異世界に召喚されて中世欧州っぽい異世界っぽく色々な冒険者と過ごす日本人の更に異世界の魔王の物語

へたまろ

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第1章:仮冒険者と魔王様、冒険者になる!~エンの場合~

第12話:メルスのダンジョン11階層~罠と強敵と僕と~

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 ミスリルのルーンブレイドを頼りに11階層に踏み入る。
 このダンジョンには15階層に小ボス、29階層に中ボスと呼ばれる特殊な魔物がいるらしい。
 そして30階層が一応、メルスさんが祀られているとされている部屋だ。
 ちょっと特殊なのは31階層に墓所があり、そこにメルスさんが眠っていらっしゃる。
 つっても、本人はゴーストとなってそこで生活をしているというのだから、なんとも言えない。
 メルスさんという魔族の方は確かに凄い魔力と知恵の持ち主で、生前は魔王の側近として活躍したと伝えられている。
 主に人間との友好条約の制定と、人間と魔族の交流と言う面で。
 その中で、過去に偉業を達した偉人達は霊廟というところに祀られているという事を知り、生きている間に自分で作ってしまったのだから変わり者だったというのも有名だ。

「じゃあ、進もうか」

 カナタさんはそう言って、普通に階段を降りていくが……ここからがこのダンジョンの肝なんですけどね? 
 もう少し、緊張しても良いと思うんですが? 
 そんな事を考えながら、カナタさんの後ろを付いて降りる。
 11階層からはやはり雰囲気がガラリと変わるようだ。
 壁もそれまでの白基調からダークブラウンへと変わっているし、壁にトーチが無い為かなり暗い。

「むう……結構暗いな」

 カナタさんが、そう言って顔をしかめる。
 なんだかんだ言っても所詮は素人か……
 雰囲気に呑まれてビビッてしまうのは、仕方が無いよね。
 なんて言いながらも、僕も膝はガクガクブルブルしている。
 いや、これは武者震いって奴ですから……
 このルーンブレイドを、この階層の敵に試したくてウズウズしているだけですからね? 
 本当だよ? 
 ちなみに、武者になれるのはイースタンの方限定らしいですけどね。
 戦闘狂いのイースタンは、強い敵を前にすると楽しみと喜びで震えるらしい……それ、なんて戦闘民族? 
 まあ、僕の場合はファイター震いって奴ですよ! ははは……怖い。

「ここからは、罠も設置されているようですし、敵の強さも格段に上がりますからね」

 平然を装って、カナタさんに警告する。
 ほれっ、もっと怯えるが良い! 
 普段、クールで強気で偉そうで物怖じしない人がビビってると楽しくなってくるよね? 
 それに、肝試しとかでも脅かし役の方が怖くないって言うし。

「カナタさん、先頭変わりましょうか?」

 僕じゃないよ? 
 レイドのセリフだよ。
 いくら僕でも、この階層からは前を歩く度胸なんてあるわけないじゃないですか。
 レイドはおっとこ前だなー……分かってみると、凄く可愛らしい少女だけど。

「いや、俺は暗くても普通に見えるから良いけど、どっかのアホが罠を踏みかねんと思ってな」

 そう言って、こっちをジトっと見つめるカナタさん。
 ええんやで? ビビってるなら、ビビってるで! 
 正直になった方が、楽になれるんですよ? 
 何てことを思って、笑顔を返してやった。
 いつもカナタさんにやられている事を、仕返し出来てちょっとスッとした……ら、思いっきり溜息を吐かれた。

「な……なんですか? 僕だって一応、冒険者歴は長いんですよ? (仮ですが……)罠を踏むようなヘマはしませんから」
「いや、この中で一番死にそうなやつが、能天気で良いなと思ってね。まあ、そんなに自信があるならこのままで良いか」

 やだなーカナタさん! 
 僕を誰だと思ってるんですか? 
 昨日F級に上がったばっかりの冒険者ですよ? 
 ペーペーですよ? 
 やべっ……カナタさんの意外な表情が見れて、つい調子に乗ったけど……どう考えても、フラグ立てちゃったよ。
 絶対罠踏むって……これ僕、絶対罠踏むってー! 
 という予感は正しく、50歩も歩かないうちにカチッという音がする。
 僕の足元から……

