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第三章:王都学園編~初年度後期~
第16話:エリーズ・リターン!
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「やってる?」
とりあえずノリで、扉を開けて冒険者ギルドに入る。
私クラスだと暖簾をめくるように、あの無駄にでかい扉を開けることが出来る……
ただ、でかすぎたので、うちでお金を出してサイズを三分の二にするように計画しているところ。
陛下とギルマスの承認を受けて、入札を行って業者が決まったところだ。
まあ、陛下が承認した時点で、ギルマスの意向なんてどうでもいいんだけどね。
一応は、顔を立てた形というわけ。
そもそも、なんであんなに大きいんだという話だけど、理由はちゃんとあった。
昔は大型の魔物もあの扉から運び込んで、受付をしてから解体場に連れて行ってたらしい。
どうりで、解体場への出入り口もでかかったわけだ。
他には、巨人族のハーフが冒険者として登録したり……しないかなと。
過去、一度も無かったらしい。
巨人族自体、この大陸には居るがこの国にはいない。
私の声掛けに対して、冒険者は視線を一度向けてすぐに元に戻していた。
受付嬢は、嫌そうな顔をしていたけど。
そんなんじゃ、百貨店の受付なんて無理だぞー!
ギルドは、勿論年中無休だからやってるに決まってるけどさ。
360日24時間営業だもんね。
だって、魔物や事件は時間を選んではくれないし。
夜や早朝を専門とした冒険者もいるわけだし。
流石に夜中は、受付嬢一人と当番の職員二人しかいないらしい。
といっても、今はまだ朝だし。
休みを利用しての、ポイント稼ぎ。
今回は、パーティでの参加だ。
レオハートから連れてきた護衛騎士……の中でも強面二人。
本当はエルザとして来て、ソフィアたちと冒険したかったけど。
残念ながら、彼女たちは本登録をしていない。
見習いだから通常の依頼を受けようと思ったら、普通の冒険者と組まないといけないんだよね。
中に入ると、大勢の冒険者たちがこちらを振り返り……また、自分たちのことに戻っていった。
変な掛け声で入ったから、注目を浴びただけか。
あっ、一生懸命空気になろうとしている人もいるね。
顔見知りだし、声かけとかないとね。
「おや? これは、ケルガーではないか。奇遇だな、こんなところで会うなんて」
「はぁ……当たり前じゃないですか。冒険者業が専業なんですから……兼業冒険者の方々と違って、基本は毎日来てますよ」
「そうかもしれないが、いつも依頼先ではなくギルドで会うなと思ってね」
私が見つけたのは、とっても便利なゴーグルマップ君。
なんせストリートビューや航空写真を兼ね備えた、千里眼の持ち主だからね。
便利なスキルをもってしても、私の接近には気づけなかったと。
「姉御、こいつは誰ですかい?」
「ああ、ケルガーっていってね。こないだ、少しお世話になった冒険者だよ」
護衛のグレゴリーが私に声を掛けた瞬間に、また何人かがこっちを振り返っていた。
姉御って呼ばれるのが、珍しかったのかな?
職員さんも、頬が引き攣ってる気がする。
別に、そう呼べって言ったわけじゃないんだけどね。
流石、野盗あがり。
あっ、エルザの時はちゃんとお嬢って呼んでくれるけどね。
「ほう? こないだは、うちの姉御がお世話になったみたいだなぁ? わけえのに、いい度胸だ!」
「いや、その言い方だと、違う意味に聞こえるんですけど……」
グレゴリーの声掛けに、ケルガーが怯えた表情で言葉を返している。
まあ、言葉選びはあれかもしれないけど。
こう見えてしっかりと更生して今じゃ、普通の気前の良いおっさんになってるけどね。
懐が潤うと、気が大きくなるというか。
気持ちに余裕が出るというか。
で、自分と同じような境遇の人や、子供たちにまで手を差し伸べるようになるとはね。
やっぱり、人間お金なのかな?
