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第三章:王都学園編~初年度後期~

第21話:恋愛は出来ないにしても色が無い……

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 来年の入学生への事前説明と仮申し込みが終わり、休み明け。
 うん、今回の休暇はなかなか有意義なものだったよ。
 子供たちの成長も見られて、とても楽しかった。
 学校が始まってるから、めったにない連休だったけど。
 
 今回は仮申し込みの処理や手続きで、学校が闇の日だけじゃなくて光の日まで休みだったからね。
 他にも一応、祝日が月に一個か二個あるから、まれに連休はあるんだ。
 週休一日だけど、6日で一週間だからね。
 風の日は午前中授業の日も多いし。
 先生方も貴族関係者だから、まとまった時間が必要なことが多いらしいし。

 そして対外的な大きな仕事も終わったいま、いよいよ学園も通常運行。

 そう、通常運行だ。

 今日も今日とて授業は先生の発した言葉を完全にノートに書き写す勝負に、本気を出した。
 早口で、説明の多い授業限定で。
 他は……まあ、そのあれだ。
 知ってることばかりなので、あれこれと様々なことに思いを馳せていた。
 理科の授業だけは、真面目に受けなくても良いんだ。
 先生が出した課題とにらめっこするだけで、時間が過ぎてくる。

「こうも真面目に勉強に取り組んでいるというのに、私の話しに耳を傾けてくれないのは寂しいものがあるがね」

 例題を皆が解いてる間、生徒たちの机の間を歩きながらノートを覗き込んでいた先生が、私の横に立ってぼそりと呟いた。
 でもまあ、こっちを解いた方が先生も助かるわけだし。

「そんな良い笑顔を向けられても、私の気分は晴れないのだがね。三年生になったら、流石に聞いてもらえると願っているよ」

 そう言って、肩をポンポンと叩いて寂しそうに巡回に戻っていった。
 少しだけ罪悪感を感じなくもない。
 おそらくブライト先生以外の中で、一番私のことを気に掛けてくれている先生だと思う。
 良い先生なのは、間違いないよね。

 そういえば、教室からペンを走らせる以外の音が聞こえるようになった。
 そう、鉛筆を走らせる音。
 炭鉛筆を参考に、普通の鉛筆を作って売り出したんだけど。
 思った以上に、流通が早かった。
 生産が追い付かないくらいに。
 
 まあ、理由は生徒じゃないんだけどね。

 学校の先生方がこぞって、買って行かれたよ。
 美術関係の先生なんかは、大人買いと呼ぶに相応しい買いっぷりだった。
 慌てて翌日には、一人5本までと購入制限を掛けた。

 掛けたんだけど……ほら、先生って貴族関係者や爵位持ちが多いじゃん?
 結局、家人を大量に引き連れて来られて、意味が無かった。

 てか、先生方は研究肌というか真面目というか好奇心旺盛で、ただ使用人に買いに行かせるだけということは無いんだね。
 本人が実際に来て、目で見て試して買われることが多い。
 いくら、同僚からの口コミがあっても。
 ……そこまでの利益を出すつもりはなかったから、生産体制が整ってなかったんだよ。
 だって、大人はペン! ってイメージだったし。

 そんなことを考えている間に、食事休憩の時間になった。
 カーラがすぐに一人で私を誘いにくるのは、もはや当然の光景だよね?
 たまには、他の子も連れて来てくれても良いんだよ!
 他のクラスには友達が増えてるのに、教室内にはカーラと気安い関係なのって私だけ。
 なんとかしてあげたいけど、本人が満足しちゃってるからなぁ。
 

 そして、みんなを誘いに行くときにふと思ったんだ……

 私、友達が女の子しかいないと。
 いやべつに、それ自体は悪い事じゃない。
 むしろ、良い事なんだけど。
 
 せっかくの共学なのに、男子関連のお約束が無いのもなぁっと。
 ダリウス?
 あれは、婚約者であって友達じゃない。
 ロータス先輩?
 論外だよ!

