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第1章:仮冒険者と魔王様、冒険者になる!~エンの場合~
第11話:メルスのダンジョン1階層と10階層
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「いやー、楽勝っすね」
ここはメルスのダンジョンの10階層だ。
なんていうか、超サクサク進んでる。
っていうか出てくる敵も雑魚ばっかだし、これ制覇楽勝なんじゃないかって思えて来たわ。
ウハッ!
何てことを思っていたら、カナタさんから冷たい視線を浴びせかけられる。
はいっ、すいません……調子乗りました。
さて、なんで僕がこんな勘違いをしているかというと……やっぱり、この剣のお陰です。
カナタさんに買って貰った100ジュエルのショートソードが、ちょー良い仕事してくれてるの。
ルーンの意味をカナタさんが教えてくれないから、完全には使いこなせてないんだけどね。
でも、パッシブタイプの魔法も掛かってるみたいで、吸い込まれるように敵がサクサク斬れるんだよね。
やっぱ武器って大事だよね?
「ふふっ……1階で、あんな逃げ腰だった奴のセリフとは思えんな」
カナタさんが笑ってる。
でも、なんでか知らないがちょっと嬉しそうだ。
―――――――――
遡る事3時間前
「えっと……先頭は……やっぱり僕ですよね?」
ダンジョンの入り口で、僕がおずおずと二人に確認するとカナタさんが何言ってんだこいつ? みたいな顔をする。
いや、だって自称非戦闘職のカナタさんと、女性のレイドと男の前衛職の僕だったら、当然僕じゃないの? って話だ。
一応、ギルドにはファイターで登録してるし?
ちなみにレイドは剣士で登録しているらしい。
カナタさんはというと……この人無職で登録してたよ。
っていうか冒険者が職業なはずなのに、無職ってどういう事だよ!
剣も魔法も使えないから、これから考えるって言ってごり押ししてたけど、めっちゃユリアさんが訝し気な表情をしてたのが印象的だ。
嘘でも、それなりの職業を言うのが冒険者だからね。
大体、無職なんて名乗ってる人とパーティ組もうなんて人居ないでしょ?
まあ、僕とレイドはその無職とパーティ組んでるんだけどね。
「いや、お前の散敵能力がまるっきりポンコツなのは知ってるからな? 当然先頭は俺だ」
思わず二度見してしまった。
いやいやいや、非戦闘職が先頭とかあり得ないっしょ?
まだ、レイドを推す方が常識的だと思えるのですが?
まあ、この人に限っては一概にそう言えないのだが……
そして、取りあえずは中に入る事になった。
「良いんですか?」
「まあ、実際に俺が先頭を歩いてみて問題があったら、レイドに任せよう。エン……お前は無しだ」
レイドがカナタさんに確認するが、当の本人は特に気にする様子もなく答えている。
なんだろう……この安定の信頼の無さ。
カナタさんの中で、僕は一体何になっているのだろう。
そんな事を思いながら、神殿のような建物の中に入っていく。
ふふっ……魔族の霊廟が神殿っぽいとかなんの冗談だろうね?
そんな事を思いながら、取り合えず入り口から真っすぐ歩いて進んだところにある、地下への入り口を降りる。
この迷宮は基本壁も床も切り出した石で作られていて、自然の中にあるゴツゴツしたダンジョンとは違って雰囲気は大分マシだ。
10階層までは、先人達が設置していったトーチに火が点けられていて、そこそこ明るい。
それ以降は、壁にそういったものを設置してもすぐに魔物に破壊されてしまうらしい。
ちなみに、5階層くらいまでは結構人が居たりする。
「えっと……取りあえず地図を出しますね」
30階層までは船着き場で地図が売っているので、カナタさんがそれを購入していた。
今は僕が持っているけど。
それを背中に背負ったカバンから取り出そうとして、カナタさんに止められる。
「いらん。全部頭に入ってる」
はっ?
あなた、地図買ってパラパラっとめくっただけですよね?
なんで、それで記憶出来るんですか?
全く持って意味が分からないんですけど?
そんなこっちの心配を他所に、カナタさんはどんどん進んでいく。
カナタさんが一切、迷うそぶりも見せずに歩いて行くのを後ろから追いかけながら、間違えろ! 道を間違えろ! と念じていたら、軽く睨まれた……怖い。
「その先の角を左に曲がって、暫く行ったところで誰かが戦闘をしているな……」
うん、分かりません。
その先の角って、40mくらい離れてるんですけど?