「あんまり脅すなよグレゴリー。お嬢が世話になったみたいだ。礼を言うよ」
本当はエリーゼモードだと、キャラが被るから連れてきたくなかったんだよね。
うちの数少ない、女性騎士。
マチルダ。
目の上から口の横まで、大きな三本線の切り傷がある若い女性。
本人は顔の傷を気にすることなく、むしろ勲章だと誇っているほどの猛者だけどね。
自分の未熟さを気付かせてくれた、強敵の最期の置き土産だと言ってたっけ。
絶対、友達じゃないよね?
そして、人ですらなさそうだけど。
私が本気を出せば、治せるんだけど。
それを伝えても、拒否されたからもう放ってる。
ちなみにグレゴリーとマチルダの二人だけど、うちで職場結婚した夫婦だったりする。
今はまだ子供を作る気はないみたいだけど、ラブラブって雰囲気でもないしそういうものなのかもしれない。
子供好きの二人なのに。
子供からは、怖がられることが多いのが可哀そう。
いや、グレゴリーはとりあえず髭を剃ったらいいんじゃないかな?
あと、マチルダは……露出控えめの服を着ようか?
傷だらけのムキムキの女性は、流石に大人も怖がると思うし。
「あっ……えと、ども……というか、世話をしたと言うか、ご迷惑をお掛けしたというか」
「なにぃ?」
「ああん?」
いや……うちの騎士達の気性、これで良いのかな?
完全に怖い人たちなんだけど。
「ああ、出会ってすぐに少しな。便利なスキルを持ってるから、依頼を受けた際に手伝ってもらった。掛けられた迷惑を補って、余りある働きだったよ」
「ふーん……姉御がそう言うなら、信じやすが」
「便利なスキルねぇ……ぜひ、一度手合わせ願いたいね」
「あっ、戦闘系のスキルじゃないんで無理っす」
「なんだ、残念だよ」
こ……これでも、公の場ではちゃんとした言葉遣いだって出来るんだよ。
た……たぶん。
あまり、そういう場では喋らないけど。
そもそも、護衛騎士なんてそんなもんだ。
任務中にぺちゃくちゃとおしゃべりをするような人は、あまりいない。
「で、こいつも連れていきやすか?」
「えっ? はっ、いや……ちょっと、このあと予定がありまして」
ケルガーが慌てた様子で目の前の飲み物を一気に飲み干して、立ち上がる。
「おいおい、連れないこと言うなよ。ここで会ったのも、何かの縁だろ」
しかし、マチルダに回り込まれてしまった。
マチルダからは逃げられない。
うん、がっつり肩を組まれたら、逃げようがないよね。
目を付けられたんだから、諦めたらどうかな?
どうせ、暇そうだし。
「エリーズさん……」
「ふむ、とりあえず依頼のことを、伝えてこよう」
ケルガーは二人に任せて、受付に向かう。
おお! 今回も、身軽なお姉さんが対応をしてくれるのか。
話がまとまって? 私が一人で受付に向かおうとしたら、ヒラリとカウンターを飛び越えてこっちに駆け寄ってきてくれた。
「ギルドマスターの部屋に、ご案内いたします」
相変わらずのVIP扱いだなあ。
普通に、カウンターで済ませてくれたらいいのに。
受付嬢に連れられて、ギルマスの部屋に向かう。
後ろから、三人も着いて来た。
ケルガーは同行確定と。
「自分は、行かないっすって」
「諦めろ」
「姉御より優先するものがあるのか? そんなもの、この世には無いだろう? ああん?」
グレゴリー……あれで、本人は脅してるつもりじゃないって言い張るんだよね。
マチルダ曰く、普通に話しててもああなるらしい。
マチルダ的に翻訳すると「お嬢様がお願いしてるんだ。悪いが、ここは堪えてもらいなか? なっ?」という言葉になるらしい。
恋は盲目と言うけれども、本当にそう聞こえているなら耳か頭の病院をお勧めしたい。
ただ、グレゴリーがその翻訳に対して、めちゃくちゃ首を縦に振って同意するから判断が難しい。
もしかしたらマチルダが正解で、だからこそ二人は意気投合して結婚までいっちゃったのかもしれない。
「やってる?」
「それ、ハマってるんですか?」
ギルマスの部屋に入るときに一声かけて入ったら、受付嬢に首を傾げられた。
特に意味は無い。
ただのノリだよ。
冷静に突っ込まないで。
「仕事ならちゃんとやってます。ようこそ、お越しくださいました」
相変わらず、腰が低いギルマスだ。
すぐに席を勧められて、お茶が運ばれてくる。
諦めたのか、私の横に座るケルガー。
そして、グレゴリーとマチルダは定位置に。
うん、私の後方に直立不動。
輩みたいなムーブをかましておいて、急に騎士然とした背筋を伸ばした綺麗な立姿勢を披露されてもね。
鞘に入った剣を地面に立てて、その上に手を重ねて置いたりして……隠す気ないよね?
