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第三章:王都学園編~初年度後期~

第24話:珍しい組み合わせ

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 今日は闇の日で休日。
 そう、せっかくの休日なのに……レイチェルもカーラもオルガも捕まらなかった。
 ソフィも月に一回の、寮の大掃除だとかなんだとか。
 いやいや、貴族が住む寮なのに自分たちで、掃除をするのかと……

 ああ、希望者だけね。
 大貴族の家に仕えることになるだろう、次男坊や次女、三女等の。
 でもって、曲がりなりにも貴族の子息令嬢が掃除をするのに、平民のソフィが辞退できるはずもなし。
 むぅ……じゃあ、将来はソフィに私の専属侍女になってもらっても良いかな?

「グヌヌ……」

 ベッドで上半身を起こしてそんなことを考えていたら、ドアの隙間からハルナがハンカチを噛んでこっちを恨めしそうに見ていた。
 いや、怖いよ……

「私は生涯現役です!」
「いや、嫁げよ!」

 私と目が合った彼女が、ドアをバーンと開けてそんな宣言をしてきたので思わず突っ込んでしまった。
 てか、勝手に人の思考を読むなと。

 クリスも高等科の寮に戻っていってしまったし……
 うん、とりあえず着替えてから出かけるとしよう。

 代わりにテレサとフローラとポーラが一緒に出掛けてくれるみたいだし。
 あっ、ジェーンは当然の如く、寮の清掃作業に参加らしい。
 ジェイは……ジェーンが居ないなら寝ると言ってたけど。
 いや、なら清掃を手伝えばいいのに。
 相変わらず、マイペースな子だ……うん、そういうところも可愛いよね。
 キャラがしっかりしてて、全然推せる。

「随分と身軽な服装だな」
「分かる? もしかしたら、街の外まで行くかもしれないし」
「まあ、今回のメンバーなら大丈夫だとは思うけど……約1名、不安なのが……いや、一番不安なのはお嬢だったかな」

 クリントが何やら失礼なことを言ってるけど。
 いや、このメンバーなら外に魔物狩りに行ってもいいかなって。
 アウトドアとインドア、どっちも対応できる服装を選んでみた。

 というか、結局私たちは女同士でつるむしかないのか。
 いや、何も悪い事じゃない。
 むしろ、令嬢たるものこうであるべきだと思う。
 男女入り混じっての集団で、休日に遊びに出かけるとか。
 学生としては、リア充の極みではあるけどね。
 婚約者持ちの高位貴族がやっていいことじゃないのは分かるよ。
 ただの女子高じゃなくて、中高一貫のお嬢様学校的な。

 ドラマの話だとばかり思ってたけど、前世で仕事の研修でかなり有名なホテルに行ったときに見たからね。
 私立〇〇女子中学校様ご一行の看板を。
 大きな宴会場の入り口に。
 フレンチのマナー実習って書いてあるのを……

 流石に乾いた笑いしか出てこなかったよ。
 すぐにその学校をスマホでググったよね。
 なるほどってなるような学校だったよ。

 まあ、今の私たちがその立場なんだろうけど……ドラマみたいな低俗ないじめがあるのには驚きを隠せなかったかな?
 もう少し高度な情報戦とかが行われて、遠回しな妨害工作が飛び交うような世界だと思ってたけど。
 ドストレートなありがちで、大問題になる虐めの内容ばっかりで辟易するよ。

 まあ、結果として私の友達も増えたわけだし。
 可愛い女の子の集団に囲まれて、かなりご満悦な学園生活を送れているのは感謝かな?
 流石にお嬢様の集まりに声を掛けるような、勇気あるチャラ男はいないだろうし。
 いたところで、本当に軽い感じのチャラい男の子だったら、メンバーの誰かにボコボコにされて追い払われるだろうし。

 そうなると、さしずめ私は欧州版のハイカラさんってところかな?

 いいことを思いついた。
 今度、仕立て屋にパンツスタイルのドレスを作ってもらおう。

 タキシード……だと、そのまま男装だからね。
 いや、あれか……ドレスに男物のジャケットの方が、かっこいい気がしてきた。
 うん、そっちにしよう。

「くだらないことを考えてないで、早く準備した方が良いんじゃないか? まだ、着替えただけだろ?」
「いや、これで完成ですよ」
「髪の毛……結ったり巻いたりしなくていいのか?」
「女同士で集まるのに、なんでそんなことを」
「令嬢同士で集まるからだろう」

 私の返答に、何故かクリントが呆れたような表情をしているけど。
 後ろで、ハルナがもっと言ってやってくださいと祈ってるのが見える。
 
「レオハート公爵家が、他の家に侮られることになるってことだ」

 おお! 
 これは家格の威厳を保つためにも、ちゃんとしろという説教だったのか。
 なるほど、なるほど。
 勉強になったよ、お兄ちゃん!
 でも答えは、いつも一つ!

「別にいいんじゃない? 外見だけで物事を推し量って分かったようなつもりになる連中なんか、歯牙にもかける必要なし」
「いや、まあ……確かにお嬢の偉そうな……高貴な上位者としてのオーラだけはヤバいけど、実際は周りに忖度しない唯我独尊気質なだけなんだよな」

 仏教用語?
 翻訳さん?

