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第2章:北風とカナタのバジリスク退治!~アリスの場合~
第1話:プロローグ
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「バカ! カバチ! 早く!」
「待って! アレクが付いて来てないよ! ってうわあ!」
ああ、もう!
私の後ろを付いてくる栗色の髪をした、ちょっと丸い男の子が後ろを振り返った拍子に目の前の木の根に躓いて転ぶ。
私は慌てて立ち止まると、すぐに彼の元まで戻って助け起こす。
『グアアアアア』
しかし、最悪な事に私達を追いかけていた奴がすぐ目の前にまで迫っていた。
こんなところでお終いなんて……
そう思った時に目の前の彼に突き飛ばされる。
「アリス! 僕の事は良いから早く逃げて!」
んもう! そんな事言われて見捨てられる訳無いじゃない!
とは言ったものの、今の私にはどうにもできない。
いや、出来ない事はない。
出来る事だって少しはある。
目の前の巨大な熊に向かって手を翳す。
「我が魔力を糧に、敵を穿て! 【ウォーターショット】!」
魔法の詠唱を終えるとともに、その掌から鋭く素早い水の一撃が熊の脳天を直撃する。
「ウガッ?」
な……何てことなの?
全く効いてないなんて!
「バカッ! アリス! 逃げろって!」
カバチの癖に私をバカ呼ばわりするなんて、生意気よ! なんて事を考えてすぐに硬直する。
目の前の熊は完全に標的を私に変えたようだ。
カバチを払いのけると、こっちに向かって駆け出す。
ちょっ! 無理無理無理無理!
「きゃああああああ!」
私は大声で叫びながら慌てて逃げ出す。
その後ろを熊が猛スピードで迫って来る。
きっと、一瞬で追いつかれてしまうだろう。
でも、その間にカバチだけでもきっと逃げられるはず。
「我が魔力を糧に敵の足を封じよ! 【ウォーターバインド】!」
水の蔦が熊の足に纏わりつくが、全く気にした様子もなく……むしろ何の影響もないかのように、その速度を変えずに追いかけてくる熊。
魔法を使った分、さらに距離が縮まる。
絶対絶命だわこりゃ。
そんな事を思っていたら、遠くからも悲鳴が聞こえてくる。
「うわぁぁぁぁ!」
という、少年の叫び声。
そして、聞こえてくる2つの足音。
1つはタッタッタッタという軽やかな足取り。
もう1つはズシン、ズシンという重低音を響かせた足音。
うん……最悪だわ。
案の定出会い頭で、少年とぶつかって2人ともその場に転がる。
「ちょっと! 何してんのよ!」
「そっちこそ! ってうわっ!」
少年が私の後ろから迫って来る熊に驚いて声をあげるが、逆に私は彼の背後の化け物を見て言葉を失う。
声すら出す事が出来ない。
「あ……あ……」
そこに居たのはこの地を統べる伝説の魔獣ツインヘッドウルフ……
地獄の門を守りし伝説の神獣ケルベロス、その子孫と言われるモンスターだ。
2つの凶悪な頭を持ち、頭を持ち上げたそのサイズは体高3m近くになる。
その性質は狂暴にして非情。
片方は火のブレスを吐き、もう片方が水のブレスを吐く事を得意としている。
「グ……グルゥ……」
ん?
後ろを見ると、私を追いかけていたグレイベアが怯えている。
うん、分かるよ!
ここに居る謎の少年も、私も、後ろの熊も目の前のこの暴力の権化に震えている。
「グウウウ」
「グルルル」
あれっ?
ふと目の前の凶悪な存在に目を向けると、その4つの瞳は私を通り過ぎてその後ろの熊に釘付けだ。
しかも、口元がうれしそうにニヤアとイヤらしい笑みを浮かべている。
そして……
「ガアアアア!」
「グルアアアアア!」
「キュイイイイイ!」
狼が一気に熊へと飛び掛かる。
慌てて逃げ出すグレイベア……
あれ? 助かった……?
「ふううう……怖かったああああ」
目の前の少年に目を向けると、その場に座り込んでいる。
というか……どこから追いかけられて来たのか知らないけど、ツインヘッドウルフから逃げるその脚力は侮りがたいものがある。
見た感じは14~15歳、黒髪、黒い瞳に黄色い肌。
イースタンなのだろうか?
ならば、その高い身体能力も頷ける。
でも、そんなイースタンをもってしてもこの凶悪な狼を退ける事は出来なかったのかな?
「あ、助かったよ! あの熊君のペット? 大丈夫?」
「えっ? いや、こっちこそ助かった所よ! あんなデカいペットなんて、無理無理」
私が笑顔で手を差し出すと、彼がその手を掴んで立ち上がる。
「俺はカナタ! 冒険者……って言ってもまだF級なんだけどね」
「えっ? そうなの? F級なのによくあれに襲われて生きてたね! って言っても私もなんだけどね。私はアリス! お互い無事で良かったね」
目の前の少年はF級という事だから、まだそんなに強くないのか。
人の事言えないけどね。
「アリス―!」
その時遠くの方からカバチの声が聞こえてくる。
ああ、カバチも無事だったようで本当に良かった。
「2人とも大丈夫か?」
さらにその後ろから、途中ではぐれたもう1人の仲間アレクも走って来る。
というか……こいつ隠れてたんじゃないよね?
