一宮君と幽霊ちゃん

へたまろ

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しんぱいしょう

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 うーん、辛いなー。
 なれない環境のせいか、まさかの発熱。
 完全に風邪だなこれ。

 さっきから、視界の端っこをチラチラしてる幽霊も気になるし。
 
 なんか、オタオタしてる。

 水道が勝手に開いたり閉じたりして、水が定期的に。
 
 うん、ホラーだ。

 本人は、どうにかして濡れ布巾を用意したいみたいだけど。

 寝てたら治ると思うし、動きたくないんだけど……

 仕方なく台所にいって、布巾を自分で濡らす。
 そして頭に乗せて、再度横に。

 あからさまに、しょんぼりしてるところ悪いけど。
 できれば、今日くらいはおとなしくしててほしい。

 ため息。

「こっちにおいで」

 ちょっと離れたところにポツンと座って、しょぼくれてる幽霊ちゃんに手招き。

「それは、私のセリフ」

 やめろ。
 シャレにならん。
 風邪で死にたくない。
 
 けど、ちょっと嬉しそうな表情でこっちに滑るように移動してくる幽霊ちゃんに、ほっこり。
 
 少しだけ周囲の気温が下がったような気がする。
 幽霊効果かな?

「辛いの?」

「苦しいの?」
 
「寂しいの?」

 いつもの恨み言が、今日は疑問形。

「辛いし苦しいけど、寂しくはないかな?」
「?」

 キョトンとされてもね。

「君がいるから」
「!」

 キャーキャー言いながら、めっちゃ叩かれた。
 痛くないし、衝撃も無いけど。
 なんか、変な感覚。

「そっか……」

「そっか、そっか……」

 何か嬉しそうなところ申し訳ないんだけど。
 そろそろ、本気で寝たい。

 ごめんね。

「うぅ……」

 ?

「うぅ……」

 苦しそうなうめき声に目を覚ます。
 すぐ横で、幽霊ちゃんが辛そうな表情でこっちを心配そうに見てた。
 
 心配させすぎたかな。
 触れないけど、頭を撫でるように。
 一瞬痛そうな表情のあと、驚いた表情。
 それから笑みを浮かべてくれた。

 痛そうな表情?
 なんでかな?

 それでも一晩中、ずっとそばにいてくれた。
 夜中に何度も目が覚めたけど、目が合うたびに微笑みかけてくれた。

 すげー、破壊力。

 やべ、好きかも……

 後日、テレビ見てて幽霊ちゃんが触れたときに辛そうだった原因が分かった。
 盛り塩の話が出てて、塩とか苦手なのって本人に直接聞いてみた。
 苦手らしい。

 そっか……汗って塩分含まれてたよね?

 塩の浄化効果……

 えっ?
 
 いや、確かに寝汗かいてたけど。
 その程度の塩分で?

 そんな辛い状況で、ずっとひっついてくれてたのか……
 そっか、そっか。
 幽霊ちゃんも辛かったはずなのに。

 ……やばい、好き!

 でも、あの時たしか夜中にトイレから戻ってきたときに……

「うーん、次郎君の匂い」

 って、布団に顔うずめてたような……
 顔から、ちょっと湯気出しながら。

 何も聞いてないし見てないことにして、一度扉を閉じて。
 大きな音を立てながら、部屋に入り直したけど。
 ……匂い分かるのかな?
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