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第3章:ジュブナイルとチョコのダンジョン攻略
第14話:第11階層~30階層まで超速ダイジェスト
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「くそっ! カナタ手伝え!」
「やだ!」
「ジュブナイルさん、手を休めないでくださーい!」
マウンテンベアの爪が、俺の身体を掠める。
金属製のライトアーマーが、火花を散らしているのを見て思わず背筋が寒くなった。
あぶねー!
こんなん直撃喰らったら……
「あっ、おじちゃんしゃがんで」
「くそっ!」
カナタの声を聞いて慌ててその場にしゃがむと、オーガの持つ棍棒が頭の上を通り過ぎる。
髪の毛が抜けるかと思うような風圧だ。
「いやあ、大変大変! チョコはメイスを思いっきり前に振り下ろして」
「はいっ!」
チョコのメイスが、マウンテンベアの肩口に思いっきり突き刺さる。
「おじちゃんは、右後方に突き!」
「ちっ!」
自分で確認するまでもなく、カナタの言う方向に突きを繰り出すと柔らかな何かを突き刺す感触。
それから振り返ると、マウンテンベアの太ももに剣が突き刺さっている。
すぐに抜いて、そのまま逆袈裟に切り上げたあと、首を狙って剣を横になぐ。
「いやあ、おじちゃんは1つの指示で、次の次の行動までとってくれるから楽だね。チョコはおじちゃんにヒールを!」
「えっ? ぐわっ!」
「ヒール!」
思いっきり背中にオーガのこん棒がヒットしたが、すぐに暖かな光に包まれて痛みが引く。
こん棒を振り下ろした姿勢のオーガの首に剣を突き立てるが、硬い!
すぐに剣を抜いて、回転しつつ反対側から斬りつける。
首から大量の血を流しながら、オーガが倒れ込む。
これで、とりあえず全て片付いたか……
「だあっ! はあ、はあ……」
気が抜けたせいで、そのままその場に倒れるように座りこむ。
横では、チョコも座り込んで肩で息をしている。
ああ、生きててよかった……
「もうへばったの? 仕方ないなー」
「おいっ! やめろ!」
「もう、いやだー!」
そんな俺達に、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら近づいてきたカナタが、黄色いポーションを振りかける。
体力回復の効果を持つポーションだ。
筋疲労込みで、あらゆる疲労状態を回復するポーションとかって言ってたな。
ああ……体にたまった疲労が、消えてなくなるのを感じる。
最初は疲れが一気に取れて、身体も頭もスッキリしたから心地よかったが……今はなんというか、スッキリしつつもげんなりとした気分になる。
「これで、まだ戦えるね?」
こいつのせいで……
無邪気に、そんなことをのたまうカナタを睨みつける。
相変わらずニコニコとした笑みしか、返ってこない。
こいつは、人の機微が分からないのか?
「おまっ……本当に、全然戦わねーんだな!」
「そうですよ! いっつも、私達にばっかり戦わせて」
そしていま居るのは30階層。
ここまで、カナタが倒した魔物は0匹。
そう……本当に、カナタは魔物と一切戦わない。
意思が固いこって、立派なもんだ。
初志貫徹を貫き通せるなんざ、将来優秀だな。
「いやあ、照れるね」
「皮肉だ! あと、心を読むな!」
俺とチョコは、全身を赤く染め上げるほどの魔物を倒して来たってのに。
後ろ頭をかいて、おどけた様子を見せるカナタにイラっとする。
色々とこいつに、言いたいことはある。
おかしいと感じていることも多い。
でも、もはや余計な事を言う元気すらない。
15階層から俺の戦闘が解禁されたのだが、基本的にチョコのうち漏らしを相手する程度だった。
20階層からはカナタが俺達に指示をして、二人で魔物を討伐するといった状況。
「あー、いっぱい指示だして疲れたよ。喉もからからだし」
「じゃあ、自分でさっきのポーション飲めばいいだろうが!」
「やだよ、不味いし」
そう言って、普通に何もない所から水筒を出してゴクゴクと飲み始めるカナタ。
とうとう、カバンから出すという誤魔化しすらしなくなった。
もうね……スキルなの? それ、スキルなのか?
