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第2章:北風とカナタのバジリスク退治!~アリスの場合~
第11話:エストの村のゴブリン退治8
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村に戻ってくると、いきなり剣や槍に鍬や鎌を持った住人に囲まれた。
そりゃそうか、ゴブリンが仰々しい何かをかついでやって来たんだ。
どっからどう見ても襲撃にしか見えないわね。
もしかしたら、籠が棺桶に見えてたかも。
そして先頭には、妙に年季の入った無骨な鉄の剣を構えるリアナさんのお父さん……安飯屋の店主が立っていてその横に村長さんが杖を持ってこちらを睨んでいた。
「あっ、驚かせてすいません。ジェネラルさんと話を付けてきました」
アレクが籠から顔を出すと、親父さんと村長がさらに驚いた顔してた。
そっちの方が驚くわな。
――――――
「なるほど……アレクさんが一人でジェネラルさんを倒した結果、ゴブリンさん達が損害の賠償に応じたと」
「はい」
村長の家で私達4人と村長さん、それから補佐兼護衛の親父さん、さらにジェネラルの6人と1匹で話し合いが始まる。
「ちなみに、その契約書の信頼度はどれくらいのもんだ?」
親父さんが鋭い目つきでジェネラルを睨みつつ、質問してくる。
なんとなくだけど、親父さんとジェネラルの威圧感が同じくらいに感じられる。
まあ、代を重ねる毎に強くなる戦闘系店主の現正当後継者だしね。
いつから続いている風習か知らないけど、かなり強いというのは想像できるわ。
「フッ、人間よ我ら魔の者にとって血判をついた契約書の重さは知っておろう? この書に逆らったらどうなるかくらい聞いた事無いか?」
「それを直接あんたの口から聞きたいんだがな? まあ、信用出来るかは別として」
「外の人間に頼らねば自分の縄張りすら守れぬくせに言いよるわ!」
二人の間に火花が散ってるよ。
と言っても、アレクと対峙した時以上に緊張するけど。
「ああ、お前ここに謝りに来たんだろ? そこは素直に聞いとけって」
「えっ? あっ、はい。えっと、契約に逆らった場合、基本的には全身が焼かれて灰になります。ただこれは一般に大きな魔力を持つ上位の魔族の場合のみでありまして……理由としては彼等の血に込められた魔力の大きさ故に契約が絶対の効力を持つというだけで、自分程度の魔力の場合はジェネラルからただのゴブリンに戻るという程度ですね。ただ、現状ではそれだけで死活問題になるであります」
偉く素直に従ったなジェネラル。
親父さんも村長さんも目を丸くしてるよ?
でもさ……貴方を倒したのって、今話しかけたカナタじゃなくてアレクだよね?
「一度は私も倒してますし、また逆らうような事があったらね?」
「ああ、お主とはあまりやりたくは無いからのう。そこの坊主の言う通りだ! 基本的にはこれからは契約書の通りにお世話になりたい。いや、そちらが許してくれるのであればだが」
……
アレクに対しては、素の口調なんだねジェネラルさん。
完全に親父さんと村長さんの視線はカナタに釘付けだよ?
気付いてる?
「なあ? そこのジェネラルを倒したのって、黒髪の兄ちゃんじゃなくてそっちの剣士だよな?」
「そうですが、何か?」
「左様、わしはこの男に敗れたのだが、何かあるのか?」
「いや……」
親父さんが思わず突っ込んでしまったが、その事に対して何かおかしいことでもあった? とばかりに見つめる二人に毒気を抜かれたのか、呆れた表情で首を振っている。
「まあ、話はよく分かりました。取りあえず今回はアレクさんたちの言う事を信用しようとは思います。ただ、貴方達が裏で繋がっているという可能性もあるでのう。村にまんまと忍び込んだ後にという事も考えられるから、毎日4人程交代で人? ゴブリン? を寄越して下さい。食べ物は帰りに持たせるとしましょう」
「ふむ、わしとしては一族総出で手伝いたかったのじゃが」
「いいのですか?」
「ああ、ゴブリンの王様の話は有名じゃからの。これほどまでに知性を持ったゴブリンであれば、まずは少し歩み寄ってものう。それに、もし彼等が全滅したら今度は獣の危険に脅かされる可能性もあるのじゃろうし」
そうね、そう言えばカナタもそう言ってたわ。
最初、なんでジェネラルを倒した後にゴブリンを殲滅しないのか尋ねたら、ゴブリンという餌が無くなったら獣が次に狙うのはどこかな? って聞かれたわ。
そんなの当然村に決まってるじゃない! って当然のようにドヤ顔で答えたら、聞かれないと考えない時点でダメダメって言われたわ。
いま、思い出しても腹立つ! ……と同時に恥ずかしかったけどさ。
こいつって、飄々としてるくせに意外と考えてるんだよね。
ゴブリンは餌だけど、ジェネラルは抑止力になる。
獣も人間に対しては多少の警戒を持っているから、人間とゴブリンが組んだとなれば知性のある魔獣なら簡単には手出し出来なくなるだろう。
それでも襲ってくるようなのは、そこらの野生の獣と変わらないから逆に狩って毛皮をはいでやれば村も潤うし、獣を間引くのにも丁度良いとか言ってた。
言われて、確かにってなった。
確かにってなったけどさ!
