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〜最終章〜
179.『電話』
しおりを挟むハナによって埠頭に連れられたリンとしおん。
そこで待っていたのはしおんの父親ユウゼン。
そしてしばらくしてカエデを拘束したシロサキがあらわれた。
しおんはこれまで以上の怒りを露わにしてユウゼンと対峙する。
それをただ傍観することしか出来ないリン。
シロ「どうしたクソ刑事?親子喧嘩を楽しもうよ。…なぁ、どっちが勝つと思う?」
シロサキは挑発するかのようにリンに話しかける。
リン「ふざけるな!!よくもこんなことを……ッ!」
シロ「心配しなくてもお前の番は来るよ。このガキを死なせたくないなら今は黙って見てな。」
カエデが捕らわれている以上、リンはシロサキの言われるまま傍観するしか出来なかった。
打開策を考えるが、いい策は何一つ思いつかなかった。
しおんとユウゼンの壮絶な殴り合いは続く。
一方、事務所に残されたみつれとよつばは構成員を全員制圧し、しおんとリンを追いかける準備をしていた。
よつ「これで全員片付いた……ったく、手こずらせやがって。」
みつ「急いで後を追うぞ。スマホ取ってくる。」
みつれは予めこうなる事を想定して小型電磁パルス発生装置の範囲外にスマホを事務所の外に置いてきていた。
みつれはスマホを回収しに一旦事務所の外に出た。
よつ「いやぁ…凄いなみつれさんは。…さて、とりあえずコイツらを縛っとかないとな。」
よつばは倒れている構成員達を一人ずつロープで縛り、目が覚めても動けないように固定した。
みつれはスマホを回収すると、カオリから着信が入っていることに気がついた。
みつれはカオリに電話を掛け直した。
みつれ「・・・もしもし、カオリさん。」
カオ「あぁ、みつれさん。お取り込み中だったようですね。」
みつ「えぇ。…どうしましたか?」
カオ「・・・実はエトと接触しましてねぇ。身柄を確保しました。」
予想外の内容だった。
みつ「今何処です?」
カオ「街から離れた廃墟です。こちらに来るなら居場所を送りますが。」
みつ「・・・いや、まだこっちが片付いていない。カエデが拉致されてしおんとリンまで連れていかれた。」
カオ「なるほど。それはこちらに向かっている場合では無いですね。では手短にお伝えし…………ん?」
カオリは投げ捨てたエトのスマホが光っているのが見えた。
カオ「ちょっと待ってください。」
カオリはエトのスマホを拾い上げる。
カオ「みつれさん、エトのスマホにリカから着信が入っています。直接お話出来るチャンスかも知れません。どうしますか?」
みつ「・・・繋いでください。私が話します。」
カオ「ふふっ、分かりました。」
カオリはスマホとスマホを重ねるようにした。
みつれはカオリとの通話越しにリカの声を聞いた。
リカ「・・・エト、私だ。孤児院の子ども達の薬は出来たか?明日アザミが帰って来る。その時に渡してやってくれ。・・・おい、聞いてるのか?」
エトから返事が無いことにリカは不審に思った。
みつれはようやく口を開く。
みつ「・・・お前がリカだな?」
数秒間沈黙が続く。
リカ「その声、知ってるぞ。……便利屋のみつれだな。なぜお前がこの電話に出ている?」
みつ「だいたい察しがつくだろ?……カエデを攫うようにシロサキに指示したのはお前か?」
リカ「・・・さぁな。だがお前らは我々の邪魔をし過ぎた。これ以上、生かしてはおけない。」
みつ「こっちのセリフだ。お前とは必ず決着をつける。待ってろ。」
リカ「・・・ふっ、楽しみにしてるよ。」
そう言ってリカは通話を切った。
リカ「・・・」
リカはすかさずどこかに電話を掛ける。
リカ「・・・すまないがエトのスマホの位置を調べてくれ。……あぁ、ありがとう。通達しておいてくれ。助かるよ。」
いつもとは違う柔らかい口調で話すリカ。
リカは電話を切り、次にシロサキに電話を掛ける。
リカ「・・・私だ。お前今何処にいる?」
シロ「埠頭です。ユウゼンにケジメをつけさせている最中です。」
リカ「みつれはどうした?」
シロ「ハナに始末させました。……どうかしましたか?」
リカ「・・・ならしくじったな。あの女は生きているぞ。それにエトを人質にとられた可能性がある。」
シロ「え!?……そんなはずは………」
シロサキは動揺していた。
リカ「始末し損ねたということだ。エトに電話を掛けたらヤツが出た………これがどういうことか分かるか?」
シロサキはさらに動揺し言葉が出なかった。
リカ「・・・ユウゼンを始末してこっちに戻ってこい。緊急事態だ、急げ。」
リカはシロサキの返答を待たず電話を切った。
リカ「・・・まさかエトまで辿り着けられたとはな……」
リカはタバコに火をつけた。
一方、リカとの通話を終えたみつれはカオリに安全な場所に逃げるように言った。
カオ「・・・確かにここは危険のようですね。移動することにしますので、手短にお伝えします。」
みつ「はい。」
カオ「結論から申しますが、残念ですがクスリで元に戻すことは不可能です。ハナさんに使われたクスリは『オビディエンス』ではありませんでした。」
みつ「・・・そうですか。わかりました。」
カオ「その感じ、分かっていた様子ですね。」
みつ「・・・ええ、薄々はそう思ってました。…経験者ですから。」
みつれもスイに『オビディエンス』を投与された過去がある。
その経験からクスリでは元に戻らないと薄々気付いていた。
しかし可能性はゼロと断言は出来なかった。
それにそれ以外いい案が出なかったのも事実。
僅かな可能性を賭けたが、その可能性はカオリにゼロと宣告された。
カオ「ふふっ、そういえばそうでしたね。けど今回使われたクスリはまた別のモノ。……はっきり言って粗悪極まりない代物でした。普通の人間なら確実に死んでしまいます。」
エトの様子を目の当たりにしたカオリは普通の人間では確実に死ぬと悟った。
みつ「・・・カオリさん、ありがとうございました。これ以上は本当に危険です。よつばさんをそちらに向かってもらいますのでどこか遠いところへ逃げてください。」
カオ「・・・それはもう御役御免…ってことですか?」
みつ「違います。恐らくこれから先は殺し合いになります。私たちの問題にカオリさんとよつばさんの命まで賭ける必要はありません。これまでのご協力本当に感謝しています。」
みつれは別れの言葉のようにカオリに言った。
カオ「ふふっ、なにを今更。ここまで来て引き下がれませんよ。それによつばが納得しません。私たちも最後まで付き合いますよ。」
みつ「・・・わかりました。とりあえずカオリさんはその場から離れてください。エトのスマホの位置を特定されて人を送ってくると思います。」
カオ「わかりました。エトからはもう得られるモノはなにも無いので置いていきます。構いませんね?」
みつ「はい。私とよつばさんは3人を助けに行きます。」
カオ「気をつけてくださいね。ではまた。」
カオリはみつれとの電話を切った。
カオリは横たわっているエトを見る。
カオ「・・・さよなら、エト。」
カオリは注射器を取り出し、エトの首元に挿した。
カオ「幸せな夢をみながら、眠りなさい。」
そう言ってカオリはその場から去った。
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