意味がわかんねーよ、こいつ!
「あのですね……体力や、魔力が回復しても心って回復しないんですよ?」
「そりゃそうだろうね、心の疲労なんて思い込みだし」
チョコの悲痛な叫びすら、こうやって茶化してくる。
正真正銘、人の気持ちが分からない奴だ。
イースタンだからか?
それとも、こいつはそういう病気なのか?
「お前は、本当に人か!」
「ハハハ……違うと言ったら?」
「えっ?」
急に真顔で……
思わず、ごくりと唾を飲み込む。
少しの沈黙が、やけに長く感じる。
こいつ……何者だ?
「冗談!」
と思ったら、ニヘラと笑って両手の平を上に向けて首を振りやがった。
人を小ばかにしたポーズだが、さっき感じた圧はとても人が放てるものでも、ましてや子供が放てるものでは絶対ない。
マジで、こいつ何者だ?
「冗談だから、笑ってよ」
「……」
笑えないから。
今までの行動を見てたら、魔族って言われても信じそうだ。
なんか、色々と魔法に精通してそうだし。
魔物のヘイトが一切向かわないところとかも怪しいし。
「カナタが悪魔って言っても、私は信じますけどね」
「あっ! 酷いなー!」
チョコのこの一言で、どうにか緊張からは脱せたが。
悪いなカナタ。
俺もチョコと同じ意見だ。
俺たちは、悪魔に魂を売った結果でここにいるんじゃなかろうか?
思い起こせば、25階層でのこととか……
――――――
「カナタ危ない!」
「ギガッア!アグガアアアアア!」
「と思うなら、助けてよ」
このダンジョンの中ボスであるレッドオーガのこん棒がすっぽ抜けて、カナタの方に飛んでいったときのことだ。
思わず俺が叫ぶのと同時に、対峙していたオーガもこん棒の行方を見て叫び声を上げていた。
何故か、しまった! 危なーい!
と言っているような気がしたし……
レッドオーガが足元の石を拾って、凄い速さで投げてこん棒にぶつけて軌道を反らしてた。
まるで、カナタに当たるのを恐れたかのように。
そして、こん棒がカナタから離れた場所に飛んでいったのを見て、ホッと胸を撫で下ろしていたように見える。
「フフフ、オーガが子供に優しいってのは本当だったんだね」
「んなわけあるか!」
「あっ、余所見したら」
「ジュブナイルさん!」
「ぐわっ」
カナタに突っ込んだ瞬間に、オーガに吹っ飛ばされた。
すぐにチョコが回復してくれたから良かったけど。
結局2時間半の死闘の末に、満身創痍で打ち勝つことが出来たが。
そう、あれは中ボス戦だったんだ。
だから、あのオーガは中ボスなんだ……
それが、カナタに明らかに気を遣っていた。
一切の攻撃をどころか、敵意すら向けず。
なんなら戦いの余波が、カナタに届かないように少しずつ離れるように誘導されていた気さえもする。
でも、どうにか倒せたんだよ。
カナタの指示のおかげで。
感謝すべきではあるんだろうが、微妙な気持ちになったさ……
それでも、感慨深いものはある。
まさか、俺とチョコだけでこのダンジョンの中ボスを倒す事が出来るとはってな。
「やった……」
横でチョコも感極まった様子で、座り込んで両手を組んでいた。
あいつも、この大金星を噛み締めていた。
「強かったー……」
そして俺も大の字になって倒れ込むと、天井を見上げる。
うだつの上がらない、中堅ベテラン冒険者の俺が。
うちのギルドでも上位に位置する連中と同じ、アンダーザマウンテンの中ボスであるレッドオーガを倒したんだ。
今までの冒険を思い出し、涙が溢れそうになった。
袂を分かった仲間達。
意見の違いで分かれた連中も居れば、死に分かれた奴、怪我が原因で引退した奴……
いつの間にか、同期の連中は殆ど引退していた。
もし、俺がなにか一つでも成すことが出来れば。
俺と冒険した奴等にとって、支えになれば。
俺と同じような歳の連中の、目標になれば。
そう思って、頑張って来た。
そしてついに……
ジョバババババ
「つめてー!」
「なに勝手に休憩してんの? さっさと行くよ?」
「……」
普通にポーションで回復させられて、引き起こされた。
いや、中ボスだぞ?
