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第三章:王都学園編~初年度後期~

第14話:いつものメンバー

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「ポーラも一緒に食べようよ」

 お昼時になり、レイチェルたちを拾ってポーラを迎えに行く。
 ちなみに、ポーラはオルガと同じクラスと。
 レイチェルを拾うついでに、ソフィアも誘おうとしたらやんわりと断られた。
 先に、シャルルに誘われていたらしい。
 むぅ……シャルルなら一緒にと思ったけど、少し込み入った話があるらしい。
 だったら、仕方ないか。

 貴族令嬢の集団に混じっての食事は、ごはんが喉を通らないですと呟いていたのは聞かなかったことにしよう。

 ジェイやジェーンも一緒だ。
 カーラと一緒に教室をでて、レイチェル、フローラ、テレサ、オルガ、ジェーン、ジェイ、ポーラと思えば大所帯になったものだ。
 食堂の一角を占拠するのは申し訳ない気持ちになるけど、今日はあまり混雑していない。
 寮生と、希望者しかランチは提供されないからだ。

 午前中授業のみで、午後からは一部の生徒以外は解散だからね。
 一部の生徒と言うのは、仮入学の手続き等のお手伝いだからだ。
 仮入学といっても、今回は見学のようなものだけどね。
 本格的な仮入学は、後期の長期休暇の初日にあるらしいし。
 
「しかし、やはりですか……」

 カーラがポーラを睨みながら、こちらを見て溜息を吐いていた。

「ん?」
「殿下に露骨に色目を使うような泥坊猫相手でも、寛容なのですね。そこが、エルザ様の美徳ともいえますが、甘すぎます」
「ふふん、猫全般が大好きだからね。あと、その例えは言葉が悪いって」
「申し訳ありません」

 カーラは本当にポーラのことを嫌っているのが、よく分かる。
 私に不利益をもたらすように見えるからかな?
 別に、全然気にしないんだけど。
 私が私の力でどうにかできる程度の迷惑なら、いくらでも被って構わないし。
 手に余るものは、少し困るけど。
 それでも、全力でお手伝いするよ。

「たかだか、男爵家のご令嬢が殿下に対してあのような……」
「カーラはもう。当人が気にしてないんだから、そのくらいにしなさい」

 いつまでもグチグチ言ってるから、オルガに注意されていた。
 可哀そうに、しょんぼりしちゃったよ。
 仕方ないから、抱きしめて頭を撫でてあげよう。

「もう……」

 あれ? オルガとカーラの両方から、呆れたような表情で同じ言葉が漏れてた。
 
「それにカーラとポーラって名前も似てるし、仲良くしなよ」

 そんなことを言ったら、露骨に嫌そうな顔をされてしまった。
 そんなに毛嫌いしなくても。

「それにしても、凄い量ですね」

 ジェーンが空気を変えるためか、レイチェルの前に置かれた料理を見て驚いた表情で言葉を発する。
 やめて。
 その言葉は、レイチェルに効く。

「はしたないですよね?」
「そんなことないですよ! 凄いです! これ、全部食べられるんですか?」
「褒められたことでは、無いですよ」

 うーん、ジェーンは素直に驚いているけど。
 レイチェルは、ここにきて人見知りが発動かな?
 
「これ……足りる?」
「……あぅ」

 そして、ジェイがぼそりと呟いた言葉に、レイチェルが本格的に恥ずかしそうに俯いてしまった。
 どうやら、地味に遠慮してこの量らしい。
 お肉のランチは大盛。
 日替わりは普通盛り。

「本当は、魚の方も気になります」
「私の、分けてあげる」

 そう言ってジェイが、自分の魚を半分に切って渡していた。
 今日の魚は、白身魚のムニエルか。
 上に香草が乗ってて、高級感がある。
 昼時にしては珍しく席に余裕のある食堂を見て、今日は流石に揉め事はなかろうと胸を撫でおろしていると喧騒が聞こえてきた。
 嘘でしょ……