さらに、そこを曲がって暫く行ったところで戦闘してるのがなんで分かるんですか?
「なあレイド、こういう場合はどうするんだ? 助けるのか? それとも邪魔にならないように見てるのか? 出来れば無視してさっさと進みたいのだが」
なんで僕じゃなくて、レイドに聞くかなー?
やっぱり、男より女の方がいいからかな? このスケベ!
……また、睨まれた。
はい、すいません。
僕も、僕かレイドどっちが頼りになるかと聞かれたら、迷わずレイドって答えます。
そういう事ですよね。
「うーん、それは個人の判断ですね。人の戦闘を見る事を楽しむ人も居れば、助太刀してさっさと先に進む人も居ます。当然、その横をお先にと言って無視して進んでも良いですよ」
「そうか……じゃあ、無視していくか。相手はゴブリンが3匹だし、冒険者の方は4人組だから問題も無いだろうし」
「凄いですね。私もここまで来てようやく、戦闘の気配を感じることは出来ましたが人数までは」
置いてかないで!
いや、確かにレイド凄いよ。
3ヶ月でE級に上り詰めただけの事はあるよ。
でもさ……カナタさんおかしいだろ!
なんで、人数まで分かるんだろう……あっ! そう言えば、この人気配が読める人だったわ。
納得!
それなら、先頭を買って出たのも理解出来た。
そんな表情をしていたら、カナタさんから忘れていたのか? といった呆れられた表情を向けられる。
なんだろう……考えてる事が全て筒抜けになってる気がする。
もしかして、この人読めるの気配だけじゃないんじゃなかろうか……
ゴブリン4匹居ろ! 冒険者3人しか居るな! なんてことを念じながら角を曲がると、確かにゴブリン3匹相手に、4人の冒険者が戦闘をしていた。
すでに、1匹は切り捨てられて死んでいるようだ。
残りの2匹も傷だらけで、倒されるのは時間の問題だろう。
4人組は戦士が3人と、ヒーラーが1人っぽかった。
まあ、確かに魔法が使える人間ってのは少ないし、何よりヒーラーが居るってだけで羨ましい。
ただ、戦士3人ってどうなの? とは思ったが。
「お先……」
カナタさんは、その戦闘に全く興味無さそうに横を通り過ぎていく。
「すいません」
僕も頭を下げて横を通り過ぎる。
「通るよ……」
レイドも一声掛けて、横を通り過ぎる。
ただ、いつも僕と話しかけているより1オクターブ低く、不機嫌な感じだった。
うんうん、これが今まで僕の印象の中にあったレイドだ。
多分、本当はシャイで人見知りなだけで、慣れるとあんな感じで表現豊かな普通の女の子になるんだろうな。
僕しか知らないレイドっていうのも、嬉しくなるな。
「おい……ニヤニヤしながら横を通るな気持ち悪い」
丁度、最後のゴブリンに止めを刺している戦士の男にそう言われてしまった。
つい、ニヤニヤしてしまったのか。
「あっ……申し訳ありません。つい思い出し笑いが……」
うん、最悪な言い訳だ。
人間がダンジョンでどんな思い出し笑いをするというのだろう……
つい、ポロっと出ちゃったんだから、仕方が無いよね。
「よっ……余裕だな……」
ただ、戦士の人の方はそんな僕をどう勘違いしたのか、心底驚いたような呆れたような……凄いものでも見るような視線を向けてくる。
「おいタスク、イライラしてるからって、当たる事無いだろ?」
「すまんな……こいつ、昨日彼女に振られてイライラしてんだよ。それで、低階層に雑魚狩りに来て鬱憤を晴らしてるって訳だ」
「私は、こういう命を弄ぶような行為は感心しませんがね……」
ヒーラーの男性が深く溜息を吐いている。
「な……なんだよ! ゴブリン退治だって、立派な仕事じゃねーか! 1階層の魔物はダンジョンの外に出るって言われてるだろ!」
タスクと言われた男が、慌てて言い訳をしている。
というか、鬱憤を晴らしにゴブリン狩りにダンジョンに来る方が、余裕っぽいんですけどね。
実際、ゴブリン相手でもてこずるからね? 僕……
言ってて虚しくなった。
