一宮君と幽霊ちゃん

へたまろ

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ふつつかものですが

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「はっ? いや、大丈夫だって……うん、うん、……ごめん。えっ? うん……分かった、じゃあ駅まで迎えにいくわ」

 はあ……
 テーブルにスマホを放り投げて、ソファにダイブ。

 せっかく一人暮らし調子に乗ってきたのに。
 心配性の母さんが、早速来襲とか。

 早すぎない?
 まだ、実家出て一週間なんだけど。

 部屋をみる。
 まあ、いっか。

 そんなに散らかってないし、とくに叱られるような心当たり無いし。

 一週間電話もメールもしなかったことは、怒られたけど。

「ここ、俺の部屋。あがって」
「あらっ、良い部屋じゃない」
「うん、ありがとう。飲み物アイスコーヒーでいい?」
「ふふ、お客さんみたいね」
「いらっしゃいとでも言っとこうか?」

 母さんが何か言ってるけど、ここは俺の城だからな。
 いかにお袋といえども、今日はお客さん扱いだ。
 そして、早々に退散してもらおう。
 取り合えず氷を入れたコップに、ペットのアイスコーヒー。
 微糖だから、ガムシロップと牛乳を出しとこう。

「今日は泊まってっちゃおっかな?」
「えっ?」
「なによ、嫌なの?」

 母さんが面倒なことを言い出した。 
 いやいや、帰れよ。
 お客さんようの布団とかないし。
 それに……

「ここ、夜になると出るんだよ」
「何が出るのよ」
「これっ」

 そう言って、手をダランと下げてお化けのポーズ。

「馬鹿言ってるんじゃないよ、いい歳して」
「本当だって、若い女の子の霊がさ」
「まあ! 母さん聞いてないわよ」
「えっ?」
「あんた、彼女いるの?」
「違うって、幽霊の話がなんで彼女の話になるんだよ」
「まあ、いいわ。だったら、余計に会っていかないと。あんた、おっちょこちょいだから、その幽霊ちゃんにお願いしとかないとね」

 こういう人だった。
 まず、幽霊とか超常現象を全く信じてない。

 そして一度決めたら、絶対に意見を曲げない。
 特に反対されると、意地でも押し通そうとする。
 いや、そこは折れて。
 普通に面倒だから。

 一週間会わなくて、連絡しなかったからって……いや。
 これは、違うな。
 ここまであからさまに帰りたがらないのも、なんか怪しい。

「また父さんと、喧嘩でもした?」
「そうなのよ! 聞いてよ」

 そういうことらしい。
 親父にメールして、明日は無理矢理にでも回収してもらおう。
 昼からバイトだし。

 ため息が出るのをグッと堪える。
 諦めたんなら快く受けて、気持ちよく帰ってもらったほうが建設的か。

「仕方ないなあ。飯はどうする? 俺、作ろうか?」
「外にいきましょう。お金ならいっぱいあるから」
「呆れた。親父のだろ?」
「今日はお弁当も買えずに、困ったんじゃないかな?」

 母さんがケラケラと笑っているが、酷い。
 一生懸命家族のために働いてるのに、唯一の楽しみの昼食抜きとか。

 案の定、親父の財布の中身を全部抜きとってきたらしい。
 いつもは札だけだけど、今回は小銭も全部。

 まあ、封筒に1000円と恨み言をかいた手紙を入れて、鞄につっ込んではいたみたいだけど。
 なんだかんだで、ラブラブ。

 そして今日のうちに、父さんが迎えにきてくれた。
 わりと今回のやらかしは、父さんも思うところがあったらしい。
 家に入るなり俺をスルーして、母さんの前で土下座してた。 

 それから家族そろって、外食。
 父さんの財布から母さんが抜き取った金で。
 分厚いステーキは美味しかったとだけいっておこう。

その日の夜

「辛いよー」

 ん?
 いつもと、出だしが違う。

「いきなりお義母さんに挨拶は、ハードル高いよー」

 はっ?

「それは、流石に辛いよー」

 何を言ってるんだろう、この子は。

「でも、宜しくされちゃった」

 なんで、嬉しそうなんだろう。
 
「ふつつかものですが、次郎君のことはお任せくださいってこっそり言ってみた」

 なんか、嫁みたいなこと言い出した。
 てか、名前。

「郵便物とか、あと学校の教材とか、スマホとか……」

 やめて。
 勝手にみないで。

「次郎君はお母さん似かぁ」

 うるさい。
 寝ろ。
 寝るのは俺か。
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