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第1章:仮冒険者と魔王様、冒険者になる!~エンの場合~

第1話:出会い

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「ヤバい、陽が傾いてきた」

 僕ことエンは、焦っていた。
 というのも仮冒険者でありながら、D級推奨の迷いの森ことアスラの森の奥まで迷いこんでしまったからだ。
 何故こんなことになってしまったのかというと、仮冒険者からF級に上がるための課題の討伐対象である角ウサギを追いかけていたら、いつの間にか見知らぬ場所に出たからだ。

 道があるところは仮冒険者でもなんとかなる。
 道の脇で薬草採取をすることは、仮冒険者の生活費を稼ぐ手段のひとつだし、定期的にギルド職員が巡回に来てくれるからだ。

 主に外担当のギルド職員はC級からD級の実力がある。
 だから道で、ちょっとくらい強い魔物に出会っても、時間さえ稼ぎつつ死ななければ助けてもらえる。
 彼らは回復系のアイテムも常備しているしね。

 ちなみに森の浅いところはE級からF級の主な狩場でもある。
 彼らでも狩れる程度の魔物しかいない。
 イレギュラーなことはあるが、それでもそこまで深くに入らなければ問題ない。

 さらに奥に進むと、そのE級やF級冒険者が狩る魔物を主食とした魔物が多くいる。
 うん、E級冒険者が狩る魔物を狩る魔物ということは、同じようにそのくらいの実力がある。
 そして狼系の魔物であれば、それが群れを形成している。
 E級冒険者10人から20人の集団と思えばわかりやすい。

 あと空を飛ぶ魔物は、翼の生えたE級冒険者……うん、弱いわけがない。

 だから、森の深部はD級推奨。
 ここには、ギルド職員の巡回もない。
 なぜなら、ここは初心者が来るような場所じゃないからだ。
 所謂、自己責任の領域。
 詰んだ。

「はぁ……失敗したなー」

 僕は切り株に腰掛けて頭を抱える。
 こんなところまで来られる樵がいるのか……ここに座ってたら、来てくれないかな?
 と、あほなことを考えてみる。

 いや、風魔法が得意な魔物が、切り倒した可能性の方が高いか。
 せっかく休めそうな場所なのに、すぐに移動したくなった。

「全然、見覚えが無い」

 森に踏みいるときは、後ろを振り返って反対側の景色を覚えつつ印を残すのは基本中の基本だが、目の前に冒険者の免許が歩いてたもんだから完全に欲に駆られて行動してしまった。

 でもしょうがないじゃん! 
 仮冒険者とF級冒険者には、とてつもなく大きな差があるんだから。

 その差というのは、依頼が受けられるか受けられないかだ。
 ちなみに仮冒険者は依頼を受けることは出来ない。
 依頼を失敗すると、ギルドの信頼にも関わるからね。
 ある程度の実力を持ってからじゃないと、依頼を受けられないんだよね。
 その分、依頼はある程度の報酬が約束されているから、生活がグッと楽になるんだよね。

 逆に仮冒険者というのは、ただ素材や薬草をギルドで買い取ってもらえるだけだ。
 基本的にギルドは、市場適正価格でそういったものを買い取ってくれる。
 商店に持ち込めば、それより高く買い取って貰える事もあるが、それは、知識があってこそ。
 普通は足元を見られて安く買い叩かれる。

 だから、僕みたいに学も技術も無い人間は冒険者としてギルドに登録するのが普通だ。

「うわー! 冒険者未満で死亡とか、人生ついてなさすぎでしょ!」

 思わず大声を出してしまい、慌てて両手で口を塞ぐ。
 こんなとこで、大声だしたら魔獣ホイホイじゃん。
 はぁぁぁぁ……
 ため息しかでない。
 日帰りだから食料も用意してないし。
 助けを呼ぼうにも、大声も出せないのが現状だ。
 もう、やだ……

