上 下
31 / 74
第2章:北風とカナタのバジリスク退治!~アリスの場合~ 

第2話:不思議な少年カナタ

しおりを挟む
 取りあえず、場所を移してから自己紹介をすることにした。
 驚いた事に彼は1人で西に約40km程いったところにある、レイクポートの町から流れてきたらしい。
 そういえば、あそこって魚が結構美味しいって噂よね。
 それで、今は私達が拠点としてるネクストフォレストの町の冒険者ギルドに居る。
 ギルドは昼時という事もあって、そんなに人は居なかったので取りあえず先の冒険で倒したゴブリンとスライムの核の買取をお願いして、その間に飲食スペースで自己紹介を始める。

「私はアリス! でこっちがアレク、彼はファイターで前衛担当ね。貴方の横にいるのはタンクのカバチ! 一応彼もファイターだけど、彼は防御専門ね。で私が魔法使いってわけ」
「どうも、アレクです! 先ほどはお互い危なかったですね」

 白々しい。
 コイツは真っ先に逃げたように見えた……後衛の私を置いて。

「ちょっ! 睨むなよ! 一旦奴の死角に入ってから、一撃をと思ったらお前らが凄い速度で逃げるからさあ! 逆に置いてかれたのは俺だっつーの! ついでに、グレイベアにも置いてかれたけど……」

 そう言ってアレクが溜息を吐く。
 まあ、確かに言われてみれば……
 いや、確かに置いて行ったといえばそうかも? 
 まあ、おあいこって事にしときましょう。

「どうもカバチです。武器は盾! 防具も盾! 皆を守る盾ファイターのカバチです!」

 何故二回も名前を言ったのだろう? 
 まあ、頭が色々と残念ではあるがこれでも、うちでは優秀な盾役だからいいけどね。

「次は貴方の番ね! 貴方は?」
「ああ、もう一度名前から言っておくね。俺はカナタ! まあ、見た通りイースタンらしいから、取りあえず東の大陸とかってのを目指してるんだけどね」

 やっぱりイースタンのようだけど、記憶が無いのかな? 
 それとも、訳ありかも? 

「ふーん……というか、東の大陸に渡る方法ってのはまだ見つかって無いし、それもイースタンの人があるって言ってるだけで、あるかどうかなんて分からないわよ?」
「ちょっと、アリス! もう少し言葉を選ぼうよお」

 カバチが何か言ってるけど、当の本人は特に気にした様子もなくニコニコしているからいいじゃない。

「うん、それは知ってるけど、まあ東の果てまで行けばなんとかなるさ。あと職業は無職だから。特にこれといって得意なものも無いし」

 冒険者やってて無職ってのも変な話よね。
 というか、それなら冒険者を名乗ればいいのに。
 それに、無職で得意な事も無いのにF級冒険者になれるだけでも結構凄いと思う。

「じゃあ、すぐにでも東に向かうの?」
「いや、取りあえずはここで適当にブラブラしてからかな? 特に急ぐわけでも無いし」

 割とのんびりとした性格らしい。
 まあ、旅の目的もおぼろげなものだし、案外いい加減な性格なのかもしれない。

「じゃあここに居る間、俺達と一緒に行動するか?」

 馬鹿アレクがまた何の考えも無しに勧誘を始める。
 無職なんか仲間にしたって、荷物持ちくらいにしかなんないじゃない。
 それに、力……無さそうね彼。
 腕も細いし。
 ただ、もしかしたらイースタン特有の何かを持っているかもしれないとは思えるけど。

「いや……そこの女の子はあまり歓迎してないみたいだから、遠慮しとくよ」

 えっ? 私いま、顔に出てたかしら? 
 そんな事は無いと思うんだけどなあ……

「アリスったら、また顔に出したの?」

 カバチが何やら失礼なことを言っているので、取りあえず頭を殴っておく。
 流石、防御担当で石頭だけの事はあるから、当然杖でゴツンとね。

「いったーい! 何するのさ!」
「うるさい! カバチの癖に生意気な事を言うからよ!」
「カバチの癖にってなんなのさ!」

 頭を押さえてカバチが何やら文句を言っているが、そもそもカバチ如きが私に文句を言う事自体生意気なのよ! 
 もう一度杖をサッと構えると、頭を押さえて後ろにのけぞっている。

