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第3章:ジュブナイルとチョコのダンジョン攻略

第8話:アンダーザマウンテン6~前夜祭~

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「という訳でかんぱーい!」
「また、という訳で? いっつも、そのという訳でって誰かに説明でもしてるの?」
「ん? 細かい事は気にするな!」

 カナタに突っ込まれて改めて考える。
 別にという訳でが口癖という訳でも無いしな。
 何故だろう?
 何か大いなる意志のようなものを感じたが、考えるのはやめよう。
 不毛な気がする。
 というか、自分が現実に存在するのかも不安になる。

「まあいいか、取りあえず食べるか」
「そうだね……というか、なんで自分だけ酒飲んでるの?」
「俺は大人だからな! というか、なんで居酒屋で水なんか飲まねーといけねーんだよ!」
「だったら、ジュースにしたら良いじゃないですか。ジュース美味しいですよ~」

 ジトっとした目を向けられるが、子供が何を言ってるんだ?
 そもそもお前ら酒が飲めるような歳でもねーだろ。

「じゃあ、僕もエールを「駄目に決まってんだろ!」」

 カナタがウェイトレスの女性を捕まえようとしたのを、慌てて止める。

「ええ? イースタンじゃ10歳から「20歳からだろ? 知ってるんだからな?」」
「チッ」

 このクソガキが!
 いっちょ前に舌打ちなんかしやがって。

「じゃあ、ビルドのダンジョンの詳細を教えて?」
「ああ、ビルドのダンジョンはまず55「はい、マウンテンチキンのもも焼きお待ち!」」

 ……
 間の悪い……

「ああ、すまねぇ」
「美味しいから、アツアツのうちに食べな!」

 そう言ってウエイトレスの女性が、目の前に油の滴る鶏のもも肉を置いて行く。

「いただきまーす!」
「おいっ!」
「熱いうちに食べてって言われたからねー」
「はあ、まあいいわ。食いながら聞け! ビルドのダンジョンは55階層「あっ、これ美味しいです!」」

 イラッ!
 まあ、チョコに空気を読めって言うのも酷な話か。
 大分こいつの事も分かってきた。
 こいつはこういう奴だ。

「ビルドのダンジョンは55階層あってだな!「はいっ、山菜と野菜の盛り合わせお待ち!」」
「これも美味しそう!」
「だあああああ! 黙って料理を置いてけ! あとチョコは黙って食え!」

 別にウエイトレスが悪い訳じゃない。
 チョコが悪い訳じゃ……いや、チョコは悪いか……
 このままじゃ、話が進まねーじゃねーか!

「いやいや、おじさんこそ無視して話をすればいいのに」

 ウエイトレスがドンッと不機嫌そうに料理を置いて去っていく。
 悪い……
 いや、提供の間が悪いだけで……俺が悪いのかこれ?

「分かった。簡単に言うから聞け! そして食え!」
「もう食べてるよ?」
「もう、食べてます!」
「うがあああああ! お前らわざとだろ! 聞く気無いだろ! 聞け! もう黙って聞け! 黙って食え!」

 悪意を感じる3人のコンビネーションに、思わずブチ切れてしまった。
 チョコはビクッとなってたが、カナタはニヤニヤしてた。
 このクソガキは本当に良い性格してやがる!
 わざとだな!
 絶対わざとだ!

「ビルドのダンジョンは全55階層! 10階層まではゴブリン、コボルト、スライム等の初級の雑魚モンスター、10階層から20階層まではオークや、キャタピラー、ポイズンキャタピラー等のちょっと面倒くさいやつら! 24階層まではオーガやデスパイソン等も目撃情報あり! 25階層が中ボスの色付きオーガ! 色によって特性が変わる! 26階層から、オーガや職持ちオーク、マウンテンベア等の凶悪な魔物が居るからな? ビビってんなよ?」
「ふーん……」

 ブチッ!

「もういいわ! お前になんて話してやるもんか!」
「おじさん大人げないよ? ちゃんと聞いてるのに」
「うるさい! うるさい! うるさい! 俺はもう飲む! 話しかけんな!」

 カナタを無視して目の前のエールを一気にあおる。

「おい、ねーちゃん! エールおかわりだ!」
「はいはい」

 ドンッ!
 ちょっとして、無言でジョッキを机に叩き付けられる。 
 おいっ! 一言ねーのかよ!
 あるわけねーよ!
 俺が黙って置けって言ったんだよ!
 俺がわりーんだよ!