それをこいつに指摘されるのは、妙に腹が立つ。
なんてことを考えていたら概ね話が纏まったらしい。
ゴブリンを丁稚させるもう一つの意味を、カナタから聞いたままにアレクがさも自分の意見のように話し、村長と親父さんとジェネラルが感心していた。
いや、ジェネラルだけは分かってますよと言わないばかりに、カナタにも羨望の眼差しを向けていたけどさ。
結論としては、ゴブリンの塒を村の近くに移す事。
基本的に人もゴブリンも、わざと見えるように一緒に行き来すること。
あくまで、人間が上のように振る舞ってみせることなどなど、カナタ発アレク言のアドバイスを与えてそれで試してみようという事になったらしい。
まあ、村としても強力な人手が増える事になるし、カナタ曰くウィンウィンの関係になるらしい。
ウィンウィンって何? って聞いたら両方が得をする、すなわち両方が勝てる関係の事らしい。
私としては、ジェネラルの方が遥かに得るものが多い気がするんだけど。
カナタ曰くジェネラルというのは、やはり将軍の名を付けられるくらいに義に厚く、もしキングになりでもすれば、その立役者としてこの村はキングにとって無条件で友好関係を築ける村になるらしい。
いわゆる先行投資だと、これまた難しい言葉を言われた。
どこか、キングになる事を予言じみているのも気になったけど。
っていうか、見たし。
カナタがジェネラルを膝まづかせて何か渡してるの。
「種は植えた。あとはこれを開花させるも、腐らせるもお前次第だからな」
「はい! 誠実を心掛け、立派な王を目指します。全ては親愛なる真なる王の御心のままに」
というやり取りも聞いた。
コソコソと何をしてるんだろうと、めっちゃ見た!
カナタがチラッとこっちを見て、笑ってたけどマジでこいつだけは油断ならないわ。
「では、これで失礼します」
「どうせ、うちくらいしか飯食えるところないんだから、今日はうちに来るんだろ? 奢らせてくれ。それとジェネラルを倒したって腕前を披露する気は無いか? 店を継ぐ気があるなら娘を賭けてもいいぜ?」
「…………………………いえ…………自分はまだまだ冒険者として何も成してませんので。しばらくはこの稼業を続けます」
あれっ? いつの間に話が終わってたんだろ。
っていうか、そこはすぐに断ってよ!
凄く間があったうえに、苦渋の決断ですみたいな顔しないで?
親父さんの甘誘をどうにか理性で断ったアレクを褒めるべきか、明らかに超迷ってたことを非難すべきか凄く悩むわ。
「結局断ったんだから、そこは見なかった事にしてやろうぜ」
ウルサイ!
お前は人の心を読むのを少し自重しろ!
ムカついたのでカナタの足を思いっきり踏んづける。
「いたい!」
だから、なんでカナタの足を踏んだのにカバチが叫ぶのよ!
「何するんだよ!」
「大事な話の最中に寝てる方が悪い!」
「うっ、ごめん……」
すぐに切り返した私って凄いと思う。
向こうでニヤニヤしてるカナタがムカつくけど。
というか、カバチゴメン。
――――――
「確かにジェネラルと呼ばれるだけあって相当に強かったけど、どうにか勝てる事が出来て良かったですよ」
「アレクさんって、見た目によらずお強いんですね」
「いや、それほどでも」
アレク気付け!
見た目によらずって、見た目弱そうって事だよ?
というか、腕がグズグズになって痛みで気絶してたくせに何言ってるのよ!
