誰かが創り上げた楽園に今日もあやかる

ユミグ

文字の大きさ
上 下
3 / 6

【ジェイク】

しおりを挟む
「どうして!?私達は番なのよ!?」

「そんなもん俺には分からねぇし、うっとおしいんだよ!」



そんな音が日常に聞こえる生活だった

母親は熊獣人で、父親は人間だった

番だからと父を見つけた瞬間に母は愛の告白をした

父は番についてよく分かっていなかったが女からのアピールに浮かれて適当に返事をした

蜜月で俺が出来、生まれた

最初は幸せだったと父親が言っていた

けれど、獣人の執着を理解していなかった父はどんどんと嫌気を差して逃げては戻っての繰り返しだ

父が番のせいで不幸だと己の性格や行動を棚上げしている事も、母が番なのだからと相手を理解しようとせず間違った愛を注ぎ続ける行為にもうんざりしていた



13歳になった頃には警ら隊に入ってひたすらに体を鍛え上げた

雑音も嬌声も聞こえない日々に幸福を感じる度に己の血に怯えた

俺は人間ではなく獣人として生まれた、母親と同じ熊獣人だ

周りの獣人は皆一様に番に憧れ出会う為に探し見つけ囲っていった

警ら隊には希望すれば移動願いが届け出せる

竜人は飛んで探せるが、獣人はそうもいかない、そして相手を養う為には働き口が必要だ

だから移動届けを出し番探しが出来る警らの仕事が獣人には人気の職だと入って気付いた



せめて相手が同じ獣人だったら・・・竜人だったら・・・



なんて考えて移動届けを出してみようかと思うけど、母の声と父の嘆きがその度聞こえてきて一歩が踏み出せない日々



そして、その日がやってきた

なんて事はない、父が失踪したのだ

いつものように適当な女に声をかけ浮気をしても必ず母の元に帰ってきた父が失踪した

そうやって毎日毎日発狂しながら母が職場に訪ねてきては俺の心をすり減らしていく



限界だった

25歳にもなって親から逃げるなんてどうにかしているが、けれども限界だったのだ

だから、逃げた

希望を出して今行ける一番遠いところに願いを出した

職場の皆は喜んだ、母親から逃げる為だとしても俺にも番が見つかるかもしれないと



俺は怖かった、それ以上に疲れてしまった

そして20日かけて辿り着いた街は水の都ベイウィンティア

ここは獣人も竜人も人間もうまく共存している街だと噂があった



少なくとも人間は獣人や竜人の身体能力に怯え、愛する者を奪われないか怯えている

だから人間は人間のコミュニティが存在する



噂はアテにはしていなかった、けれど今まで居た街よりはマシだといいと祈った



着いた街は圧巻だった



水の都というのはその名の通りだ、至る所に水が流れどこに居ても感じる水の匂いと音、ゴイウェルの街は森が多く深く行けば川があるが海や水路などには馴染みがなく俺の目には神秘的にさえ見える