ここを超えられるのって、ギルドでも一握りの上級冒険者くらいなんだぞ?
少しくらい……
「はあ? 頂上目指してるんだけど? これから先は全階層がおじちゃんにとって、未踏の偉業なんだよね? 毎階層そうやって感傷に浸ってたら、着くまでに涙の出すぎで干からびちゃうよ?」
「いや……中ボスはちげーだろ!」
「???」
その、本気で分からねーって面やめろ。
「もう15階層くらい進んだら、そこらへんの雑魚でもこのオーガくらいやるんじゃないの?」
「うっ……まあ、そうだけど」
「だったら、雑魚じゃん」
「ざっ……」
「ジュブナイルさん諦めましょう。この子おかしいです」
「知ってた!」
チョコに宥められて、ろくに中ボスを倒した事を実感する間もなく先に進まさせられたのは嫌な思い出だ。
――――――
「で、カナタはなんでここを制覇しようとしてるんですか?」
「ん? ダンジョンがあるなら、一番下が見てみたいじゃん?」
「なにか、欲しいものでも?」
「無いよ?」
後ろでチョコとカナタが会話している。
いくらカナタの気配探知が優れているからといって、それに頼っていたら自分の勘が鈍るからな。
俺は、耳を傾けつつも周囲をしっかりと警戒する。
ちなみに、レベルが凄い事になってる。
長らく33だったレベルが39まで上がったのだ。
チョコも29まで上がっている。
2日でこの上昇は異常としか言いようがない。
いや、それに見合った異常な行動を取り続けてるんだけどね。
モンスタールームに敢えて突っ込むかのように、罠を踏むカナタ。
確実に角を曲がる度に現れる、複数の魔物。
それらすべてをチョコと二人で倒してきたんだ。
正直、今までの冒険者人生で倒して来た魔物と、この二日間で狩った魔物とどっちが多いかと聞かれたら首を傾げるしかない。
「本当にそれだけですか?」
「うん、だってせっかく珍しいものがあるんだったら、見ないと損じゃん」
「そ……そんな理由で、こんな命がけの冒険を……」
「冒険者が冒険を楽しまないでどうするの? 見た事の無い景色を見る事も冒険だよ!」
カナタがいま良い事を言ったような気がするが、おまえ暇潰しにここに来たって言ってたからな?
こっちはお前の暇潰しに付き合って、何度死にかけてると思ってんだ?
「死んでないのに、なんで死にかけたって思うのかな? 死ななければ全部が余裕って事だし」
その、人の思考に割り込んでくるのやめてくれませんかね?
「あっ、その先にマーダーベアの一家が居るよ! 4世代11頭!」
普通、熊の群れって母親と子供くらいまでじゃないですか?
多くね?
「ひいおじいちゃんと、祖父母二組と、両親と父親の姉と、子供が3頭」
うん、なんで詳細な血縁関係まで分かるのかな?
父親の姉は行き遅れてるのかな?
っていうか、そんなの知ったら戦い辛いんですけど?
「じゃあ、宜しく!」
容赦なく、角の先に突き飛ばしやがった。
「キャーーーー!」
チョコを。
「はいっ、メイスを持ち上げない!」
「はいっ、えっ?」
メイスを上げようとしたチョコが、戸惑って途中で止まるとそこに先頭の熊の噛み付きが襲い掛かる。
そしてちょうどメイスを咥えたことで、上あごと下あごから竜の翼が突き出している。
あー……
もういいや。
カナタ、指示宜しく。
「やだ!」
「ジュブナイルさん、手を休めないでくださーい!」
マウンテンベアの爪が、俺の身体を掠める。
金属製のライトアーマーが、火花を散らしているのを見て思わず背筋が寒くなった。
あぶねー!