 えっ?
 あっ、そう。
 じゃあ、私はそっちの方で。

 知らなかった……
 唯我独尊って、ただの悪口だったんだ。
 
「お兄さま、それは言い過ぎですよ! 人は誰しもが唯我独尊なのですよ? そう、即ち天上天下唯我独尊! 人は、あるだけで偉いのです」
「ちょっと、何言ってるか分からないけど……もう少し謙虚になってほしいよ」
「善処します」

 仏様の天上天下唯我独尊は、ただの唯我独尊とはわけが違うんだよ。
 私もさっき知ったけど……

 しかしやっぱり、伝わらなかったか。
 知ってた。
 
 とりあえず、そういうわけで今回はクリントはお留守番だ。
 ハルナは当然のようについて来るけどね。
 テレサとフローラもやる方だから、そこまで心配はしていないらしい。
 むしろ絡んでくる人がいたら、そっちの方が心配だとか。
 妹思いの兄を持って、凄く幸せです。
 
 それから、馬車にのってポクポクと待ち合わせの場所に。
 王都の目抜き通りにある、噴水広場。
 当然待ち合わせなら、どこかしらのランドマークになるのは当然だよね。
 この噴水広場も、王都ではかなり有名な名所らしいし。

 かなり早く向かったと思ったんだけど、すでに待ってる人がいた。
 いや、待ち合わせにもってこいの場所だから、他にも待ち合わせしてる人はいっぱいいるけど。
 その中に、彼女を見つけてちょっと驚いたよ。
 イメージ的には、遅刻しそうとかって思ってたし。

「随分早いね」
「いえ、エルザ様もお早いすね」

 そう言って、笑顔で応えてくれたのはポーラだった。
 流石、前世日本人。
 5分前行動が魂に染み付いているんだね。
 思わぬところで、ちょっとしみじみとしてしまったよ。


「違いますよ? たしかにピーキー家は男爵家なので、騎士爵よりは立場は上ですよ? とはいえ、陛下の護衛に代々任命される近衛のエリートに比べるとねぇ……さらには、エルザ様は公爵家……待たせるわけには、いかないじゃないですか!」

 なるほど、確かにね。
 じゃあ、いったいどれほど早く来たのだろう……

「うわっ、手が冷たい! どれだけ早く来てたの! ちょっと、待ってて!」 
「あっ、エルザ様?」

 とりあえず、露店で温かい飲み物を貰う。
 そして、それをポーラに手渡す。

「あの、お気遣いなく……というか、こちらが気遣う立場なのですが」
「そんなの私たちの間に関係ないって! それに私がやりたいから、やってるだけだし。私はやりたいことしかしたくないから、気にしないで」

 私の言葉に、ポーラが恐縮しつつも飲み物を手に取る。

「あっ……美味しい」
「でしょう? うちの商会の傘下の商人が出資してる出店だもん。当然じゃん!」
「ホットチョコレートって……相当な、高級品ですよね? 売れるんですか?」
「勿論、売れてるよ! 貴族の子息令嬢を中心に」
「うちじゃあ、ちょっと気軽に買えそうにないですね」

 そんなに高いってわけでもないんだけどね。
 確か、染髪に月の小遣い二か月分って言ってたから、そこまで余裕が無いのは分かるけど。
 美味しいものは我慢しちゃだめだよ。
 どうせ、いつか食べたり飲んだりするんだから。
 じゃないと、死ぬときに間違いなく後悔するだろうからね。

 だから、前世でも見かけたら多少高くても買ってた。
 キャビアやフォアグラとかだって、高いけど買えないわけじゃないし。
 一度食べとけば、後悔することはないし。
 いや、レストランだと高いけど。
 そういったのを素材で扱ってるお店だったら、なんとか数千円代で収まるからね。
 なんなら、興味のある友人と半分ずつ出し合ってもいいわけだし。

「あら、エルザさまももう来られていたのですね」
「お待たせして、大変申し訳ございません」
「良いって良いって! 気にしなくて。ちょうど、いま来たところだし」

 それから、かなり経ってフローラとテレサもやってきた。
 うん、やや遅刻……
 まあ、時間に関しては割とルーズなお国柄でもあるしね。
 大事な入学式の開始時間の説明が、ふわっとしてるだけあるわ。
 
 待ち合わせも、11時頃って感じだったし……11時じゃ、だめだったのだろうか……

 私が11時って指定したのに、普通にさらっと「11時ですね」って、フローラに返されたし。

「いや、11時に噴水広場で」
「分かりました。11時頃に噴水広場で」

 って、テレサにも言われたし。
 なんだろう……時間指定したら、死ぬ呪いにでも掛かっているのかな?

 そんなことを思い返していたら、二人が私たちの手にあるカップを見て恐縮していた。

 あー……あきらかに、かなり量が減ってて冷めていたら察するか。
 でも、敢えて触れさせないでスルーしとこう。

「それじゃあ、まずは武器屋ね」
「えっ?」
「いいですわね」
「私も、ちょうど今使ってるのが物足りなくなってきてたので」
「はっ?」

 私の提案に、ポーラがおかしな顔をしてたけど、二人がノリノリなのでさらに変な顔になってた。
 気にしたら負けだぞー!


 



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