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第1章:仮冒険者と魔王様、冒険者になる!~エンの場合~
プロローグ
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「タ! タナカ様!」
とある世界の魔王城の一室、漆黒のアクマの目の前で突如それは起こった。
目の前で、主である魔王が突如として魔法による攻撃を受けていることは、目の前の光景で分かる。
何故ならば、魔王タナカの足元に見たことも無い魔法陣が現れて、彼の主を淡い光が包み込んでいるからだ。
魔王タナカがこの世界で最強となり、人間との融和政策を行って幾星霜。
もはやタナカに攻撃をしかようものなど、久しく表れていない。
「ほお、俺を召喚しようとしている奴がいるのか……」
だが、当の本人はどこか楽しそうだ。
魔法陣による、転移魔法は今にも発動しそうだというのに。
「タナカ様、大丈夫ですか?」
「大事ない……大事ないが……ふむ」
いつまで経っても発動しない転移召喚魔法陣に、タナカが首を傾げる。
「そうか、パッシブでレジストしているのか……」
自身の持つ対魔法障壁によるものだと分かったタナカが、障壁を消し去る。
次の瞬間、光は輝きを増しタナカを完全に覆い隠した。
「面白そうだし、ちょっと行ってくる。戻って来られるかわからんけど、戻らなかったあとよろー」
えらく軽い調子で、片手をあげて光に全てを任せる魔王。
どこに召喚されるかも分からないまま、それでも気軽に敢えて転移魔法の影響下に飛び込む。
自信過剰か……
「この世界に来た時は、いきなりだったからなー……」
そして、その場から気配ごと姿を消す魔王タナカ……
前世日本人。
今世ではこの異世界で四大魔王のうち自身を除く三魔王を支配下に置き、大魔王ナカノを倒し魔神へと至った歴代最強の魔王。
その道のりは長く険しく、何度も一般人タナカの心を折って来た。
特に、魔王絶対殺すマンの現地人の対応に、苦慮し心痛の絶えない日々。
来世に幸多からんことを。
「ちょっ! あとよろーって何ですか! ていうか、仕事! 城下町の噴水の補修! 街灯用魔石への魔力補充は誰がするんですか! ちょっ! タナカ様! タナカさまーーーー!」
ただし、現在の彼の職務内容は市の職員兼現場作業員のような内容ばかりであった。
「タナカさまー!」
その魔王を必死に呼び止める側近の悪魔族……タナカ城の永遠のナンバー2である。
きっと、彼はこれから他の幹部に問い詰められ、心労の絶えない日々を送るのだろう……
魔王タナカの次ぐ、この世界NO.2の苦労人でもあった。
―――――――――
「ここは?」
周りに目をやると、数人の神官が俺の周囲を取り囲んでいる。
神殿……って、雰囲気だな。
うーん、中世とか近未来を期待したけど……古代だったら嫌だな。
でも、文明があるなら、世界観光は楽しめそうだ。
「あっ!」
「えっ? なんで意識が?」
「あ……う……えっと、ようこそ勇者様?」
神官の人達が首を傾げている。
意識がってどういうことだ? 意識があっちゃまずかったのかな?
というか、言うに事欠いて勇者て……残念魔王です!
「勇者? 俺が?」
取りあえず乗ってやるか。
こいつらが何を企んでいるのかも、気になるしな。
「え……ええ、貴方様は勇者になられる方です……よ?」
なんとも、煮え切らない返事だ。
何故に疑問形なんだ?
というか、もっと自信もって対応してくれよ……こっちが不安になってくるじゃねーか。
そんな事を思っていると、神官達が集まって何やら相談を始める。
(おい……どうすんだよ! これじゃ、新隷属の指輪改マーク2零式第8試作品が試せねーじゃん)
(どうしましょう……といっても、そもそもこれが効くかも分からないですし)
(今までのだって、ことごとく召還者には効きませんでしたしね)
うん、丸聞こえだよ。
その指輪を俺に嵌めたかったのか……だから、意識があったら困るのね。
本来なら、召喚された時点では意識を失ってるものなんだろうな。
まあでも、隷属の指輪とか完全状態異常無効の俺に効くわけも無いし。
ちょっと釘を刺しとくか。
「その指輪俺には効かないからな? というか、たぶん嵌めたら勝手にレジストされて砕けるんじゃないかな?」
「えっ? なんでそれを?」
「いや、隷属の指輪だろ? さっき、そういう会話してだろ! そういうのは、本人に聞こえないところでやれ! あと、俺を従えられる奴なんて居ないからな? ……というか、ここはどこだ?」
俺の質問に対して、神官達が困ったような表情を浮かべる。
誰も何も答えてくれない。
「っていうか、なんで呼んだし!」
あまりにも雑な対応にイライラしてつい叫んでしまった。
全員が一瞬ビクッとなる。
メンタル弱すぎだろ!
