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稲なのか、雑草なのか、それが問題だ。

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初夏、父が畑から引っこ抜いた雑草を指してこう言った。
「これ稲だぞ。籾殻撒いたらあちこちから生えてきた。」
確かに、籾殻の中には脱穀しきれずに中身が残ったままのものがある。しかし、生えすぎじゃね?と思い、どうしても納得できなかった、ので、
「じゃあ、育ててみっぺ。ホントかどうかやってみよう。」
育て方を軽く調べる。水持ちのいい土ならなんでもいいらしいのでプランターで使用済みの土を再利用。入れ物、容器は何にしようか・・・。雑草かもしれないものにバケツを使うのは抵抗がある。あー・・・いいのあった。ハチミツ1kgの容器を切って使えば丁度よさそう。引っこ抜かれたそれが若干しおれてきているのでさっさと行う。まず、引っこ抜かれたそれを水に浸す。植えるまでの時間稼ぎだ。ハチミツの容器をカット、土と化成肥料をよく混ぜてそれにいれ水をかけて湿らせる。穴を開けて引っこ抜かれたそれを植え、さらに水を注いで水深2cm程度にした。7本程度植えたと思う。
どこにも書いてなかった(見つけられなかった?)が実際の田んぼとバケツ稲では土の温度が違うと考えた。田んぼだったら10cmの深さの温度は冷たく感じると思う。だけどバケツ稲は容器の側面が日に当たるため温められてしまう。なので日差しを遮る方法を考えた。結果、素焼きの鉢にハチミツ容器を入れ、鉢を水受けに浸す。鉢と容器の隙間はダンボールを切って板状の輪っかを作り遮光する。これがよかったのか、それは順調に育った。順調に行き過ぎて根詰まりを起こしてしまった。並々に注いだ水が1日でなくなるし、葉の色が薄くなった。調べてみたら肥料が足りないとそうなるとのこと。これはハチミツ容器の限界だと悟った。次の容器を探して物置をウロウロすること1時間。これは!というものをようやく見つけた。ホコリまみれだし、蜘蛛の糸も特盛だし、多分これ、30年は余裕で経ってると思う。見つけたのはプラスチック製の味噌樽。バケツより大きく頑丈。味噌は重いからね。さて、次は土だ。あまりにも大きな容器になるので土が足りない。丁度そんなときに父が花壇の土の入れ替えをしていた。土に何かを入れるならまず減らさないといけないから一輪車に山盛りになってた。これだ!と無許可で頂く。乾いた部分を集めて化成肥料を混ぜて味噌樽に入れようとして、あ!っとなった。このままだと酸性値が高いはずなので中和させないといけない。ハチミツ容器のときは後から気づいたが今回は忘れずに貝殻石灰を混ぜる。それらを味噌樽に入れ水で湿らせ穴を空ける。ハチミツ容器から取り出してみたら、根がすごいことになってた。土どこいった?と思うほどの根詰まり。そういえば、水を張っておく高さの余裕が減っていた気がする。穴に収めて土と馴染ませて水を注いで水深3cm程度にしておく。翌日には葉の色が濃くなり土が合わないということは無かった。そしてどんどん成長していくのだが、おかしい。おかしいんだ。
稲は真っ直ぐ天に向かって伸びる。が、これは株元から開くように放射状に育つ。葉が硬く、肌を切りそうな葉の縁、はっきりと葉の付け根がわかる。この時点で父もこれ稲じゃない、と確信しながらも、雑草ならもうすでに種ができてるはず、ずっと水没してて根腐れを起こさないのはおかしいと言うと、確かにそうだ、と理解は示してくれた。が、これ以降、なんちゃって稲とか雑種稲などと呼ぶことになった。ほんとに何を育てているのかわからなくなっているが、一応、中干しを行う。いい感じで乾いて味噌樽と土の間に隙間ができたし、それがヘタってきたので水を張る。その時、出穂していることに気づいて、あー・・・、ってなった。
稲穂じゃない。父は稗(ひえ)か粟(あわ)じゃないかと言った。少なくとも雑草の穂とは全く違う。強いて例えるなら麦が近いと思う。
まだだ!まだ終わらんよ!!
出穂したのは一つだけ。他の株がどうなるかはまだわからない。だが望みはある。中心付近に葉の質感や生え方が稲に非常ににている株があるのだ。
果たしてこの味噌樽に稲はあるのか!?
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