こんなん直撃喰らったら……
「あっ、おじちゃんしゃがんで」
「くそっ!」
カナタの声を聞いて慌ててその場にしゃがむと、オーガの持つ棍棒が頭の上を通り過ぎる。
髪の毛が抜けるかと思うような風圧だ。
「いやあ、大変大変! チョコはメイスを思いっきり前に振り下ろして」
「はいっ!」
チョコのメイスが、マウンテンベアの肩口に思いっきり突き刺さる。
「おじちゃんは、右後方に突き!」
「ちっ!」
自分で確認するまでもなく、カナタの言う方向に突きを繰り出すと柔らかな何かを突き刺す感触。
それから振り返ると、マウンテンベアの太ももに剣が突き刺さっている。
すぐに抜いて、そのまま逆袈裟に切り上げたあと、首を狙って剣を横になぐ。
「いやあ、おじちゃんは1つの指示で、次の次の行動までとってくれるから楽だね。チョコはおじちゃんにヒールを!」
「えっ? ぐわっ!」
「ヒール!」
思いっきり背中にオーガのこん棒がヒットしたが、すぐに暖かな光に包まれて痛みが引く。
こん棒を振り下ろした姿勢のオーガの首に剣を突き立てるが、硬い!
すぐに剣を抜いて、回転しつつ反対側から斬りつける。
首から大量の血を流しながら、オーガが倒れ込む。
これで、とりあえず全て片付いたか……
「だあっ! はあ、はあ……」
気が抜けたせいで、そのままその場に倒れるように座りこむ。
横では、チョコも座り込んで肩で息をしている。
ああ、生きててよかった……
「もうへばったの? 仕方ないなー」
「おいっ! やめろ!」
「もう、いやだー!」
そんな俺達に、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら近づいてきたカナタが、黄色いポーションを振りかける。
体力回復の効果を持つポーションだ。
筋疲労込みで、あらゆる疲労状態を回復するポーションとかって言ってたな。
ああ……体にたまった疲労が、消えてなくなるのを感じる。
最初は疲れが一気に取れて、身体も頭もスッキリしたから心地よかったが……今はなんというか、スッキリしつつもげんなりとした気分になる。
「これで、まだ戦えるね?」
こいつのせいで……
無邪気に、そんなことをのたまうカナタを睨みつける。
相変わらずニコニコとした笑みしか、返ってこない。
こいつは、人の機微が分からないのか?
「おまっ……本当に、全然戦わねーんだな!」
「そうですよ! いっつも、私達にばっかり戦わせて」
そしていま居るのは30階層。
ここまで、カナタが倒した魔物は0匹。
そう……本当に、カナタは魔物と一切戦わない。
意思が固いこって、立派なもんだ。
初志貫徹を貫き通せるなんざ、将来優秀だな。
「いやあ、照れるね」
「皮肉だ! あと、心を読むな!」
俺とチョコは、全身を赤く染め上げるほどの魔物を倒して来たってのに。
後ろ頭をかいて、おどけた様子を見せるカナタにイラっとする。
色々とこいつに、言いたいことはある。
おかしいと感じていることも多い。
でも、もはや余計な事を言う元気すらない。
15階層から俺の戦闘が解禁されたのだが、基本的にチョコのうち漏らしを相手する程度だった。
20階層からはカナタが俺達に指示をして、二人で魔物を討伐するといった状況。
「あー、いっぱい指示だして疲れたよ。喉もからからだし」
「じゃあ、自分でさっきのポーション飲めばいいだろうが!」
「やだよ、不味いし」
そう言って、普通に何もない所から水筒を出してゴクゴクと飲み始めるカナタ。
とうとう、カバンから出すという誤魔化しすらしなくなった。
もうね……スキルなの? それ、スキルなのか?