「これ、美味しいですね」
「うん、僅かだけど胡椒も振ってあるし、こんなところでこんな美味しい料理が食べられるとは思わなかったよ」

 だろうな!
 一泊500ジュエルもするような高級宿に泊まってたら、こんなもんより美味いもん出して貰ってるんだろう。

「おい! おかわりだ!」
「はいはい」
 
 傍にいたねーちゃんに声を掛けると、チラッとこっちを見てエールを取りに行く。
 もうちっと、愛想よくできねーのかよ!

「ププッ! おじさんが、自分から喧嘩売った癖に」
「はあっ? なんで考えてる事がわかんだよおめーわ!」
「顔に出てるし!」

 くそっ、だから貴族は嫌なんだよ!
 もうそっとしておいてくれ!

――――――
「もうム~リ~。あたしを酔わせてどうするつもり~ってか? キャハハハハ!」

 誰だ、チョコに酒を飲ませた奴は!
 というか、カナタのグラスに入ってるのも酒じゃねーのか?
 ちょっと飲み過ぎたらしく、少し眠ってしまったらしい。
 そして、チョコの甲高い声で目が覚めたが……見ると机の上には空の瓶が並んでいる。

「お客さん、もう店閉めたいんだけど?」
「えっ? ああ、もうそんな時間か……すまんな」

 ウエイトレスのねえちゃんが声を掛けてきたので、部屋にある時計に目をやる。
 12時か……
 はっ? 12時?

「あのさあ? 明日朝からダンジョンに挑むのに、こんな遅くまで飲んでて良いの?」
「おまっ! 起こせよ!」
「うっしっしっし、今日はどちらにお持ち帰りされちゃうのかな~?」

 隣に座って居るカナタが俺をジトっとした目で見てくるが、その間にチョコが割って入って来て俺とカナタの肩を組む。
 その手をペシッと払いのける。

「ガキがいっちょ前の事言ってんじゃねー! というか、カナタも飲んでるの酒じゃねーのか?」
「ただの色のついた水だよ」
「嘘つけ! だあ、明日朝からダンジョン行くのに、大丈夫なのかお前ら」
「それは僕のセリフなんだけどね」
「じゃあ、明日大丈夫なように介抱してくらはい~。初めてなのでや・さ・し・く・してね!」
「黙れ! ああ、ねえちゃん勘定だ!」
「勘定ならそこの坊やが済ませてくれたから、とっとと帰りな!」

 チョコが取りあえず飲むとクソウザいという事は分かったが、支払いはカナタがしてくれたのか。
 ちょっと待て!

「はあ、ガキに奢ってもらう程貧乏じゃねーぞ! おいっ!いくらだ!」
「大丈夫だって! おじさんの財布から払ったから!」

 そう言って、俺の目の前に薄くなった見覚えのある皮財布を降るカナタ。

「返せ! って、おいおい! 金貨が3枚くらい入ってたはずだぞ! そんな食ってねーだろ!」
「ははっ、足りない分は出しといたから!」

 クソガキが!
 こんな安い居酒屋で300ジュエルも行くわけねーだろ!
 
「ほいっ、領収書!」
「はあっ?」

 見ると領収書には700ジュエルの文字が。
 こいつら、俺が寝てる間に何頼みやがった!

「ちょっと、良いお酒をチョコさんが頼んじゃってさ!」
「ふふふ~、お姉さんだけじゃなくてボクちゃんも飲んでたじゃ~ん?」
「ねえねえ、おじさん。このおばさんウザイ」

 黙れ!
 ちょっとは、考える時間をくれ。
 というか、そんな高い酒を頼んだのか?
 絶対それ、俺飲んでないよね? 

「吐け! 今すぐ吐け!」
「ちょっ! やめて~。乱暴にしないで~……あっ、気持ち悪い……」
「待て! 吐くな! ここでは吐くな!」
「あっ、無理かも~「【酒精耐性上昇パワーオブウコン】」」
「あれっ? 私何してたんだっけ?」

 チョコが今にも吐きそうな瞬間に、カナタの方から小さな声で呪文っぽいのが聞こえた。
 というか、魔法かそれ?
 酔いを醒ます魔法とかあったっけ?

「なんか、ちょっと気持ちいいです~」
「完全には抜いてないからね」
「いやっ、マジでお前なにもんだよ!」
「何度も言ってるじゃん?無職のボンボンイースタンだって」

 嘘つけや!
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