そもそも、勇者って呼ばれた時点で、あっ察し……てな感じだが一応確認大事だしと思っただけだよ。
はよ答えろや!
「いや、その勇者様には魔王と魔族を是非滅ぼしてもらいたく「やだ」」
ほら来た!
お約束過ぎるわ!
つか、俺が魔王だし。
「いや、そのやだって言われましても」
(ほら、だから言っただろう? 地球とかってとこから来る奴、みんな自由きままに動くからダメなんだって)
(そんな事言ったって、他の世界から呼ぼうにも何故か毎回地球人ってのが来るんだよ)
(ひょっとして、この世界以外には地球ってとこしか無いんじゃないのか?)
「地球以外にも世界はあるぞ?」
「ほら見ろ! こいつら想定以上に基本能力高すぎなんだって! めっちゃ小声で話してるのに、なんで聞こえるんだよ!」
神官なのに口が悪いな。
というよりもう捨て鉢になってるのかもしれないな。
こいつらって言ってる時点で、今までも何人も召喚してるのかもしれないし、そのことごとくが隷属に失敗したんだろうな。
というか、勝手に召喚しといていきなり隷属しようだなんて、ふざけた奴等だ。
「そんな下らん用事なら、もう行くぞ」
そう言って元の世界に戻ろうと転移魔法を発動させようとするが、上手く反応しないな。
どうも世界の軸が大幅に違いすぎて、前の世界に置いてきたアクセスポイントが見つからない。
まあ、時空間の歪みにでも飛び込んで、探せばすぐに見つかるだろうし。
うん、気長に行こうか。
最近の俺って、働きすぎだと思うんだ。
だから、これは現実逃避ってやつだな。
現実からの逃避って意味でも。
元居た場所も、産まれた場所からすれば異世界だったけどな!
さて、移動はどうするか……飛んでもいいが、少しだるいな。
元の世界に行けないだけで視界の範囲内なら転移は出来そうだし、恐らくこの世界の中なら一度行った場所への転移もそう難しくないか。
つまらないからやらないけど、世界眼と瞬間記憶を使えば世界中の地理を把握してどこでも行けそうだけど。
自分の目で見える範囲を楽しみながら、開拓する方が楽しいし。
うん、最初はのんびり行こう。
「こ……これは魔力? すでに魔法が使えるというのですか?」
「使えたら悪いのか? 元居た場所に帰るにも時間が掛かりそうだから、少しこの世界で遊んでいくか」
俺が魔法を発動させようとしたのを感じ取ったのか、神官の1人が驚いている。
そんな事はどうでも良い。
というか俺にとってこの場合の元の世界というのは、転生した場所か地球かで悩みどころだが。
「ついでに魔王を滅ぼしたり「しないよ?」」
食い気味に否定したら、すげーゲンナリした顔してて笑える。
まあ、もうここには用は無いかな?
こいつらスゲー偏った思想してそうだし。
見るからに怪しい宗教団体だよな?
「くっ! ならば強制的に指環を」
「【火魔人召喚】」
取りあえず試しにちゃんとした、魔法っぽい魔法を使ってみた。
名前はふざけてるけど……
俺の創作魔法の一つ。
普段ふざけた魔法しか使わないけど、せっかくの異世界召喚でテンション上がりすぎたかな?
