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第2章:北風とカナタのバジリスク退治!~アリスの場合~
第7話:エストの村のゴブリン退治4
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村長の屋敷の中に案内されて、テーブルに着くとお茶が出される。
へえっ、てっきり白湯でも出されるかと思ったけど、ちゃんと冒険者として認めてくれてるってことか。
ふとカナタの方に目をやると、お茶を飲んで満足そうに頷いてる。
どう見ても15歳にも見えないけど、こいつの事を考えるだけ時間の無駄だ。
「さてと、早速ですが貴方達がゴブリン退治に来られた冒険者パーティという事で宜しいか?」
「ええ、一応その予定で伺いました」
村長の言葉に対して答えるのは、我らがリーダーアレクだ。
カバチは既に空になった茶碗を眺め、おかわりが欲しそうにチラチラと村長さんを見ている。
確かにこのお茶美味しい。
少しずつ味わって飲まないと。
そう思ってカバチの方に再度目をやると、カナタがカバチの茶碗に手を翳している。
「ブッ!」
「どうされましたか?」
思わず吹き出してしまった私に対して村長さんが心配そうに声を掛けている。
「えっ? いや、その」
思わぬ注目を浴びてしまい、思わず赤面して俯きつつ横に目をやる。
カバチが思いっきり馬鹿にした顔してて、腹立つわ!
絶対後でぶん殴る。
どうやら意志が伝わったらしく、慌ててカバチが顔を反らすがもう遅い。
これは決定事項だ。
ふとカナタの方に目をやる。
相変わらず何を考えているのか分からない、パッと見爽やかな笑顔を携えて村長とアレクのやり取りを眺めている。
「まずですが、そのゴブリンが塒にしている場所は分かりますか?」
「いえ、村を三方から囲む森の西側からやってくるという事しか。主に被害を受けるのもそちら方面の畑や牧場となりますし」
ふーん、取りあえずそれなら家畜を他の場所に移すとか、そちら方面に高い柵や堀、もしくは見張りをふやすとかすればいいじゃない。
「それだと、ゴブリンが食べ物を探して村の中に入り込んだり、迂回する間にある民家や小屋を襲うかもしれないだろ」
「言われてみればそうね」
カナタの言葉に納得しかけて違和感を感じる。
いま、もしかしてこいつ私の心の中を読んでなかった?
思わずカナタを睨む付けるように見るが、すでにその視線は村長の方に移されていた。
「まあ、ゴブリンが人里にまで現れてるんだ。すでに異常事態は始まっていると思います」
「ふむ、若いと思っていた割に、しっかりと情報を集めていらっしゃるようですな」
アレクの返事に対して、村長がちょっと驚いたように、それでいて満足したように頷いている。
怪しい。
「種のリーダーの出現……もしくは可能性は低いでしょうが種族進化の可能性も視野に入れて行動した方が良いですね。何か、最近ゴブリンに対して危機的な状況とか、もしくは変わった事はありませんか?」
「ふふっ、なるほど。意外と優秀な人材が派遣されたようだ。最近森の奥で肉食獣が増えているという事は既にご存知なのでは?」
「ええ、知ってます」
ちょっと自慢げにアレクが答えているが、実際はカナタに教えてもらっただけでしょ。
カナタの手柄を自分のものにするとか、こいつってこんな小賢しい奴だったっけ?
「ああ、一応今回は俺はサポーターだからな。主な交渉をするリーダーがこの程度の情報を掴んでないとなると問題だろ?」
小声でカナタが耳打ちしてくる。
「それが、気が抜けない村長ならなおさらさ」
「確かにそうなんだけど、なんで考えている事が分かるのよ!」
思わず大声を出してしまったため、またも村長とアレクとカバチに見られる。
うう、恥ずかしい。
これも全部カナタのせいだ。
「えっ? アリス気付いてないの? アリスの考えてる事なんて顔見たら分かるぞ? 恐らくアレクもカバチも」
うそっ!