ケルガーが二人が座らずに、私の護衛ポジションに付いたのを見て慌てて立ち上がって、その横に並ぼうとしたのが笑えるけど。
「君は、普通に横に座ればいい。二人のことは、気にするな」
「はい」
私が苦笑いをしつつ声を掛けたら、所在なさげに横に戻ってきた。
肩身が狭そうというか、縮こまって座ってるけど。
「あっ、まだその喋り方続けるんですね」
「何か?」
「なんでも、ありません」
私の言葉遣いに、ギルマスが突っ込んできたけど。
静かに言葉を返したら、すぐに姿勢を正してくれた。
S級冒険者って、本当に凄い肩書なんだね。
ギルマスより、偉そうにできるとか。
(公爵家のご令嬢だからです!)
なんか、ギルマスの視線から切実な声が聞こえたような気がしたけど、敢えてスルーしておこう。
今の私は公爵家令嬢のエルザではなく、冒険者のエリーズだからね。
「さて、何か面白そうな依頼でもあるのかな?」
「えっ?」
「いや、こんなところに通してくるくらいだから、干からびた依頼でもあるのかと思ってさ」
「難易度の低いものならありますけど、エリーズさんを満足させるような依頼は……」
そこまで言いかけて、ギルマスが首を傾げる。
明らかに、私の後ろ……入り口の方に視線を向けてから固まってたよね?
振り返ると、ドアの横に立ってた受付嬢が何やら必死にアピールしていた。
何か、厄介事でもあるのだろう。
「ポイズンボアの大量発生なら、遠慮したいのだが」
口ではこう言っているけど、大歓迎です。
レイチェルが、ポイズンボアのから揚げにハマってるからね。
また、蛇祭り開催してもいいかなって思ってたり。
「ああ! とある、やんごとなき血筋ご令息が、当ギルドに登録されまして」
「断る」
なんか、碌でもない依頼が飛び込んできそうな不穏なワードが、いっぱい聞こえてきたよ。
生憎と面倒な子守は、お断りだ。
「話だけでも」
「聞いたら、断れない話じゃないのか? もしかして、そいつ……ダリウスとかって名前じゃないのかな?」
「いえ、違いますけど」
違った。
てっきり、アホ王子が私に感化されて、お忍びで冒険者にでもなったかと思った。
「ダーリアスと言うのですが」
偽名……かな?
それとも、本当にダーリアスさんかな?
「どっちにしろ、今日じゃないのだろう? 空いている日が合うかどうかも分からないから、今日受けられるものを探しているのだが?」
「それは残念です……今日すぐにできる依頼だとすると……街にとって脅威になるようなものは無いですし」
「マスター! あれをお願いしましょう! ズールアーク子爵からあった依頼です」
「ああ、世界三大魔物ジビエのどれかを、入手して欲しいという依頼か」
……絶対、レイチェルからの依頼だよね。
それ……生息地はちゃんと日帰りできる場所だよね?
他の国に行ってこいとか言われても、困るんだけど。
「ジャイアントレインボーフェザントなら、この国にもいるはずです」
レインボーフェザント……七面鳥とかじゃないよね?
大きな七色の雉……うん、雉なんだろう。
七面鳥なら、翻訳さんがきっとターキーにしてくれるだろうし。
うん、訂正も反応も無いから雉なんだろう。
……見つけられるかな?
