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第1章:仮冒険者と魔王様、冒険者になる!~エンの場合~

第13話:メルスのダンジョン14階層~出会い~

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「ふふふ……ついに階段が……」

 どうにか11階層を潜り抜け、12階層に降りる階段に辿り着いた。
 役2名イージーモードだが、僕はすでに満身創痍だ。
 というのも、11階層でモンスタートライアルをやらされ続けたからだ。
 ここを抜けるだけで、2時間は掛かったのではないだろうか? 
 トータルで7時間くらい経過している気がする。
 まあ、10階層までは本当に一本道を、道すがら雑魚狩りをしつつ進むといった感じだったからね。
 でも、11階層は違った……
 僕は強敵とも達の顔を思い出す。
 死闘を繰り広げた、強靭な肉体を持つアーマーリザード……
 涎を垂らしながら、毒の息を振りまきつつ腐肉とは思えない力で襲い掛かって来るグール……
 通路一杯に広がった、酸弾を飛ばしてくる大きなスライム……
 初心者の友達……でもレベルが高くて良い武器を使いこなすゴブリンファイター……
 背後から風を切って近付いて来て、鋭い爪で斬りかかって来たダンジョンウルフ一家……

 そのどれもが強敵ともだったよ……

 ちなみに、その全てを一人で倒してきた。
 カナタさんの操り人形となって。
 いや、マジ凄いあの人。
 あの人の言う通りに動いたら、全然傷一つ負う事無く全て倒せたからね。
 しかも嬉しい事に、この1階層だけで大幅にレベルが上がった。
 どのくらい上がったかというと……6だったレベルが17にまで上がってる。
 レイドを越えたぜ! 

 ステータスの方も……
 レベル6→17
 HP37→68
 MP0→3
 筋力30→52
 魔力1→7
 体力29→81
 敏捷20→56

 とほぼ倍にまで増えている。
 ちなみに筋力52となると、クレイモアやツヴァイハンダーを振る事が出来るレベルだ。
 これで、ショートソードともおさらば? ノンノン……このルーンブレイドより良い武器がまず買えないからね。
 体力がめっちゃ上がってる。
 これは間違いなく、休みなしで移動と戦闘を繰り返した結果だな。
 うんうん、結果は努力に比例するって良い事だよね? 
 し・か・も! 嬉しい事に魔力が上がったのだ。
 魔法だけは才能、血筋と言われていて、無い人はどんだけ頑張っても得る事が出来ない。
 幸い僕の血筋には魔力のある人が居たらしく、お情け程度に1だけあった。
 とはいえ、0と1の差は果てしなくでかい。
 0はいつまで経っても0なのだ。
 そして魔力が増えた事で、魔法を作り出す魔素が僕にも宿ったのだ。
 これで……魔法が使えるようになる! 
 やべー……魔法戦士への道が開けたわ! 
 魔法戦士や、魔法剣士って持てるんだよね。
 キタコレ! モテキ到来の予感! ウハッ! 
 流石に、これはカナタさんに感謝しないとね。
 カナタ様様だよ! 

 そうそう、嬉しい事と言えばもう一つ。
 スキルが大幅に進歩したことだ。
 こっちはマジでヤバい! 
 もともと剣術スキルを持ってたが、ついにチャンバラ級のレベル1から剣士見習いとされるレベル2に上がったのだ。
 お陰で、剣を振る速度や、切れ味、体の運びが大分マシになった。
 これには、カナタさんもマシになったなと褒めてくれた。
 嬉しい―! 
 でもヤバいのはこれじゃない……
 カナタさんの指示で紙一重で相手の攻撃を躱し続けてたら、見切りというスキルが発現した。
 習得条件はこの一連の戦闘と結果で分かったが、敵の攻撃をぎりぎりでかわし続けると見に付くみたいだね。
 このスキル……まじ良い! 
 相手の攻撃の間合いや軌道が、かなり鮮明に予測できるようになった。
 結果、カナタさんの指示に対して、寸分の遅れも無く反応出来るようになった。
 これには、流石のカナタさんも

「凄いな……これで、この先大分楽になりそうだ」

 とメッチャ褒めてくれた。
 言い方はあれだが、この人は素直じゃないからね。
 なんだかんだ言って、僕を生命の危機に放り込みつつも、必ず安全マージンを取ってくれている。
 というかこの人が居なかったら、多分30回以上は死んでるな……

