75 / 110
第三章:王都学園編~初年度後期~
第13話:紅茶談義
しおりを挟む
「しかし、不思議な光景ね」
お茶を飲みながら、辺りを見渡したミッシェルがしみじみと呟いている。
うちの倉庫に、いつの間にやら見たことない子たちが大勢増えていた。
仕切り直しということで、茶室に連れていかれたけど。
てっきり和風建築の茶室かなと思ったら、古典中国風の茶室だった。
三国志とかの世界観にありそうな。
欄干があって、二面が外になっている。
その先には池や竹林なんかも見える。
そして、遠くには山も。
「景色を繋いでおるだけで、実際は洞窟の中じゃ」
驚いたことに、ここも倉庫の中らしい。
ということは、触るとゴツゴツとした岩肌なのかな?
「空間を拡張してあるから、相当先までいかんと壁には当たらんぞ」
なるほど……じゃあ、少しはこの景観の触感も楽しめたりするのだろうか?
そういえば、緑の薫りもするし。
「なんていう、能力の無駄遣い」
「大した労力ではない」
こんなことが簡単にできちゃうなんて、サガラさんは本当に凄いね。
そして椅子も立ち上がると勝手に下がって、腰を下げようとすると自然と前に出てくる。
当のサガラさんは、人型の分体を作り出してそちらに意識を飛ばしているらしい。
だからここにはいま、見慣れない男性が1人参加している。
本体は倉庫のいつもの場所で、横になったまんまだ。
変身したりするわけじゃないのか。
しかし、ここにいるサガラさん自身が地球のサガラさんの、分体なんだよね。
分体の分体って、なんかどうなんだろうという印象を受けてしまう。
「さて、改めて仕切り直すとしよう」
そして、話の主導権はサガラさんと。
その姿は白を基調とした昔の中国の人の着物みたいなのを纏った、初老の男性だ。
頭には冠がのっている。
歴史ものの中国のドラマとかによく出てくる。偉そうな人が冠っているあれ。
皇帝とかが被る、すだれのついた冕冠ではなく普通の。
えっと……諸葛亮さん? の絵にあるようなやつ。
黒い髭が綺麗に切りそろえられているけど、竜だから髭は当然あるか。
少し、イメージと違う。
「姿なんぞ、自由自在だからな。昔よく人の世に降りるときにしていた形だな」
それはどのくらい昔の話なのだろうか。
今だったら、Tシャツにジーパンスタイルとかだったりするのだろうか?
それか、BーBOYみたいな感じだったら笑えるんだけど。
「シャツにジャケットか、スーツとかになるんじゃないかのう」
「サガラさんは冒険しない、フォーマル派と」
「格式ある竜神様だから、当たり前でしょう」
私の疑問に対して、サガラさんは今の地球の時代に合わせた場合の服装を教えてくれた。
面白くない……つい、言葉に出てしまったけど。
ミッシェルさんが、慌ててフォローしてるのが笑える。
サガラさんは寛大だから、ちょっとやそっとじゃ怒らないよ?
「だったら、タキシードとか紋付袴とか?」
そして、ポーラも乗っかってきた。
久しぶりに口を挟んで来たと思ったら、なかなか面白い発想だ。
「それもおかしいでしょう。TPOに合わせたフォーマルウェアを着るんですよね?」
「まあ……そこそこ、威厳を保てればなんでもよい」
ミッシェルは、本当に真面目でお堅いというか。
前世が企業研究者というのがよく分かる。
少なくとも、マッドなサイエンティストではなさそうだ。
「なんでもかんでも、二極化しないでくれるかな?」
それから、あれこれとこの世界について話し合う。
改めて聞くと、なかなか言葉に出来ない状況だった。
「えっと……要は、人の願望に合わせて転生や転移で過ごすための世界を作るための神様が、人の欲望の力を集めて生まれたと?」
「信仰や思想は、時として大いなる力を生むからのう。集団ヒステリーなんかも、やもすればそういった力の終結の結果といえるだろう」
「集団ヒステリーね、うん……あれ、凄いよね? 集団でもう、なんていうかあれだもんね」
「分からないなら、分からないって言いなさいよ」
むぅ……ざっくりとは理解してるし。
なんか、一人が幽霊が見えたみたいなことを言いだして、パニックで皆があれになったりするやつだよね?