「ゴホンッ!」
「ひゃわっ!」

 なんてことを考えていたら、急に背後から咳払いが聞こえて飛び上がってしまった。
 慌てて口を塞いでからゆっくり、おそるおそる咳払いが聞こえた方に振り返る。
 次の瞬間、僕は余りの嬉しさには天にも昇る気分だった。
 捨てる神あれば、拾う神ありか……
 なんとそこには、一人の男性が立っていたのだ。
 背格好はそこまで大きくはないけど、身に着けているものはなかなか良いものだ。
 顔は平べったくて、艶のある黒い髪と吸い込まれるような黒に近い茶色の瞳が特徴的で、年齢は僕より少し上くらい? 20代前半といったとこかな? 
 一番目立つのは、まず森の中なのに靴が全く汚れてないことだ。
 そして、パンツは黒なので汚れはあまり分からない。
 パリっとした白いシャツに、黒のマントを羽織っている。
 一見、ヴァンパイアのようにも見えるが、瞳の色からそうじゃないことは分かる。
 武器も防具も持たずにこんなところにいるくらいだから、きっと魔法を修めているのだろう。
 特に際立つのは、身に纏うオーラが一般人のそれじゃない。
 凄く偉そうだ。
 もしかしたら貴族様か何かで、護衛も連れてきているかもしれない。
 良かった……これで帰れるかもしれない。

 しかしそんな淡い期待は、次に彼が発した言葉で脆くも崩れ落ちる。

「ねえキミ、ここはどこかな?」

 僕は膝を折って、両手を地面についた。
 さようなら、マイライフ……
 自分の短すぎる人生を嘆いていると、不意に肩に手が置かれる。

「何やら落ち込んでいるみたいだけど、誰か探してたのかい? もしかして、俺をその誰かと勘違いさせて落胆させちゃったかな?」

 はっ、そういえばこの人放置したままだった。
 思わず走馬灯をぼんやりと、眺めていたためすっかりこの人の存在を一瞬で忘れてしまった。
 しかし、いきなり出会ったばっかりの人を心配するなんていい人だよね。
 勝手に期待して、勝手に落ち込んでごめんなさい。

「えっと、誰かを探してるというか……探してるのは帰り道?」

 恐る恐る、分かりやすくかつオブラートに包んで自分の状況を伝えると、男性がああと言った表情を浮かべ微笑みかけてくる。
 なに、その余裕……
 貴方も僕と一緒ですよね? 
 2人揃って迷子Sですよ! 分かってますか? 
 しかも、貴方手ぶらですよね? 
 僕も、食料なんてもってませんよ? 
 そんな事を考えながら、じっと見つめていると溜息をつかれた。
 やっと、自分の状況を理解したかいこのすっとこナイスガイ! 

「ああ、それなら安心して。人が大勢居る気配は分かるから、多分そっちに街があるんだよね? それから、少し行ったところを誰か真っ直ぐ歩いてるね。ああ、これは人だから大丈夫かな? この辺盗賊とか出る? って、一人でそんな事するやつ居ないか」

 ナンダッテー! 
 僕は男性の言葉に耳を疑った。
 えっ? 人の居る気配とか分かる? 
 ここから、町まで歩いて1時間以上かかるんだけど? 

「ああ、ごめんごめん。違う意味で勘違いさせちゃぅたみたいだね。別に俺は迷子ってわけじゃないから。ただ、この世界……いや、この辺の地理に詳しくないから、町や周辺の事が聞きたかったんだ」

 ああ、本当にごめんなさい。
 てっきり、この人も道に迷ったのかと……って、いまこの世界のって言い掛けたのかな? 
 いや、言い間違いだよね。
 その言い方だと、他の世界から来たみたいな……

 チラッと、男性の方に目をやると爽やかな笑みを浮かべてこっちを見ている。
 眩しい! 眩しすぎる! 

「というか人の気配が分かるとか……」
「ん? ああ、戦闘とかは苦手だけど、そっち方面に才能あったみたいで、それを活かして世界を見て回ってるんだ」

 なんで思ってることを! 
 驚愕に目を見開いていると、またもクスリと笑われた。
 これ、女だったら惚れてまうわってレベルの爽やかさだ。

「いや、口に出てたよ?」
「あっ! はっ! いえ、すいません」

 あうー……自然と言葉にしてたのか。
 恥ずかしー! 

「フフッ、青くなったり、赤くなったり忙しい人だね。まあ、いいや。道まで案内するから、町を案内してくれないかな?」

 笑われたー! 
 でも、仕方がないか。
 これが、大人の余裕ってやつなのかな? 
 ていうか、僕だけか! 迷子は! 
 流石にちょっと、情けなくなってきた。
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