アレクはともかく、昨日今日会ったばっかりのカナタにも分かるくらいに、分かりやすい表情してるの私。
というか、カバチにすら考えてる事が分かるってどんだけ間抜けなのよ!
思わぬ事実に驚愕としている間にも、2人の間での交渉は進んでいく。
「となると、ゴブリンの中にゴブリンリーダー……もしくは最悪ジェネラルが居る可能性もありますね」
「ジェネラルですか?」
「いや、もしジェネラルが居れば、肉食獣相手にもある程度抵抗は出来るでしょうから可能性は限りなく低いでしょうが……種族進化に備えた食料の備蓄という可能性も0では無いので」
「ああ、そうなると少しでも数を減らすような事は避けたいと。であれば、肉食獣相手に被害を覚悟で肉を確保するよりも、人間に警戒されつつも討伐されない程度に強奪を行うと」
朝の食堂でのやり取りから村長に会うまで、カナタとアレクが色々と話し合ってたけど、本当に色々と考えてたみたいね。
私は魔法使いという頭脳職だけど、頭脳担当じゃないのでここらへんはいつもアレクに丸投げだ。
とはいえ、アレク一人の時と比べると圧倒的にしっかりとした考えと意見が出ている。
というか、たぶんこれ殆どカナタの入れ知恵なんじゃ……
ふとカナタの方を見ると、唇に指を当ててシーッとされる。
なんか考え付くと、ついカナタの様子を確かめるような癖がついてしまった。
なんか妙にカナタの事が気になる。
もしかして、これが恋!
そしてまたカナタを見る。
ナイナイといった様子で、目の前で手を振っているカナタ。
イラッ!
「であれば、私達が今晩ゴブリンを退ければ彼らがこの村を襲う事は無いでしょう」
「ほうっ、何故ですか?」
アレクの答えに対して村長の目がキラリと光る。
そして、それを見たカナタの表情がニヤリとした。
村長の目が細められた時にカナタの様子を見なければ気付かなかっただろうけど、カナタの読みが恐らく近い所にいっている気がする。
この村長、ギルドの回し者だろう。
「この村に冒険者、護衛が雇われたという事は目を付けられたと奴等は思うでしょう? もし満足のいく戦力が無ければ、ある程度の食糧も蓄えられたでしょうし、次の標的となる村や人里を探す旅に出る可能性が非常に高い」
「なるほど! じゃあ、貴方達がゴブリンを撃退すれば、この村は安心という事ですね」
「ええ、ただ一回だけでは、また間を空けて様子を見にくるでしょうから、常駐していると思わせるために2週間くらいは見張りは続けた方がいいでしょう。それに、村長も同じ考えだからこそ、低いランクの冒険者に依頼したのでは?」
アレクの確信を付く答えに対して、村長が今度こそ驚いた表情をして両手をあげる。
「まさか! たまたまですよ」
それからニヤニヤとした表情で首を横に振る。
これはもう肯定と取っても良い気がする。
「でも、時間が惜しいので今回はあえて襲撃させて後を付けて巣を突き止めようかと」
「えっ?」
アレクの言葉に思わず素っ頓狂な声をあげたのは、村長じゃなくて私だ。
そんな話聞いてないんですけど。
聞いてないのではなく、元々聞く気が無かったでは? という疑惑の目をカナタから向けられた気がしたが気のせいだと思いたい。
――――――
「まず、今回のゴブリン騒動だが、間違いなくリーダー以上の存在が現れたのは確定的だと思う」
それから『止まり木』に戻って来た私達は今後の方針について話し合いを始める。
と言っても私も、カバチもアレクが決めた事に従うのみなのだが。
今回は、妙に色々と詳しいカナタも居るから、話し合いが出来るという事でアレクがウキウキしているのは見て見ぬふりをするのが人情よね?