「集団儀式などでは、昔からよく起こっておったことだ。大勢で踊り狂い我を忘れて、幻覚を見ることも少なくなかった。それも、皆が同じようなものを見るのだ……それが、神や悪魔であるとされることも多々ある」
「でも、中には本物も居たってことですよね?」
「なにそれ、凄い」
集団ヒステリーって凄いことだったんだ。
よく、分からないけど。
「人の思いというのは、それだけ凄い事だ。実体を伴うことがあるくらいに……ありえないことだが、全世界の人間が世界中で今日は晴れると心から信じれば、天候すらも操ることができるであろう」
やってみたいけど、無理だろうね。
世界中にモニターを用意して、一人が催眠術で世界中の人間に暗示を掛けたらいけるかも?
「この世界の成り立ちについては分かりました。それから、他にもこの世界にありながら、パラレルワールドのように分岐した世界や並行世界があることも」
「理解が早くて助かる」
「このお菓子美味しいね」
「そうですね……ただ、二足歩行のように地面を歩いてきたトングが、お皿に分けてくれるのって衛生的にどうなのでしょうか?」
サガラさんとミッシェルが話をしている間、退屈なのでポーラとお茶を楽しむ。
サクっとしていて、くちどけ感のある変わったクッキー。
ちょっと塩味が効いていて、でも甘くて美味しい。
紅茶がすすむよ。
ただ、言われたように、これをよそってくれたトングは地面を歩いてきてたんだよね。
お皿は回転しながら、宙を舞って来てたけど。
「あっ、一応食べ物に触れる前には、浄化魔法を使ってるらしいよ」
「でも、気分的にちょっと……」
確かに、良い気はしないよね。
「ここの床は、綺麗だから問題ない」
こちらの話を聞いていたのか、サガラさんが言葉少なめに答えてくれた。
いや、だからそういう問題じゃなくて、気分の問題なんだけどね。
それを言うのも野暮だと思ったから、納得したふりをして頷いておこう。
「では、私たちが転生したことに意味は無く、使命のようなものもないと?」
「強いていうならば、好きなように生きることが使命かな?」
「好きなように……ですか」
なぜそこで、私をチラッと見るんだミッシェルさん。
まるで、私が好き勝手してるみたいじゃないか。
サガラさんまで、こっち見んな。
「彼女くらいチートが備わっていればいいのですが」
「ほう? エルザはチートなんぞもっとらんぞ?」
「これ見てください! 私が落とした食べかすを、箒が勝手に掃いてくれてます」
「いいねそれ。便利な箒だ! うちにも、一本欲しい」
「異世界ル〇バです」
サガラさんたちの会話が気になるけど、私がそっちに参加するとポーラがぼっちになっちゃうからね。
こういう時、ポーラを放っておけない自分は小心者だと感じてしまう。
理解できない組同士、盗み聞きしつつこっちはこっちで楽しむか。
「えっ? あんな、馬鹿げた力を持ってるのに?」
「自分で努力して得たものだ。与えられたものではない」
サガラさん、良い事言うね。
毎日、魔物を倒し続けて手に入れた力だからね。
この溢れ出る魔力量だって、努力とレベル上げの成果だし。
魔法に関しても、コネを使って全力で良い先生に師事した結果だし。
「公爵家の生まれってだけでも」
「であれば、王子や王の方がチートだな。それに、その方らと違ってエルザが望んで、彼らの元に産まれたわけでもないしのう」
「私たちだって、別に望んで今の家に生まれたわけでは」
「大体の希望通りにはなっておるであろう」
「ええ……まあ」
ほうほう、ミッシェルさんは望んでレイチェルの姉になったと。
なんか、変わった立場を選ぶ人だ。
「レイチェルやカーラに同情的であったからこそ、今の立場なのだ。であれば……レイチェルを救うことが、その方の使命かもしれぬぞ」
「なるほど……にしても、詳しいですね」
「ああ、エルザがここに来るたびに、私の指を枕に色々と学園での生活を話してくれるからのう」
「……サガラさんと仲良くなれたのが、一番のチートだと思います」
「ふんっ……お前らは、北欧やギリシャの神の方が好きなのではないか。自己紹介して、ようやく思い出してもらえる程度の神なぞ、いなくても構わんだろう」
そんな自虐的にならなくても。
私なんて、サガラさんが何者かなんて知りもしなかったし。
むしろ知ってたミッシェルの方が、良いんじゃないかな?