「何言ってんだ? それは普通のダンジョンの場合だろ? ここのダンジョンなら出ても、すぐに警備の騎士に殺されて終わりだろ? しかも、それを掻い潜っても周り湖だし……」
確かに……
別に、このダンジョンから魔物が出て来たところで、誰も何も被害を被ることは無いな。
「くそー! お前らまで馬鹿にしやがってー!」
タスクが剣を振り回しながらどっかに行ってしまった。
「すまん、すぐに追いかけないと!」
「悪かったな」
慌てて仲間が追いかけようと、駆け出す。
「大変だなあんたらも……おい、エンさっさと行くぞ。」
そしてこっちもカナタさんが、僕を急かしてくる。
ちなみにレイドは不機嫌そうに、どっかを見つめて立っているだけだ。
人見知りだと分からなかったら、完全にタスクと同類だ。
しかも、クール系なだけになお性質が悪いと思われそうだけど。
「ふふっ、時間を取らせてしまい申し訳ない。神のご加護がありますように」
ヒーラーの男性が僕たちに軽く祈祷をかけてから、3人を追いかけていった。
流石ヒーラー! ちょっとだけ身体が軽くなった気がする。
あーあ、ヒーラー仲間に欲しいなー……
なんてことを思っていたら、カナタさんがすでに歩き出していた。
「そこの先にゴブリンが3匹待ち構えているぞ? エン出番だ! 行って来い」
「えっ? 僕が?」
いきなり何を言い出すんだろう。
さきほどの冒険者達と別れて10分程歩いたところで、唐突にカナタさんがそんな事を言い出した。
っていうか、ゴブリン3匹を? 僕が? 一人で?
「そうだ、ゴブリン3匹を! お前が! 一人でだ! なに、危なくなったら、レイドが助けてくれるさ」
完全に僕の考え読んでますよね?
こわっ! この人こわっ!
なんてことを思ってたら、思いっきり背中を突き飛ばされた。
どんだけ馬鹿力なんだよ!
全然足を止めることが出来ずに、カナタさんが言われた場所に辿り着くと、横にある少し凹んだスペースからこん棒が振り下ろされる。
こけなかった自分凄いとか思ってたから、反応が遅れてしまったがどうにか剣を抜く事だけは出来た。
そして……
「ギャァァァァ!」
耳を劈かんばかりの悲鳴が聞こえる。
どうやら剣を振り抜いた動作が、丁度こん棒を斜めに切って左脇から右の肩まで斬り上げる格好になっていたようだ。
少し遅れて、ゴブリンの身体がずれていき真っ二つになる。
ナニコレ?
えっ? この剣凄くね?
あまりの剣の鋭さに感心していたら、すぐに仲間のゴブリンBが斬りかかってきたので、それを手に持ったショートソードで受け止める事は出来なかった。
何故なら、こん棒の先を斬り飛ばしてしまったからだ。
やべー……こん棒が紙のように切れる。
そのまま一気にゴブリンB目がけて斬り降ろすと、すぐにもう一体に斬りかかる。
先ほどの光景を見て居たら分かりそうなものなのに、そいつはこん棒を上段に構えて受けようとしやがった。
当然、こん棒ごと真っ二つになるゴブリンC!
いやぁ、ゴブリンって雑魚いっすね。
「エンさん凄い!」
「いやあ、この程度僕なら当然だよ」
レイドに褒められて、つい嬉しくなって調子に乗ってしまったが、初めてのダンジョン戦でいい結果が出せたんだ、ちょっとぐらい良いだろう?
どうですかカナタさん? 僕だって役に立つでしょう?
「ああ、凄いな……」
でしょでしょ? もう少し、人間っぽい扱いしてくれても良いんですよ。
「その剣……」
ですね……確かに、どう考えてもこの剣のお陰っすわ。
でも、お陰で自信も付いたのは事実だ。
確かに、調子に乗っているように見えたかもしれないし、実際に調子に乗ったが、先の戦闘の結果がこの剣の力に寄るところが大きいのも分かってるからね。
ちゃんと、身の丈知ってますって!
だから、ちょっとだけ調子に乗らせて! プリーズ。
「さっ、その先が2階層への階段だな」
そう言って、サクサク進むカナタさん。
うん、ドライだね……知ってた。
―――――――――
結果、10階層までの殆どの戦闘を任せて貰い、その全てを無傷で勝利してきたのだ。
僕って凄い! ってなっても良いでしょ?