船に乗って移動している者も居れば大きな布に乗って移動している者も居る

活気に溢れた街並みに明るい顔の人達

そして笑い合っている人間と獣人が居た



つい匂いを嗅いでしまったけれど、あの2人は番ではなく他にパートナーが居るようだった

その2人を見つけたら周りも気になり出した

周りをよく観察していると獣人も人間もそして竜人までも気安く笑い純粋に会話を楽しんでいる

俺の居た街では見かけない光景だった

けれども、距離はどこか遠く、けれどその距離に不快感を感じず当たり前のように皆過ごしている



初めて見る光景ばかりで、どこか夢物語なのかと思った



街をぼーっと見ていたが、新しい職場に挨拶しに行かねばと思い立ち、道案内通りに進む



「ゴイウェルの街から移動してきたジェイクと申します、少し早いですが挨拶にきました」



賑やかな警らの入り口で声をかけた



「ああ!水の都ベイウィンティアにようこそ!私は部隊長をしてるトーマスで番が獣人なんだ、よろしく」



なんて声高らかに挨拶をしてきた目じりの皺が目立つ茶髪茶目の男だった



「よろしくお願いします」

「ああ、今日から宿舎を使うと聞いてるよ、ちょっと待ってね案内を呼ぶよ、ローワン!!!」



話が早くて助かるが、こんなに人と接して番は大丈夫なのだろうか・・・



「うぃーっす!なんすか隊長ー!」

「ローワン明後日から一緒に働くジェイク君だよ」

「おお!デカいっすね!熊っすか?俺は猫っす!よろしくっす!あ、一応副隊長っす!」

「あ、ああ、よろしくお願いします・・・その、お2人は・・・」

「番っす!らぶらぶっすよ!」



匂いで分かったが確認せずに居られなかった

相手が人間なら尚更囲って人目に出さないものだと思っていたしそれが当たり前の街に居た



「どこの街から来たっすか?」

「ゴイウェルです」

「ああ!今時珍しい排他的な街っすね」

「排他的・・・」

「こら、他の街を悪く言ってはいけないよ」

「あー、悪かったっす、けどあそこら辺から来る獣人はみんなびっくりするっすから!」

「いえ、お気になさらず・・・事実だと痛感してます」

「ゆっくり慣れていけばいいからね」

「んじゃ、ちょっくら案内してきますー!」

「頼んだよ」



ローワンはよほどトーマスを信用しているのか、周りを信頼しているのか軽々しく離れていく

宿舎と警らまでは20分程で上下に分かれているこの街の下の方にあるみたいだ

その間も街案内や、安くて旨い店、便利な道や、窃盗がおきやすい道なども教えてくれる



「ここっすよ!」



着いた先は1つ1つのが細長く二階立ての同じような家が立ち並んでいる場所だった



「この家を使うといいっすよ!」



渡された鍵と一緒に室内の案内をされる、思った以上に広く数人で生活するのかと聞けば



「1人用っすよー!番が見つかって一緒に住む用に作られてるんすよー、それにあんまり住居者が居ないんす、この街で家を建てたり、番が居ないと分かるとすぐ移動届け出す奴らばっかっすからー!ちなみに俺もその1人で、今は隊長と住んでるっす!」



と色々な情報を言われた気がしたが、長く住むならとても快適で俺はどうせ1人だからと家を満喫しようと思った



「他に聞きたい事あるっすかー?」

「・・・いや、大丈夫です、明後日からよろしくお願いします」

「了解っすー!あ!万が一番が見つかったら番休暇は遠慮なく出していいっすからねー!」



なんて言いながら家から出て行った

聞きたい事はあった、なぜそんなにも寛容でいられるのか、この街が普通で俺の居たゴイウェルの街がおかしいのか色々聞いてみたかったが、仕事中のローワンを問いただす訳にもいかず不完全燃焼で終わった



荷物は3日後に届く為、とりあえずの日用品を買って今日は移動続きだった旅の疲れを取って、明日また観光でもしようと思った





次の日は朝食時に起きた為、昨日気になっていた屋台に寄る

主な食はゴイウェルの街と変わらず、他の街の料理も色々あるが基本は同じで安心した

この街は10日あってようやく一周出来ると感じる程に大きい

観光しつつも1日も早く仕事に慣れる為に歩き回る、その時に煙草の匂いがした

その先に番が居ると思った

何か思う事なんてなかった、一刻も早く会わなければ、囲って閉じ込めて腕の中に包まなければと

それだけを思った

煙草の匂いを追っても番に辿りつかない

煙草を追って、その先にもまた煙草・・・どうやら箱に流れ着いてきたらしい

煙草を持っている人間に聞けば下の方でやっている煙草屋だと、そして人間だと言われた

その時初めて己の考えに気付き絶望し渇望した



会わなければいい

俺が行かなければ、見に行かなければいい、すぐにこの街から去ればいい

そうやって思っているのに、どんどんどんどん歩みを進めて行く

そしてまたふんわりと煙草の匂いがして、そして番の匂いがした

強烈だった、抗うなんて無理だ、俺の物だ・・・けれど相手は人間だ・・・・・

もう心の中はごちゃごちゃだった、どうしたらいいか分からなかった

けれど、もっと近くに居たかった



番を目の前にした、店の前に立ち尽くした、番の匂いに溺れる、どうしたら・・・



番が何かを言い放った、けれど番の匂いでくらくらして聞き逃してしまった



そうして匂いに溺れていたら番が立ち上がり外に出ようとする





駄目だ、誰と会う、俺のだ、愛してる





一瞬で色んな事を思って番を掴んだ



そして、家の中に勝手に入り番を押し倒していたんだ



・・・・・やってしまった・・・・・



今すぐ組み敷きたい思いと、やってしまった事への後悔と、母と父の事を思い出す



「いきなり襲っちゃいけませんて習わなかったか?」



なんて言われて、ぼやけた頭で思う

“これ以上番の言葉を聞き逃してはいけない”