ああ、そのためのケルガーか。
無理矢理、連れて来て正解だった。
マチルダと、グレゴリーのファインプレーだね。
とりあえずノリで、扉を開けて冒険者ギルドに入る。
私クラスだと暖簾をめくるように、あの無駄にでかい扉を開けることが出来る……
ただ、でかすぎたので、うちでお金を出してサイズを三分の二にするように計画しているところ。
陛下とギルマスの承認を受けて、入札を行って業者が決まったところだ。
まあ、陛下が承認した時点で、ギルマスの意向なんてどうでもいいんだけどね。
一応は、顔を立てた形というわけ。
そもそも、なんであんなに大きいんだという話だけど、理由はちゃんとあった。
昔は大型の魔物もあの扉から運び込んで、受付をしてから解体場に連れて行ってたらしい。
どうりで、解体場への出入り口もでかかったわけだ。
他には、巨人族のハーフが冒険者として登録したり……しないかなと。
過去、一度も無かったらしい。
巨人族自体、この大陸には居るがこの国にはいない。
私の声掛けに対して、冒険者は視線を一度向けてすぐに元に戻していた。
受付嬢は、嫌そうな顔をしていたけど。
そんなんじゃ、百貨店の受付なんて無理だぞー!
ギルドは、勿論年中無休だからやってるに決まってるけどさ。
360日24時間営業だもんね。
だって、魔物や事件は時間を選んではくれないし。
夜や早朝を専門とした冒険者もいるわけだし。
流石に夜中は、受付嬢一人と当番の職員二人しかいないらしい。
といっても、今はまだ朝だし。
休みを利用しての、ポイント稼ぎ。
今回は、パーティでの参加だ。
レオハートから連れてきた護衛騎士……の中でも強面二人。
本当はエルザとして来て、ソフィアたちと冒険したかったけど。
残念ながら、彼女たちは本登録をしていない。
見習いだから通常の依頼を受けようと思ったら、普通の冒険者と組まないといけないんだよね。
中に入ると、大勢の冒険者たちがこちらを振り返り……また、自分たちのことに戻っていった。
変な掛け声で入ったから、注目を浴びただけか。
あっ、一生懸命空気になろうとしている人もいるね。
顔見知りだし、声かけとかないとね。
「おや? これは、ケルガーではないか。奇遇だな、こんなところで会うなんて」
「はぁ……当たり前じゃないですか。冒険者業が専業なんですから……兼業冒険者の方々と違って、基本は毎日来てますよ」
「そうかもしれないが、いつも依頼先ではなくギルドで会うなと思ってね」
私が見つけたのは、とっても便利なゴーグルマップ君。
なんせストリートビューや航空写真を兼ね備えた、千里眼の持ち主だからね。
便利なスキルをもってしても、私の接近には気づけなかったと。
「姉御、こいつは誰ですかい?」
「ああ、ケルガーっていってね。こないだ、少しお世話になった冒険者だよ」
護衛のグレゴリーが私に声を掛けた瞬間に、また何人かがこっちを振り返っていた。
姉御って呼ばれるのが、珍しかったのかな?
職員さんも、頬が引き攣ってる気がする。
別に、そう呼べって言ったわけじゃないんだけどね。
流石、野盗あがり。
あっ、エルザの時はちゃんとお嬢って呼んでくれるけどね。
「ほう? こないだは、うちの姉御がお世話になったみたいだなぁ? わけえのに、いい度胸だ!」
「いや、その言い方だと、違う意味に聞こえるんですけど……」
グレゴリーの声掛けに、ケルガーが怯えた表情で言葉を返している。
まあ、言葉選びはあれかもしれないけど。
こう見えてしっかりと更生して今じゃ、普通の気前の良いおっさんになってるけどね。
懐が潤うと、気が大きくなるというか。
気持ちに余裕が出るというか。
で、自分と同じような境遇の人や、子供たちにまで手を差し伸べるようになるとはね。
やっぱり、人間お金なのかな?