私だって、たまには空気が読めるんだから。
「そして、そのことを村長は知っているとアレクは思っていると?」
「うん! でカナタはどの程度までを想定してる?」
早速今までの仲間ではなく、カナタに意見を求めるアレクにちょっと寂しい思いを感じつつ、たぶんゲストに花を持たせようとしてるのよと自分に言い聞かせる。
といっても、私だってカナタが割と冒険者として優秀なのは既に嫌々ながら理解はし始めている。
「そうだな、まずはジェネラルクラス以上でほぼ間違い無いかな?」
「ジェッ!」
「ええ! ジェネラル?」
カナタの見立てに思わず、私とカバチが声をあげる。
アレクの方を見てみると、黙って頷いている。
流石、我らが頭脳担当。
一応、ジェネラルが居る事も視野に入れていた様子だ。
「下手したらキングの可能性も。ただ他は普通のゴブリン種のみだとは思うが」
「カナタはなんでそう思うの?」
さらに突っ込んだ質問をするアレク。
うんうん、私にはさっぱりだからここはカナタとアレクの意見を参考にしない。
「簡単だよ、行動が慎重過ぎる。もしリーダー程度であれば、自身の力を過信し力ずくで村から強引な強奪を行うはずだ」
「うんうん」
「なるべく人間を刺激しないように、かつ必要な食料を奪っているあたりから、相手のリーダーは種族を纏めるものとして、仲間を大切にするようだ。さらに他のゴブリンがこれだけある食料を前に暴走をしていない」
「だとすれば、統率力と知性が大幅に向上する将軍、もしくは……」
「そう、種族として群れではなく、軍や団体としての強制力を発動できる王クラスが現れたと考えて、こちらも慎重に動いておいた方がいいと思う。仮にそれでゴブリンリーダー程度であれば、楽に対応できるし。仮にキングだとしても、最初からその心構えがあれば対応も出来なくはない」
「王であれば、交渉が可能だから?」
「そうだ。不用意に殲滅に走って王を刺激するのは、不味いだろ?」
「となると一番厄介なのは、武闘派であるジェネラルか」
そう、キングクラスの知性ともなると人間の文化に興味を示し、また流暢な共通言語を使う為交渉が容易に出来る。
だが、ジェネラルクラスは人間を下に見ており、万が一の場合は自分一人である程度は対応できると考えている。
そのため、自分達の行動がバレていしまった場合、ジェネラル一人が死にもの狂いで反撃をしてくる可能性もあり、初心者に近い私達はではジェネラルに勝つことは容易ではない。
うんうん、パーティ会議っぽくなってきたわね。
カバチは既に半分目が閉じ掛かっているけど、カナタもそっちをチラッと見るだけで特に気にした様子は無い。
元から期待されてないみたいね。
プッ! カバチらしいや。
「じゃあ、一番警戒すべきは相手のリーダーがゴブリンジェネラルだった場合か」
「そうだな。とはいえそれ以外はただの雑魚ゴブリンだから、逆に言えばジェネラルだけを気に掛ければ良い」
「……」
カナタの言葉にアレクが黙り込む。
あれっ? ここまでで気付いたけど、結局私も聞いてるだけで、何も発言してない。
やばい、このままじゃカバチと同じポジション!
既に、二人の中でアリスがカバチと同じポジションであることには気付いていないようである。
「えっと、仮にゴブリンジェネラルだった場合、アレクとカナタが二人で挑んだら勝率はどのくらい?」
「えっ? えっと、どのぐらいにしようか? まあ、俺はあんまり戦力にならないと思うけど」
「はっ?」
ここに来て急にカナタの答えがあやふやなものになった。
どういう事?
「どのくらいにしようかって? 100%に越した事は無いんだけど?」
あれっ? この答えもおかしい気がする。
でも、もう言っちゃったし。
「ああ、そうだよな……うん、そうか。いや、実質100%にするのは簡単なんだけどな」
『はっ?』
カナタがいとも簡単に答えた事で、今度はアレクも一緒になって素っ頓狂な声をあげている。
そりゃそうでしょ?