 ああ、身分至上主義派じゃなくて、普通に生徒が席の場所でもめてるだけか。

「なんで、お前がリイナさんの横なんだよ」
「早い者勝ちに、決まってるだろ!」
「あら、困ったわ」

 あまり、困ったようには見えないので、放っておこう。
 日本の小学6年生と違って、12歳でも恋には積極的なようだ。
 そのうち、決闘とか始まったりして。

「楽しそうですね」
「仲裁は、されないので?」
「ん? 中心の女の子が嬉しそうだから、放っておいても良いんじゃないかな?」
 
 あれはあれで、良いと思うよ。
 青春だよ、青春。

「それで、レイチェルはあれからどうなの? 変な絡まれ方してない?」

 大盛の肉ランチを前ににらめっこしていたテレサが、レイチェルに話題を振る。
 フローラも横で興味深げに、微笑んでいる。

「うーん、そうですね。殿下のお陰か、そのことで声を掛けられることは無くなりましたよ。ただ、殿下と縁を繋ぎたい子から、熱い視線を向けられることが増えましたが」
 
 なるほど。
 ダリウスは、あれでも意外と生徒からの人気は高いからね。
 ポーラが耳が痛そうにしているのが、少しおかしかった。

「こんなに色々な人が集まっているのに、上手い事まとまっているのはエルザ様の人徳の成せることかしら?」
「そんなに褒めたって、何も出ないよ。これ、一切れあげようか?」
「いえ、そういうつもりではありませんから」

 オルガが嬉しいことを言ってくれたので、自分の日替わり定食のおかずを一切れあげようとしたら断られた。
 今日の日替わりは、何を血迷ったのか形成肉で作られたトカゲの丸焼きだった。
 お肉自体は牛と豚の、合い挽きっぽいけどね。
 なぜ、トカゲの形にしたのかが不明だ。
 あぁ……形成肉。
 子供の頃は大好きで、ある程度大きくなっても好物だった。
 形成肉のサイコロステーキ。
 滴り落ちる脂とか、最高だって思ってたのに。
 死ぬ前は、そんなに美味しく食べることが出来なかったんだよね。
 
 今は、凄く美味しく食べられるよ。
 前に話したおとんの料理だけど、こういう時に作るチャーハンは絶品だったな。
 うん、お父様じゃなくてお父さんの方。
 そう、前世の方。

 油の多い形成肉とか、トンテキを焼いた後の残った油でチャーハンを作ってくれるんだ。
 元々が味付け肉の状態で売られているものだから、脂に調味料が混ざってて下味が簡単だと言ってた。
 で、トンテキや形成肉を一部だけ分けておいて、それを切って入れてくれた。
 で味を調えて、出してくれるんだけどさ。
 とにかく高火力で、フライパンを回す姿は男の料理だと思ったよ。
 途中で家が変わって、IHになった時はガッカリしてたけど。
 それでも、チャーハンは作ってくれたなぁ。
 味を調えるときも、少し変わった調味料とか使って。
 で脂が多いから、レタスを後から追加で入れて炒めて……
 久しぶりに食べたくなってしまった。

 家で、再現できるかな?
 なんでか知らないけど、お母さんの料理もお父さんの料理も似たようなのが作れるけど、何かが違うんだよね。

 それから皆でわいわいがやがやと……まあ貴族令嬢だから、それなりにお行儀よく談笑しながら食事を終えると、それぞれが予定に向かって移動することに。

 ジェーンとジェイは寮生だから、仮入学のお手伝いを頼まれているらしい。
 フローラとテレサは、剣術道場か。
 一緒に通いたいなと思うけど、私にはレベルがと言われてしまった。
 私が実力不足ってことじゃないよね?
 確かに力任せの剣を扱わせたら、天下一品だけどさ。
 いろんな剣術道場で指南を受けてるから、技巧派でもいけるんだけどね。
 
 レイチェルとオルガとカーラとポーラは、特に予定が無いらしい。
 レイチェルだけは、何も無ければ早く帰って来いと言われているらしいけど。
 誰にって、ミッシェルさんだよ。
 本当に、シスコンだよね。