 私が言う、男子関連のイベントっていったら……あれだ、あれ!
 普段は、他の男子と馬鹿ばっかやってて、女子をからかったり馬鹿にするのに。
 ふと、二人っきりになると、普通の会話が出来たり。
 そして、それが思いのほか楽しかったり、心地よかったりしたあの頃。

 恋愛のれも字も知らないくせに、男女の機微にドキドキする小学生高学年の第二次成長期の心の変化。
 おそらく私にはこないだろうそれも、周囲の子たちにはちゃんと来るはずだし。
 それなりに、楽しい学園生活にしてあげたい……

 けど、貴族社会でそういったことってあるのかな?

 だって、婚約者とか早々と決まってたりするわけだし。

 ということで今日のところは諦めて、いつものメンバーで食堂に。
 何故か、後期に入ってから窓際のそこそこ広い席がいつも空いているから、そこに座るんだけど。
 他は結構埋まっているのに、なんでだろうね?
 うちの教室は、食堂にそんなに近いわけでもないのに。

 今日の話題は、皆が男子に抱いている感情の確認だ。
 それと、誰か男子と交流はあったりしないかの。

「私はすでに、親に決められたお相手がいますから」

 おっと?
 初耳なんですが?

「へえ、そうなんだ! ちなみに、お相手は?」
「ガシェット侯爵家の、お孫さんのリドル様ですよ。歳は私より一つ下で、来年入学される予定ですわね」

 かなり冷めた様子で教えてくれたけど、そんなに乗り気じゃないんだろう。
 
「それって……」
「ええ、身分至上主義派閥の中心にある家ですね……うちと一緒ですわね」

 と扇子で口元を隠しながら、溜息を吐きながら教えてくれた。
 うーん……まあ、ある意味ではおかしくはない組み合わせだけど。
 
「一応、嫡男で跡継ぎですから……早い段階で教育をして、切り崩しの糸口にできればと」

 扇子で口を隠したまま私の方に顔を寄せて、そう呟いていた。
 なるほど……ある種、完全な政略結婚だ。
 
「私の話は面白くないでしょう? 皆さんは、もう決まったお相手がいらっしゃるのかしら?」

 場が微妙な空気になったのを感じ取ったオルガが、他の子たちに水を向ける。
 テレサとフローラが顔を見合わせて、苦笑いしていた。
 二人も決まった相手がいるのかな?

「うちは、父のお眼鏡に叶った相手じゃないと無理だからね」
「うちもそうですね。騎士団の中で探されているようですけども……」

 どうやら二人とも、まだ婚約者はいないらしい。
 あくまでまだというだけで、本人たちの意思で選べそうにはなさそうだけど。

「ああ、別に私が決めた相手でも良いんですけどね……その場合、父の見る目もかなり厳しくなるので。とりあえず、模擬戦の結果次第では門前払いということも」

 テレサの言葉に、微妙な表情をしてしまった。
 実力で代々の騎士爵を賜るような当主様相手に、模擬戦って……
 近衛の中でも、上位に位置する二人だよね?
 テレサとフローラのパパって。


「まあ、私は父が認めるほどの実力者であれば、不満はないですよ……顔が良ければ、なおよしですが」

 テレサは意外と面食いなのか。
 性格よりも、顔を重視するとは。

「いやいや、近衛や騎士の中で父に認められるなら、間違いなく実直で真面目でしょうから……しかも父の部下ですよ? 借りてきた猫みたいにな態度で、夫婦生活を送るようになるのは目に見えてますからね。顔くらいよくないと、なんの楽しみもないじゃないですか」

 なるほど一理あ……るのかな?
 確かに上下関係の厳しい騎士団の中で、上司の娘と結婚ともなると……
 夫婦喧嘩では、間違いなく勝てないよね?