ゴブリンジェネラルとなったら、単体でもF級が束にならないとまず無理な訳で、E級冒険者でようやく6人、B級までいけば1人でどうにか出来るかもといった強さだ、
C級が二人でも、一歩間違えれば大怪我に繋がるような魔物だ。
「いや、オーガ級の膂力に、人間並みの知性、そして剣術と槍術のスキル持ちっていうだけで、ゴブリンメイジと違って魔法は使えないからな」
「まあ、そうなんだけどさ。剣と槍のスキルを持ったオーガ並みの膂力の人間ってのが最大な脅威なんじゃないの?」
カナタの言葉を借りて、そのまま自分の意見を述べてみる。
ああ、私いま戦略的なパーティ会議に参加してるわ!
これって、かなり冒険者っぽい!
すでに冒険者である。
「アリスの言う通りだよ! カナタの実力がどれほどか知らないけどさ、俺一人じゃ到底そんな化け物には……」
「うん、だから俺の指示通りに動いてくれれば、ほぼほぼ負ける事は無いよ? あとは、あの固い皮膚にダメージを入れられそうな武器があればだけど」
忘れてた。
ジェネラルってなんでか知らないけど、滅茶苦茶皮膚が強化されてる上に、防具まで身に着けてるのよね。
周囲の魔力を取り込んで、一点ものの鎧を形成するって噂だけど。
「今回はやむかたなしか……ここで、死なれても夢見が悪いしな」
そう言ってカナタが何も無いところから、一振りの剣を取り出す。
『えっ?』
またも素っ頓狂な声をあげる、アレクと私。
突然の大声にビクッとなるカバチ。
こいつ寝てやがった。
その剣は淡い青が混じった白銀の剣……そう、ミスリル銀で作られたロングソードだった。
えっ? こいつマジでなんなの?
というか、どっからそれ取り出したの?
へえっ、てっきり白湯でも出されるかと思ったけど、ちゃんと冒険者として認めてくれてるってことか。
ふとカナタの方に目をやると、お茶を飲んで満足そうに頷いてる。
どう見ても15歳にも見えないけど、こいつの事を考えるだけ時間の無駄だ。
「さてと、早速ですが貴方達がゴブリン退治に来られた冒険者パーティという事で宜しいか?」
「ええ、一応その予定で伺いました」
村長の言葉に対して答えるのは、我らがリーダーアレクだ。
カバチは既に空になった茶碗を眺め、おかわりが欲しそうにチラチラと村長さんを見ている。
確かにこのお茶美味しい。
少しずつ味わって飲まないと。
そう思ってカバチの方に再度目をやると、カナタがカバチの茶碗に手を翳している。
「ブッ!」
「どうされましたか?」
思わず吹き出してしまった私に対して村長さんが心配そうに声を掛けている。
「えっ? いや、その」
思わぬ注目を浴びてしまい、思わず赤面して俯きつつ横に目をやる。
カバチが思いっきり馬鹿にした顔してて、腹立つわ!
絶対後でぶん殴る。
どうやら意志が伝わったらしく、慌ててカバチが顔を反らすがもう遅い。
これは決定事項だ。
ふとカナタの方に目をやる。
相変わらず何を考えているのか分からない、パッと見爽やかな笑顔を携えて村長とアレクのやり取りを眺めている。
「まずですが、そのゴブリンが塒にしている場所は分かりますか?」
「いえ、村を三方から囲む森の西側からやってくるという事しか。主に被害を受けるのもそちら方面の畑や牧場となりますし」
ふーん、取りあえずそれなら家畜を他の場所に移すとか、そちら方面に高い柵や堀、もしくは見張りをふやすとかすればいいじゃない。
「それだと、ゴブリンが食べ物を探して村の中に入り込んだり、迂回する間にある民家や小屋を襲うかもしれないだろ」
「言われてみればそうね」
カナタの言葉に納得しかけて違和感を感じる。
いま、もしかしてこいつ私の心の中を読んでなかった?
