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第1章:仮冒険者と魔王様、冒険者になる!~エンの場合~

第25話:30階層~最終階層へ~メルスさんと会話する~

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 30階層に降りると、目の前には偉く立派な石碑が立っている。
 その横に長身のローブ姿の女性が、遠くを指さすような姿勢の石像が彫ってある。
 流れるような艶のある髪を、艶のある黒い石が再現している。
 さらに、胸が強調されるようなローブからこぼれ落ちそうな二つのたわわな果実に目を奪われる。
 そして思う……固そうだと。
 顔は彫りが深く、高い鼻とぷっくらとした唇が特徴的だ。
 目も切れ長の二重で、長い睫毛……あれを掘るのは大変だっただろうな……うん。
 折れそうな腰に、スラリと長い脚……完璧な美を象徴しているような彫像だ。
 きっと、女神様か何かの象を合わせて造って、ここにより神聖さを……魔族が? 
 あっ……角があるからきっと、魔族界の女神か何かなのだろう。

「ふーん……メルス……ね」

 カナタさんが石像を見ながら、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。
 イヤらしい人だ……そんなにボン、キュッ、ボンが好きか! 
 っていうか、メルスさん本人かよ! 
 あれがメルスさんか……てっきり男性だと思ってたよ。

「ちなみにこの石像を作ったのもメルスか……当てになんねーな」
「静かで……ちょっと落ち着く雰囲気かも」

 レイドが周囲をキョロキョロしながら、ゆっくりと石碑に向かって近付いて行く。
 ここが霊廟ステージだ。
 あるのは石像と、石碑、それからお供えをするために台座が2つだ。
 周りの壁には、伝承に伝わるメルスさんがやってきた事の名シーンが絵画となって飾ってあって、その下に簡単ながら説明文が添えられている。
 あれは人間の帝国と、魔族の国との国交正常化の調印式か。
 メルスさんの巨乳に、周囲の人間の衛兵達の視線が釘付けになっている。
 といっても、彼等は皇帝を守護る衛兵達だ。
 きっと真面目に職務を果たしていたに違いない。
 その右には人間の町に大使館を設置した際の、終工の際の絵だな。
 腕を組み胸を強調しているメルスさんに、人間達が釘付けだ。
 左はなんかちんちくりんな魔王っぽい魔族が人間に襲われているのを、杖で守っているメルスさんの絵か。
 冒険者たちがメルスさんの胸に釘付けになっている。
 戦闘中にそんな事ってありえるだろうか。

 ドボボボボボ

 ん? 
 ふと音がした方に目を向けると、カナタさんが水を石像の頭の上からぶっかけている。
 おーい! なにしてんだあんた! 
 頭から水をぶっかけるとか失礼にも程があるだろ! 

「ん? 俺の居た国の墓参りじゃ、こうするのが普通なのだが……まっ、本当なら墓石にやるのだが」

 僕の視線に気づいたカナタさんが説明をしてくれる。
 最後の方もしっかりと聞こえてますからね。
 さらに魔法で、周囲を綺麗にしていく。
 ああ、一応真面目に墓参りしてるんだ。
 そしてこれまた美味しそうな果物を台座にお供えし始める。
 相変わらず、どこから持ってきているのやら。

 ゴクリッ……

 ん? なんか唾を飲み込むような音が聞こえた気が……

『良く来たな人間共よ! 墓参りはそれくらいにして、その果物を持って下にくるがよい』
「ん? メルスとかいう人か? いや、まだまだこれから線香を炊いてお経をあげて、しっかりとお参りしたあと、少し休んでから降りようと思うのだが……」
『いや、そ……それは、良い心掛けだと思うが、直接私に思いを伝えれば良いと思うぞ。じゃから、その果物を持ってはよ下に』
「いや、これはここにお供えするものだからな。下には」
『私へのお供えだろ? いいから、はよっ! 』