恥ずかしくて前の世界で絶対使わないような、演出だけは中二前回の魔法だ。
地面に現れた魔法陣から、火の魔人を象った火炎が飛び出し周囲を焼き尽くす。
どことなくだらしない風貌をしているが、ご愛敬だ。
ご愛敬という割には、可愛くない熱量の炎が巻き起こっている。
ああ、この場にいた人たちには一応、障壁を張ってあげているが。
呆然と、火魔人の暴れる様子をみているな。
ただこの魔人、体力が無いのだけが欠点。
普段から、だらけているせいだな……きっと。
数分もしないうちに辺り一面が瓦礫と化した状態で、神官達がその表情を恐怖に固めたまま動こうとしない。
ちゃんと魔法は使えるみたいだ。
神官共より、こっちの方が大事だな。
って事は固有魔法の【三分調理】も使えそうだ。
これで、食料の心配は無くなった。
【三分調理】……俺の記憶になる料理を、完全再現する魔法。
記憶に無い料理も、食べたいと思ったら料理名やフワッとしたイメージだけで再現できる魔法。
「神殿が……」
「というか、なんで私達は無事なのでしょうか……」
「魔法陣が……これじゃあ、もう召喚が出来ない」
「ああ、先人達になんとお詫びすれば」
ああ、期せずしてこれからも、こんなところに召喚される不幸な地球人を生み出さないようにすることが出来たのか。
それは、良かった。
「それじゃ、俺はもう行くからな」
俺はそう言うと、遠くの景色に向かって転移を発動させる。
5回も繰り返せば、相当遠くまで離れる事が出来た。
というか、ここはどこだろう?
森だという事は分かったけど……取りあえず飯にするか。
俺は【三分調理】を使って、サンドイッチを作り出す。
やっぱり、森でハイキングって言ったらサンドイッチだよな?
サンドイッチを作り出したときに、遠くで人の気配がするのを感じ取る。
足取りからして、迷子っぽいな。
スキルで様子を見ると、いかにもな冒険者っぽい青年が途方に暮れている。
「はぁ……」
思わずため息を吐いてしまった。
なんともみすぼらしい、いかにも駆け出しっぽい恰好のくせに……うだつの上がらないベテラン並みにくたびれた青年。
手を貸してやるか。
***
そう、魔王タナカはお人よしであった。
そんなタナカの異世界冒険譚が、今始まる!
とある世界の魔王城の一室、漆黒のアクマの目の前で突如それは起こった。
目の前で、主である魔王が突如として魔法による攻撃を受けていることは、目の前の光景で分かる。
何故ならば、魔王タナカの足元に見たことも無い魔法陣が現れて、彼の主を淡い光が包み込んでいるからだ。
魔王タナカがこの世界で最強となり、人間との融和政策を行って幾星霜。
もはやタナカに攻撃をしかようものなど、久しく表れていない。
「ほお、俺を召喚しようとしている奴がいるのか……」
だが、当の本人はどこか楽しそうだ。
魔法陣による、転移魔法は今にも発動しそうだというのに。
「タナカ様、大丈夫ですか?」
「大事ない……大事ないが……ふむ」
いつまで経っても発動しない転移召喚魔法陣に、タナカが首を傾げる。
「そうか、パッシブでレジストしているのか……」
自身の持つ対魔法障壁によるものだと分かったタナカが、障壁を消し去る。
次の瞬間、光は輝きを増しタナカを完全に覆い隠した。
「面白そうだし、ちょっと行ってくる。戻って来られるかわからんけど、戻らなかったあとよろー」
えらく軽い調子で、片手をあげて光に全てを任せる魔王。
どこに召喚されるかも分からないまま、それでも気軽に敢えて転移魔法の影響下に飛び込む。
自信過剰か……
「この世界に来た時は、いきなりだったからなー……」
そして、その場から気配ごと姿を消す魔王タナカ……
前世日本人。
今世ではこの異世界で四大魔王のうち自身を除く三魔王を支配下に置き、大魔王ナカノを倒し魔神へと至った歴代最強の魔王。
その道のりは長く険しく、何度も一般人タナカの心を折って来た。
特に、魔王絶対殺すマンの現地人の対応に、苦慮し心痛の絶えない日々。
来世に幸多からんことを。
「ちょっ! あとよろーって何ですか! ていうか、仕事! 城下町の噴水の補修! 街灯用魔石への魔力補充は誰がするんですか! ちょっ! タナカ様! タナカさまーーーー!」
ただし、現在の彼の職務内容は市の職員兼現場作業員のような内容ばかりであった。
「タナカさまー!」
その魔王を必死に呼び止める側近の悪魔族……タナカ城の永遠のナンバー2である。
きっと、彼はこれから他の幹部に問い詰められ、心労の絶えない日々を送るのだろう……
魔王タナカの次ぐ、この世界NO.2の苦労人でもあった。
―――――――――
「ここは?」
周りに目をやると、数人の神官が俺の周囲を取り囲んでいる。
神殿……って、雰囲気だな。
うーん、中世とか近未来を期待したけど……古代だったら嫌だな。
でも、文明があるなら、世界観光は楽しめそうだ。
「あっ!」
「えっ? なんで意識が?」
「あ……う……えっと、ようこそ勇者様?」
神官の人達が首を傾げている。
意識がってどういうことだ? 意識があっちゃまずかったのかな?