「あっ」

 という言葉を発した瞬間、カナタさんが僕を突き飛ばす。
 レイドを巻き込みながら、凄い勢いで吹き飛ばされる。

「いったーい、ちょっとどうしたんです……か?」

 レイドが文句を言った瞬間に床から約10本の槍が飛び出してくる。
 あぶねー! カナタさんが突き飛ばしてくれなかったら、レイドごと串刺しだったわこれ……

「うわー……」

 レイドが目の前の槍を見て、青い顔をして呟いている。
 僕も一瞬、レイドと仲良く槍で串刺しになるところを想像していたため、はたから見ると顔色が相当青くなっていることだろう。
 そして僕の下に居るレイドも同じことを思ったのだろう、槍を見つめながらゴクリと唾を飲んでいる。
 その二人に向かってカナタさんだけは、普通の表情で……というより若干呆れた表情で首を振っている。

「言わんこっちゃない……俺の歩いたところを良く見て同じところを踏みながら歩け馬鹿者。それと、先に言っておくが壁にもむやみに触れるなよ?」

 と言われた時にはすでに遅い事が、この流れでのお約束だよね? 
 立ち上がろうと、横の壁に手を付いた瞬間にまたもカチッという音がなる。
 やあトラップさん、またすぐにお会いできましたね。

「ひいっ!」

 今度は天井が凄い速さで落ちてくるが、カナタさんがそれよりも早く槍を砕きながら飛び込んでくると、右手に僕、左手にレイドを掴んでそのまま一気に駆け抜ける。
 なにこれ? 
 いや、罠の話じゃないよ? 
 カナタさんの身体能力だよ? 
 たった4mを移動しただけなのに、凄いGを感じた。
 筋力25? 敏捷19? 
 荷物を持ってそれなりの装備を身に着けた人間二人を、片手に一人ずつもって2秒掛からずに落ちて来た天上より早く駆け抜けるとか……
 しかも、槍を障害ともせずにだよ? 
 戦闘が苦手? 
 無職? 
 はっ? 

「すごっ……」

 レイドも同じことを思っていたらしく、目をめっちゃ見開いてカナタさんを見つめている。
 うん、良かった……
 僕が罠を発動させたことは、有耶無耶に出来そうだ。

「さっきは、色々と失礼な事を考えていたようだが、これがお前の現状だ。すでに2回死んでるからな?」

 カナタさんに睨まれる。
 はい、申し訳ありませんでした。
 先ほどのカナタさんが顔を顰めたのは、僕を心配しての事だったんですね……今なら分かります。
 カナタさんがスタスタ歩いていたので、てっきり階段のすぐそばに罠なんて無いと思ってました。
 油断してました……申し訳ありません……
 めっちゃ、反省した。

「まず、床の罠だがな……微妙に色が違うだろ? ……つっても発動させた後じゃ分からんか。そこにも罠がある。よく見てみろ」

 カナタさんに言われてジッと見る。
 確かにそこだけ、他の床よりちょっと綺麗だ。

「まあ、スイッチになっているんだ。当然特徴はあるだろうが……ここまで来るような冒険者なら多少は腕が立つだろ。その程度の罠は踏まないだろう? だから他の床よりは多少は綺麗なもんさ」

 僕は思いっきり踏んじゃいましたけどね? 
 それに、引っ掛かってる人も居るんじゃないかな? 
 だって、槍も錆びてるよ? 

「まあ、馬鹿が何人かは引っ掛かるみたいだけどな」

 そして今僕たちは、カナタさんの後をカナタさんと同じように歩いている。
 この人普通に歩いているようで、微妙に歩幅変えてたわ。
 てか、よく見ないと気付かなかったし。

「ねえ、エンさん? カナタさんって一体何者?」
「さ……さあ? どっかの金持ちだと思ってたけど……もしかして、魔王かも」

 今じゃ、以前のカナタさんの魔王発言も少しは信用出来る。
 僕は厚めのチュニックの上に皮の鎧を着て、バックパックを背負った上からマントを羽織っている、
 腰にはルーンブレイド……どっからどう見ても冒険者だし、これが冒険の正装だと思っている。
 レイドもシャツの上から軽い金属素材で出来たライトアーマーを装着し、スパッツにレザーガードを履いている。
 腰には鉄のロングソード差していて、僕と同じくバックパックを背負い、その上からマントを羽織っている。
 彼女も、100人が見たら、100人が冒険者と答えるだろう。

 一方でカナタさんはというと……
 黒い綿で出来た肌触りのよさそうなパンツ、フリルのついた照りのある純白のシャツ、そして青を基調として襟や袖に金糸をあつらえたブレザー……
 うん、ダンジョン嘗めてるよね? 
 手ぶらだし……

「罠に掛からなくなった途端に、余計な事を考えるとは余裕だねエンくん? 俺の動きを良く観察して、今後の為に勉強しておいた方が良いんじゃないか?」

 怒られたし。
 いや、まあごもっともなんだけどさ……ごもっともなんだけど、なんか腹立つ。
 だってよ? だって、こんなふざけた格好の人がダンジョンの地図を一瞬で覚えて、しかも罠まで完全に回避してさ……おかしいでしょ? 
 世の中不公平だよ? 
 こっちは、こんな重い荷物まで持って頑張って歩いてるっていうのにさ? 
 手ぶらだよ? 
 日帰りできると思ってんの? 
 食料無いって言っても分けてあげないよ? 