意味がわかんねーよ、こいつ!
「あのですね……体力や、魔力が回復しても心って回復しないんですよ?」
「そりゃそうだろうね、心の疲労なんて思い込みだし」
チョコの悲痛な叫びすら、こうやって茶化してくる。
正真正銘、人の気持ちが分からない奴だ。
イースタンだからか?
それとも、こいつはそういう病気なのか?
「お前は、本当に人か!」
「ハハハ……違うと言ったら?」
「えっ?」
急に真顔で……
思わず、ごくりと唾を飲み込む。
少しの沈黙が、やけに長く感じる。
こいつ……何者だ?
「冗談!」
と思ったら、ニヘラと笑って両手の平を上に向けて首を振りやがった。
人を小ばかにしたポーズだが、さっき感じた圧はとても人が放てるものでも、ましてや子供が放てるものでは絶対ない。
マジで、こいつ何者だ?
「冗談だから、笑ってよ」
「……」
笑えないから。
今までの行動を見てたら、魔族って言われても信じそうだ。
なんか、色々と魔法に精通してそうだし。
魔物のヘイトが一切向かわないところとかも怪しいし。
「カナタが悪魔って言っても、私は信じますけどね」
「あっ! 酷いなー!」
チョコのこの一言で、どうにか緊張からは脱せたが。
悪いなカナタ。
俺もチョコと同じ意見だ。
俺たちは、悪魔に魂を売った結果でここにいるんじゃなかろうか?
思い起こせば、25階層でのこととか……
――――――
「カナタ危ない!」
「ギガッア!アグガアアアアア!」
「と思うなら、助けてよ」
このダンジョンの中ボスであるレッドオーガのこん棒がすっぽ抜けて、カナタの方に飛んでいったときのことだ。
思わず俺が叫ぶのと同時に、対峙していたオーガもこん棒の行方を見て叫び声を上げていた。
何故か、しまった! 危なーい!
と言っているような気がしたし……
レッドオーガが足元の石を拾って、凄い速さで投げてこん棒にぶつけて軌道を反らしてた。
まるで、カナタに当たるのを恐れたかのように。
そして、こん棒がカナタから離れた場所に飛んでいったのを見て、ホッと胸を撫で下ろしていたように見える。
「フフフ、オーガが子供に優しいってのは本当だったんだね」
「んなわけあるか!」
「あっ、余所見したら」
「ジュブナイルさん!」
「ぐわっ」
カナタに突っ込んだ瞬間に、オーガに吹っ飛ばされた。
すぐにチョコが回復してくれたから良かったけど。
結局2時間半の死闘の末に、満身創痍で打ち勝つことが出来たが。
そう、あれは中ボス戦だったんだ。
だから、あのオーガは中ボスなんだ……
それが、カナタに明らかに気を遣っていた。
一切の攻撃をどころか、敵意すら向けず。
なんなら戦いの余波が、カナタに届かないように少しずつ離れるように誘導されていた気さえもする。
でも、どうにか倒せたんだよ。
カナタの指示のおかげで。
感謝すべきではあるんだろうが、微妙な気持ちになったさ……
それでも、感慨深いものはある。
まさか、俺とチョコだけでこのダンジョンの中ボスを倒す事が出来るとはってな。
「やった……」
横でチョコも感極まった様子で、座り込んで両手を組んでいた。
あいつも、この大金星を噛み締めていた。
「強かったー……」
そして俺も大の字になって倒れ込むと、天井を見上げる。
うだつの上がらない、中堅ベテラン冒険者の俺が。
うちのギルドでも上位に位置する連中と同じ、アンダーザマウンテンの中ボスであるレッドオーガを倒したんだ。
今までの冒険を思い出し、涙が溢れそうになった。
袂を分かった仲間達。
意見の違いで分かれた連中も居れば、死に分かれた奴、怪我が原因で引退した奴……
いつの間にか、同期の連中は殆ど引退していた。
もし、俺がなにか一つでも成すことが出来れば。
俺と冒険した奴等にとって、支えになれば。
俺と同じような歳の連中の、目標になれば。
そう思って、頑張って来た。
そしてついに……
ジョバババババ
「つめてー!」
「なに勝手に休憩してんの? さっさと行くよ?」
「……」
普通にポーションで回復させられて、引き起こされた。
いや、中ボスだぞ?