というか、言うに事欠いて勇者て……残念魔王です!
「勇者? 俺が?」
取りあえず乗ってやるか。
こいつらが何を企んでいるのかも、気になるしな。
「え……ええ、貴方様は勇者になられる方です……よ?」
なんとも、煮え切らない返事だ。
何故に疑問形なんだ?
というか、もっと自信もって対応してくれよ……こっちが不安になってくるじゃねーか。
そんな事を思っていると、神官達が集まって何やら相談を始める。
(おい……どうすんだよ! これじゃ、新隷属の指輪改マーク2零式第8試作品が試せねーじゃん)
(どうしましょう……といっても、そもそもこれが効くかも分からないですし)
(今までのだって、ことごとく召還者には効きませんでしたしね)
うん、丸聞こえだよ。
その指輪を俺に嵌めたかったのか……だから、意識があったら困るのね。
本来なら、召喚された時点では意識を失ってるものなんだろうな。
まあでも、隷属の指輪とか完全状態異常無効の俺に効くわけも無いし。
ちょっと釘を刺しとくか。
「その指輪俺には効かないからな? というか、たぶん嵌めたら勝手にレジストされて砕けるんじゃないかな?」
「えっ? なんでそれを?」
「いや、隷属の指輪だろ? さっき、そういう会話してだろ! そういうのは、本人に聞こえないところでやれ! あと、俺を従えられる奴なんて居ないからな? ……というか、ここはどこだ?」
俺の質問に対して、神官達が困ったような表情を浮かべる。
誰も何も答えてくれない。
「っていうか、なんで呼んだし!」
あまりにも雑な対応にイライラしてつい叫んでしまった。
全員が一瞬ビクッとなる。
メンタル弱すぎだろ!
そもそも、勇者って呼ばれた時点で、あっ察し……てな感じだが一応確認大事だしと思っただけだよ。
はよ答えろや!
「いや、その勇者様には魔王と魔族を是非滅ぼしてもらいたく「やだ」」
ほら来た!
お約束過ぎるわ!
つか、俺が魔王だし。
「いや、そのやだって言われましても」
(ほら、だから言っただろう? 地球とかってとこから来る奴、みんな自由きままに動くからダメなんだって)
(そんな事言ったって、他の世界から呼ぼうにも何故か毎回地球人ってのが来るんだよ)
(ひょっとして、この世界以外には地球ってとこしか無いんじゃないのか?)
「地球以外にも世界はあるぞ?」
「ほら見ろ! こいつら想定以上に基本能力高すぎなんだって! めっちゃ小声で話してるのに、なんで聞こえるんだよ!」
神官なのに口が悪いな。
というよりもう捨て鉢になってるのかもしれないな。
こいつらって言ってる時点で、今までも何人も召喚してるのかもしれないし、そのことごとくが隷属に失敗したんだろうな。
というか、勝手に召喚しといていきなり隷属しようだなんて、ふざけた奴等だ。
「そんな下らん用事なら、もう行くぞ」
そう言って元の世界に戻ろうと転移魔法を発動させようとするが、上手く反応しないな。
どうも世界の軸が大幅に違いすぎて、前の世界に置いてきたアクセスポイントが見つからない。
まあ、時空間の歪みにでも飛び込んで、探せばすぐに見つかるだろうし。
うん、気長に行こうか。
最近の俺って、働きすぎだと思うんだ。
だから、これは現実逃避ってやつだな。
現実からの逃避って意味でも。
元居た場所も、産まれた場所からすれば異世界だったけどな!