思わずカナタを睨む付けるように見るが、すでにその視線は村長の方に移されていた。
「まあ、ゴブリンが人里にまで現れてるんだ。すでに異常事態は始まっていると思います」
「ふむ、若いと思っていた割に、しっかりと情報を集めていらっしゃるようですな」
アレクの返事に対して、村長がちょっと驚いたように、それでいて満足したように頷いている。
怪しい。
「種のリーダーの出現……もしくは可能性は低いでしょうが種族進化の可能性も視野に入れて行動した方が良いですね。何か、最近ゴブリンに対して危機的な状況とか、もしくは変わった事はありませんか?」
「ふふっ、なるほど。意外と優秀な人材が派遣されたようだ。最近森の奥で肉食獣が増えているという事は既にご存知なのでは?」
「ええ、知ってます」
ちょっと自慢げにアレクが答えているが、実際はカナタに教えてもらっただけでしょ。
カナタの手柄を自分のものにするとか、こいつってこんな小賢しい奴だったっけ?
「ああ、一応今回は俺はサポーターだからな。主な交渉をするリーダーがこの程度の情報を掴んでないとなると問題だろ?」
小声でカナタが耳打ちしてくる。
「それが、気が抜けない村長ならなおさらさ」
「確かにそうなんだけど、なんで考えている事が分かるのよ!」
思わず大声を出してしまったため、またも村長とアレクとカバチに見られる。
うう、恥ずかしい。
これも全部カナタのせいだ。
「えっ? アリス気付いてないの? アリスの考えてる事なんて顔見たら分かるぞ? 恐らくアレクもカバチも」
うそっ!
アレクはともかく、昨日今日会ったばっかりのカナタにも分かるくらいに、分かりやすい表情してるの私。
というか、カバチにすら考えてる事が分かるってどんだけ間抜けなのよ!
思わぬ事実に驚愕としている間にも、2人の間での交渉は進んでいく。
「となると、ゴブリンの中にゴブリンリーダー……もしくは最悪ジェネラルが居る可能性もありますね」
「ジェネラルですか?」
「いや、もしジェネラルが居れば、肉食獣相手にもある程度抵抗は出来るでしょうから可能性は限りなく低いでしょうが……種族進化に備えた食料の備蓄という可能性も0では無いので」
「ああ、そうなると少しでも数を減らすような事は避けたいと。であれば、肉食獣相手に被害を覚悟で肉を確保するよりも、人間に警戒されつつも討伐されない程度に強奪を行うと」
朝の食堂でのやり取りから村長に会うまで、カナタとアレクが色々と話し合ってたけど、本当に色々と考えてたみたいね。
私は魔法使いという頭脳職だけど、頭脳担当じゃないのでここらへんはいつもアレクに丸投げだ。
とはいえ、アレク一人の時と比べると圧倒的にしっかりとした考えと意見が出ている。
というか、たぶんこれ殆どカナタの入れ知恵なんじゃ……
ふとカナタの方を見ると、唇に指を当ててシーッとされる。
なんか考え付くと、ついカナタの様子を確かめるような癖がついてしまった。
なんか妙にカナタの事が気になる。
もしかして、これが恋!
そしてまたカナタを見る。
ナイナイといった様子で、目の前で手を振っているカナタ。
イラッ!