ほぼ10割カナタから貰った剣のお陰じゃん。
リアナにキラキラとした目を向けられて、アレクがカッコつけてる。
ああ、あの時の戦いの様子を鮮明に見せられる方法があれば……
「カバチ、これも食べるか?」
「うん!」
「おっ、カバチには足りなかったか! すぐに次の料理を用意してやろう!」
「本当! おじさんの料理って、凄くホッとする味なんだよね。僕、ここの料理がお母さんの料理の次に好きかな」
「そうか! よしっ! じゃあ、今回は特別に肉中心で特別メニューをじゃんじゃん作るぞ!」
「やった! 嬉しい!」
「待ってろよ!」
親父さんがカバチの頭をクシャクシャっとして、厨房に下がる。
カバチのお皿がすぐに空になったので、カナタが自分の分の料理を分けてあげてたのを見て親父さんが声を掛けてきたのだ。
カバチの言葉に気をよくして、色々と作ってくれるみたいだけど……気付けカバチ!
お前はお前で、カナタと親父さんに餌付けされまくってるよ?
それって、同世代の仲間の扱いじゃないから!
村を救った冒険者の扱いじゃないから!
何気にカナタも面倒見が良いよね……私以外に。
「うん? アリスの事もちゃんと気に掛けてるよ?」
「嘘つけ!」
「失礼な奴だなあ」
気に掛ける前に、心を読まない気遣いが欲しい。
そんなに顔に出てるかな?
「アリスの顔は口より語る」
カバチが生意気な事をいやに偉そうな口調で言って来たから、カナタから分けて貰ったブルートラウトのフライを横取りする。
「ああ、アリス酷い!」
「うるさい!」
カバチが悲しそうな表情で叫ぶが、カナタなんかになついて変な事を言う方が悪い!
しっかりとカナタが耳打ちしてたのを見ていた私はついでにカナタも睨む。
「まあまあ、カバチも悪気があった訳じゃないんだしさ」
「いや、あんたが言わせてるよね?」
なに無関係を装ってるのよ。
というか、カバチもカバチだ!
私の方が付き合い長いのに、こんなに簡単にカナタなんかに気を許してなついちゃって!
面白くない。
「有難うカナタ! でも、カナタそれじゃ足りなくなっちゃわない?」
「ああ、気にしなくてもいいよ。これから親父さんの特別メニューが来るらしいからね。少しでもカバチのお腹を膨らませとかないと、俺もそっちが気になるからそっちをたくさん食べたいしね」
「ええ……カナタ酷いよ~」
「ふふ、冗談だよ。俺は元々食は細い方だから、気にせず好きなだけ食べるといいよ」
ふと横を見ると、カナタがまた自分の料理を分けていた。
私も餌付けに挑戦してみようかしら?
「ジェネラルさんの武技が来たときは終わったと思ったよ。でも、その時閃いたんだ。これをそのまま逆らわずに捌いたら、カウンターで同じ技を使えないかってね」
「へえ、命掛けの戦いの中でも冷静なのね。アレクって見掛けに寄らず結構肝が据わってるんだ。凄い凄い!」
「それほどでも……あるかな?」
気付けアレク!
見た目によらず肝が据わってるって、臆病に見られてるって事だからな。
というか、アレクの言動がおかしい……
のわっ!
よく見ると、アレクの前にめっちゃお酒の瓶が並んでた。
こいつ乗せられるままに、リアナさんに飲まされまくったな。
でも、このくらいなら記憶も残るだろうし……ププッ! 明日目と酔いが醒めた時に、自分の今日の言動に身悶えるが良い!
「相変わらず、良い性格だね」
「貴方もね。性格が良いは褒め言葉だけど、良い性格って悪口だからね? 知ってる?」
「そうかな? 褒めたつもりだったんだけど」
くっ! 相変わらず良い性格だわ。
でも、性格も良いんだよね。
さっきからこうやって話す相手も居ない私が、手持無沙汰になるかならないかの微妙なラインで声を掛けて来てるし。
常に爽やかな……裏がありそうな時もあるけど……笑顔を携えて、常に周囲の状況を把握してそこそこ正解に近い行動が出来るあたり底が知れない。
レイクポートのカナタがこいつと同一人物だと言われても、今なら信じてしまいそうだ。
というか、絶対こいつだろ!
今だって、こっちを見てニヤリと笑ってたし。
イーッ!
やっぱこいつ、ムカつく!