 なんだろう……凄く親近感の沸く魔族さんだ。
 それに引き換えこの人と来たら……

「どうしよっかな……取りあえずここまで来たらお経はあげとかないとな。よしっ!」

 そういうとカナタさんの手に、丸い球をたくさんつないだブレスレットのようなものが現れる。
 彼はそれを手にもって、目を閉じて何か聞きなれない言葉を唱え始める。
 というか、微妙に口元がにやついているのが気になるが……

仏説ぶっせつ摩訶般若波羅蜜多心経まかはんにゃはらみたしんぎょう観自在菩薩かんじざいぼさつ 行深般若波羅蜜多時ぎょうじんはんにゃはらみったじ 照見五蘊皆空しょうけんごうんかいくう 度一切苦厄どいっさいくやく  舍利子しゃりし 色不異空しきふいくう 空不異色くうふいしき 色即是空しきそくぜくう……」
『あっ……なんだろう、ふわふわとしてきたというか……身体が……駄目だ……召される』

 ちょっ! やめたげて! 成仏しちゃうから! 
 慌ててカナタさんを止めに入る。
 というか、本当にこの人色々な事が出来るよな。

「カナタさん、早く下に行ってあげましょうよ」
「えー、まだ途中なのに」
「駄目ですから! それ全部唱えたら、ここの大事な何かが消えてしまう気がするんでやめてください」

 それからカナタさんを連れて、石碑の裏にある階段を下りる。
 大きな扉の横に、メルスの部屋と書いてある札が掛かっている。
 うん、完全に部屋だなこれ……
 ゆっくりと扉を開くと廊下が続いていて、そこを進んだ先にある扉を開いて中を見てちょっと唖然とする。

 ピンク色のソファが置いてあり、そこに綺麗? いや、可愛い女の子がチョコンと座っていた。
 木で出来たテーブルがあり、壁際に置かれている箪笥や棚の上にはぬいぐるみが並べられている。

「えっと……メルス様?」
「ああ、よく来たな! 私がメルスだ」

 顔を見てからゆっくりとその胸元に目を落とす。
 デカい! 確かにお胸様がかなり大きい。

「ちょっと、どこを見てるんですか!」

 レイドが僕に注意をするが、男だったら仕方が無いだろう。
 自然と目が向いてしまうのは、男の性だ。

「フッ」
「おい! そこの男! 何故笑う!」

 横を見ると、カナタさんも同じように彼女の胸をチラッと見ていた。
 フフッ……この人も男って事だな。
 と思ったら横を向いて、めっちゃ鼻で笑っている。
 横目で見下すように彼女の胸を見ながら。

「4枚……いや、5枚か?」
「なっ! 何を言うのだ! これは自前だ!」

 カナタさんの意味不明な呟きに、メルス様がめっちゃ大声で文句を言っているが。
 なんの事だろう? 

「えっ? もしかして?」

 レイドだけはその言葉に何か気付くものがあったのだろう。
 レイドがカナタさんの目とメルスさんの胸を交互に見ている。

「ちょっ! あんまりマジマジと見るな!」

 メルスさんが自慢の胸を両腕で隠している。
 やっぱりそこは乙女なんだな。
 あまり見られるのは好きじゃないらしい。
 それなら、もっと隠れるような服を着たらいいのに。

「そ……それよりも、その果物をはよ」
「えっ? 背が……」

 立ち上がったメルスさんを見てちょっと驚いた。
 このお方、結構小柄でいらっしゃる。
 可愛らしい顔に、小柄な身長……そしてそのお胸様……やべっ、ドストライク! 

