だるまの声はあたたかい。
「わたしはそのうち消えるでしょう。すべてのものは消えるでしょう。からだはいつかはなくなります。それでも心はなくならない。ずっといつでもそこにある。だからからだがある間、もっともっと遊んでよ」
わたしはおととい息絶えた犬のレオルを思い出す。目から涙があふれ出す。
「レオルの心はここにある。レオルの心はなくならない。だからさっちゃん、泣かないで。もっともっと遊んでよ」
だるまはにかっと笑ったよ。わたしも思わず笑ったよ。抜けた前歯も気にせずに、一生懸命笑ったよ。
「そうそうその意気、いい笑顔」
だるまは大きな声を上げ、わたしをほめてくれたんだ。
いつかは消える雪だるま。それでもわたしはつくりたい。いっぱいいっぱいつくりたい。泣いたりしている暇はない。
わたしはせっせとこしらえた。髪の毛編んだ雪だるま。ぱっちりお目目の雪だるま。とってもかたい雪だるま。親指ほどの雪だるま。みんなかわいい雪だるま。せっせせっせとこしらえた。
そしてわたしは歌ったよ。だるまと一緒に歌ったよ。踊って、走って、転んだよ。いっぱいいっぱい笑ったよ。
わたしが笑えば笑うほど、だるまもレオルも笑ったよ。
いつかは消える雪だるま。それでもだるまはなくならない。だるまもレオルも消えはしない。わたしの心にちゃんといる。
いつかなくなるからだなら、いっぱいいっぱい笑うんだ。そして心をたくさんの歌と笑顔で満たすんだ。だって心はなくならない。
だってだるまが言ったもの。
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