これが私達、新人冒険者グループ『北風』と不思議な少年カナタとの最初の出会いだった……
この時は、この少年のせいであんな波乱に満ちた冒険をすることになるとは露にも思わなかった。
「待って! アレクが付いて来てないよ! ってうわあ!」
ああ、もう!
私の後ろを付いてくる栗色の髪をした、ちょっと丸い男の子が後ろを振り返った拍子に目の前の木の根に躓いて転ぶ。
私は慌てて立ち止まると、すぐに彼の元まで戻って助け起こす。
『グアアアアア』
しかし、最悪な事に私達を追いかけていた奴がすぐ目の前にまで迫っていた。
こんなところでお終いなんて……
そう思った時に目の前の彼に突き飛ばされる。
「アリス! 僕の事は良いから早く逃げて!」
んもう! そんな事言われて見捨てられる訳無いじゃない!
とは言ったものの、今の私にはどうにもできない。
いや、出来ない事はない。
出来る事だって少しはある。
目の前の巨大な熊に向かって手を翳す。
「我が魔力を糧に、敵を穿て! 【ウォーターショット】!」
魔法の詠唱を終えるとともに、その掌から鋭く素早い水の一撃が熊の脳天を直撃する。
「ウガッ?」
な……何てことなの?
全く効いてないなんて!
「バカッ! アリス! 逃げろって!」
カバチの癖に私をバカ呼ばわりするなんて、生意気よ! なんて事を考えてすぐに硬直する。
目の前の熊は完全に標的を私に変えたようだ。
カバチを払いのけると、こっちに向かって駆け出す。
ちょっ! 無理無理無理無理!
「きゃああああああ!」
私は大声で叫びながら慌てて逃げ出す。
その後ろを熊が猛スピードで迫って来る。
きっと、一瞬で追いつかれてしまうだろう。
でも、その間にカバチだけでもきっと逃げられるはず。
「我が魔力を糧に敵の足を封じよ! 【ウォーターバインド】!」
水の蔦が熊の足に纏わりつくが、全く気にした様子もなく……むしろ何の影響もないかのように、その速度を変えずに追いかけてくる熊。
魔法を使った分、さらに距離が縮まる。
絶対絶命だわこりゃ。
そんな事を思っていたら、遠くからも悲鳴が聞こえてくる。
「うわぁぁぁぁ!」
という、少年の叫び声。
そして、聞こえてくる2つの足音。
1つはタッタッタッタという軽やかな足取り。
もう1つはズシン、ズシンという重低音を響かせた足音。
うん……最悪だわ。
案の定出会い頭で、少年とぶつかって2人ともその場に転がる。
「ちょっと! 何してんのよ!」
「そっちこそ! ってうわっ!」
少年が私の後ろから迫って来る熊に驚いて声をあげるが、逆に私は彼の背後の化け物を見て言葉を失う。
声すら出す事が出来ない。
「あ……あ……」
そこに居たのはこの地を統べる伝説の魔獣ツインヘッドウルフ……
地獄の門を守りし伝説の神獣ケルベロス、その子孫と言われるモンスターだ。
2つの凶悪な頭を持ち、頭を持ち上げたそのサイズは体高3m近くになる。
その性質は狂暴にして非情。
片方は火のブレスを吐き、もう片方が水のブレスを吐く事を得意としている。
「グ……グルゥ……」
ん?
後ろを見ると、私を追いかけていたグレイベアが怯えている。
うん、分かるよ!
ここに居る謎の少年も、私も、後ろの熊も目の前のこの暴力の権化に震えている。
「グウウウ」
「グルルル」
あれっ?
ふと目の前の凶悪な存在に目を向けると、その4つの瞳は私を通り過ぎてその後ろの熊に釘付けだ。
しかも、口元がうれしそうにニヤアとイヤらしい笑みを浮かべている。
そして……
「ガアアアア!」
「グルアアアアア!」
「キュイイイイイ!」
狼が一気に熊へと飛び掛かる。
慌てて逃げ出すグレイベア……
あれ? 助かった……?
「ふううう……怖かったああああ」
目の前の少年に目を向けると、その場に座り込んでいる。
というか……どこから追いかけられて来たのか知らないけど、ツインヘッドウルフから逃げるその脚力は侮りがたいものがある。
見た感じは14~15歳、黒髪、黒い瞳に黄色い肌。
イースタンなのだろうか?
ならば、その高い身体能力も頷ける。
でも、そんなイースタンをもってしてもこの凶悪な狼を退ける事は出来なかったのかな?
「あ、助かったよ! あの熊君のペット? 大丈夫?」
「えっ? いや、こっちこそ助かった所よ! あんなデカいペットなんて、無理無理」
私が笑顔で手を差し出すと、彼がその手を掴んで立ち上がる。
「俺はカナタ! 冒険者……って言ってもまだF級なんだけどね」
「えっ? そうなの? F級なのによくあれに襲われて生きてたね! って言っても私もなんだけどね。私はアリス! お互い無事で良かったね」
目の前の少年はF級という事だから、まだそんなに強くないのか。
人の事言えないけどね。
「アリス―!」
その時遠くの方からカバチの声が聞こえてくる。
ああ、カバチも無事だったようで本当に良かった。
「2人とも大丈夫か?」
さらにその後ろから、途中ではぐれたもう1人の仲間アレクも走って来る。
というか……こいつ隠れてたんじゃないよね?
これが私達、新人冒険者グループ『北風』と不思議な少年カナタとの最初の出会いだった……
この時は、この少年のせいであんな波乱に満ちた冒険をすることになるとは露にも思わなかった。
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