「この紅茶、どこかで懐かしい味ですね」
「うん、あれだよ! 紅茶華伝のロイヤルミルクティーに似てる」
「ということは、ウバ茶に似たものがここにもあるのでしょうか? 私、紅茶が好きなんです」
「へえ、そうなんだ」
あっちの会話が凄く気になるけど、ポーラが色々と話したさそうにしてるのを放っておけない自分が憎い。
というか、最初はミッシェルだけを連れてきたら……私が、ボッチになりそうだ。
「サガラさんは、エルザ贔屓が凄いですね」
「可愛いからな」
「まさかの、下世話な話?」
「罰当たりなことを言う。この者は、純粋にこの世界に対して邪心をもっておらん。それに、わけも分からず連れて来られた被害者だからだ」
「私もわけが分からず、ここに居ますが?」
「自分で望んだのだから、仕方あるまい」
「私に対して、冷たい」
そうかな?
二人が、とっても仲良くなってる気がするんだけど?
「アッサムと、ダージリンだと、私はアッサムの方が好きですね。濃厚な甘みがミルクと相性抜群で」
「そうなんだ……でも、この世界って茶葉の種類ってどうなんだろう?」
「セイロンはよく見かけますね。何故か、地名由来のものが多い茶葉なのに、この世界でも名前が一緒なんですよね」
「それ、ポンコツ翻訳能力のせいかもしれないよ」
「えっ? 私たちの翻訳機能ってポンコツなのですか?」
「うん、なんか妙に、絶妙な翻訳力が発揮されて、本当にあってるのか不安になるときない?」
「あぁ……確かに。ギャグとかそうですよね。言葉遊びもそうですし」
「回文とかも、普通に使えたりするし」
「むしろ翻訳機能じゃなくて、この世界自体が日本語主体だったりするかもしれないですね」
おお、なんかあれだ。
転生者っぽく、言語の謎を追求する話題にもっていけた。
これで少しは賢い会話ができるかも。
「そんなことよりも、ウバはメントールがほのかに香るんですけど、分かります? フレバリーシーズンが短いから、一番美味しい時期に飲めるのって幸せですよね? そのシーズンのものに近い香りが、この紅茶からはしますよね?」
話題変更失敗……
また、紅茶の話に戻ってきてしまった。
そして、言ってることが全然分からない。
メントール感……するかな?
「そ……そうですね」
「なぜ、急に敬語に?」
「ん? なんでもないよ」
とりあえず盗み聞きした話の中で一番重要だったのは、使命なんかなくて好き勝手したらいいと。
なんて、素晴らしい世界。
「でも、好き勝手出来るだけの素質と材料を持ち合わせてるのは、チートといえるのでは?」
「お主らほどではなかろう? それに、エルザはどのような状況でも、ああであっただろう……あれで、身分がもしも平民とかだったりしたら」
「クーデター待ったなしですね、封建主義に真っ向から喧嘩を売って、王国を混乱と破滅に導きそうです」
「であろう? であれば、公爵家令嬢というのはエルザにとっては、足枷みたいなものだ」
「ものは、言いようですね」
そっか……確かに、私がもし平民だったら……全て、腕力で解決してただろうね。
軍隊すらも、相手にしてそうだ。
レベル上げって、凄く重要だもんね。
レベル100程度の兵を揃えただけで調子に乗れるんだから、500もあればそこそこやれそうだし。
現時点で1000を超えてるから、本当に本気を出したら……
「スリランカはセイロンの名産地なんですけど標高が結構重要なんですよね。似たような環境の場所がこの世界にもあるのでしょうか? だとしたら一度、是非行ってみたいですね? そう思いませんか?」
「そうだねー」
「公爵家の力を使えば、行けるんじゃないですか?」
「そうかもねー」
「紅茶を飲んでる時だけは、あっちに居る時と変わらないような気持で過ごせるんです。エルザ様もですよね?」
「どうかなー」
凄い喋るじゃん、この子。
というか、よく考えればこういう子だった。
妙に押しが強いと言うか。
ダリウスに、グイグイいってたのを思い出してきた。
それも、なかなかに手強いポジティブさを発揮して。
「茶器にも色々と……あっ! ボーンチャイナ! あった! まだ、誰もやってない内政チート! そうでした! ボーンチャイナだったらいけるかも」
「へぇ、骨中国? なんか凄そうだね、中国の武器か何かかな?」
「食器ですよ。それと、中国じゃなくてロンドンで発明された磁器です」
「なんで、チャイナ?」
「当時は、磁器といえばチャイナだからです」
よく分からないけど、なんか良いものなのだろうきっと。
ボーンの意味が分からないけど。
「作り方は分かるの?」
「材料は分かりますけど……」
「じゃあ、委託しないといけないんだ。私のとこの研究者使う? 利益は8対2で」
「えっ……それは、ちょっと酷くないですか?」
「ええ? じゃあ、9対1?」
「なんで、もっと条件が悪くなるんですか!」
「ん?」
「ん?」
いや、もしかして私が取り分8って思われた?
