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第三章:王都学園編~初年度後期~

第28話:小動物系女子

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(きゃわわ! ……とか、思ってないわよね?)
(なぜ、それを!)

 急遽、この集まりに参加することになったチェルシーを前にほんわかしていたら、ミッシェルに小声で突っ込まれてしまった。

 親が私を理解しないのに、周囲が私を理解しすぎてる件。

(私も、可愛いと思ったからよ! 侮れない相手ね)
(ええ、強敵ね……知ってる? 強敵って強敵って書いて親友って読むんだよ!)
(飛躍しすぎよ! 友でしょう)
(おっ、分かってるねぇ)

 とミッシェルとしょうもない話をしながら、目の前の少女を観察。
 紅茶をチョボチョボと小分けに口に運んで飲んで、クッキーを小さな口でリスのように少しずつカシカシ食べてる姿にほっこり。
 横で、ミッシェルもほっこりしていた。

 レイチェルが冷たい視線を私たちに送り始めたので、咳ばらいをして空気を変える。
 あっ、私が咳払いした瞬間に、目の前の少女がびっくりしてむせちゃった。
 こ……これは、演技ならかなりの女優だね。
 限りなく、白に近い気がしてきた。
 うん、自作自演という説に関しては。

 横でミッシェルが警戒心を露わにしていたから、彼女は余計に疑心に陥ったのかな?
 一周回ってというやつか……演技派女優なのかもしれない。
 
「で? ソフィにお願いしてまで、私と縁を結びたいと思った理由を聞いても良い?」
「……はい」

 声ちっちゃいなぁ。
 ってか、ソフィアと似た系統の、涼やかな声だ。
 自信が無さそうな分、かすれて余計に透明感が出てるけど。
 あと、微妙に面影とかソフィアに似てるし。
 うーん……嫌いになれそうにない。
 背がソフィアよりもだいぶ低いから、お母さんが小柄なのかな?
 ミニ茶髪ソフィア可愛いよ……

「むぅ……」

 あっ、ソフィアとレイチェルが不満そうだ。
 嫉妬かなぁ?
 はは、二人とも十分可愛いのに。

「理由はいっぱいありますが、一番重要な理由を正直に言います……」

 ほう……
 理由は、いっぱいあるのか。
 ミッシェルさんは……おおう。
 唐突に興味を失い始めてる。

「最近、身分至上主義派閥の方たちから嫌がらせをうけておりまして」
「ほうほう」
「お父様が、ギールラウ子爵家を乗っ取った簒奪者だといって、嫌味を言って来たり嫌がらせをしてくるのです」
「……ほう」

 その通りではあるのだけれども……
 彼女は、真実を知らないのかな?

「あ……あまりにも詳しい話をされるので、私も父のことを疑ってはいるのですが……確たる証拠もないのに、噂だけでなんでこんな目に合わないといけないのかと」
「な……なるほど」
「真実なら、父には罪を償ってもらって、家督はあるべき場所に戻すべきですし。私も、別に貴族の子供であることに執着はしておりません。ですが、現状でここまで言われるのは心苦しく、かといって逃げるわけにもいかず」
「それで、私に守って欲しいと?」

 私がストレートに聞くと、小さく頷いた。
 う……うーん。
 
 うーん……

 うーん……

「なんで、私を見るのよ!」

 困ってしまって、ついついミッシェルを見たらそっぽを向かれてしまった。
 なんて、頼りがいのないお姉さんだ。

「エルザ様……」

 そして、縋るような視線はもう一つ。
 何故かソフィアも、祈るような目で私を見ている。
 いやいや……あんた、当事者で一番の被害者なんだけど?
 
