絶対飼い主居るじゃん

ユミグ

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すーすーと心地の良い寝息が聞こえるのは私からじゃない
横にいる獣人からだ、横というか私の頭を抱えて頭に口をつけるような体勢で寝られている
かれこれ30分は格闘した
起き上がるにも足が片方人質に取られているし尻尾だって巻き付かれてる
腕は苦しくないようにしてくれているのか顔周りは苦しくないけど他は苦しい、苦しいというより暑苦しい

どうしてお互い裸なのか聞きたいような聞きたくないような複雑な気持ちのままかれこれ30分
とりあえず仕事をしたいのに抜け出せない

どうしてこの人はまだここに居るのか
私はなにをされても嫌じゃないのかも分からない

分からないけど、仕事したい…

「あの…」
「ふふ」

寝てるはずの彼から笑い声がした

「起きてたんですか…」
「どうするのかなって、ふふ」

なにを観察されてたのか分からないけど、起きてるなら起きてるって言って欲しい

「おはようございます」
「ちゅ、おはよう」
「………仕事したいので離して下さい」
「えー」
「えー、じゃないです」
「えー」
「とにかく離れて下さい」
「むー」
「………好きにしてていいですから仕事させて下さい」
「わーい!」

どうして寝起きに疲れるんだろう

起き上がるにも服を着たいのでどこかへ行ってもらう

「服を着るので何処かへ」
「僕が着せる」
「…出て行って下さい」
「ぶー」
「お願いですから」
「分かったぁ、ちゅ、」

裸のまま歩かないで下さい

はぁ、と起き上がって適当に服を着る
裏手から水を取りに行こうとして声がかかった

「洗面所にお水置いておいたよー!」
「はぁ、ありがとうございます」
「ご飯食べるでしょー?」
「いえ、結構です」
「美味しく作るねー!」
「…」

洗面所にスタスタ歩いて顔を洗って歯を磨くといい匂いがしてきたから本当に作ってるのかと思う

「ありがとうございます、手伝います」
「リュシー!おはよう!ちゅ、ちゅ、ね?ポーチドエッグ好き?」
「普通です」
「サラダお願いしてもいい?」
「はい」

どうしてかキッチンに並んで料理を作るけどここが彼のキッチンで私がお邪魔してるのかと勘違いしてくるような手際の良さである

お皿の場所もトングの場所も理解してるのか迷う事なく出していく

「リュシー仕事たくさん?」
「そこまで仕事は詰まってませんけどそれなりには」
「なにしてるのー?」
「細工にまじないをかけてます」
「えっ!?凄い!」
「そうでもありませんよ」
「物に魔力を込めれる人なんて滅多に居ないよ」
「まじない程度です」
「それでも凄い!僕の国に来ない?」

一体なんの勧誘なんだろうか
というか彼の国はどこなの

「どこの国ですか?」
「ハレーンスレー」
「2つ先の国ですか」
「うん」
「砂漠の国ですね」
「うん」
「遠慮しておきます」
「えー!僕と一緒に帰ろうよー!」

どうして勧誘から帰るになるんだろうか
出来上がった朝食を机に置くけど椅子は1つしかない

「僕の膝においで?」
「立って食べるのでお気になさらず」
「えー!じゃぁ、僕も立つ」

どうしたらいいのだろう
会話を繋げても会話にならない気がする

気にせず立ちながら食べるけど昨日と同じで彼の作る料理は美味しい

「美味しいですね」
「ありがとう!リュシーのサラダも美味しいよ」

ちぎっただけです

昨日も思ったんだけど彼の作る料理は多い
何度かそんなに食べられませんと伝えても残ったら僕が食べると言われてしまえばなんとも言えない

「どこか宿に泊まってるのでは?」
「大丈夫!リュシーと居られるよ」

正しく答えが返ってくる時が少ない

「もう食べられません」
「え」
「だから言っていますけど」
「どこか悪いの?」

そんなにしょげなくても

「悪くないです、引きこもりなのでそこまで食べないだけです」
「もう一口食べる?」
「無理です」
「分かった」

納得したのかは分からないけど台所の水が少なったので洗い物の前に汲んでこよう

「どこ行くの?」
「水を汲みに」
「僕がやるよ!」
「いえ、気にせず座って食べていて下さい」

あまり構っても彼との会話が長引くだけだと思い水を汲んでキッチンに持っていく
まだ食べていたので洗濯と軽く掃除を終わらせてキッチンに向かう

「洗い物、してくれたんですか」
「おかえり!」

おかえりの距離ではない

「ありがとうございます」
「いいえー、どこ行くの?」

くるっと踵を返すと後ろから声をかけられた

「仕事です」
「むー、寂しいけど待ってるね」

どうして待つんでしょう

仕事部屋に入って依頼途中の物を作っていく
今回は私が作る物ではなく骨董品に入れ込むという作業なので殊更慎重になる

私が作れば製作過程に魔力を込めて作り上げていく事が出来るから持ち込みよりは楽
私は細工ならなんでも手にするけど特別いい出来でもないからこうした依頼も多い

依頼者は家に悪が入ってこないようにとまじないをかけて欲しいと言われたのでそのように込めるけど、私のまじないは気休め程度だ

願掛けのような物だけど、それでもと縋る人達へと一つ一つ作り上げている

何度か立ち上がったり水を飲んだりして作業を進めていく途中で

「リュシー?」

危ない、あと少しで駄目にするところだった

扉を開けて用を聞く

「どうしました?」
「もう寝る時間だよー?」

どうやら1日中作っていたらしい

「すみません、不便はありませんでしたか?」
「ないよ」
「でしたら私はまだ残ってるので先に眠っていて下さい」
「えー」
「それと声をかけられるとまじないが消失してしまうかもしれないので遠慮して頂けますか?」
「………分かった」
「おやすみなさい」
「…おやすみリュシー」

扉を閉めて作業に戻る

「はぁー…」

戻る手が何度も止まる
彼の悲しそうな顔と声が頭に残ってるけどこのまま進めよう

意識を戻して作業を進めて完成したのは朝方だった

お風呂に浸かろうと扉を開けるとブランケットを羽織ってすーすー寝てる彼は甲斐甲斐しい

「こんなところで寝ては風邪を引きますよ」
「ううーん、リュシー?」
「はい、ベッドに行ってください風邪を引きます」
「んー、リュシーは?」
「私はお風呂に」
「一緒に入ろ?」

今まで眠かったんじゃないんですかと尋ねたいくらい目がぱちくりですね

「とりあえず疲れたので好きにして下さい」
「ありがとう!」
「きゃぁっ!も、持ち上げないで下さい!」
「好きにしていいって言われたよー?」

揚げ足を取られた気分だ

お風呂にはすでに湯が張ってあり湯気も立っている

「魔法でしておいたよー?」
「ありがとうございます」

やっぱり余力があるのはいいですね

「服を脱ぐので」
「あのねリュシー」
「はい」
「リュシー疲れてるでしょ?」
「そうですね」
「色々と言いたい事もあるんだろうけど僕に任せて!大丈夫リュシーのお世話する為に僕たくさん勉強したんだよ」

むしろ言いたい事が分かりませんとツッコミたいところですが本当に眠すぎてお願いしました

「ふふ、ばんざーい」
「あふ…」
「ふふ、寝てていいよー」

どうして男の人に服を脱がされて寝る事が出来るんでしょう…
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