「ふむ……罠の避け方を覚えるまではと思っていたが、少し退屈らしいな……丁度いい、そこの分かれ道を右に行くと、魔物が2体居るからな。進むのは左だが、ちょっと刺激を与えてやろう」

 カナタさんはそう言って一瞬で駆け抜けると、右に曲がっていった。

「置いてかれた?」
「まさか?」

 僕とレイドが突然のカナタさんの奇行にキョトンとしていたら、すぐにタッタッタッタという軽快なリズムの足音が聞こえてくる。

「ただいまっと! それじゃあ、エンくん……あとは、宜しく!」

 カナタさんがそう言って僕の背後に隠れると、その後ろからドタドタドタドタっという足音が聞こえてくる。
 うん、嫌な予感しかしないわ……
 分かれ道から出て来たのは、巨大な蜥蜴だ……それも2匹。
 しかも尻尾から背中、頭にかけて、固い鱗で覆われている。
 その鱗は他の部分と違ってゴツゴツしていて、固いですよって全力で主張している。
 まあ、腹は柔らかいから倒し方としては、ひっくり返して腹を突き刺すか、相手が立ち上がってこっちを攻撃しようとする瞬間を狙うかだけど……まずひっくり返せないよな? 

「アーマーリザード……ちょっと、エンさんだけでは。手伝いましょうか?」
「いや、良いよ。一人でやる」

 えっ? カナタさん? なんで、あんたがそれ言っちゃうの? 
 レイドもえっ? って顔してる。
 でも、当の本人はニヤニヤとした笑みを浮かべて、ほれっ! とっととやれとばかりに顎をしゃくる。
 その動作は僕にアーマーリザードをやれと言っているのか、アーマーリザードに僕をやれと言っているのか酷く曖昧だけど。

 すぐに目の前まで接近してきたアーマーリザードが、目の前で向きを変えると尻尾で薙ぎ払ってくる。
 尻尾の先はとげが付いていて、下手に受けるとそれが突き刺さる事になる。
 素早くルーンブレイドを抜いて、その尻尾を斬り払おうとしたがガキンッという鈍い音がして、吹き飛ばされる。
 うわっ、ミスリルでも斬れないとかどんだけ固いんだよ! 

「ちょっ! マジ無理! 殺される!」

 すぐに2匹目が前足で僕に殴りかかって来るのを、どうにか横に飛んで躱すが目の前にはすでに1匹目のアーマーリザードが迫っている。
 体制を崩したまま、そのアーマーリザードの爪を剣で受け止める。
 残念ながら、相手の方が遥かに重量が上なので弾く事も出来ずに押しつぶされそうになる。

「うわーん、無理ですって! てか、急に敵が強くなり過ぎでしょ!」

 両手でどうにか潰されないように頑張ってカナタさんに目を向けながら助けを求めるが、相変わらずニヤニヤとしたまま動こうとしない。
 マジか……
 2匹目の方が横から接近してきて、僕に噛み付こうとする……やべっ! 終わったわこれ……
 さようなら皆さん……
 先立つ不孝をお許しください。
 そう思って、全てに身を任せるつもりで目を瞑る。

「0点だな……」

 そんな声がすぐ横で聞こえてくる。
 っていうか、なかなか噛み付き攻撃来ないな……
 これって、ジワジワといたぶる系ですか? 
 こんな状況なのにくだらないことを考えられるあたり、意外と僕って神経図太いかも。
 ちょっと好奇心に負けて片目を開けると、カナタさんが片手で僕に噛み付こうとしたアーマーリザードの鼻先を押さえている。
 アーマーリザードが必死に前に進もうとしているのは分かるのだが、何故か微動だにしていない。