「もう! すぐにぶつんだから!」
「あんたが、叩かれるようなことを言うからよ!」

 そんなやり取りをしていると、クスクスという笑い声が聞こえる。
 目の前のカナタさんが、口に手を当てて笑っている。
 なんか、この子無職でF級の割には余裕があるのよね……
 というか、年齢以上に落ち着いているというか。

「まあ、明日もこのギルドに顔を出すから、その時までに3人で話をしておいてくれるかな? 迷惑じゃなければ、この街の冒険者さんたちの実力を見学してみたいしね」

 若干上から目線っぽい発言のようにも感じる。
 というか、結構な上から目線だったよね? いま。
 これ叩いても良い流れじゃない? 
 そんな事をチラッと考えただけなのに、彼の目がこっちに向けられる。
 その表情は穏やかなのに、一瞬で戦意を削がれるような変な気配を感じる。

「そうだね。俺は大歓迎なんだけどね。自分もレイクポートのF級冒険者さんの実力も見てみたいしさ」
「いやいや、俺は無職だからさ。邪魔にはならないけど、手助けにもならないと思うよ? ただの観光の一環さ」
「ハハッ! 依頼や討伐を観光の一環にしちゃうとは、案外大物だったりして」

 アレクがこれまた適当な事を言っているけど、これは要検討ね。
 無職だって口では言っているけど、絶対に何か隠してるっぽいし。
 それに時たま、このギルドにも居るA級冒険者さんや、B級冒険者さん達のような雰囲気というか、オーラを感じる事もあるし……
 はっ! もしかして、ギルドの裏調査員? 
 そういえば、聞いた事ある。
 ギルド職員の中には、F級冒険者や仮冒険者のフリをして、新人パーティに潜り込んでその安全を確保したり、素行調査や、意識調査を行って査定を付けているっていうのも。
 もし、この職員の前で著しい結果を見せれば、一気に2階級特進もありえるって聞いたし。
 たしか、現場で実際に仕事に対する姿勢を監視していたりもするんだっけ。
 これは、もしかしてチャンス? ……いや、ピンチ? 
 もし、カナタを仲間にしてみっともないところを見せたりでもしたら……
 そういえば、さっきも結果的にカナタが私達の方に走って来たから助かったとも取れるし。
 もしかしたら、敢えてツインヘッドを誘導してきた線も? 

「フフッ、それにしてもあの狼もラッキーだったね? あの熊の方が俺達よりよっぽど食いでがありそうだったしな」
「そうだね! お陰でアリスも助かったんだっけ?」

 やっぱり、彼が誘導してきたんじゃないだろうか? 
 ああ、ダメだ! そう思うと、どんどん彼がギルド職員の回し者のような気がしてきてならない。
 これは、仲間に引き込むべきか、やめるべきかゆっくりと2人と話し合う必要がありそうね。

「そういえば、カナタさんはどこか泊まる当てはあるの?」

 こらっ! アレク! 
 余計な事言わないでよ! 
 これで無いって言われたら、あんたなら誘いかねないわね。

「いや、お金ならあるから取りあえずホテルかな? 一泊くらいはリッチにいってもいいと思うし。という訳でこの辺りで一番良いホテル教えて?」
「ああ、それなら商業区のロイヤルガーデンかな? でもあそこって観光に来た貴族の人達が泊まるようなところだから、安くても一泊金貨1枚は取られるよ?」
「無駄に高いねえ……まあ、問題無いけどさ」

 問題無いんだ……
 F級冒険者が宿泊に金貨1枚なんて出せる訳無いじゃない! 
 そんなお金があるなら、装備に回すわよ……
 目の前の少年は一応腰に剣らしきものはさしているけど、防具は身に着けていない。
 剣士? って訳でもなさそうだし……というか、自分で無職って言ってたし……

 この後カナタと別れて、自分の家に戻るまで思考のループに陥ってしまった私はとうとう考える事を放棄してアレクの提案を受ける事にした。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話

天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。 その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。 ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。 10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。 *本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています *配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします *主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。 *主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

処理中です...