だって、10階層までならE級でもそこそこを、ほぼ一人で無傷でやって来られたんだからね!
……ん? 一人で?
そこで気付いてしまった。
マジでカナタさん戦闘してねー! ってか、激しい運動してねー!
もはや、これカナタさんにとってはただのハイキングじゃん!
ウォーキングじゃん!
食後の運動じゃん!
そしてもう一人……レイドも何もしてなかったわ!
てか、レイドこそ何もしてなかったわ。
だって、カナタさんマジで道全部覚えてるし……一度も迷うそぶりも見せずに、ひたすら突き進んで階段に辿りついてるし……ありえねー……
しかも散敵に至っては階層に踏み込んだ瞬間に全ての魔物と、他の冒険者の位置を把握出来てるらしいからね。
なら、魔物を避けていこうぜ! って言いたくなった。
というか、敢えて適度なタイミングで魔物の居るところに誘導して、僕を戦わせているような気がって……はっ!
そう言えば、戦闘中ってこの人達休憩してるようなもんだよね?
僕だけひたすら歩き続けて戦い続けてだけど……この人達適度に歩いて、僕の戦闘中5分くらい休憩して、また適度に歩いてって感じだよね?
ヤラレタ!
なに気持ち良くなってんの僕?
思いっきり乗せられてんじゃん。
……はっ!
そして気付いてしまった……先ほどから嬉しそうにこっちを見ているカナタさんが、僕の表情が変わった瞬間にニヤリと嫌らしい笑みを浮かべたのを。
(やっと気付いたか……馬鹿め)
そう言われたような気がした。
というか、そう言われた……間違いない!
まあ、お陰でレベルも上がったし……体力が主に上昇した気がするけどさ……
なんか釈然としない。
でもここまでがE級でそこそこと言われてた10階層……
このダンジョンは11階層からガラリと雰囲気を変える。
凶悪な罠が仕組まれ、それは作動しても一定時間後にはまたもとに戻るらしい。
魔物も、今までのようなゴブリンやコボルト、スライムなんかじゃなく、グールやポイズンバット、アーマーリザードに、ラージスライムなんていう上位種が出てくるらしい。
頑張れ……ミスリルのルーンブレード!
ここはメルスのダンジョンの10階層だ。
なんていうか、超サクサク進んでる。
っていうか出てくる敵も雑魚ばっかだし、これ制覇楽勝なんじゃないかって思えて来たわ。
ウハッ!
何てことを思っていたら、カナタさんから冷たい視線を浴びせかけられる。
はいっ、すいません……調子乗りました。
さて、なんで僕がこんな勘違いをしているかというと……やっぱり、この剣のお陰です。
カナタさんに買って貰った100ジュエルのショートソードが、ちょー良い仕事してくれてるの。
ルーンの意味をカナタさんが教えてくれないから、完全には使いこなせてないんだけどね。
でも、パッシブタイプの魔法も掛かってるみたいで、吸い込まれるように敵がサクサク斬れるんだよね。
やっぱ武器って大事だよね?
「ふふっ……1階で、あんな逃げ腰だった奴のセリフとは思えんな」
カナタさんが笑ってる。
でも、なんでか知らないがちょっと嬉しそうだ。
―――――――――
遡る事3時間前
「えっと……先頭は……やっぱり僕ですよね?」
ダンジョンの入り口で、僕がおずおずと二人に確認するとカナタさんが何言ってんだこいつ? みたいな顔をする。
いや、だって自称非戦闘職のカナタさんと、女性のレイドと男の前衛職の僕だったら、当然僕じゃないの? って話だ。
一応、ギルドにはファイターで登録してるし?
ちなみにレイドは剣士で登録しているらしい。
カナタさんはというと……この人無職で登録してたよ。
っていうか冒険者が職業なはずなのに、無職ってどういう事だよ!
剣も魔法も使えないから、これから考えるって言ってごり押ししてたけど、めっちゃユリアさんが訝し気な表情をしてたのが印象的だ。
嘘でも、それなりの職業を言うのが冒険者だからね。
大体、無職なんて名乗ってる人とパーティ組もうなんて人居ないでしょ?
まあ、僕とレイドはその無職とパーティ組んでるんだけどね。
「いや、お前の散敵能力がまるっきりポンコツなのは知ってるからな? 当然先頭は俺だ」
思わず二度見してしまった。
いやいやいや、非戦闘職が先頭とかあり得ないっしょ?
