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第2章:北風とカナタのバジリスク退治!~アリスの場合~ 

第13話:ネクストフォレストのカナタ2

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「ええっと、それじゃあまずはそちらのカナタ殿の言い分から聞かせて貰いましょうか?」

 私達はいま、冒険者ギルドの小会議室に拉致られている。
 何故私達まで……
 完璧な演技他人のフリでトラブル回避出来たと思ってたのに。
 目の前にはジョシュアさんとギルマスハゲ、ミザリーって呼ばれてた女性が座っており、少し離れたところにサブマスターナイスミドルが立っている。
 ジョシュア様は長すぎる足を組んで、ゆったりとした様子でこちらを見ている。
 何故に冒険者なのに、貴方の髪は男のくせにそんなにサラサラなんですか? 
 傷どころかシミ一つない肌と良い、本当にA級冒険者? 
 是非その美貌の秘訣を、是非とも! 教えて貰いたい。
 ちなみにナイスミドルも椅子を勧められたが、自分は呼ばれたらすぐに現場に行かないといけないので……と爽やかな笑みで固辞し入り口近くに立っている。
 優しい微笑みを携えつつも、その目は時折ギルマスを鋭く射抜いている。
 厄介事に巻き込みやがってと語っているのは言うまでもない。
 そして、私とカバチには一際暖かい視線を送ってくれる。
 巻き込まれ同士としての、絆が無言ながらも結ばれつつあった。

「失礼します。お茶をお持ちしました」
 
 絶妙なタイミングで受付嬢がお茶を持ってくる。
 おいっ! 空気読め! って部屋の外じゃ状況何て分からないか。
 最初にジョシュアの前にお茶が運ばれる……まあ、分かるけどね。
 ギルマスが一番偉いけど、ここだと身内だからね……って思ってたら次にサブマスにお茶が手渡される。
 おいっ! 常識がなっちゃいないんじゃない? 
 そして、ミザリー、カバチ、アレク、私、カナタ、マスターの順にお茶が配られる。
 何か悪意を感じるのは私だけだろうか。
 ふと横を見ると、カナタが悪い笑みを浮かべていたのは見なかったことにしよう。

「ふーん、彼だけ紅茶なんだ……俺もそっちが良いかな?」
「えっ?」

 はっ? 紅茶? 
 ジョシュアさんも気付いて居なかったようで、驚いた声をあげている。
 もっとも、彼の場合は全員が紅茶だと思っているのだろうけど。

「ムグッ!」

 ミザリーが何か言いかけて、口ごもる。
 ああ、そういえば【沈黙サイレス】掛けられてるんだっけ? 

「当然でしょう? ジョシュア様はこのギルドに多大な貢献をもたらしているのですから。粗茶なんて出せるわけないでしょうに」

 代わりに受付嬢が、見下した表情で説明をする。
 っていうか粗茶って言っちゃったよこの人。
 謙遜じゃなくて、字面そのままの意味での粗茶出されてるの? 私達……
 ギルマスとサブマスも渋い顔をしている。

「あっ、サブマスター様には最高級茶葉を使用させて頂いてますのでご安心を」

 安心できないよ。
 いや、サブマスは安心したかもしれないけど、周囲が不穏だよ。
 何気にミザリーにも粗茶を出したっぽいし。
 割と勇気あるのかな? 

「ムーッ!」
 
 ミザリーが微妙に無言になっていない無言の抗議を行っているが、受付嬢が「フンッ!」と鼻で笑う。

「大した実力も無いくせに、家柄だけでジョシュア様に纏わりつく羽虫には上等でしょ? 足を引っ張るだけじゃなくて、こんな面倒事をジョシュア様に尻ぬぐいさせるなんて、しばらくその状態で反省なさったら?」
「ムッ!」

 二人の間で火花が散っている。
 どうやら、この受付嬢もやんごとなき御家柄の出身っぽいわね。

「まあ、今回引き留めたのは私ですから、こちらが宜しければ交換致しましょう。見た処、紅茶の方が似合いそうですし」

 ジョシュアさん流石大人だ。
 いや、ジョシュア様! 
 自然な様子でカナタの前のカップと自分のカップを入れ替える。
 すぐに受付嬢がアッ! と言った表情をすると慌ててジョシュア様に駆け寄ろうとする。

