上 下
30 / 74
第2章:北風とカナタのバジリスク退治!~アリスの場合~ 

第1話:プロローグ

しおりを挟む
「バカ! カバチ! 早く!」
「待って! アレクが付いて来てないよ! ってうわあ!」

 ああ、もう! 
 私の後ろを付いてくる栗色の髪をした、ちょっと丸い男の子が後ろを振り返った拍子に目の前の木の根に躓いて転ぶ。
 私は慌てて立ち止まると、すぐに彼の元まで戻って助け起こす。

『グアアアアア』

 しかし、最悪な事に私達を追いかけていた奴がすぐ目の前にまで迫っていた。
 こんなところでお終いなんて……
 そう思った時に目の前の彼に突き飛ばされる。

「アリス! 僕の事は良いから早く逃げて!」

 んもう! そんな事言われて見捨てられる訳無いじゃない! 
 とは言ったものの、今の私にはどうにもできない。
 いや、出来ない事はない。
 出来る事だって少しはある。
 目の前の巨大な熊に向かって手を翳す。

「我が魔力を糧に、敵を穿て! 【ウォーターショット】!」

 魔法の詠唱を終えるとともに、その掌から鋭く素早い水の一撃が熊の脳天を直撃する。

「ウガッ?」

 な……何てことなの? 
 全く効いてないなんて! 

「バカッ! アリス! 逃げろって!」

 カバチの癖に私をバカ呼ばわりするなんて、生意気よ! なんて事を考えてすぐに硬直する。
 目の前の熊は完全に標的を私に変えたようだ。
 カバチを払いのけると、こっちに向かって駆け出す。
 ちょっ! 無理無理無理無理! 

「きゃああああああ!」

 私は大声で叫びながら慌てて逃げ出す。
 その後ろを熊が猛スピードで迫って来る。
 きっと、一瞬で追いつかれてしまうだろう。
 でも、その間にカバチだけでもきっと逃げられるはず。

「我が魔力を糧に敵の足を封じよ! 【ウォーターバインド】!」

 水の蔦が熊の足に纏わりつくが、全く気にした様子もなく……むしろ何の影響もないかのように、その速度を変えずに追いかけてくる熊。
 魔法を使った分、さらに距離が縮まる。
 絶対絶命だわこりゃ。
 そんな事を思っていたら、遠くからも悲鳴が聞こえてくる。

「うわぁぁぁぁ!」

 という、少年の叫び声。
 そして、聞こえてくる2つの足音。
 1つはタッタッタッタという軽やかな足取り。
 もう1つはズシン、ズシンという重低音を響かせた足音。
 うん……最悪だわ。

 案の定出会い頭で、少年とぶつかって2人ともその場に転がる。

「ちょっと! 何してんのよ!」
「そっちこそ! ってうわっ!」

 少年が私の後ろから迫って来る熊に驚いて声をあげるが、逆に私は彼の背後の化け物を見て言葉を失う。
 声すら出す事が出来ない。

「あ……あ……」

 そこに居たのはこの地を統べる伝説の魔獣ツインヘッドウルフ……
 地獄の門を守りし伝説の神獣ケルベロス、その子孫と言われるモンスターだ。
 2つの凶悪な頭を持ち、頭を持ち上げたそのサイズは体高3m近くになる。
 その性質は狂暴にして非情。
 片方は火のブレスを吐き、もう片方が水のブレスを吐く事を得意としている。

「グ……グルゥ……」

 ん? 
 後ろを見ると、私を追いかけていたグレイベアが怯えている。
 うん、分かるよ! 
 ここに居る謎の少年も、私も、後ろの熊も目の前のこの暴力の権化に震えている。

「グウウウ」
「グルルル」

 あれっ? 
 ふと目の前の凶悪な存在に目を向けると、その4つの瞳は私を通り過ぎてその後ろの熊に釘付けだ。
 しかも、口元がうれしそうにニヤアとイヤらしい笑みを浮かべている。
 そして……

「ガアアアア!」
「グルアアアアア!」
「キュイイイイイ!」

 狼が一気に熊へと飛び掛かる。
 慌てて逃げ出すグレイベア……
 あれ? 助かった……? 

「ふううう……怖かったああああ」

 目の前の少年に目を向けると、その場に座り込んでいる。
 というか……どこから追いかけられて来たのか知らないけど、ツインヘッドウルフから逃げるその脚力は侮りがたいものがある。
 見た感じは14~15歳、黒髪、黒い瞳に黄色い肌。
 イースタンなのだろうか? 
 ならば、その高い身体能力も頷ける。
 でも、そんなイースタンをもってしてもこの凶悪な狼を退ける事は出来なかったのかな? 

「あ、助かったよ! あの熊君のペット? 大丈夫?」
「えっ? いや、こっちこそ助かった所よ! あんなデカいペットなんて、無理無理」

 私が笑顔で手を差し出すと、彼がその手を掴んで立ち上がる。

「俺はカナタ! 冒険者……って言ってもまだF級なんだけどね」
「えっ? そうなの? F級なのによくあれに襲われて生きてたね! って言っても私もなんだけどね。私はアリス! お互い無事で良かったね」

 目の前の少年はF級という事だから、まだそんなに強くないのか。
 人の事言えないけどね。

「アリス―!」

 その時遠くの方からカバチの声が聞こえてくる。
 ああ、カバチも無事だったようで本当に良かった。

「2人とも大丈夫か?」

 さらにその後ろから、途中ではぐれたもう1人の仲間アレクも走って来る。
 というか……こいつ隠れてたんじゃないよね? 

 これが私達、新人冒険者グループ『北風』と不思議な少年カナタとの最初の出会いだった……
 この時は、この少年のせいであんな波乱に満ちた冒険をすることになるとは露にも思わなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

神様の願いを叶えて世界最強!! ~職業無職を極めて天下無双する~

波 七海
ファンタジー
※毎週土曜日更新です。よろしくお願い致します。  アウステリア王国の平民の子、レヴィンは、12才の誕生日を迎えたその日に前世の記憶を思い出した。  自分が本当は、藤堂貴正と言う名前で24歳だったという事に……。  天界で上司に結果を出す事を求められている、自称神様に出会った貴正は、異世界に革新を起こし、より進化・深化させてほしいとお願いされる事となる。  その対価はなんと、貴正の願いを叶えてくれる事!?  初めての異世界で、足掻きながらも自分の信じる道を進もうとする貴正。  最強の職業、無職(ニート)となり、混乱する世界を駆け抜ける!!  果たして、彼を待っているものは天国か、地獄か、はたまた……!?  目指すは、神様の願いを叶えて世界最強! 立身出世!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

異世界のんびり冒険日記

リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。 精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。 とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて… ================================ 初投稿です! 最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。 皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m 感想もお待ちしております!

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

最弱ユニークギフト所持者の僕が最強のダンジョン探索者になるまでのお話

亘善
ファンタジー
【点滴穿石】という四字熟語ユニークギフト持ちの龍泉麟瞳は、Aランクダンジョンの攻略を失敗した後にパーティを追放されてしまう。地元の岡山に戻った麟瞳は新たに【幸運】のスキルを得て、家族や周りの人達に支えられながら少しずつ成長していく。夢はSランク探索者になること。これは、夢を叶えるために日々努力を続ける龍泉麟瞳のお話である。

処理中です...