「まず、力が上の相手になんで受けようとするかな? 普通は受け流すか、避けるかだろう。」

 カナタさんがそう呟いて軽く手を押すと、アーマーリザードの巨体が後ろに下がる。
 それから、もう一体のアーマーリザードの爪を支えている僕の剣の腹を残っている手で軽く弾くと、爪も弾き返される。
 えっ? 
 はっ? 
 何が起こってるの? 
 そんな事を考えていると、すぐに弾かれたアーマーリザードが再度距離を詰めてくる。
 そして前足を振り上げる。

「右斜め前に飛べ!」

 カナタさんに言われた通りにすると、すぐに僕が居た場所に爪が振り下ろされる。

「ほらっ、後ろに飛べ! 尻尾が来るぞ?」

 慌てて後ろに飛ぶと、今度は目の前を尻尾が横切る。

「そのまま尻尾の横を通って相手の右側に移動して、目ん玉にその剣を突き刺してやれ!」

 カナタさんに言われた通りに、通り過ぎた尻尾に隠れるようにしてアーマーリザードの横に移動する。
 尻尾を振った反動で、アーマーリザードが上手く体制を整えられないでいるようだ。
 両手両足で踏ん張っていたためか、その前足でこっちに対応することも出来ないまま、僕の持った剣に目を貫かれる。

「刺したらすぐに抜け鈍間が! あとたぶん立ち上がるから、すぐに正面に移動して腹を十文字に切り開いてやれ!」

 カナタさんの言う通りの事が起きる。

「グギャァァァァ!」

 目を刺された激痛からから、アーマーリザードが両手を振り回しながら立ち上がる。
 だが、僕が居るのは奪われた目の方だ。
 完全に死角に居た為、その手を掻い潜る事は簡単だった。
 すぐに正面に移動して、その柔らかい腹を十文字に切り開く。
 色々と見えちゃいけないものを飛び散らかしながら、そのまま後ろにズドーンという音と砂埃をあげながら、アーマーリザードが倒れた。

「じゃあ、二回戦行ってみようか」

 カナタさんは呑気な声でそう言うと、左手で押さえていたアーマーリザードを解放し、そのまま後ろに飛び越える。
 いきなり抵抗が消えた為、思わず前によろけるアーマーリザード目がけて、僕も剣を突き刺す。
 当然、先ほどの戦闘で学習した。
 柔らかいところは腹以外にもある。
 そう、無防備にさらされた右目を狙って突きを放つ。
 だがすぐに顔を反らされて、ガキンという音とともに剣を弾かれる。
 残念頬を霞めただけだったようだ。

 でも1対1になった事で大分楽になった。
 なんて事は無かった。
 もうメチャクチャ。
 仲間を殺されていきり立ったアーマーリザードの猛攻に、あっという間に追い詰められていく。
 そしてついに……
 ドンっという音がして背中に壁が当たる。
 うはっ、ヤバいこれ……今度こそ死んだ。
 追い詰めたアーマーリザードの表情もどこか嬉しそうだ。
 カチカチと歯を鳴らしながら、ゆっくりと口を開ける。

「噛み付きが来たら剣で鼻を叩きつつ右に飛んで、すぐにそいつの背中に飛び乗れ。ゴツゴツしてるから簡単だろう」

 すでにカナタさんの言葉に条件反射で動いてしまう。
 先の一連の流れからして、言う通りにしておけば間違い無いだろう。
 そのまま噛み付こうとしてきたアーマーリザードの鼻を叩き付けると、少しだけこちらに向かう勢いが遅くなる。
 その隙で右に飛ぶ……カチッ。
 カチッ? 

「やあ、こんにちは! また会ったね。」

 そんな声が聞こえて来た気がする……
 嘘だろっ! 
 慌ててアーマーリザードの背に飛び乗ろうと、その前足の鱗に手を掛けた瞬間に、アーマーリザードが素早く手を振り払う。
 思いっきり吹き飛ばされる……

「いてて……」

 ザグシュッガキン! 

 という変な音が聞こえて来たかと思うと、アーマーリザードの身体が少し浮いていた。
 どうやら、地面から突き出した槍に刺されたようだが、串刺しにはならなかったみたいだ。
 背中の鱗が固すぎて。
 しかし、この人はなんつー事をやらせるんじゃい! 
 そんな事を思ってカナタさんの方を見ると、満足そうに拍手をしていた。
 横では、レイドが心底安心したような、ホッとした表情を浮かべている。

「よくやった」

 わーい、褒められちった。
 ってバカヤロー! 
 死ぬから、マジで死ぬと思ったから。
 というか、元はと言えばこれ連れて来たの、貴方だから! 
 そう言えたら、どんなに楽だったか……
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