「であれば、私達が今晩ゴブリンを退ければ彼らがこの村を襲う事は無いでしょう」
「ほうっ、何故ですか?」
アレクの答えに対して村長の目がキラリと光る。
そして、それを見たカナタの表情がニヤリとした。
村長の目が細められた時にカナタの様子を見なければ気付かなかっただろうけど、カナタの読みが恐らく近い所にいっている気がする。
この村長、ギルドの回し者だろう。
「この村に冒険者、護衛が雇われたという事は目を付けられたと奴等は思うでしょう? もし満足のいく戦力が無ければ、ある程度の食糧も蓄えられたでしょうし、次の標的となる村や人里を探す旅に出る可能性が非常に高い」
「なるほど! じゃあ、貴方達がゴブリンを撃退すれば、この村は安心という事ですね」
「ええ、ただ一回だけでは、また間を空けて様子を見にくるでしょうから、常駐していると思わせるために2週間くらいは見張りは続けた方がいいでしょう。それに、村長も同じ考えだからこそ、低いランクの冒険者に依頼したのでは?」
アレクの確信を付く答えに対して、村長が今度こそ驚いた表情をして両手をあげる。
「まさか! たまたまですよ」
それからニヤニヤとした表情で首を横に振る。
これはもう肯定と取っても良い気がする。
「でも、時間が惜しいので今回はあえて襲撃させて後を付けて巣を突き止めようかと」
「えっ?」
アレクの言葉に思わず素っ頓狂な声をあげたのは、村長じゃなくて私だ。
そんな話聞いてないんですけど。
聞いてないのではなく、元々聞く気が無かったでは? という疑惑の目をカナタから向けられた気がしたが気のせいだと思いたい。
――――――
「まず、今回のゴブリン騒動だが、間違いなくリーダー以上の存在が現れたのは確定的だと思う」
それから『止まり木』に戻って来た私達は今後の方針について話し合いを始める。
と言っても私も、カバチもアレクが決めた事に従うのみなのだが。
今回は、妙に色々と詳しいカナタも居るから、話し合いが出来るという事でアレクがウキウキしているのは見て見ぬふりをするのが人情よね?
私だって、たまには空気が読めるんだから。
「そして、そのことを村長は知っているとアレクは思っていると?」
「うん! でカナタはどの程度までを想定してる?」
早速今までの仲間ではなく、カナタに意見を求めるアレクにちょっと寂しい思いを感じつつ、たぶんゲストに花を持たせようとしてるのよと自分に言い聞かせる。
といっても、私だってカナタが割と冒険者として優秀なのは既に嫌々ながら理解はし始めている。
「そうだな、まずはジェネラルクラス以上でほぼ間違い無いかな?」
「ジェッ!」
「ええ! ジェネラル?」
カナタの見立てに思わず、私とカバチが声をあげる。
アレクの方を見てみると、黙って頷いている。
流石、我らが頭脳担当。
一応、ジェネラルが居る事も視野に入れていた様子だ。
「下手したらキングの可能性も。ただ他は普通のゴブリン種のみだとは思うが」
「カナタはなんでそう思うの?」
さらに突っ込んだ質問をするアレク。
うんうん、私にはさっぱりだからここはカナタとアレクの意見を参考にしない。
「簡単だよ、行動が慎重過ぎる。もしリーダー程度であれば、自身の力を過信し力ずくで村から強引な強奪を行うはずだ」
「うんうん」
「なるべく人間を刺激しないように、かつ必要な食料を奪っているあたりから、相手のリーダーは種族を纏めるものとして、仲間を大切にするようだ。さらに他のゴブリンがこれだけある食料を前に暴走をしていない」
「だとすれば、統率力と知性が大幅に向上する将軍、もしくは……」
「そう、種族として群れではなく、軍や団体としての強制力を発動できる王クラスが現れたと考えて、こちらも慎重に動いておいた方がいいと思う。仮にそれでゴブリンリーダー程度であれば、楽に対応できるし。仮にキングだとしても、最初からその心構えがあれば対応も出来なくはない」
「王であれば、交渉が可能だから?」
「そうだ。不用意に殲滅に走って王を刺激するのは、不味いだろ?」
