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〜第5章〜
138.『スイの過去』
しおりを挟むリカはシロサキと酒を交わしながらスイの話をはじめた。
リカ「スイと初めて会った頃はアイツはまだ高校生だった。」
シロ「なんでスイさんはその年で『犬』になったんです?」
リカ「父親が借金まみれのクズでな。売られたんだよ、アイツは。」
リカはグラスに入った酒を飲む。
シロ「リカさんはさっき、スイさんが初めての『犬』って言いましたよね?けどもう1人居たってことは同時に2人を躾ていたんですか?」
リカ「そうだ。その娘もスイと同じ高校生だった。」
リカは話を続けた。
リカ「私も当時は戸惑った。まさか2人も任されるとはな。だが、スイは従順な『犬』になった。どんな指示でも言う事を聞く。私に絶対服従を誓ったからな。だから私はある命令をした。」
シロ「ある命令?」
リカ「『犬』であるスイを組織の一員とし、私の右腕になることだ。」
リカは空いたグラスに酒を注ぐ。
そしてタバコに火をつけ、タバコを吸った。
リカ「スイは私の命令をなんでもきいた。アイツに戦闘のノウハウや、あらゆる事を教えたのも私だ。アイツは飲み込みが早かった。」
リカはノスタルジックな表情をしていた。
リカ「『犬』では無くなったスイは次々実績を上げていった。優秀だった。だから私はスイに幹部になるための条件として『犬』の躾役を任せた。」
シロ「それがあの便利屋の女……」
リカ「そうだ。あの女はトドロキが連れてきた女だ。…だが、アイツはその女に入れ込んでしまった。」
シロ「・・・それはスイさんが元『犬』だったから情が湧いた…て事ですか?」
リカ「あぁ、それにお互い裏切られた者同士だ。父親に裏切られたスイ、軍の隊長に裏切られたみつれ。…似たもの同士だな。」
リカはふっと笑った。
リカ「私はアイツに忠告した。組織を裏切れば私はお前を殺すと。」
シロ「けどスイさんは裏切った。リカさんより『犬』のみつれを選んだ。」
リカ「あぁ。スイが『犬』を『ドッグオーディション』に出した翌日の夜に襲撃されたのは知ってるか?」
シロ「スイさんから聞いたことがあります。組織の人間全員皆殺しにされたとか。」
シロサキはみつれが『ドッグオーディション』から戻った翌日に、しおんの祖父が送り込んだ人達に全滅させられたことをスイから聞いていた。
リカ「あれからスイはさらにみつれに執着するようになった。ずっとみつれを捜していた。…アイツは隠していたつもりかもしれないが、スイはみつれを見つけるために多くの人間を殺している。襲撃を指示した黒幕のユウゼンの父親を殺したのもスイだ。…アイツは私に報告しなかったがな。」
シロ「え!?襲撃の黒幕ってユウゼンの父親だったんですか!?」
シロサキは驚いた。
リカ「なんだ知らなかったのか。ユウゼンの父親は元極道だ。組を持っていたからそこから兵隊を使ったんだろう。」
シロ「だからユウゼンは腕っぷしが強いのか……」
シロサキは妙に納得した。
リカ「ふっ、ユウゼンは自分のことを話さないからな。」
リカはシロサキの空いたグラスに酒を注ぐ。
シロ「ありがとうございます。」
リカ「話を戻すが、正直なところスイに『犬』の躾を任せて幹部に昇進させたのが間違いだった。私のミスだ。」
リカはタバコを吸い、酒をグッと飲んだ。
リカ「お前の『犬』を見てふとスイのことを思い出していた。だからお前に話して起きたかった。……あそこまでの忠誠心があれば組織の一員にしても問題無いだろう。だが手網はしっかり握っておけ。私みたいなミスはおかすな。」
シロ「はい。わかりました。」
リカ「・・・私は『犬』を何人も所有している。だが一番初めの『犬』は特別な存在になる。…私は一番初めの『犬』達を失った。それは私が手網を緩めてしまったからだ。お前は私のようにしくじるなよ。シロサキ。」
リカはソファから立ち上がった。
リカ「少しお喋りが過ぎたな。すまない。」
シロ「いえ、貴重なお話ありがとうございます。」
シロサキは頭を下げる。
リカ「今日はもういい。戻れ。」
シロ「はい。失礼します。」
シロサキはグラスに残った酒を飲みほし、一礼してリカの部屋を出た。
シロ「((ハナを組織の一員に……か。確かに使えそうだな。少し考えてみようか…))」
シロサキは自分の部屋へと戻っていった。
リカ「・・・・・」
リカはデスクの椅子に座り引き出しを開けた。
引き出しから写真立てを取り出す。
リカはそれをデスクに置いた。
リカ「・・・私はお前たちを愛していた。スイ……エンジュ………。」
リカは部屋でひとり、酒を飲んだ。。。
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