まだ、レイドを推す方が常識的だと思えるのですが?
まあ、この人に限っては一概にそう言えないのだが……
そして、取りあえずは中に入る事になった。
「良いんですか?」
「まあ、実際に俺が先頭を歩いてみて問題があったら、レイドに任せよう。エン……お前は無しだ」
レイドがカナタさんに確認するが、当の本人は特に気にする様子もなく答えている。
なんだろう……この安定の信頼の無さ。
カナタさんの中で、僕は一体何になっているのだろう。
そんな事を思いながら、神殿のような建物の中に入っていく。
ふふっ……魔族の霊廟が神殿っぽいとかなんの冗談だろうね?
そんな事を思いながら、取り合えず入り口から真っすぐ歩いて進んだところにある、地下への入り口を降りる。
この迷宮は基本壁も床も切り出した石で作られていて、自然の中にあるゴツゴツしたダンジョンとは違って雰囲気は大分マシだ。
10階層までは、先人達が設置していったトーチに火が点けられていて、そこそこ明るい。
それ以降は、壁にそういったものを設置してもすぐに魔物に破壊されてしまうらしい。
ちなみに、5階層くらいまでは結構人が居たりする。
「えっと……取りあえず地図を出しますね」
30階層までは船着き場で地図が売っているので、カナタさんがそれを購入していた。
今は僕が持っているけど。
それを背中に背負ったカバンから取り出そうとして、カナタさんに止められる。
「いらん。全部頭に入ってる」
はっ?
あなた、地図買ってパラパラっとめくっただけですよね?
なんで、それで記憶出来るんですか?
全く持って意味が分からないんですけど?
そんなこっちの心配を他所に、カナタさんはどんどん進んでいく。
カナタさんが一切、迷うそぶりも見せずに歩いて行くのを後ろから追いかけながら、間違えろ! 道を間違えろ! と念じていたら、軽く睨まれた……怖い。
「その先の角を左に曲がって、暫く行ったところで誰かが戦闘をしているな……」
うん、分かりません。
その先の角って、40mくらい離れてるんですけど?
さらに、そこを曲がって暫く行ったところで戦闘してるのがなんで分かるんですか?
「なあレイド、こういう場合はどうするんだ? 助けるのか? それとも邪魔にならないように見てるのか? 出来れば無視してさっさと進みたいのだが」
なんで僕じゃなくて、レイドに聞くかなー?
やっぱり、男より女の方がいいからかな? このスケベ!
……また、睨まれた。
はい、すいません。
僕も、僕かレイドどっちが頼りになるかと聞かれたら、迷わずレイドって答えます。
そういう事ですよね。
「うーん、それは個人の判断ですね。人の戦闘を見る事を楽しむ人も居れば、助太刀してさっさと先に進む人も居ます。当然、その横をお先にと言って無視して進んでも良いですよ」
「そうか……じゃあ、無視していくか。相手はゴブリンが3匹だし、冒険者の方は4人組だから問題も無いだろうし」
「凄いですね。私もここまで来てようやく、戦闘の気配を感じることは出来ましたが人数までは」
置いてかないで!
いや、確かにレイド凄いよ。
3ヶ月でE級に上り詰めただけの事はあるよ。
でもさ……カナタさんおかしいだろ!
なんで、人数まで分かるんだろう……あっ! そう言えば、この人気配が読める人だったわ。
納得!