「下に進めるのが嬉しいのは分かるが、そのニヤケ面はなんとかならないのか? 流石に気持ち悪いぞ」

 色々とこの階層での事を思い出していたら、自然と顔がニヤケていたらしい。
 今度のは、ちゃんと思い出し笑いだからね。

「それにしてもカナタさんって、本当は凄い人だったんですね!」

 レイドが目を輝かせながら、カナタさんに話しかけている。
 しかし当の本人は相変わらずの、爽やかスマイルで応えるだけだ。
 それ、答えになってないからね。

「いや、自分じゃ動けないからね……それに、ちょっと離れて視た方が色々と見えるようになるんだよ。
 後は気配を読めるから、こうやって指示を出す分には向いてるかな?」
「いや、全然動けるじゃないですか! 槍と吊り天井から救ってくれた時の動きは、どう見ても只者じゃ無かったですよ!」

 確かに……
 自分じゃ動けないって、そんな人がトラップを速度とパワーで乗り越えますか? 
 いや、そこそこの人でも発動してしまったトラップを無傷でやり過ごすのは無理なんですけど。
 というか、アーマーリザードの突進を片手で止めるような人、見た事無いし。

「これでエンが死ぬ確率はグッと下がったから、次からはレイドも前に出て戦ってくれるかな?」
「勿論です! 実は、さっきから戦いたくってウズウズしてました。」

 そうなの? じゃあさ、僕の代わりに戦ってくれないかな? 
 と言いかけたが、言葉に出来なかった。
 だって、レイドが僕の手を握って

「やっと、エンさんと一緒に戦えますね!」

 なんて言うんだもん……
 一人でお願い! なんて絶対言えっこないよね。
 で、その結果。

 ―――――――――
「……」
「どうしました?」

 結局、殆どレイドが一人で倒してしまっている。
 っていうかこの娘、強過ぎでしょ? 
 相手が攻撃してきてから反撃してるのに、相手より先に攻撃当てるとかどうなってんの? 
 いやいやいや、意味が分からない。

「モンスターの攻撃は大振りですから、最短距離で最速の攻撃を相手の柔らかいところに打てば良いだけですよ?」

 コツを聞いたら、こんな返事が返って来た。
 うんうん、前半は分かる。
 でも相手の柔らかいところとか言われても、一瞬でそんなの見極められないし。
 ケッ……天才が! 
 凡人にも分かるように説明しやがれ! と声を大にして言いたい。

「ふん、才能が無いなら数で補うしかないだろう? 今度はモンスタールームにでも放りこんでやろうか? 丁度、ちょっと行ったところに魔物がひしめき合ってる部屋があるぞ?」

 そんな事を考えていたら、カナタさんがとんでも無い事を言い出した。
 結局なんのハプニングも無いまま、15階層へ降りる階段のある部屋にきてしまった。
 嘘です……13階層でもレイド無双が始まって、せっかく追い越したレベルもまた抜き返されたから、いじけてたらカナタさんにきっちりモンスタールームに放り込まれました。

「シマッター、うっかり転移の罠踏んじゃった! ゴメンね!」

 絶対わざとだ。
 だって、踏むとき「エイッ!」って言ってたし。
 しかも、全然焦って無いし。
 よりによって転移の罠って……下手したら上空に飛ばされて仲良く紐無しバンジーやらされることになるんだよ? 
 てなことを思っていたら、周囲の景色がガラリと変わる。
 そこにあるのは、無数の目! 目! 目! 目! 

「ナンテコッター! ここは、モンスタールームでは無いか―!」

 思わず背筋に悪寒が走ったよ。
 だって、この人踏んだ罠の種類も把握してるし、何よりどこに飛ばされるか分からない転移の罠の行先を完全に把握してたっぽいもん。
 口ではなんか言ってるけど全然焦って無いし、棒読みだし、嘘つけ! って叫びそうになったわ。

「てことでやれ!」

 カナタさんのこの指示は、僕に向けてなのか、相手に向けてなのかいまいち分からない。
 何故かって? 
 カナタさんがこう言うと、魔物達も僕やレイドに向かってくるからだよHAHAHAHA! 
 まるで、カナタさんを避けているというか、カナタさんに言われたから襲ってきているかのような……なんだろう、これ以上考えちゃダメな気がする。
 まあ、それでもヤバいときはカナタさんの天の声があったお陰で二人とも無事に、モンスタールームのモンスターを駆逐することが出来た。
 お陰で、素材もレベルもウハウハ状態だったけどね。
 感謝していいのか、いまいち分からないけどね。

 ―――――――――
「で、この先が小ボスが居るところなのですが、その前にそこの扉を開けると休憩室があります」

 僕がそう言って、階段のある部屋に備え付けられてある扉を開くと、光が差し込んでくる。
 中は絨毯が敷いてあって、机や椅子もある。
 横になれるように長椅子や、ソファも置いてある。
 先客が居たようで、3人組の冒険者がソファに座って干し肉をしゃぶっている。