「エンさん? 目がイヤらしいです」

 おっと、つい表情に出てしまったらしい。

「フッ……」

 立ち上がったメルスさんを見て、カナタさんがまたも鼻で笑う。
 この人は、初対面の人相手でも結構失礼になってきたな。

「ああ、魔族相手に取り繕う気は無いからな?」

 なんだ……ただの魔族差別者か……
 いるんだよな、結構そういう人。
 魔族差別、異種族差別、人間至上主義などなど、数パターンあるが、概ね魔族に排他的な考えを持っているからな。

「ん? よく見たらお前もま「あっ?」

 メルスさんがカナタさんをマジマジと見た後に、大きく頷いて何か言いかけて、カナタさんに黙らされる。
 というか……伝説の魔族相手でも強気とか、どんだけブレないんだろうか。
 いつか大物相手に喧嘩売って殺されそうだ。
 現に、いまこの時点でメルスさんに殺されても……って何を持ってるんですか! 

「ちょっ! なんでそれをお前が持っている!」
「えっ? いや制覇記念に一つ持って帰ろうと思ってな」

 そう言ってカナタさんが取り出したのは、先ほどの霊廟にあったメルスさんの肖像画の1つだ。
 カナタさんがその絵のメルスさんを上から下まで嘗めまわすように見た後、本人に目を向ける。
 それから視線をつま先から頭の天辺までゆっくりと移したあと、そこからまた下に視線を落としてきて胸で止める。
 そして肖像画の胸と見比べると……また「フッ」と鼻で笑った。
 ああ、もしかして……

「おい少年! お前のその考えは間違っているからな? これは本物だ!」

 メルス様が凄い威圧を込めて僕に睨みを利かせてくる。
 流石にこれは……

「そ……そんな事より、果物をくれぬか?」
「ええ、果物なんかで良ければあげますよ? 私達はケーキでも頂きますか……」

 カナタさんはメルスさんに果物を渡すと、これまた美味しそうな白いドロッとしたものに包まれた三角形の食べ物を作り出す。
 上に苺がチョコンと乗っているが……これは、まさか噂で聞いた生クリームというものでは? 

「えっ? これ……ケーキ? あれっ? この白いのって……」

 レイドも目を大きく見開いている。

 ゴクリッ……

 だが、それ以上に大きく目を見開いている少女が居た。
 ここまで聞こえてくる、生唾を飲み込む音。
 クリッとした藍色の瞳を持つ可愛らしい目がこれでもかという程見開かれている。
 さらに、そのぷっくりとした愛くるしい艶のあるピンク色の唇が同じく淡いピンク色を白い肌に浮かべた頬と一緒にピクピクと軽く痙攣している。

「こんなのもあるんだけどなー……パフェっていうんだが」

 それから今度は大きなクリスタルのコップ? のようなものに入れられた、クリームらしきものとフルーツらしきものが層になっている食べ物が出て来た。
 その上に黒いドロッとしたものが掛けられている。
 さらにスライスされたバナナが刺さっていて、その横に黒いものでコーティングされた茶色い細い木の枝のうようなものが2本突き刺さっていた。

「ほかにも……こんなのとか、こんなのとか……」

 そう言って机の上に所狭しと並べられる、料理? お菓子の数々。
 茶色い円錐台状のプルンプルンした食べ物……これにもクリームぽいのが乗っている。
 恐らく豆と思われる黒い食べ物……白くて丸いものがいくつか並べられていて、透明な四角いゼリーのようなものもちりばめられている。
 他にも見た事のないものばかりだ。

「でも、メルスさんは果物がいいんですよね?」
「おいっ! ズルいぞ! お前! 私もそっちが食べたい!」
「どうしよっかな~」

 メルスさんが必死にカナタさんに縋りついて、それを食わせろと言い寄っている。
 思いっきり胸が押し付けられていてうらやまけしからん! 

「じゃあ、これを食べて良い代わりに、この2人と手合わせお願い出来るかな?」
「ああ、手合わせ……えっ? ああ、その2人とか……その2人となら構わんぞ! お主は参加せぬのだよな?」

 ん? カナタさん? もうここに辿りついたら目的は達成されたようなものじゃないのか? 
 それに、メルスさんも気になる事を言っている。
 いや、あの……はっ? 
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