 とは言えず……

「まずは、お友達からね……」

 と安請け合いしてしまった。
 レイチェルとミッシェルが同じような表情かおで、呆れていたのがヒシヒシと伝わったよ。
 ソフィアがホッとしていたから、よしとしよう。

「いきなり、最終目標が達成されてしまいました」

 と小さく喜んでいるチェルシーも、可愛いし。
 間違ってはいないと信じたい。

 ちなみに他の理由は、私がかっこよくて強くて優しくて理想のお姉ちゃんだと言われてしまった。
 ふふ……攻略されてしまったようだ。

 てか、リアルお姉ちゃんが横にいるよー!
 ソフィアもなんだか、キラキラした目でチェルシーを見てるし。

 しかし、困ったのは彼女の扱いだ。
 基本的に今日の話は台本を用意したというか、こうやって話そうと何度も練習してきたらしくて。
 想定外の質問には、黙って俯いてモジモジしちゃうくらいに大人しいんだ……この子。
 
 そういった子の扱いって、集団行動だと難しいんだよ。
 構いすぎると他の子の顰蹙を買ったりするし。
 ジェイみたいに、誰からも可愛がられる愛されキャラってわけじゃないからね。
 的を射ない返答もあるし、答えに詰まることも多いし。
 こういった子を、苦手とする子もいるしねぇ……

 うん、悪く言えばウジウジしてるんだよ。
 若干、ネガティブだし。

 だから、本当に親が簒奪者かもしれないと、本気で悩んでたりしてるし。
 そして、正解なんだよ……それ。

 居た堪れない。
 これは、断罪ざまあなんてできるわけも無く。
 そっち方面でも、助けられるように動く必要が出てきた。
 他の子とのバランスを取りながら……

 もう少し性格が悪いか、我の強い子だったら……私に接触してないか。
 オルガやカーラは、たぶんこういったタイプの子は苦手だろうなぁ……勝手な偏見だけど。

「今日は、久しぶりにゆっくり眠れそうです」

 そう言って涙目で寂しそうに笑うチェルシーに、思いっきりやられてしまった
 ……ソフィアが。

「同じ寮ですよね! 寂しかったり辛かったりしたら、私の部屋に来ても良いんですよ」

 おいおい……同じ寮に住んでるとか。
 学園長、何してくれとんじゃい!
 と、一気に沸点近くまで怒りが湧いたけど、まあ結果オーライか。

 この二人が仲良くすることで、どんな影響が起きるのかは全然分かんない。
 だって、もともとの話の筋が分からないからね。
 
 というか、ミッシェルもポーラもここがゲームの世界だって言ってるけどさ、私からしたら普通に知らない異世界だしね。
 あらすじを知らないから、本当に第二の人生を自由に謳歌させてもらってる。
 悪くないと思える程度には、楽しめてるよ。

 ちょっと、寂しい気持ちもあるけどさ。
 前世では歳の離れた弟や、親が居たという記憶はあるけども。
 どれもこれも、朧げな感じなんだよね。

 今じゃ、こっちの世界の家族の方が馴染み深いかも。

「じゃあ、二人は私が送りますね」
「いいなぁ……レイチェルとソフィアは一緒に食事したんでしょ?」
「チェルシーさんも一緒でしたよ」

 ぐぬぬ……
 私も一緒に、食べたかった。

「エルザ様は、お姉さまとお茶をされたじゃないですか」

 ふふん! 
 なんの自慢にもならないし。
 ちっとも、羨ましいとも思ってないよね?
 慰めのつもりか、適当にあしらわれたのか。
 レイチェルの私に対する扱いが、雑になってる気がする。

「失礼な子ね! 私だって貴女とより、妹たちと食事をしたかったわよ!」

 そして、ミッシェルさんは確実に私の心を読んでるね。
 
 とりあえず、そのまま解散の流れになってしまった。
 ここで駄々を捏ねて、皆で食事の流れを作るのもやぶさかではなかったけど。
 流石に、チェルシーの前ではイメージを大切にしないと。

 せっかく、かっこいいと思ってくれてるみたいだし。

 次の日、いちおう周りの子には紹介したよ。
 まさかの、ジェイがいちばん食いついてたのにはびっくりした。
 あのジェイがお姉さん風を吹かせて、チェルシーにあれこれと教えているのはとってもほっこりする光景だった。
 眼福眼福。
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