私って、そんなにあくどく思われてるの?
なんか、かなりショックなんだけど。
「いや、そっちが8割で、こっちが2割だったんだけど?」
「はあ? 私は情報を出すだけで、研究から製造までエルザさんがやられるのに? それは貰いすぎですし、だったらもう5対5で良いですよ」
「いや、別にいいよ。私はお金なら腐るほどあるし」
「……やばいレベルのブルジョワが居る。私も言ってみたい」
事実だからしょうがない。
「嘘でしょう!」
「本当だと思うがな……まあ、主神のやつに直接聞いたのだが、信用は出来んな。一応、神であるから心を読むこともできぬし。やろうと思えば出来るが、確たる証拠も無くやるわけにはいかんのだ」
えっ?
なんか、向こうで気になる展開を迎えてるっぽいんだけど。
「お茶の方面から攻めれば、私でもお金を集める方法が見つかるかも」
「あっ、うん……頑張って」
もう、あれだ。
解散したあとで、ゆっくりとサガラさんに聞こう。
こうなったら、全力でポーラと話をすることにしよう。
お茶を飲みながら、辺りを見渡したミッシェルがしみじみと呟いている。
うちの倉庫に、いつの間にやら見たことない子たちが大勢増えていた。
仕切り直しということで、茶室に連れていかれたけど。
てっきり和風建築の茶室かなと思ったら、古典中国風の茶室だった。
三国志とかの世界観にありそうな。
欄干があって、二面が外になっている。
その先には池や竹林なんかも見える。
そして、遠くには山も。
「景色を繋いでおるだけで、実際は洞窟の中じゃ」
驚いたことに、ここも倉庫の中らしい。
ということは、触るとゴツゴツとした岩肌なのかな?
「空間を拡張してあるから、相当先までいかんと壁には当たらんぞ」
なるほど……じゃあ、少しはこの景観の触感も楽しめたりするのだろうか?
そういえば、緑の薫りもするし。
「なんていう、能力の無駄遣い」
「大した労力ではない」
こんなことが簡単にできちゃうなんて、サガラさんは本当に凄いね。
そして椅子も立ち上がると勝手に下がって、腰を下げようとすると自然と前に出てくる。
当のサガラさんは、人型の分体を作り出してそちらに意識を飛ばしているらしい。
だからここにはいま、見慣れない男性が1人参加している。
本体は倉庫のいつもの場所で、横になったまんまだ。
変身したりするわけじゃないのか。
しかし、ここにいるサガラさん自身が地球のサガラさんの、分体なんだよね。
分体の分体って、なんかどうなんだろうという印象を受けてしまう。
「さて、改めて仕切り直すとしよう」
そして、話の主導権はサガラさんと。
その姿は白を基調とした昔の中国の人の着物みたいなのを纏った、初老の男性だ。
頭には冠がのっている。
歴史ものの中国のドラマとかによく出てくる。偉そうな人が冠っているあれ。
皇帝とかが被る、すだれのついた冕冠ではなく普通の。
えっと……諸葛亮さん? の絵にあるようなやつ。
黒い髭が綺麗に切りそろえられているけど、竜だから髭は当然あるか。
少し、イメージと違う。
「姿なんぞ、自由自在だからな。昔よく人の世に降りるときにしていた形だな」
それはどのくらい昔の話なのだろうか。
今だったら、Tシャツにジーパンスタイルとかだったりするのだろうか?
それか、BーBOYみたいな感じだったら笑えるんだけど。
「シャツにジャケットか、スーツとかになるんじゃないかのう」
「サガラさんは冒険しない、フォーマル派と」
「格式ある竜神様だから、当たり前でしょう」
私の疑問に対して、サガラさんは今の地球の時代に合わせた場合の服装を教えてくれた。
面白くない……つい、言葉に出てしまったけど。
ミッシェルさんが、慌ててフォローしてるのが笑える。
サガラさんは寛大だから、ちょっとやそっとじゃ怒らないよ?