それなら、先頭を買って出たのも理解出来た。
そんな表情をしていたら、カナタさんから忘れていたのか? といった呆れられた表情を向けられる。
なんだろう……考えてる事が全て筒抜けになってる気がする。
もしかして、この人読めるの気配だけじゃないんじゃなかろうか……
ゴブリン4匹居ろ! 冒険者3人しか居るな! なんてことを念じながら角を曲がると、確かにゴブリン3匹相手に、4人の冒険者が戦闘をしていた。
すでに、1匹は切り捨てられて死んでいるようだ。
残りの2匹も傷だらけで、倒されるのは時間の問題だろう。
4人組は戦士が3人と、ヒーラーが1人っぽかった。
まあ、確かに魔法が使える人間ってのは少ないし、何よりヒーラーが居るってだけで羨ましい。
ただ、戦士3人ってどうなの? とは思ったが。
「お先……」
カナタさんは、その戦闘に全く興味無さそうに横を通り過ぎていく。
「すいません」
僕も頭を下げて横を通り過ぎる。
「通るよ……」
レイドも一声掛けて、横を通り過ぎる。
ただ、いつも僕と話しかけているより1オクターブ低く、不機嫌な感じだった。
うんうん、これが今まで僕の印象の中にあったレイドだ。
多分、本当はシャイで人見知りなだけで、慣れるとあんな感じで表現豊かな普通の女の子になるんだろうな。
僕しか知らないレイドっていうのも、嬉しくなるな。
「おい……ニヤニヤしながら横を通るな気持ち悪い」
丁度、最後のゴブリンに止めを刺している戦士の男にそう言われてしまった。
つい、ニヤニヤしてしまったのか。
「あっ……申し訳ありません。つい思い出し笑いが……」
うん、最悪な言い訳だ。
人間がダンジョンでどんな思い出し笑いをするというのだろう……
つい、ポロっと出ちゃったんだから、仕方が無いよね。
「よっ……余裕だな……」
ただ、戦士の人の方はそんな僕をどう勘違いしたのか、心底驚いたような呆れたような……凄いものでも見るような視線を向けてくる。
「おいタスク、イライラしてるからって、当たる事無いだろ?」
「すまんな……こいつ、昨日彼女に振られてイライラしてんだよ。それで、低階層に雑魚狩りに来て鬱憤を晴らしてるって訳だ」
「私は、こういう命を弄ぶような行為は感心しませんがね……」
ヒーラーの男性が深く溜息を吐いている。
「な……なんだよ! ゴブリン退治だって、立派な仕事じゃねーか! 1階層の魔物はダンジョンの外に出るって言われてるだろ!」
タスクと言われた男が、慌てて言い訳をしている。
というか、鬱憤を晴らしにゴブリン狩りにダンジョンに来る方が、余裕っぽいんですけどね。
実際、ゴブリン相手でもてこずるからね? 僕……
言ってて虚しくなった。
「何言ってんだ? それは普通のダンジョンの場合だろ? ここのダンジョンなら出ても、すぐに警備の騎士に殺されて終わりだろ? しかも、それを掻い潜っても周り湖だし……」
確かに……
別に、このダンジョンから魔物が出て来たところで、誰も何も被害を被ることは無いな。
「くそー! お前らまで馬鹿にしやがってー!」
タスクが剣を振り回しながらどっかに行ってしまった。
「すまん、すぐに追いかけないと!」
「悪かったな」
慌てて仲間が追いかけようと、駆け出す。
「大変だなあんたらも……おい、エンさっさと行くぞ。」
そしてこっちもカナタさんが、僕を急かしてくる。
ちなみにレイドは不機嫌そうに、どっかを見つめて立っているだけだ。
人見知りだと分からなかったら、完全にタスクと同類だ。
しかも、クール系なだけになお性質が悪いと思われそうだけど。
「ふふっ、時間を取らせてしまい申し訳ない。神のご加護がありますように」
ヒーラーの男性が僕たちに軽く祈祷をかけてから、3人を追いかけていった。
流石ヒーラー! ちょっとだけ身体が軽くなった気がする。
あーあ、ヒーラー仲間に欲しいなー……
なんてことを思っていたら、カナタさんがすでに歩き出していた。
「そこの先にゴブリンが3匹待ち構えているぞ? エン出番だ! 行って来い」
「えっ? 僕が?」
いきなり何を言い出すんだろう。
さきほどの冒険者達と別れて10分程歩いたところで、唐突にカナタさんがそんな事を言い出した。
っていうか、ゴブリン3匹を? 僕が? 一人で?
「そうだ、ゴブリン3匹を! お前が! 一人でだ! なに、危なくなったら、レイドが助けてくれるさ」
完全に僕の考え読んでますよね?
こわっ! この人こわっ!
なんてことを思ってたら、思いっきり背中を突き飛ばされた。
どんだけ馬鹿力なんだよ!
全然足を止めることが出来ずに、カナタさんが言われた場所に辿り着くと、横にある少し凹んだスペースからこん棒が振り下ろされる。
こけなかった自分凄いとか思ってたから、反応が遅れてしまったがどうにか剣を抜く事だけは出来た。
そして……
「ギャァァァァ!」
耳を劈かんばかりの悲鳴が聞こえる。
どうやら剣を振り抜いた動作が、丁度こん棒を斜めに切って左脇から右の肩まで斬り上げる格好になっていたようだ。
少し遅れて、ゴブリンの身体がずれていき真っ二つになる。
ナニコレ?