「おお、まさか二組目が来るとはな」

 いかにもリーダーっぽい戦士の男がこっちを見て片手を上げる。

「あっ……すいません、他に人が居るとは思わなくて」

 思わず頭を下げてしまう。

「いやいや、俺の部屋じゃないから」
「貴方達も休憩?」

 いかにも魔法使いって感じの女性が、こっちに問いかけてくる。
 といっても、僕たちはまだ部屋にも入ってないんだけどね。

「ふふ、そんなとこに突っ立ってないで中に入ったらどうだ? 俺の部屋じゃないが」

 戦士の男に促されて僕たちも部屋の中に入る。
 あっちは、戦士と魔法使い……それからフードを被った怪しい人が一人か。
 もしかしたら、その人は関係ない人かもしれないな。

「ああ、自己紹介させてもらおう。俺はマルタ、『剣と魔法と薬草』のリーダーだ。一応職業は戦士だな」

 一応の意味が分からないよ、どう見てもあんた戦士だよ。

「で、こっちが魔法使いのエマ。こう見えて、結構優秀なんだぜ」
「こう見えてって、あんたには私はどう見えてるんだろうね?」

 マルタの紹介に、若干眉尻を上げて睨むような視線を送っている。

「で、こいつが薬師兼レンジャーのカルロスだ」
「すいませんね、怪しい恰好でフードも取らず。ちょっと職業柄匂いの強い薬草も扱うものでして、こうして防臭のローブを羽織っているんですよ。ハーブ系の薬草の調合の後だと着てないんですけど、昨日はダンジョンに潜る準備として色々と強いものも煎じたりしてたので」

 怪しい見た目とは裏腹に、めっちゃ喋るなこの人……
 というかこの3人知ってるわ。
 たしかC級冒険者パーティだったわ。
 ごり押しの戦闘しか出来ないけど、攻撃力と突破力に定評のある直進まっすぐのマルタ。
 そして、火と風を自在に操る事が出来ると言われている、炎舞のエマ。
 そして、かなりの顧客を持っていながら、店舗を持たず冒険者として活動し、様々な新薬を開発している救世のカルロス。
 正直マルタは代えが利くからだろう、雑な二つ名だが、他の二人はソロでもかなり有名だ。

「ああ、匂いが強いって言うと、まずこの階層のグールの毒を未然に防ぐ為にドクダミを磨り潰して、解毒効果の高いポゾケア草、これが特に臭いんですけどね……なんていうか、腐った肉にレモンをぶっかけたような独特な……」

 てなことを考えてる間も、このカルロスさんすげー喋る。
 全然興味無いし、こっちも上手に反応出来ないのに、すげー喋るわ。
 マルタに肘で脇を3回くらい突かれてから、やっとハッとした表情になって顔を赤らめる。

「ああ、すいません。私薬草の事になると、つい話が長くなってしまって」

 それから軽く頭を下げてくる。

「いえ、良い話を聞かせてもらいました」
「まあ、こんな感じだ。一応、カルロスの作る薬草は何度も俺達の命を救ってくれてるし、こいつ薬草採取の為にレンジャーの訓練積んでて、こう見えて結構腕も立つんだぜ?」
「いや、照れますね。やはり有用な薬草に限って結構危険な場所にあったりするので、自分の身くらいは守れるようになってないと薬師なんてやってられないですからね? 特に貴族の方に人気のある夜のお供に使われる、バイアグリ茸は、飛竜の住むとされる「おいっ!」

 また薬草の話に脱線しかけてマルタに止められている。
 すげー怪しくて、絶対喋りそうになさそうなルックスなのに、何このギャップ? 
 このギャップは流石に萌えないわ。

「はは、楽しい方ですね。私はエンって言います……自分はファイターとして登録してますが、実力はからっきしですけどね……実はF級に上がったばかりでして……で、こっちはレイド、剣士です。彼女は私と違って本物ですけどね」

 僕がそう言ってレイドを紹介するが、彼女はすぐに目を反らして横を向いた状態で頭を下げている。

「なんだ、喧嘩でもしてるのか?」

 マルタが小声で耳打ちをしてくるが、結構声がデカい。
 レイドにも聞こえたようで、レイドが軽く睨んでいる。

「ヤバッ」

 マルタが慌てて目を反らしているけど、その行為になんの意味があるのやら。
 とはいえ、このままでは空気が悪くなるのでしょうがない。

「いえ、彼女は極度の人見知りでして……大丈夫ですよ、あれでも機嫌が悪いってわけじゃないので。むしろ、あれが普通だと思って、気を悪くしないで頂けると有難いです……(あんななんで、友達も少なくて)」

