だってだるまが言ったもの

のあり

文字の大きさ
上 下
1 / 1

冬の日、だるまと、女の子

しおりを挟む
「いつか消えるよ、雪だるま。それでもつくりたいのかい?」

 雪をせっせとこねていたわたしに向かって木の枝が、ささやきながら落ちてきた。

 いつかは消える雪だるま。こさえる必要あるかしら? 冬の大きな黒い木を見上げてわたしは考える。答えはすぐには出てこない。

 いつかは消える雪だるま。こさえる必要あるかしら? レインブーツの下にある雪を眺めて考える。

 いつもの地面はそこにない。雪に覆われ、まっ白け。てんとう虫は見当たらない。雑草さえも探せない。地面の代わりに見えるのは、夜中に積もった雪だけだ。

 わたしはしかし知っている。地面はそこにあることを。地面は雪の下にある。地面がなくなることはない。雪はいつかは消えるだろう。雪はなくなる運命だ。

「それでもつくってくださいよ」

 わたしの頬に雪片が口づけしながらささやいた。

「いつかは消える雪だから遊んでほしいの、さっちゃんに。さっちゃんのために雪がある。あなたのために降ったのよ」

 わたしのために降った雪。わたしの世界に雪が降る。わたしは雪をつかんでは、大きなだんごをこしらえた。どんどんどんどん転がして、大きなだるまをこしらえた。

 だるまのお口は木の枝だ。とってもかわいい雪だるま。なんだかわたしにそっくりだ。

「もっともっと遊んでよ」

 だるまと雪とが歌い出す。わたしは踊る、ゆうらりと。

「もっともっと遊んでよ」

 わたしはだるまを抱きしめる。冷たいけれどあたたかい。わたしはとってもいい気持ち。

「いつもいつでもいつまでもわたしはいるよ。さっちゃんの心にわたしはいるんだよ」

 だるまの声はあたたかい。

「わたしはそのうち消えるでしょう。すべてのものは消えるでしょう。からだはいつかはなくなります。それでも心はなくならない。ずっといつでもそこにある。だからからだがある間、もっともっと遊んでよ」

 わたしはおととい息絶えた犬のレオルを思い出す。目から涙があふれ出す。

「レオルの心はここにある。レオルの心はなくならない。だからさっちゃん、泣かないで。もっともっと遊んでよ」

 だるまはと笑ったよ。わたしも思わず笑ったよ。抜けた前歯も気にせずに、一生懸命笑ったよ。

「そうそうその意気、いい笑顔」

 だるまは大きな声を上げ、わたしをほめてくれたんだ。

 いつかは消える雪だるま。それでもわたしはつくりたい。いっぱいいっぱいつくりたい。泣いたりしている暇はない。

 わたしはせっせとこしらえた。髪の毛編んだ雪だるま。ぱっちりお目目の雪だるま。とってもかたい雪だるま。親指ほどの雪だるま。みんなかわいい雪だるま。せっせせっせとこしらえた。

 そしてわたしは歌ったよ。だるまと一緒に歌ったよ。踊って、走って、転んだよ。いっぱいいっぱい笑ったよ。

 わたしが笑えば笑うほど、だるまもレオルも笑ったよ。

 いつかは消える雪だるま。それでもだるまはなくならない。だるまもレオルも消えはしない。わたしの心にちゃんといる。

 いつかなくなるからだなら、いっぱいいっぱい笑うんだ。そして心をたくさんの歌と笑顔で満たすんだ。だって心はなくならない。

 だってだるまが言ったもの。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

知ったかぶりのヤマネコと森の落としもの

あしたてレナ
児童書・童話
ある日、森で見つけた落としもの。 動物たちはそれがだれの落としものなのか話し合います。 さまざまな意見が出ましたが、きっとそれはお星さまの落としもの。 知ったかぶりのヤマネコとこわがりのネズミ、食いしんぼうのイノシシが、困難に立ち向かいながら星の元へと落としものをとどける旅に出ます。 全9話。 ※初めての児童文学となりますゆえ、温かく見守っていただけましたら幸いです。

月からの招待状

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
児童書・童話
小学生の宙(そら)とルナのほっこりとしたお話。 🔴YouTubeや音声アプリなどに投稿する際には、次の点を守ってください。 ●ルナの正体が分かるような画像や説明はNG ●オチが分かってしまうような画像や説明はNG ●リスナーにも上記2点がNGだということを載せてください。 声劇用台本も別にございます。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

ハロウィーンは嫌い?

青空一夏
児童書・童話
陽葵はハロウィーンの衣装をママに作ってもらったけれど、芽依ちゃんのようなお姫様じゃないじゃないことにがっかりしていた。一緒にお姫様の衣装にしようと約束していた芽依ちゃんにも変な服と笑われて‥‥でも大好きな海翔君の言葉で一変した。

落とし穴を掘るのだ!

はりもぐら
児童書・童話
友達のケンジくんと落とし穴を掘ることにした。ところが、土を掘って出てきたものは・・・

ほら穴の物語

はりもぐら
児童書・童話
ある日、僕はシロと散歩していて、不思議なほら穴を見つけたんだ

分かれ道を回り道

はりもぐら
児童書・童話
ある日帰り道が分かれ道になってしまった。僕はどちらに行けばいいのか!!

メロンクリームソーダの滝

はりもぐら
児童書・童話
この国のどこかにメロンクリームソーダの滝があるという。

おねしょゆうれい

ケンタシノリ
児童書・童話
べんじょの中にいるゆうれいは、ぼうやをこわがらせておねしょをさせるのが大すきです。今日も、夜中にやってきたのは……。 ※この作品で使用する漢字は、小学2年生までに習う漢字を使用しています。

処理中です...