そしてきちんと初めて認識し、目で見た気がする



俺の番を



まず男だったのが衝撃だ

なんでか女相手だと勝手に妄想を抱いていた

けれど、そんな些細な事はすぐに消え去った

よく見ると俺の半分くらいの顔に碧眼がキラキラと輝いている、その眼には怯えはないがどこか期待を込められている気もする

さらさらと流れる金髪は顔を埋めてしまいたいくらいに美しい



まずい・・・・・俺の番は美人だ



番は人の目を引かなければ引かない程良い、けれど俺の番は欲目なしにしても美人だ、美人すぎる

俺の膝に少し当たっている太ももに興奮した



その後、退けだの邪魔だの言われてそんな事冗談でも言わないで欲しいと思わず抱きしめた

けどこれ以上嫌われたくなくてのそのそと退く



そこから先は想定外だ

番だと告げたら“そうかよ”と言われただけでなにも言わない

襲い掛かった相手になにも言わなければ突き出そうともしない

さっき居た場所に番が戻れば気になって俺も着いていく



おもむろにチェスを取り出し指していく

その指先に見惚れていると人間が近寄る気配がした

威嚇をしてしまいそうな自分を抑え、けれど今居る場所から退く事も出来ない



普段は1人でやっている店に俺が居るからかそれとも獣人が居るからか驚く客に



『俺の番だ』



と言ってくれた時は足元から崩れ落ちそうな程嬉しかった



相手は驚くかと思えば、その一言で納得して、煙草を買って帰る

そんな事が続けば流石に俺もおかしいと気づく

番を見つけた喜びの中でも困惑する

“なぜそんなにも普通なんだ”と

そして、話がありそうな人間達も番だと気づけば嫌な顔をせずむしろ“おめでとう”と番に言っている者さえいる・・・



番は確実に人間なのに、何故おめでとうなんだ・・・



異様な歓迎ムードに考えすぎていたのか、昼過ぎに来たのにもう夜だ

番が食事を買いに出るというので着いて行くが何も言われない、むしろ当たり前のような行動に困惑する

すれ違う人間達も番を見ると少し避けて歩く

それに、傷つくこともなくむしろ楽しそうな雰囲気さえ感じる・・・



“帰らないなら飯を買え”と言われ食事を買って俺も番の家に帰・る・

今の状況に困惑してるのは俺の方だ、むしろ俺だけだ

番は鼻歌を唄いだしそうなくらい楽し気な雰囲気をずっと出している

不審者にしかならない、またはこれから監禁するかもしれない相手を『追い出さないのか?』と思わず問えば、『追い出したら出て行くのかよ』と言われ黙った



番は風呂に入る習慣があるらしく風呂に入って行った

そこでようやく俺は番に会って初めて息を吐いた気がした

目の前の食事を口にしながら、今すぐにでも襲いたい衝動をごまかしつつ現状を整理・・・・・出来ない

だって俺の理解を超えてる・・・



結局解決策が思い浮かばず、番が風呂から上がってきた

そういえば、名前を聞いていない



少しだけ話をしておとぎ話を渡される



『俺の家はここだ、煙草屋を辞めるつもりはない。部屋は空いてる好きに使えばいい』







そこで思考が停止した

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

司祭様!掘らせてください!!

ミクリ21
BL
司祭が信者に掘られる話。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

好きな人に迷惑をかけないために、店で初体験を終えた

和泉奏
BL
これで、きっと全部うまくいくはずなんだ。そうだろ?

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

つまりは相思相愛

nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。 限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。 とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。 最初からR表現です、ご注意ください。

処理中です...