「すぐにもう一杯ご用意致しますわ」
「それには及ばないよ。メアリーさんにも仕事があるのでしょう? むしろ、お茶を用意させてしまってすまないね」

 あっ、メアリーって言うのかこの人。
 というか、受付嬢の名前まで憶えているとか、地味に抜け目がないのがこの人の怖いところなんだよなー。
 ボーっとジョシュア様を見ていたら、手に取ったカップをそのまま口に運ぶ。
 そして、一口含んでから渋い表情をする。
 そして鋭い目つきで、ブルーサファイアのような瞳を受付嬢に向ける。

「これっ……いや、まあ良いけどさ。今回は私が主導で時間を割いて貰ってるんだから、あんまりな事はしないでね? 私の顔もあるわけだし」
 
 すぐに穏やかな表情に戻ると、受付嬢に釘を刺している。
 たぶん、よっぽど渋いお茶を淹れたんだろうな。
 ジョシュア様の横でミザリーがふふんと勝ち誇った顔をしているが、忘れるな! 
 あんたの目の前にあるのも、その渋いお茶だ。
 とはいえ、ジョシュア様にあんな表情をさせたお茶が気になる……
 自分もちょっと飲んでみる……うすっ! 
 これ出涸らしでしょ! 
 というか、殆どカナタのに絞り尽くした残りで作ったんじゃ? ってことは、あれって相当に渋いのでは? 
 すげーな貴族。
 と思ったら、ギルマスが思いっきりブフォッ! って茶を吹いていた。

「なんだこれは! こんな渋いお茶を出したのか! いつまで経っても、上手にならん奴だな!」

 そして凄い勢いで受付嬢を怒鳴りつける。
 しかし、受付嬢は何食わぬ顔で「あら、ごめんあそばせ?」と一言だけ言って、すぐにジョシュア様に頭を下げる。

「申し訳ございません。あまり紅茶以外のお茶を淹れた事がありませんので。精進致しますわ」
 
 そしてスカートの端を指で摘んで、チョコンとお辞儀をして退室する。
 メアリー……何者? 

――――――
「そんなお茶じゃ飲めんだろ?」

 カナタがジョシュアのカップに手を翳すと、濃い緑色だったお茶が茶色に変色する。
 紅茶の華やかな香りが漂ってくる。
 だから、お前はどこの手品師だ! 
 ついでに私のお茶もそれに代えてくれ! 
 思いが通じたのか、カナタは私のカップにも手を翳す。
 これこれ! ……って、ミルクじゃないのよ! 
 なんで私にはミルクなの? 
 不満を目で訴えると、色々育てよと目で応えられた。
 視線だけでそれを伝えるって、どんだけ器用なのよあんた! 

「これは……」

 この人も案外お坊ちゃんだよね? 
 なんで、目の前の怪しい人が手品で替えた飲み物を躊躇なく口に運べるかな。

「香りからもしやと思ったのですが、アッシーム地方の最高級の茶葉の新芽を、高速輸送で砂漠に運んで香りが飛ばず凝縮されるよう、専用の細かい網で挟んで日陰で短時間乾燥させた幻の一品ですね? 私も国王陛下に呼ばれたお茶会で飲んだだけですが、一度でも口にすると一生忘れられないほどの衝撃を受けました」

 何それ? 
 そんなもん手品でどうにか出来るの? 

「うん? 違うよ? うちの故郷じゃそんなの紙パックで売ってたりするけどな。そこの紅茶に似てるのか……気に入って貰えてよかった」
「神パック? ちょっとおっしゃってることが分からないのですが、イースタンの方は本当にグルメなんですね。このレベルのお茶をこちら頂こうと思ったら、このカップ1杯で金貨3枚はくだらないですよ? 流石にイースタンでも神を冠するパックに入れるレベルなんですね」
「神?」

 よしカナタ! 冒険者やめて私と二人で、喫茶店しよう? 
 私が名物美人ウェイターやれば、カップ一杯で金貨4枚くらいには化けると思うわよ? 
 カナタに熱烈な視線を送るが、彼はあえて気付かない様子でジョシュア様と微妙に会話が噛み合ってないと言った表情を浮かべている。
 それから、首を振ってカバチのカップにも手を翳そうとしてやめる。

「ああ、カバチのは普通のお茶みたいだな」
「よくわかんないけど、美味しいよ?」

 すでに半分くらい減ってるし。
 おい! さっきの受付嬢戻って来い! 
 私にまで喧嘩売ってんのか! 
 ちなみにアレクは口にお茶を運ぶどころか、逆に口から白い何かを吐き出しながらブツブツと呟いている。
 エクトプラズム? 