「あんまり脅すなよグレゴリー。お嬢が世話になったみたいだ。礼を言うよ」
本当はエリーゼモードだと、キャラが被るから連れてきたくなかったんだよね。
うちの数少ない、女性騎士。
マチルダ。
目の上から口の横まで、大きな三本線の切り傷がある若い女性。
本人は顔の傷を気にすることなく、むしろ勲章だと誇っているほどの猛者だけどね。
自分の未熟さを気付かせてくれた、強敵の最期の置き土産だと言ってたっけ。
絶対、友達じゃないよね?
そして、人ですらなさそうだけど。
私が本気を出せば、治せるんだけど。
それを伝えても、拒否されたからもう放ってる。
ちなみにグレゴリーとマチルダの二人だけど、うちで職場結婚した夫婦だったりする。
今はまだ子供を作る気はないみたいだけど、ラブラブって雰囲気でもないしそういうものなのかもしれない。
子供好きの二人なのに。
子供からは、怖がられることが多いのが可哀そう。
いや、グレゴリーはとりあえず髭を剃ったらいいんじゃないかな?
あと、マチルダは……露出控えめの服を着ようか?
傷だらけのムキムキの女性は、流石に大人も怖がると思うし。
「あっ……えと、ども……というか、世話をしたと言うか、ご迷惑をお掛けしたというか」
「なにぃ?」
「ああん?」
いや……うちの騎士達の気性、これで良いのかな?
完全に怖い人たちなんだけど。
「ああ、出会ってすぐに少しな。便利なスキルを持ってるから、依頼を受けた際に手伝ってもらった。掛けられた迷惑を補って、余りある働きだったよ」
「ふーん……姉御がそう言うなら、信じやすが」
「便利なスキルねぇ……ぜひ、一度手合わせ願いたいね」
「あっ、戦闘系のスキルじゃないんで無理っす」
「なんだ、残念だよ」
こ……これでも、公の場ではちゃんとした言葉遣いだって出来るんだよ。
た……たぶん。
あまり、そういう場では喋らないけど。
そもそも、護衛騎士なんてそんなもんだ。
任務中にぺちゃくちゃとおしゃべりをするような人は、あまりいない。
「で、こいつも連れていきやすか?」
「えっ? はっ、いや……ちょっと、このあと予定がありまして」
ケルガーが慌てた様子で目の前の飲み物を一気に飲み干して、立ち上がる。
「おいおい、連れないこと言うなよ。ここで会ったのも、何かの縁だろ」
しかし、マチルダに回り込まれてしまった。
マチルダからは逃げられない。
うん、がっつり肩を組まれたら、逃げようがないよね。
目を付けられたんだから、諦めたらどうかな?
どうせ、暇そうだし。
「エリーズさん……」
「ふむ、とりあえず依頼のことを、伝えてこよう」
ケルガーは二人に任せて、受付に向かう。
おお! 今回も、身軽なお姉さんが対応をしてくれるのか。
話がまとまって? 私が一人で受付に向かおうとしたら、ヒラリとカウンターを飛び越えてこっちに駆け寄ってきてくれた。
「ギルドマスターの部屋に、ご案内いたします」
相変わらずのVIP扱いだなあ。
普通に、カウンターで済ませてくれたらいいのに。
受付嬢に連れられて、ギルマスの部屋に向かう。
後ろから、三人も着いて来た。
ケルガーは同行確定と。
「自分は、行かないっすって」
「諦めろ」
「姉御より優先するものがあるのか? そんなもの、この世には無いだろう? ああん?」
グレゴリー……あれで、本人は脅してるつもりじゃないって言い張るんだよね。
マチルダ曰く、普通に話しててもああなるらしい。
マチルダ的に翻訳すると「お嬢様がお願いしてるんだ。悪いが、ここは堪えてもらいなか? なっ?」という言葉になるらしい。
恋は盲目と言うけれども、本当にそう聞こえているなら耳か頭の病院をお勧めしたい。
ただ、グレゴリーがその翻訳に対して、めちゃくちゃ首を縦に振って同意するから判断が難しい。
もしかしたらマチルダが正解で、だからこそ二人は意気投合して結婚までいっちゃったのかもしれない。
「やってる?」
「それ、ハマってるんですか?」
ギルマスの部屋に入るときに一声かけて入ったら、受付嬢に首を傾げられた。
特に意味は無い。
ただのノリだよ。
冷静に突っ込まないで。
「仕事ならちゃんとやってます。ようこそ、お越しくださいました」
相変わらず、腰が低いギルマスだ。
すぐに席を勧められて、お茶が運ばれてくる。
諦めたのか、私の横に座るケルガー。
そして、グレゴリーとマチルダは定位置に。
うん、私の後方に直立不動。
輩みたいなムーブをかましておいて、急に騎士然とした背筋を伸ばした綺麗な立姿勢を披露されてもね。
鞘に入った剣を地面に立てて、その上に手を重ねて置いたりして……隠す気ないよね?