 パパに言いつけてやる! ってなったら、どうしようもないわけだし。

「自分で見つけて来て認めてもらおうと思ったら……年回りでいったら、クリント様かクリス様でしょうね。レオハート公爵の第四夫人でも、あっさりと許可はおりそうですが」

 いやいや、最後の!
 最初の二つも、ちょっと微妙だけどさ。
 最後のは、流石にないよね?
 フローラが義理の祖母とか。

「そのくらい、ハードルが高いってことですよ」

 ハードルね……ハードル?
 ポンコツ翻訳じゃないよね?
 ああ、ハードルという言葉自体は大昔からあったんだ。
 障害って意味で。
 いや、1500年より少し前頃からとかって、詳しい情報はいらないし。
 てっきり、ハードル走のハードルしか思いつかなかったからさ。
 ごめんごめん……って、スキルに謝るのもおかしな話か。

 いや、こっちの意識を読み取って、確実に反応してるよね? 
 このスキル。 
 
「私はまだ決まった相手はいませんね……ほら、こんな見た目ですし」

 あっ、レイチェルが自虐モードに入った。
 いやいや、レイチェルは可愛いよ! 

「可愛いぞー! 可愛いぞー!」
「なんですか、それは!」

 レイチェルの前で糸に結んだ穴の開いた円盤型の金属を左右に揺らしながら囁いていたら、ガシッと円盤を掴まれて怒られてしまった。
 むぅ……自信を持って欲しかっただけなのに。

「私は……婚約が保留されてますね」

 そして、カーラは複雑そうな顔で、そう言っていた。
 まさか、婚約破棄とかって展開?

「あー、その……うちの親がはっちゃけたのと、うちの立場が微妙になったのがあって……双方の親が合意のうえで、一端取り消しで様子を見るって感じです」

 ほぉ……?

「いや、うちの親はエルザ様とのご縁を結べたいま、もっと上の家のご令息を狙えるのではと……で、相手方は、私を含めうちの家が、身分至上主義派内で微妙な立ち位置になってることを危ぶんでおりまして」
 
 それは、良い事なのか悪い事なのか……

「良い事なのですけどね。相手の男性も、その……派閥にありがちな性根の方ですし」

 じゃあ、良い事だね。

「ただ、婚約解消の前例があると、今後の婚約に差支えが出る可能性もありまして」
「だったら、自由恋愛で好きな相手を見つけたら良いんじゃない?」
「はぁ……その、今まで婚約者がいたから、そういったことを考えたことも無くて」
「大丈夫! 恋愛感情なんてこれから育っていくんだから! まずは、男を見る目を磨かないとね!」

 カーラはフリーってことでオッケーだね!
 うん、これは収穫かな?
 
 そして、この話題になってから大人しい二人は……

「私は、そのような立派な家ではありませんから。どこかの第二夫人か第三夫人、もしくは商家に嫁がされるかと」
「うちは、パパとママに自分で見つけておいでって言われたぁ……どこに出しても恥ずかしいから、お前を好きって言ってくれる相手を連れて来てくれってぇ」

 ジェーンはともかく、ジェイは……
 分からなくも無いけど、実際はかなり強かで計算高い……というのとは違うか。
 嗅覚も直観もかなり鋭くて物事の真実を見極めるのが得意だから、かなりの優良株だと思うんだけどね。
 そして、何よりも可愛いし!
 
 言動が問題なのかな?

 なんなら、私が世話しても良いくらいには、良い子だよ。
 ジェーンは……あまりに酷い内容なら、うちが後ろ盾になるのもやぶさかではないかな?

 今のところ、オルガ以外はフリーか。
 テレサとフローラは微妙な感じだけど。

 そして、大人しい二人以上に大人しい子。
 完全に空気になろうとしてる子に、視線を向ける。
 そう、ポーラだ。

「あの、エルザ様なら分かりますよね? 私に婚約者は居ませんが、現状で私にも本心からときめくような事は無いって」

 うん、彼女も二次成長期は終わりかけくらいの享年だったからね。
 とはいえ、青春真っ盛りの年齢でもあったわけだし。
 違った意味で、この世界の男子たちにときめいてたよね?
 なんせ、リアル2.5次元の世界だもんね。

「違った意味で、目をつけられてしまったぽいですね」

 諦めたようなセリフを吐いてるけど、知ってるよ! 
 本当の推しは、誰なのか吐いてもらわないと!
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