「だったら、タキシードとか紋付袴とか?」
そして、ポーラも乗っかってきた。
久しぶりに口を挟んで来たと思ったら、なかなか面白い発想だ。
「それもおかしいでしょう。TPOに合わせたフォーマルウェアを着るんですよね?」
「まあ……そこそこ、威厳を保てればなんでもよい」
ミッシェルは、本当に真面目でお堅いというか。
前世が企業研究者というのがよく分かる。
少なくとも、マッドなサイエンティストではなさそうだ。
「なんでもかんでも、二極化しないでくれるかな?」
それから、あれこれとこの世界について話し合う。
改めて聞くと、なかなか言葉に出来ない状況だった。
「えっと……要は、人の願望に合わせて転生や転移で過ごすための世界を作るための神様が、人の欲望の力を集めて生まれたと?」
「信仰や思想は、時として大いなる力を生むからのう。集団ヒステリーなんかも、やもすればそういった力の終結の結果といえるだろう」
「集団ヒステリーね、うん……あれ、凄いよね? 集団でもう、なんていうかあれだもんね」
「分からないなら、分からないって言いなさいよ」
むぅ……ざっくりとは理解してるし。
なんか、一人が幽霊が見えたみたいなことを言いだして、パニックで皆があれになったりするやつだよね?
「集団儀式などでは、昔からよく起こっておったことだ。大勢で踊り狂い我を忘れて、幻覚を見ることも少なくなかった。それも、皆が同じようなものを見るのだ……それが、神や悪魔であるとされることも多々ある」
「でも、中には本物も居たってことですよね?」
「なにそれ、凄い」
集団ヒステリーって凄いことだったんだ。
よく、分からないけど。
「人の思いというのは、それだけ凄い事だ。実体を伴うことがあるくらいに……ありえないことだが、全世界の人間が世界中で今日は晴れると心から信じれば、天候すらも操ることができるであろう」
やってみたいけど、無理だろうね。
世界中にモニターを用意して、一人が催眠術で世界中の人間に暗示を掛けたらいけるかも?
「この世界の成り立ちについては分かりました。それから、他にもこの世界にありながら、パラレルワールドのように分岐した世界や並行世界があることも」
「理解が早くて助かる」
「このお菓子美味しいね」
「そうですね……ただ、二足歩行のように地面を歩いてきたトングが、お皿に分けてくれるのって衛生的にどうなのでしょうか?」
サガラさんとミッシェルが話をしている間、退屈なのでポーラとお茶を楽しむ。
サクっとしていて、くちどけ感のある変わったクッキー。
ちょっと塩味が効いていて、でも甘くて美味しい。
紅茶がすすむよ。
ただ、言われたように、これをよそってくれたトングは地面を歩いてきてたんだよね。
お皿は回転しながら、宙を舞って来てたけど。
「あっ、一応食べ物に触れる前には、浄化魔法を使ってるらしいよ」
「でも、気分的にちょっと……」
確かに、良い気はしないよね。
「ここの床は、綺麗だから問題ない」
こちらの話を聞いていたのか、サガラさんが言葉少なめに答えてくれた。
いや、だからそういう問題じゃなくて、気分の問題なんだけどね。
それを言うのも野暮だと思ったから、納得したふりをして頷いておこう。
「では、私たちが転生したことに意味は無く、使命のようなものもないと?」
「強いていうならば、好きなように生きることが使命かな?」
「好きなように……ですか」
なぜそこで、私をチラッと見るんだミッシェルさん。
まるで、私が好き勝手してるみたいじゃないか。
サガラさんまで、こっち見んな。
「彼女くらいチートが備わっていればいいのですが」
「ほう? エルザはチートなんぞもっとらんぞ?」
「これ見てください! 私が落とした食べかすを、箒が勝手に掃いてくれてます」
「いいねそれ。便利な箒だ! うちにも、一本欲しい」
「異世界ル〇バです」
サガラさんたちの会話が気になるけど、私がそっちに参加するとポーラがぼっちになっちゃうからね。
こういう時、ポーラを放っておけない自分は小心者だと感じてしまう。
理解できない組同士、盗み聞きしつつこっちはこっちで楽しむか。
「えっ? あんな、馬鹿げた力を持ってるのに?」
「自分で努力して得たものだ。与えられたものではない」
サガラさん、良い事言うね。
毎日、魔物を倒し続けて手に入れた力だからね。
この溢れ出る魔力量だって、努力とレベル上げの成果だし。
魔法に関しても、コネを使って全力で良い先生に師事した結果だし。
「公爵家の生まれってだけでも」
「であれば、王子や王の方がチートだな。それに、その方らと違ってエルザが望んで、彼らの元に産まれたわけでもないしのう」
「私たちだって、別に望んで今の家に生まれたわけでは」
「大体の希望通りにはなっておるであろう」
「ええ……まあ」
ほうほう、ミッシェルさんは望んでレイチェルの姉になったと。
なんか、変わった立場を選ぶ人だ。
「レイチェルやカーラに同情的であったからこそ、今の立場なのだ。であれば……レイチェルを救うことが、その方の使命かもしれぬぞ」
「なるほど……にしても、詳しいですね」
「ああ、エルザがここに来るたびに、私の指を枕に色々と学園での生活を話してくれるからのう」
「……サガラさんと仲良くなれたのが、一番のチートだと思います」
「ふんっ……お前らは、北欧やギリシャの神の方が好きなのではないか。自己紹介して、ようやく思い出してもらえる程度の神なぞ、いなくても構わんだろう」
そんな自虐的にならなくても。
私なんて、サガラさんが何者かなんて知りもしなかったし。
むしろ知ってたミッシェルの方が、良いんじゃないかな?