さて、移動はどうするか……飛んでもいいが、少しだるいな。
元の世界に行けないだけで視界の範囲内なら転移は出来そうだし、恐らくこの世界の中なら一度行った場所への転移もそう難しくないか。
つまらないからやらないけど、世界眼と瞬間記憶を使えば世界中の地理を把握してどこでも行けそうだけど。
自分の目で見える範囲を楽しみながら、開拓する方が楽しいし。
うん、最初はのんびり行こう。
「こ……これは魔力? すでに魔法が使えるというのですか?」
「使えたら悪いのか? 元居た場所に帰るにも時間が掛かりそうだから、少しこの世界で遊んでいくか」
俺が魔法を発動させようとしたのを感じ取ったのか、神官の1人が驚いている。
そんな事はどうでも良い。
というか俺にとってこの場合の元の世界というのは、転生した場所か地球かで悩みどころだが。
「ついでに魔王を滅ぼしたり「しないよ?」」
食い気味に否定したら、すげーゲンナリした顔してて笑える。
まあ、もうここには用は無いかな?
こいつらスゲー偏った思想してそうだし。
見るからに怪しい宗教団体だよな?
「くっ! ならば強制的に指環を」
「【火魔人召喚】」
取りあえず試しにちゃんとした、魔法っぽい魔法を使ってみた。
名前はふざけてるけど……
俺の創作魔法の一つ。
普段ふざけた魔法しか使わないけど、せっかくの異世界召喚でテンション上がりすぎたかな?
恥ずかしくて前の世界で絶対使わないような、演出だけは中二前回の魔法だ。
地面に現れた魔法陣から、火の魔人を象った火炎が飛び出し周囲を焼き尽くす。
どことなくだらしない風貌をしているが、ご愛敬だ。
ご愛敬という割には、可愛くない熱量の炎が巻き起こっている。
ああ、この場にいた人たちには一応、障壁を張ってあげているが。
呆然と、火魔人の暴れる様子をみているな。
ただこの魔人、体力が無いのだけが欠点。
普段から、だらけているせいだな……きっと。
数分もしないうちに辺り一面が瓦礫と化した状態で、神官達がその表情を恐怖に固めたまま動こうとしない。
ちゃんと魔法は使えるみたいだ。
神官共より、こっちの方が大事だな。
って事は固有魔法の【三分調理】も使えそうだ。
これで、食料の心配は無くなった。
【三分調理】……俺の記憶になる料理を、完全再現する魔法。
記憶に無い料理も、食べたいと思ったら料理名やフワッとしたイメージだけで再現できる魔法。
「神殿が……」
「というか、なんで私達は無事なのでしょうか……」
「魔法陣が……これじゃあ、もう召喚が出来ない」
「ああ、先人達になんとお詫びすれば」
ああ、期せずしてこれからも、こんなところに召喚される不幸な地球人を生み出さないようにすることが出来たのか。
それは、良かった。
「それじゃ、俺はもう行くからな」
俺はそう言うと、遠くの景色に向かって転移を発動させる。
5回も繰り返せば、相当遠くまで離れる事が出来た。
というか、ここはどこだろう?
森だという事は分かったけど……取りあえず飯にするか。
俺は【三分調理】を使って、サンドイッチを作り出す。
やっぱり、森でハイキングって言ったらサンドイッチだよな?
サンドイッチを作り出したときに、遠くで人の気配がするのを感じ取る。
足取りからして、迷子っぽいな。
スキルで様子を見ると、いかにもな冒険者っぽい青年が途方に暮れている。
「はぁ……」
思わずため息を吐いてしまった。
なんともみすぼらしい、いかにも駆け出しっぽい恰好のくせに……うだつの上がらないベテラン並みにくたびれた青年。
手を貸してやるか。
***
そう、魔王タナカはお人よしであった。
そんなタナカの異世界冒険譚が、今始まる!
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