「となると一番厄介なのは、武闘派であるジェネラルか」
そう、キングクラスの知性ともなると人間の文化に興味を示し、また流暢な共通言語を使う為交渉が容易に出来る。
だが、ジェネラルクラスは人間を下に見ており、万が一の場合は自分一人である程度は対応できると考えている。
そのため、自分達の行動がバレていしまった場合、ジェネラル一人が死にもの狂いで反撃をしてくる可能性もあり、初心者に近い私達はではジェネラルに勝つことは容易ではない。
うんうん、パーティ会議っぽくなってきたわね。
カバチは既に半分目が閉じ掛かっているけど、カナタもそっちをチラッと見るだけで特に気にした様子は無い。
元から期待されてないみたいね。
プッ! カバチらしいや。
「じゃあ、一番警戒すべきは相手のリーダーがゴブリンジェネラルだった場合か」
「そうだな。とはいえそれ以外はただの雑魚ゴブリンだから、逆に言えばジェネラルだけを気に掛ければ良い」
「……」
カナタの言葉にアレクが黙り込む。
あれっ? ここまでで気付いたけど、結局私も聞いてるだけで、何も発言してない。
やばい、このままじゃカバチと同じポジション!
既に、二人の中でアリスがカバチと同じポジションであることには気付いていないようである。
「えっと、仮にゴブリンジェネラルだった場合、アレクとカナタが二人で挑んだら勝率はどのくらい?」
「えっ? えっと、どのぐらいにしようか? まあ、俺はあんまり戦力にならないと思うけど」
「はっ?」
ここに来て急にカナタの答えがあやふやなものになった。
どういう事?
「どのくらいにしようかって? 100%に越した事は無いんだけど?」
あれっ? この答えもおかしい気がする。
でも、もう言っちゃったし。
「ああ、そうだよな……うん、そうか。いや、実質100%にするのは簡単なんだけどな」
『はっ?』
カナタがいとも簡単に答えた事で、今度はアレクも一緒になって素っ頓狂な声をあげている。
そりゃそうでしょ?
ゴブリンジェネラルとなったら、単体でもF級が束にならないとまず無理な訳で、E級冒険者でようやく6人、B級までいけば1人でどうにか出来るかもといった強さだ、
C級が二人でも、一歩間違えれば大怪我に繋がるような魔物だ。
「いや、オーガ級の膂力に、人間並みの知性、そして剣術と槍術のスキル持ちっていうだけで、ゴブリンメイジと違って魔法は使えないからな」
「まあ、そうなんだけどさ。剣と槍のスキルを持ったオーガ並みの膂力の人間ってのが最大な脅威なんじゃないの?」
カナタの言葉を借りて、そのまま自分の意見を述べてみる。
ああ、私いま戦略的なパーティ会議に参加してるわ!
これって、かなり冒険者っぽい!
すでに冒険者である。
「アリスの言う通りだよ! カナタの実力がどれほどか知らないけどさ、俺一人じゃ到底そんな化け物には……」
「うん、だから俺の指示通りに動いてくれれば、ほぼほぼ負ける事は無いよ? あとは、あの固い皮膚にダメージを入れられそうな武器があればだけど」
忘れてた。
ジェネラルってなんでか知らないけど、滅茶苦茶皮膚が強化されてる上に、防具まで身に着けてるのよね。
周囲の魔力を取り込んで、一点ものの鎧を形成するって噂だけど。
「今回はやむかたなしか……ここで、死なれても夢見が悪いしな」
そう言ってカナタが何も無いところから、一振りの剣を取り出す。
『えっ?』
またも素っ頓狂な声をあげる、アレクと私。
突然の大声にビクッとなるカバチ。
こいつ寝てやがった。
その剣は淡い青が混じった白銀の剣……そう、ミスリル銀で作られたロングソードだった。
えっ? こいつマジでなんなの?
というか、どっからそれ取り出したの?
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だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
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