ここを超えられるのって、ギルドでも一握りの上級冒険者くらいなんだぞ?
少しくらい……
「はあ? 頂上目指してるんだけど? これから先は全階層がおじちゃんにとって、未踏の偉業なんだよね? 毎階層そうやって感傷に浸ってたら、着くまでに涙の出すぎで干からびちゃうよ?」
「いや……中ボスはちげーだろ!」
「???」
その、本気で分からねーって面やめろ。
「もう15階層くらい進んだら、そこらへんの雑魚でもこのオーガくらいやるんじゃないの?」
「うっ……まあ、そうだけど」
「だったら、雑魚じゃん」
「ざっ……」
「ジュブナイルさん諦めましょう。この子おかしいです」
「知ってた!」
チョコに宥められて、ろくに中ボスを倒した事を実感する間もなく先に進まさせられたのは嫌な思い出だ。
――――――
「で、カナタはなんでここを制覇しようとしてるんですか?」
「ん? ダンジョンがあるなら、一番下が見てみたいじゃん?」
「なにか、欲しいものでも?」
「無いよ?」
後ろでチョコとカナタが会話している。
いくらカナタの気配探知が優れているからといって、それに頼っていたら自分の勘が鈍るからな。
俺は、耳を傾けつつも周囲をしっかりと警戒する。
ちなみに、レベルが凄い事になってる。
長らく33だったレベルが39まで上がったのだ。
チョコも29まで上がっている。
2日でこの上昇は異常としか言いようがない。
いや、それに見合った異常な行動を取り続けてるんだけどね。
モンスタールームに敢えて突っ込むかのように、罠を踏むカナタ。
確実に角を曲がる度に現れる、複数の魔物。
それらすべてをチョコと二人で倒してきたんだ。
正直、今までの冒険者人生で倒して来た魔物と、この二日間で狩った魔物とどっちが多いかと聞かれたら首を傾げるしかない。
「本当にそれだけですか?」
「うん、だってせっかく珍しいものがあるんだったら、見ないと損じゃん」
「そ……そんな理由で、こんな命がけの冒険を……」
「冒険者が冒険を楽しまないでどうするの? 見た事の無い景色を見る事も冒険だよ!」
カナタがいま良い事を言ったような気がするが、おまえ暇潰しにここに来たって言ってたからな?
こっちはお前の暇潰しに付き合って、何度死にかけてると思ってんだ?
「死んでないのに、なんで死にかけたって思うのかな? 死ななければ全部が余裕って事だし」
その、人の思考に割り込んでくるのやめてくれませんかね?
「あっ、その先にマーダーベアの一家が居るよ! 4世代11頭!」
普通、熊の群れって母親と子供くらいまでじゃないですか?
多くね?
「ひいおじいちゃんと、祖父母二組と、両親と父親の姉と、子供が3頭」
うん、なんで詳細な血縁関係まで分かるのかな?
父親の姉は行き遅れてるのかな?
っていうか、そんなの知ったら戦い辛いんですけど?
「じゃあ、宜しく!」
容赦なく、角の先に突き飛ばしやがった。
「キャーーーー!」
チョコを。
「はいっ、メイスを持ち上げない!」
「はいっ、えっ?」
メイスを上げようとしたチョコが、戸惑って途中で止まるとそこに先頭の熊の噛み付きが襲い掛かる。
そしてちょうどメイスを咥えたことで、上あごと下あごから竜の翼が突き出している。
あー……
もういいや。
カナタ、指示宜しく。
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特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
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鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
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第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
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王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
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