３０代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

第一章

レース工房ミーナ

　レース屋をすることにした。

　各家庭で編んだものを買い上げる。メイさんに話を聞くと、仕事をしたいけど病気や介護で働けない人が多いみたい。私は、メイさんのお母さんにモチーフ編みの種類をたくさん覚えてもらう。メイさんのお母さんは手先が器用なので講師になってもらうのだ。

　施しをする気はない。でも、今の現状から抜け出したい人の手助けがしたい。

　レース用の糸は買い取り。月に一度、編んだ分を買い取る形。レースを売った服屋とも話をつけた。

　みんなに作ってもらうのは、モチーフ編み。パターンは何種類もある。服屋はこれを加工してショールや帯飾りにして販売する。糸は一束5大銅貨、加工の手間賃が、大銅貨５枚前後。難しかったりすると加工料が高くなる。大体、一束で10ぐらいモチーフ編みができる。1～2日で編めるので、日給が2.5～５千円ぐらいの手取りになる。

　もちろん、何が何個欲しいと言う服屋の需要へと対応と、糸の買い取りやレースの受け取りの中継ぎをメイさんにしてもらうことにした。

　うん。みんながみんな手先が器用じゃないよね。

　メイさんとは、年も近くお友達になった。話を聞くと、今まで働いていたところは、1日働いて、大銅貨3枚。拘束時間も長く、家に病人がいると生活が大変だったよう。

　今回の仕事で、家にいる人の方が稼げるので無理のない働き方ができる様になったそう。

　例えば、今まで、病気のおばあちゃんを見ていた子は、おばあちゃんがレース編みで女の子の日給より稼げるので、おばあちゃんが稼ぎ、女の子は家の家事をする事でお互いに負担が減ったそう。

　また、旦那さんを事故で亡くして、女手１つで子ども達を育てていた人は、家で子ども達を見ながら働けるので心にゆとりができたみたい。

　少ない賃金で働いていた人がレース編みで家で働く様になったので、人手が足りず、今まで低賃金だったところは、賃金を増やす様にした。低賃金で働いてくれる人がいなくなったからね。

　ただの理想だった。みんなが助け合いながら働ける社会。でも、１つ形にできた。

　問題はある。レース編みも競争になれば手間賃が下がるかもしれない。賃金を増やすことで、飲食店の値段が上がるかもしれない。

　でも、１つの理想を形にしたら、冬が近づいてきていた。

　アレンさんは、ケタイシ領にとっくに帰っている。私も帰ろう。自分の家に。