「で、さっきの話なんだが、俺達が受けた依頼はゴブリンの討伐だったんだが……そこの群れのボスがジェネラルに進化していた訳だ」
「それは本当ですか?」

 ジョシュア様がカナタの言葉に食いつく。
 本当の事だしね。

「お前、嘘だったらどうなるか」
「だまれハゲ!」
「ハッ!」

 えええええ……
 普段は物静かな様子で、上品に人を不快にさせるカナタが珍しく直球でギルマスをばっさりと切り捨てる。
 もしかして怒ってるのかな? 
 何か、怒るような事でも……ああ、余所者だったら怒るような事はいっぱいあったか。

「だとしたら、すぐに討伐隊を編成するべきですね」
「ああ、まあ実際はそこのアレクが倒したから良かったが、これはすぐにでも報告する必要がある案件だな?」
「はい、そうですね……えっ? 倒した? 彼が?」

 横でアレクがなんでそれ言っちゃうの? って悲痛な表情でカナタに訴えているが、カナタが微笑みながらも冷たい視線をアレクに送っている。
 あれー? アレクにも怒っているのかな? 

「まあ、それはギルドカードを見れば分かる事だから、後で確認すれば良いとして。問題はそこの女の行動だ」
「ああ、そうですね。彼女たちと何故揉めていたのが、私が確認したい事ですので」

 ふとミザリーに見ると、ちょっとだけ顔色が悪い。
 まあ、自己弁護もすることも出来ずに、ずっとカナタのターンだしね。
 ここまでで、都合の悪い話しか出ていないし。

「俺が受付で、貴方の横に並ぶのが無礼だから待ってろと言われた」
「なっ! それは本当なのかミザリー!」
「うーっ!」

 ミザリーが青い顔で何かを訴えようとしている。
 その様子を見てカナタがパチンと指を鳴らす。

「プハッ! いえ、そのただ、わたくしはジョシュア様の横にF級の下賤な冒険者が並ぶような無礼が許せず」
「はあ? 何を言っているんだ?」

 そのミザリーの言葉にジョシュア様が眉間に皺を寄せている。

「うん? その様子だと、貴方が指示していたわけではないのかな?」
「当たり前です! なんで受付で横に並ぶのが無礼になるんだ?」
「申し訳ありません! 申し訳ありません!」

 ジョシュア様が少し語気を荒げてミザリーに問いかけると、見ているのが可哀想なくらいに委縮して今にも泣きそうになっている。
 本当に可哀想な状態だ……ざまーみろ! 
 あっ、カナタにお前性格悪いぞって目で言われた! 
 やかましいわ! 

「ジョシュア様はこのギルドで、功績に最も貢献されているお方です! それなのに、こんな駆け出しの「ミザリーだって駆け出しだろ? じゃあ、いま私の横に座って居るのは無礼に当たるんじゃないのか?」

 おおう……ジョシュア様意外と容赦ないですね。
 見るも無残な程に、打ちひしがれている。
 ああ、可哀想に……ざまーみろ! 
 イタイ! カナタの視線がイタイ! 

「私はそんムグッ」

 ミザリーが何か言おうとした瞬間に、カナタがパチンと指を鳴らすとまたも言葉が出なくなったようだ。
 このタイミングで言い訳を封じるとか鬼かあんたは! 良くやった! 
 
「さてと……でだ、うちのリーダーさんはその駆け出しという事に負い目を感じて、報告を明日に回そうとしたわけだが?」
「ジェネラルの報告を翌日に回そうと? バカなのですか? 貴方は!」

 あっ! ジョシュア様酷い! 
 ジョシュア様に声を掛けられたアレクが完全に口から何かを吐き出し尽くして、椅子にグテンともたれかかって白目を剥いてしまった。

「喝!」
「はっ! あっ! ……はあ……いえ、そのあの状況で報告をするのはノブレス・オブリージュの方針に逆らう事になるかと思いまして……」

 カナタに気付けを施されたアレクが、一瞬視線を虚空に彷徨わせたあと大きく溜息をついて、覚悟を決めたかのように盛大に相手に責任を押し付ける。
 いいのかそれで? 

「その、うちの方針の中にギルド内で報告をしてはいけないというものは無いのですが? というか、うちの基本方針というのは、持つものは持たざるものに分け与えるだとか、立場に責任を持てだとか、領民……他者を守るは人の為にあらずとか、そう言ったごく基本的なものなのですが?」

 そう言ってミザリーに視線を送ると、ただでさえ小さい彼女がさらに小さくなる。
 これ以上は余計な事を考えるのはやめとこう。

「ですが、メンバーの方がジョシュア様と並べるのは同ランクの冒険者か、そちらのクランの幹部のみという風に言われてましヒッ!」

 ミザリーが余計な事を言うなと言った視線をアレクに送る。
 小心者のパンピーなアレクは簡単に委縮してしまうから、やめたげて。

「こらっ!」

 すぐにジョシュア様に注意されるミザリー。
 ププッ怒られてやんの! 