そりゃそうか、ゴブリンが仰々しい何かをかついでやって来たんだ。
どっからどう見ても襲撃にしか見えないわね。
もしかしたら、籠が棺桶に見えてたかも。
そして先頭には、妙に年季の入った無骨な鉄の剣を構えるリアナさんのお父さん……安飯屋の店主が立っていてその横に村長さんが杖を持ってこちらを睨んでいた。
「あっ、驚かせてすいません。ジェネラルさんと話を付けてきました」
アレクが籠から顔を出すと、親父さんと村長がさらに驚いた顔してた。
そっちの方が驚くわな。
――――――
「なるほど……アレクさんが一人でジェネラルさんを倒した結果、ゴブリンさん達が損害の賠償に応じたと」
「はい」
村長の家で私達4人と村長さん、それから補佐兼護衛の親父さん、さらにジェネラルの6人と1匹で話し合いが始まる。
「ちなみに、その契約書の信頼度はどれくらいのもんだ?」
親父さんが鋭い目つきでジェネラルを睨みつつ、質問してくる。
なんとなくだけど、親父さんとジェネラルの威圧感が同じくらいに感じられる。
まあ、代を重ねる毎に強くなる戦闘系店主の現正当後継者だしね。
いつから続いている風習か知らないけど、かなり強いというのは想像できるわ。
「フッ、人間よ我ら魔の者にとって血判をついた契約書の重さは知っておろう? この書に逆らったらどうなるかくらい聞いた事無いか?」
「それを直接あんたの口から聞きたいんだがな? まあ、信用出来るかは別として」
「外の人間に頼らねば自分の縄張りすら守れぬくせに言いよるわ!」
二人の間に火花が散ってるよ。
と言っても、アレクと対峙した時以上に緊張するけど。
「ああ、お前ここに謝りに来たんだろ? そこは素直に聞いとけって」
「えっ? あっ、はい。えっと、契約に逆らった場合、基本的には全身が焼かれて灰になります。ただこれは一般に大きな魔力を持つ上位の魔族の場合のみでありまして……理由としては彼等の血に込められた魔力の大きさ故に契約が絶対の効力を持つというだけで、自分程度の魔力の場合はジェネラルからただのゴブリンに戻るという程度ですね。ただ、現状ではそれだけで死活問題になるであります」
偉く素直に従ったなジェネラル。
親父さんも村長さんも目を丸くしてるよ?
でもさ……貴方を倒したのって、今話しかけたカナタじゃなくてアレクだよね?
「一度は私も倒してますし、また逆らうような事があったらね?」
「ああ、お主とはあまりやりたくは無いからのう。そこの坊主の言う通りだ! 基本的にはこれからは契約書の通りにお世話になりたい。いや、そちらが許してくれるのであればだが」
……
アレクに対しては、素の口調なんだねジェネラルさん。
完全に親父さんと村長さんの視線はカナタに釘付けだよ?
気付いてる?
「なあ? そこのジェネラルを倒したのって、黒髪の兄ちゃんじゃなくてそっちの剣士だよな?」
「そうですが、何か?」
「左様、わしはこの男に敗れたのだが、何かあるのか?」
「いや……」
親父さんが思わず突っ込んでしまったが、その事に対して何かおかしいことでもあった? とばかりに見つめる二人に毒気を抜かれたのか、呆れた表情で首を振っている。
「まあ、話はよく分かりました。取りあえず今回はアレクさんたちの言う事を信用しようとは思います。ただ、貴方達が裏で繋がっているという可能性もあるでのう。村にまんまと忍び込んだ後にという事も考えられるから、毎日4人程交代で人? ゴブリン? を寄越して下さい。食べ物は帰りに持たせるとしましょう」
「ふむ、わしとしては一族総出で手伝いたかったのじゃが」
「いいのですか?」
「ああ、ゴブリンの王様の話は有名じゃからの。これほどまでに知性を持ったゴブリンであれば、まずは少し歩み寄ってものう。それに、もし彼等が全滅したら今度は獣の危険に脅かされる可能性もあるのじゃろうし」
そうね、そう言えばカナタもそう言ってたわ。
最初、なんでジェネラルを倒した後にゴブリンを殲滅しないのか尋ねたら、ゴブリンという餌が無くなったら獣が次に狙うのはどこかな? って聞かれたわ。
そんなの当然村に決まってるじゃない! って当然のようにドヤ顔で答えたら、聞かれないと考えない時点でダメダメって言われたわ。
いま、思い出しても腹立つ! ……と同時に恥ずかしかったけどさ。
こいつって、飄々としてるくせに意外と考えてるんだよね。
ゴブリンは餌だけど、ジェネラルは抑止力になる。
獣も人間に対しては多少の警戒を持っているから、人間とゴブリンが組んだとなれば知性のある魔獣なら簡単には手出し出来なくなるだろう。
それでも襲ってくるようなのは、そこらの野生の獣と変わらないから逆に狩って毛皮をはいでやれば村も潤うし、獣を間引くのにも丁度良いとか言ってた。
言われて、確かにってなった。
確かにってなったけどさ!