ケルガーが二人が座らずに、私の護衛ポジションに付いたのを見て慌てて立ち上がって、その横に並ぼうとしたのが笑えるけど。
「君は、普通に横に座ればいい。二人のことは、気にするな」
「はい」
私が苦笑いをしつつ声を掛けたら、所在なさげに横に戻ってきた。
肩身が狭そうというか、縮こまって座ってるけど。
「あっ、まだその喋り方続けるんですね」
「何か?」
「なんでも、ありません」
私の言葉遣いに、ギルマスが突っ込んできたけど。
静かに言葉を返したら、すぐに姿勢を正してくれた。
S級冒険者って、本当に凄い肩書なんだね。
ギルマスより、偉そうにできるとか。
(公爵家のご令嬢だからです!)
なんか、ギルマスの視線から切実な声が聞こえたような気がしたけど、敢えてスルーしておこう。
今の私は公爵家令嬢のエルザではなく、冒険者のエリーズだからね。
「さて、何か面白そうな依頼でもあるのかな?」
「えっ?」
「いや、こんなところに通してくるくらいだから、干からびた依頼でもあるのかと思ってさ」
「難易度の低いものならありますけど、エリーズさんを満足させるような依頼は……」
そこまで言いかけて、ギルマスが首を傾げる。
明らかに、私の後ろ……入り口の方に視線を向けてから固まってたよね?
振り返ると、ドアの横に立ってた受付嬢が何やら必死にアピールしていた。
何か、厄介事でもあるのだろう。
「ポイズンボアの大量発生なら、遠慮したいのだが」
口ではこう言っているけど、大歓迎です。
レイチェルが、ポイズンボアのから揚げにハマってるからね。
また、蛇祭り開催してもいいかなって思ってたり。
「ああ! とある、やんごとなき血筋ご令息が、当ギルドに登録されまして」
「断る」
なんか、碌でもない依頼が飛び込んできそうな不穏なワードが、いっぱい聞こえてきたよ。
生憎と面倒な子守は、お断りだ。
「話だけでも」
「聞いたら、断れない話じゃないのか? もしかして、そいつ……ダリウスとかって名前じゃないのかな?」
「いえ、違いますけど」
違った。
てっきり、アホ王子が私に感化されて、お忍びで冒険者にでもなったかと思った。
「ダーリアスと言うのですが」
偽名……かな?
それとも、本当にダーリアスさんかな?
「どっちにしろ、今日じゃないのだろう? 空いている日が合うかどうかも分からないから、今日受けられるものを探しているのだが?」
「それは残念です……今日すぐにできる依頼だとすると……街にとって脅威になるようなものは無いですし」
「マスター! あれをお願いしましょう! ズールアーク子爵からあった依頼です」
「ああ、世界三大魔物ジビエのどれかを、入手して欲しいという依頼か」
……絶対、レイチェルからの依頼だよね。
それ……生息地はちゃんと日帰りできる場所だよね?
他の国に行ってこいとか言われても、困るんだけど。
「ジャイアントレインボーフェザントなら、この国にもいるはずです」
レインボーフェザント……七面鳥とかじゃないよね?
大きな七色の雉……うん、雉なんだろう。
七面鳥なら、翻訳さんがきっとターキーにしてくれるだろうし。
うん、訂正も反応も無いから雉なんだろう。
……見つけられるかな?
ああ、そのためのケルガーか。
無理矢理、連れて来て正解だった。
マチルダと、グレゴリーのファインプレーだね。
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