えっ? この剣凄くね?
あまりの剣の鋭さに感心していたら、すぐに仲間のゴブリンBが斬りかかってきたので、それを手に持ったショートソードで受け止める事は出来なかった。
何故なら、こん棒の先を斬り飛ばしてしまったからだ。
やべー……こん棒が紙のように切れる。
そのまま一気にゴブリンB目がけて斬り降ろすと、すぐにもう一体に斬りかかる。
先ほどの光景を見て居たら分かりそうなものなのに、そいつはこん棒を上段に構えて受けようとしやがった。
当然、こん棒ごと真っ二つになるゴブリンC!
いやぁ、ゴブリンって雑魚いっすね。
「エンさん凄い!」
「いやあ、この程度僕なら当然だよ」
レイドに褒められて、つい嬉しくなって調子に乗ってしまったが、初めてのダンジョン戦でいい結果が出せたんだ、ちょっとぐらい良いだろう?
どうですかカナタさん? 僕だって役に立つでしょう?
「ああ、凄いな……」
でしょでしょ? もう少し、人間っぽい扱いしてくれても良いんですよ。
「その剣……」
ですね……確かに、どう考えてもこの剣のお陰っすわ。
でも、お陰で自信も付いたのは事実だ。
確かに、調子に乗っているように見えたかもしれないし、実際に調子に乗ったが、先の戦闘の結果がこの剣の力に寄るところが大きいのも分かってるからね。
ちゃんと、身の丈知ってますって!
だから、ちょっとだけ調子に乗らせて! プリーズ。
「さっ、その先が2階層への階段だな」
そう言って、サクサク進むカナタさん。
うん、ドライだね……知ってた。
―――――――――
結果、10階層までの殆どの戦闘を任せて貰い、その全てを無傷で勝利してきたのだ。
僕って凄い! ってなっても良いでしょ?
だって、10階層までならE級でもそこそこを、ほぼ一人で無傷でやって来られたんだからね!
……ん? 一人で?
そこで気付いてしまった。
マジでカナタさん戦闘してねー! ってか、激しい運動してねー!
もはや、これカナタさんにとってはただのハイキングじゃん!
ウォーキングじゃん!
食後の運動じゃん!
そしてもう一人……レイドも何もしてなかったわ!
てか、レイドこそ何もしてなかったわ。
だって、カナタさんマジで道全部覚えてるし……一度も迷うそぶりも見せずに、ひたすら突き進んで階段に辿りついてるし……ありえねー……
しかも散敵に至っては階層に踏み込んだ瞬間に全ての魔物と、他の冒険者の位置を把握出来てるらしいからね。
なら、魔物を避けていこうぜ! って言いたくなった。
というか、敢えて適度なタイミングで魔物の居るところに誘導して、僕を戦わせているような気がって……はっ!
そう言えば、戦闘中ってこの人達休憩してるようなもんだよね?
僕だけひたすら歩き続けて戦い続けてだけど……この人達適度に歩いて、僕の戦闘中5分くらい休憩して、また適度に歩いてって感じだよね?
ヤラレタ!
なに気持ち良くなってんの僕?
思いっきり乗せられてんじゃん。
……はっ!
そして気付いてしまった……先ほどから嬉しそうにこっちを見ているカナタさんが、僕の表情が変わった瞬間にニヤリと嫌らしい笑みを浮かべたのを。
(やっと気付いたか……馬鹿め)
そう言われたような気がした。
というか、そう言われた……間違いない!
まあ、お陰でレベルも上がったし……体力が主に上昇した気がするけどさ……
なんか釈然としない。
でもここまでがE級でそこそこと言われてた10階層……
このダンジョンは11階層からガラリと雰囲気を変える。
凶悪な罠が仕組まれ、それは作動しても一定時間後にはまたもとに戻るらしい。
魔物も、今までのようなゴブリンやコボルト、スライムなんかじゃなく、グールやポイズンバット、アーマーリザードに、ラージスライムなんていう上位種が出てくるらしい。
頑張れ……ミスリルのルーンブレード!
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異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
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※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
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異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
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これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
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23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
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トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
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***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
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マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
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小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
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ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
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ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
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これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話
天野 星屑
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突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。
その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。
ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。
10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。
*本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています
*配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします
*主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。
*主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません
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