「あのなあ? ジェネラルが出たって情報がどれだけ大事か知らない訳ないだろ? 俺でもこっちに来て数日だけど、この世界の人間のレベルと魔物の力のバランスは知ってるぞ?」
「ああ、もしそれが本当だったらな」
「うるさい、ハゲ!」
「ハッ! お主いい加減にしろよ? 冒険者ギルドで、筆頭冒険者とギルマスに逆らって続けていけると思っているのか?」
「ああ? お前こそ、部下の管理もろくに出来てないくせに、いつまでもその椅子に座ってられると思ってんなよ? なんなら、そこのナイスミドルに今すぐその椅子を譲らせてやろうか?」
「なっ! お前になんの権限があって!」
「なんの権限? 権限なんて要るのか? これだけの事をしておいて。全部記録してるからな? まず、スタンビートの予兆があって、あの森でゴブリンが種族的危機に瀕しているのは把握していなかったのか? 新聞にも載っている事だぞ?」
「えっ? いや、それはその可能性も考慮したうえで、偵察も兼ねて……」
「種族的危機による、種族進化の可能性は? 偵察? 駆け出しの冒険者がジェネラルにあって生き残れる可能性は? もし、駆け出し故の無謀な上昇志向から冒険者がその場で挑み殺された場合、冒険者を呼んだ村への報復の可能性は? それから、本当に偵察でジェネラルを発見したとしてだ、ギルドに戻ってみたらギルド職員の不当な一部のメンバーへの優遇措置のせいで報告が遅れた場合どうなる? しかも一日もだぞ? ジェネラルの率いるゴブリンなら小さな村なんて簡単に亡ぶぞ?」
「いや、それはそうなのだが……」
「しかもその事を見て見ぬふりをしているとか……お前? 本当にギルマスか?」
「くっ、それは余りにも無礼であろう!」
「しかもだ……ギルド内での抜刀や魔法の使用を看過し、被害者である俺に文句を言う職員まで居るんだ……ここまでで致命的な失態が三つ。証言なんて必要ない。この映像記憶玉が全てを記録しているからな?」

 そう言ってカナタがキラキラと虹色に光る玉をこれ見よがしに、ハゲの前で左右にチラチラと振っている。
 なにその魔道具? それって、売ったらいくらになるの? 

「これ、そこのサブマスさんにただであげちゃおっかなー?」
「ちょっと待て!」

 そこまで一方的にカナタが責めていたが、そこにジョシュア様が口を挟む。
 折角勢いに乗っていたのにと不満げなカナタとは対照的に、助かったといった表情を浮かべるハゲ。

「抜刀? 魔法? なんの話ですか?」
「そこのミザリーに火球を打たれた。あと、お前んとこの若いのが腰の剣に手をかけた。まあ俺は抜かせるような間抜けじゃないけどな」
「本当か!」

 ジョシュア様がミザリーに問いかけると、慌てて目を反らせる。
 それって、肯定って意味だよ? 知ってた? 

「それは本当に申し訳ございませんでした。これは私の部下に対する監督不行き届きとしか、良い訳も出来ません」

 おお! 凄い素直に45度のお辞儀でジョシュア様が頭を下げた。

「まあ、そちらのメンバーに尻込みして、こんな大事な情報を明日に回そうとしたうちのリーダーにも負い目を感じるから、謝罪は素直に受け取ろう。でも、事の重大性は分かりますか?」
「勿論です! いえ、そちらのリーダーはそのジェネラルを下しておりますから、その判断は分からなくも無いのですが、とはいえ出来ればすぐに報告が必要な案件です。ジェネラルが倒されたなら、他のゴブリンリーダーがジェネラルに進化する可能性もありますし……おい、ミザリー! お前らのくだらないプライドで国が滅んだらどうするんだ?」

 いやいや、ミザリーさんは貴方の為を思ってやった事ですから。
 全ての責任は、下っ端を管理できなくせにクランをどんどん大きくしちゃった貴方にもありますよ? 
 って、言いたい! 凄く言いたい! 
 やばい、カナタに毒されて私まで嗜虐心に駆られてきた。
 こんな貴族な美青年を言葉責め出来るとか、それなんてご褒美。


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