それをこいつに指摘されるのは、妙に腹が立つ。
なんてことを考えていたら概ね話が纏まったらしい。
ゴブリンを丁稚させるもう一つの意味を、カナタから聞いたままにアレクがさも自分の意見のように話し、村長と親父さんとジェネラルが感心していた。
いや、ジェネラルだけは分かってますよと言わないばかりに、カナタにも羨望の眼差しを向けていたけどさ。
結論としては、ゴブリンの塒を村の近くに移す事。
基本的に人もゴブリンも、わざと見えるように一緒に行き来すること。
あくまで、人間が上のように振る舞ってみせることなどなど、カナタ発アレク言のアドバイスを与えてそれで試してみようという事になったらしい。
まあ、村としても強力な人手が増える事になるし、カナタ曰くウィンウィンの関係になるらしい。
ウィンウィンって何? って聞いたら両方が得をする、すなわち両方が勝てる関係の事らしい。
私としては、ジェネラルの方が遥かに得るものが多い気がするんだけど。
カナタ曰くジェネラルというのは、やはり将軍の名を付けられるくらいに義に厚く、もしキングになりでもすれば、その立役者としてこの村はキングにとって無条件で友好関係を築ける村になるらしい。
いわゆる先行投資だと、これまた難しい言葉を言われた。
どこか、キングになる事を予言じみているのも気になったけど。
っていうか、見たし。
カナタがジェネラルを膝まづかせて何か渡してるの。
「種は植えた。あとはこれを開花させるも、腐らせるもお前次第だからな」
「はい! 誠実を心掛け、立派な王を目指します。全ては親愛なる真なる王の御心のままに」
というやり取りも聞いた。
コソコソと何をしてるんだろうと、めっちゃ見た!
カナタがチラッとこっちを見て、笑ってたけどマジでこいつだけは油断ならないわ。
「では、これで失礼します」
「どうせ、うちくらいしか飯食えるところないんだから、今日はうちに来るんだろ? 奢らせてくれ。それとジェネラルを倒したって腕前を披露する気は無いか? 店を継ぐ気があるなら娘を賭けてもいいぜ?」
「…………………………いえ…………自分はまだまだ冒険者として何も成してませんので。しばらくはこの稼業を続けます」
あれっ? いつの間に話が終わってたんだろ。
っていうか、そこはすぐに断ってよ!
凄く間があったうえに、苦渋の決断ですみたいな顔しないで?
親父さんの甘誘をどうにか理性で断ったアレクを褒めるべきか、明らかに超迷ってたことを非難すべきか凄く悩むわ。
「結局断ったんだから、そこは見なかった事にしてやろうぜ」
ウルサイ!
お前は人の心を読むのを少し自重しろ!
ムカついたのでカナタの足を思いっきり踏んづける。
「いたい!」
だから、なんでカナタの足を踏んだのにカバチが叫ぶのよ!
「何するんだよ!」
「大事な話の最中に寝てる方が悪い!」
「うっ、ごめん……」
すぐに切り返した私って凄いと思う。
向こうでニヤニヤしてるカナタがムカつくけど。
というか、カバチゴメン。
――――――
「確かにジェネラルと呼ばれるだけあって相当に強かったけど、どうにか勝てる事が出来て良かったですよ」
「アレクさんって、見た目によらずお強いんですね」
「いや、それほどでも」
アレク気付け!
見た目によらずって、見た目弱そうって事だよ?
というか、腕がグズグズになって痛みで気絶してたくせに何言ってるのよ!
