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しおりを挟むピンポンと音が鳴って起きた
彼も気付いたようなのでまた裸なのはもう気にしないで服を着て玄関先に向かう
「誰ー?」
「お客様ですから静かにしておいて下さい」
「はあーい」
着いてくるなとは言いません
時間がないですから
「はい、遅くなりました」
「物は」
「お名前を伺っても」
「ブレナス伯爵だ!」
「少々お待ち下さい」
「ふんっ!」
「…」
仕事部屋に戻って昨日仕上げた物を持っていく
「おまたせしました!」
手から取り上げられると確認される
「これでほんとにまじないが効いてるのか」
「はい、悪を払うまじないを込めて」
「こんなインチキ誰が」
「ねぇ」
彼が口を挟むからさすがに焦った
「静かにと」
「ねぇ、なにがインチキなの?」
「こんなもんインチキでしかないだろう!」
「見えないの?それちゃんとまじないがかかってるじゃん」
「なんだお前、グルになって金でも毟り取ろうと!」
「リュシーこれいくら?」
「え?」
「いくら?」
「10万ですけど」
「それ僕が買い取るよ」
「この骨董品はそんなケチな値段じゃない!」
「いくら?」
「300は」
「じゃぁ、400で買い取るからちょーだい」
「は?」
「リュシーの作った物そんな風に扱う人にあげたくない」
「はっ!お前のようなもんが払えるのか」
「はい」
ぽんと硬貨が入っているであろう袋を渡す
「は?」
「ばいばい」
扉をバタンと閉めて私を担ぎ上げる
キッチンの椅子に座らせたと思ったら食事を作り出した
「あの」
「僕の国に来て」
「ですから」
「こんな扱いなんておかしいよ、まじないだって凄い物だったのにあんな事言われるなんて僕嫌だ」
そうは言われてもまじないとはインチキに見えるのは事実だから仕方がないんだけど
「リュシーは家の事に一切魔力を使わないでみんなの為にまじないを一生懸命込めてるのにこんな扱い駄目、僕怒った」
さっきのお客さんのような人は多い
やっぱり払いたくないと言われる事もあるからいいんだけど
「お金凄いかかりましたよね、弁償しますから待っててく」
「そういう事じゃない!僕リュシーが頑張ってるの知ってるのに!どうしてリュシーは悔しくないの!お金なんてどうでもいいよ!リュシーの頑張りが無駄になるようなっ…」
ホロホロと金の瞳から涙が出てきたのは流石に焦った
そこまで私の為に思わなくともいいのに
「すみません、慣れていたので」
「ぐすっ、こんなの慣れちゃ駄目」
「はい」
「僕と帰ろう?」
「でもまだ仕事が」
「僕がどうにかするから」
「どうにかって」
「いいからっ、リュシーはちゃんと食べてよく寝なきゃ駄目っひっく!」
「わ、分かりましたから泣き止んで下さい」
「ぎゅぅして」
「は、はい」
椅子から立ち上がってキッチンに入ると腕を取られて抱きしめられる
これじゃ、どっちが抱きしめてるのか分からない
「リュシー」
「はい」
「帰ろう」
私は彼の事を知らないけど、好きでもないと思うけど彼の涙には弱いみたい
「はい」
「嘘ついちゃ駄目」
「はい」
「敬語も駄目」
「分かった」
「僕のお嫁さんになってくれる?」
「…」
「お嫁さんっ、ひっく」
「わ、分かりましたから泣かないで下さい」
「本当!?」
好きかなんて分からない
たった数日、少し一緒に居ただけだ
だけどやっぱり彼の涙には弱い
「なんでもいいですから泣き止んで下さい」
「なんでもじゃないもんお嫁さんだもん」
「分かりましたから」
「リュシー大好き!」
嘘泣きなんじゃないかと疑ってしまうほど晴れやかな笑顔に少し騙されたと思わなくもない
朝食を食べて顧客リストを渡していく
秘密保持契約にもサインしてもらって
寂しいけど行ってくるね
と、言われて家の事をしながら待っていたら数十人くらいの獣人を引き連れて戻ってきた
「リュシーただいま!」
「お、かえりなさい、どちら様でしょう?」
「僕の護衛だよ!ね、持って行く物ある?」
「仕事道具を」
「ちゃんと1つずつ丁寧に扱うから任せてくれる?」
「それはいいんだけどお客さんたちは」
「大丈夫!ちゃんと説得してきたし回収もしてきたから」
「…うん?」
護衛?の方達が部屋に入って仕事部屋に入ろうとする
「殿下、守りが強くて我々では」
もうすでに待って欲しい
「そうだったリュシー開けて」
「開けるけど殿下ってなに?」
「王子様!」
でしょうね
とりあえず扉を開けて護衛の人達を居れる
家に思い入れはあるかと聞かれたから両親と住んでた家では住み続けられなかったから借りてるだけで思い入れはないと伝えたら全ての契約を解約してくれた
服を数着だけ持って、食材は近隣の人達に分けて噂には聞く到底払えない額の金額を出して使える転送門の前に立たされて私は今こそ気絶したかった
「ここから?」
「僕の国はすぐだからね!」
僕の国とは本当に僕の国らしい
「王子様って言っても上に7人下に9人居るから大した事ないよ」
双子や三つ子も多いらしく全員親も一緒だと言われた
“お嫁さん”は早まったかもしれないと門をくぐって思った
「まあ!やっとね、見つけられたのね!おめでとう!新しい娘が出来たわ!ふふ」
どうやらお母様似なようだ
「はじめまして」
「駄目」
口を塞がられて挨拶を遮断された
「まだ説明してないのね、それじゃぁ今度お茶しましょう」
ひらひらとどこかへ行った彼のお母様は彼のお母様だった
「僕以外と喋っちゃやだ」
「そうは言われても」
「当分の間だけ、ね?」
なんだか彼が現れてから目まぐるしくし息苦しい時もあるし未だに筋肉痛だ
だけど彼の言う事に最初から嫌悪感もないのだからいい
それどころか引っ張られて強引に何処かへと連れて行かれるのはあちこちにまじないをかけているようで楽しい
転送門から彼が歩いて1時間の場所にある家に着いた
私は抱きかかえられていたし、乗り物は竜がいるみたいだけど竜に乗るのも嫌なんだとか
分からない事だらけなのに不快感はない
「ご飯食べよー」
「私も」
「切ったりしてくれる?」
「うん」
まずは腹ごしらえらしい
大家族が住むような立派な一軒家に2人きり
「ここには1人で住んでるの?」
「リュシーと一緒」
相変わらず会話が出来ない
「僕がお嫁さんと住む家だよ、だからリュシーと一緒」
「私魔力は」
「大丈夫、僕が居るし魔力を必要としないのも運び入れるから」
「お金が」
「それなんだけどね、リュシーまじないが好きなんでしょう?」
「うん」
「働けるところも見つけたよ」
半日居ないだけで一体どれほどの事を済ませたんだろう
「今日は疲れたでしょ、ご飯食べてお風呂浸かってゆっくり寝てしばらくおやすみする事!」
「ふふ、はい」
「リュシーが笑った!ちゅ、可愛いっ」
「危ないよ」
「はあい」
ご飯を食べてお風呂に浸かって昼過ぎまで寝てた私にご飯を作って起こしてくれた
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