 ここはカーラとポーラの仲を取り持つためにも、四人でどこかに行くべきかな?
 ということで、四人で下校するために外に向かう。
 うわぁ……可愛い。

 私たちより幼い子たちが、外を歩いているのを見て思わず見入ってしまった。
 少し緊張した面持ちなのも、ポイントが高いよ。
 不安そうにしている子もいる。
 うーん、大丈夫だよ。
 何かあったら、私に言えばいいんだよ。
 と声を掛けてあげたくなる。
 親御さんたちは子供に一生懸命に話しかけている人もいれば、親同士で小難しい顔で何やら話し込んでいる人もいるけど。
 親に手を引かれて歩いている姿って、本当に可愛いね。

「そういえば、私たちの時にはエルザ様はいらっしゃりませんでしたね」
「ああ、お嬢はどうせ通うなら、わざわざ見る必要はないと言ってたからな。俺が一人で来て、エルザの分も資料やら手続きをすることになったよ」
「一人って、ロンも一緒だったんじゃん」
「そういう意味では、無いんだけどさ」

 下校の時になると、護衛気取りのクリントが一緒になる。
 いつまで、続けるつもりなんだろう。
 といっても、最近では友達との約束があれば、そちらを優先することが出てきた。
 というか、無理矢理送り出してるんだけどね。
 今日は、予定が無いらしい。

「それにしても、可愛いね」
「エルザの方が可愛いぞ」

 はぁ……
 それともう一人。
 ダリウスと一緒の下校は、未だに継続中だ。
 そして、その台詞はいま言うべきことではない。
 子供と比べて私の方が可愛いとか、微妙な気持ちになるからやめて欲しい。
 ほら、オルガもポーラもドン引きだよ。
 目を輝かせてるのは、カーラだけだから。
 レイチェルなんか、遠い目をしてるからね。
 昔はレイチェルも、この人に恋心を抱いていたっぽいのに。
 ポーラは、百年の恋も冷めたような顔だけど。
 元から恋してなかったんだよね。
 
「あれ? あの子……」

 ふと見ると、金髪の縦ロールの女の子が一人でポツンと立ってた。
 ちょっとすました表情をしているけど、瞳が不安げに揺れている。
 あっ、私と目があった。
 凄い勢いで、反らされたんだけど?

 なんだろう?

「ごきげんよう」
「は……はい。なんですか?」

 とりあえず迷子かもしれないので、声を掛ける。
 オルガが少し微妙な表情をしてたけど、首を傾げたら扇子で顔を隠された。
 何事?

「大丈夫? ご家族の方とはぐれたりした?」
「えっと……」

 どうやら、迷子らしい。
 こんな可愛い子から目を離すなんて、なんて親だ。
 
「そうなの? 一緒に探しましょうか? そうそう、まずは先生に伝えに行きましょう」
「よ、宜しいのですか? お忙しいのでは?」
「大丈夫、大丈夫! 予定が無くて、これから考えるところだったから。こちらの可愛らしいレディを手助けしがてら、予定を考えるよ。みんなは、適当に外で時間潰してて」

 それだけ言うと、レイチェルたちと別れて迷子の親探しの旅に。

「あっ、私も「ダリウス殿下は、皆のお相手をお願いしますね」」

 ダリウスが来ようとしたのを、笑顔で牽制。
 あとで合流して一緒に帰れば、一緒に下校ミッションはクリアできるんだから。
 わざわざ、校内で行動を共にすることもないし。

 クリントは当然の如くついてくるけど、本格的な護衛モードに入ったから余計な口は挟まないだろうしね。

「じゃあ、まずはレディのお名前をお伺いしてもいいかな?」
「は……はい。エレオールと申します」
「まあ、可愛い名前ね。私は、エルザよ」
「存じております」

 へえ、私のこと知ってたんだ。
 どこかであったのかな?
 王城のパーティとか?

「どこかで、あった?」
「いえ、初めましてです」
「そう? まあ、いいか。それじゃあ、まずはあっちに向かおうか。ほら、お手々つなぐよ」
「お……お手々?」

 おっと、一つしか違わないのに、子ども扱いが過ぎたかな?
 これは、昔にお姉さんぶってたシャルルのことを言えないか。
 でも、良いけどね。
 おずおずと手を繋いできたけど、ぷにぷにしてて可愛い。
 背も私の方が随分と高いし、うん! 子ども扱いしても大丈夫だよね?

 これから、楽しい学園デートだね。


 
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