 最後は小声で伝えると、マルタが大きく頷く。
 それから、レイドの方に近付いて行くと手を差し出す。

「よろしくね、レイドちゃん」
「ん」

 レイドが仕方なしその手を受けて、握手をする。
 まあ、嫌がってる感じでは無いから、良いかな。
 こうやって、少しでも話が出来る人を増やさないとね。

「それにしても、F級になりたてなのに無傷でここまで来たのか? すげーな……期待のルーキーって奴か」
「そんな大層なもんじゃないですよ」

 F級だから嘗められるかと思ったが、ここに辿り着いた事で一目置いてくれたようだ。
 っていうか、どっかのF級パーティと違って、凄くちゃんとした対応をしてくれて、それで実力まであるとか憧れてしまうね。
 そう言えば、僕たちってパーティ組んでるのに、名前まだ決めて無かったわ。
 なんてことを考えて居たら、マルタさんがチラッとカナタさんを見てた。
 ですよねー……この人も紹介しないとだめですよね。
 正直、なんて言ったら良いか……

「最後に……こっちがカナタさんです。えっと、なんて紹介したら良いのか分からないですが、凄い無職の人ですよ」

 適当にカナタさんを紹介したけど、無職って紹介しずらいわ! 
 ていうか、マルタさんも微妙な表情をしているし。

「む……無職なのに凄いのか? どう凄いのか気になるが、宜しく頼む」
「ああ、こちらこそ」

 マルタさんが反応に困りつつ手を差し出すと、カナタさんが満面の笑みでその手を取る。
 そして軽く握手を交わすと、先ほど紹介されたエマという女性が近付いてくる。

「カナタさん……だっけ? 初対面で不躾だとは思うんだけど、ギルドカード見せて貰って良い?」
「おいエマ!」

 マルタが注意しようとするが、それをカナタさんが手で制している。
 それからスッと、自分のギルドカードを提出する……

「本当にF級……」

 そのギルドカードを見て、エマさんが驚いている。
 何をそんなに驚く事があるのだろうか……

「いくら、服装が冒険者っぽく無くて、見た目も戦えそうに無いからって、それは失礼だろ!」

 そっち? 
 マルタさんが、めちゃくちゃな事を言っているが、まさかF級という事を疑われるほどダメダメな恰好だったんだな。
 良かった……ちゃんとした格好してて。

「貴方……それ、口にしちゃ駄目なやつじゃない?」

 エマさんに言われて、マルタがあちゃーって感じで口に手を当てる。

「す……すまん、カナタさん。あの、そういうつもりじゃ」
「いえ、分かりますって。だって、一昨日F級に上がったばかりですしね。まだまだ、F級としての雰囲気てのが備わって無くて当然ですから」

 出た……超良い人モード! 
 僕も、これに騙されていまじゃ大変な……大変な? 
 いや、大変だけど、いい意味でも大変な事になってたわ。
 大幅なレベルアップに、素晴らしい武器、念願のF級昇進に、新スキルの発現……
 あれ? 凄い辛いとか、この人に迷惑掛けられてるって思ってたけど? 
 天秤にも掛けられない程のもの貰ってね? 
 いや、この人にそんな意思があるとは思えないけど。

「まあ、私は逆の意味で驚いたんだけどね……」
「あっ! エマずりーぞ!」

 なんだろう……一気にマルタさんと仲良くなれそうな気がしてくる。
 うんうん、マルタさん面白そうな人だし、今度ゆっくり飲みに行ってみたいかも。

「ふふ……F級の新米冒険者だから、色々と教えてくださいね」

 爽やかにニコリと笑うカナタさんに、エマさんは怪しい笑みで返している。
 なに、この大人の雰囲気。

「あら、じゃあお礼にイースタンの事を教えてくださるかしら?」

 カナタさんの肩に両手を乗せて唇をそっと耳元に寄せて、ゆっくりと、そして色っぽい声色で話し掛けていいる。

「むう!」

 横でレイドがそんな二人を見ながら頬を膨らましていたが、カナタさんの表情に全く変化が無い事に安心したのか満足そうに頷いている。
 っていうか、こういうとこ凄いよなこの人、
 この場の取り繕い方は見習わないと。
 余所行きモードの笑顔になると一切崩れないから、その笑顔だけで全てを切り抜けそうな雰囲気もある。
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