ほぼ10割カナタから貰った剣のお陰じゃん。
リアナにキラキラとした目を向けられて、アレクがカッコつけてる。
ああ、あの時の戦いの様子を鮮明に見せられる方法があれば……
「カバチ、これも食べるか?」
「うん!」
「おっ、カバチには足りなかったか! すぐに次の料理を用意してやろう!」
「本当! おじさんの料理って、凄くホッとする味なんだよね。僕、ここの料理がお母さんの料理の次に好きかな」
「そうか! よしっ! じゃあ、今回は特別に肉中心で特別メニューをじゃんじゃん作るぞ!」
「やった! 嬉しい!」
「待ってろよ!」
親父さんがカバチの頭をクシャクシャっとして、厨房に下がる。
カバチのお皿がすぐに空になったので、カナタが自分の分の料理を分けてあげてたのを見て親父さんが声を掛けてきたのだ。
カバチの言葉に気をよくして、色々と作ってくれるみたいだけど……気付けカバチ!
お前はお前で、カナタと親父さんに餌付けされまくってるよ?
それって、同世代の仲間の扱いじゃないから!
村を救った冒険者の扱いじゃないから!
何気にカナタも面倒見が良いよね……私以外に。
「うん? アリスの事もちゃんと気に掛けてるよ?」
「嘘つけ!」
「失礼な奴だなあ」
気に掛ける前に、心を読まない気遣いが欲しい。
そんなに顔に出てるかな?
「アリスの顔は口より語る」
カバチが生意気な事をいやに偉そうな口調で言って来たから、カナタから分けて貰ったブルートラウトのフライを横取りする。
「ああ、アリス酷い!」
「うるさい!」
カバチが悲しそうな表情で叫ぶが、カナタなんかになついて変な事を言う方が悪い!
しっかりとカナタが耳打ちしてたのを見ていた私はついでにカナタも睨む。
「まあまあ、カバチも悪気があった訳じゃないんだしさ」
「いや、あんたが言わせてるよね?」
なに無関係を装ってるのよ。
というか、カバチもカバチだ!
私の方が付き合い長いのに、こんなに簡単にカナタなんかに気を許してなついちゃって!
面白くない。
「有難うカナタ! でも、カナタそれじゃ足りなくなっちゃわない?」
「ああ、気にしなくてもいいよ。これから親父さんの特別メニューが来るらしいからね。少しでもカバチのお腹を膨らませとかないと、俺もそっちが気になるからそっちをたくさん食べたいしね」
「ええ……カナタ酷いよ~」
「ふふ、冗談だよ。俺は元々食は細い方だから、気にせず好きなだけ食べるといいよ」
ふと横を見ると、カナタがまた自分の料理を分けていた。
私も餌付けに挑戦してみようかしら?
「ジェネラルさんの武技が来たときは終わったと思ったよ。でも、その時閃いたんだ。これをそのまま逆らわずに捌いたら、カウンターで同じ技を使えないかってね」
「へえ、命掛けの戦いの中でも冷静なのね。アレクって見掛けに寄らず結構肝が据わってるんだ。凄い凄い!」
「それほどでも……あるかな?」
気付けアレク!
見た目によらず肝が据わってるって、臆病に見られてるって事だからな。
というか、アレクの言動がおかしい……
のわっ!
よく見ると、アレクの前にめっちゃお酒の瓶が並んでた。
こいつ乗せられるままに、リアナさんに飲まされまくったな。
でも、このくらいなら記憶も残るだろうし……ププッ! 明日目と酔いが醒めた時に、自分の今日の言動に身悶えるが良い!
「相変わらず、良い性格だね」
「貴方もね。性格が良いは褒め言葉だけど、良い性格って悪口だからね? 知ってる?」
「そうかな? 褒めたつもりだったんだけど」
くっ! 相変わらず良い性格だわ。
でも、性格も良いんだよね。
さっきからこうやって話す相手も居ない私が、手持無沙汰になるかならないかの微妙なラインで声を掛けて来てるし。
常に爽やかな……裏がありそうな時もあるけど……笑顔を携えて、常に周囲の状況を把握してそこそこ正解に近い行動が出来るあたり底が知れない。
レイクポートのカナタがこいつと同一人物だと言われても、今なら信じてしまいそうだ。
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亘善
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【点滴穿石】という四字熟語ユニークギフト持ちの龍泉麟瞳は、Aランクダンジョンの攻略を失敗した後にパーティを追放されてしまう。地元の岡山に戻った麟瞳は新たに【幸運】のスキルを得て、家族や周りの人達に支えられながら少しずつ成長していく。夢はSランク探索者になること。これは、夢を叶えるために日々努力を続ける龍泉麟瞳のお話である。
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