「この紅茶、どこかで懐かしい味ですね」
「うん、あれだよ! 紅茶華伝のロイヤルミルクティーに似てる」
「ということは、ウバ茶に似たものがここにもあるのでしょうか? 私、紅茶が好きなんです」
「へえ、そうなんだ」
あっちの会話が凄く気になるけど、ポーラが色々と話したさそうにしてるのを放っておけない自分が憎い。
というか、最初はミッシェルだけを連れてきたら……私が、ボッチになりそうだ。
「サガラさんは、エルザ贔屓が凄いですね」
「可愛いからな」
「まさかの、下世話な話?」
「罰当たりなことを言う。この者は、純粋にこの世界に対して邪心をもっておらん。それに、わけも分からず連れて来られた被害者だからだ」
「私もわけが分からず、ここに居ますが?」
「自分で望んだのだから、仕方あるまい」
「私に対して、冷たい」
そうかな?
二人が、とっても仲良くなってる気がするんだけど?
「アッサムと、ダージリンだと、私はアッサムの方が好きですね。濃厚な甘みがミルクと相性抜群で」
「そうなんだ……でも、この世界って茶葉の種類ってどうなんだろう?」
「セイロンはよく見かけますね。何故か、地名由来のものが多い茶葉なのに、この世界でも名前が一緒なんですよね」
「それ、ポンコツ翻訳能力のせいかもしれないよ」
「えっ? 私たちの翻訳機能ってポンコツなのですか?」
「うん、なんか妙に、絶妙な翻訳力が発揮されて、本当にあってるのか不安になるときない?」
「あぁ……確かに。ギャグとかそうですよね。言葉遊びもそうですし」
「回文とかも、普通に使えたりするし」
「むしろ翻訳機能じゃなくて、この世界自体が日本語主体だったりするかもしれないですね」
おお、なんかあれだ。
転生者っぽく、言語の謎を追求する話題にもっていけた。
これで少しは賢い会話ができるかも。
「そんなことよりも、ウバはメントールがほのかに香るんですけど、分かります? フレバリーシーズンが短いから、一番美味しい時期に飲めるのって幸せですよね? そのシーズンのものに近い香りが、この紅茶からはしますよね?」
話題変更失敗……
また、紅茶の話に戻ってきてしまった。
そして、言ってることが全然分からない。
メントール感……するかな?
「そ……そうですね」
「なぜ、急に敬語に?」
「ん? なんでもないよ」
とりあえず盗み聞きした話の中で一番重要だったのは、使命なんかなくて好き勝手したらいいと。
なんて、素晴らしい世界。
「でも、好き勝手出来るだけの素質と材料を持ち合わせてるのは、チートといえるのでは?」
「お主らほどではなかろう? それに、エルザはどのような状況でも、ああであっただろう……あれで、身分がもしも平民とかだったりしたら」
「クーデター待ったなしですね、封建主義に真っ向から喧嘩を売って、王国を混乱と破滅に導きそうです」
「であろう? であれば、公爵家令嬢というのはエルザにとっては、足枷みたいなものだ」
「ものは、言いようですね」
そっか……確かに、私がもし平民だったら……全て、腕力で解決してただろうね。
軍隊すらも、相手にしてそうだ。
レベル上げって、凄く重要だもんね。
レベル100程度の兵を揃えただけで調子に乗れるんだから、500もあればそこそこやれそうだし。
現時点で1000を超えてるから、本当に本気を出したら……
「スリランカはセイロンの名産地なんですけど標高が結構重要なんですよね。似たような環境の場所がこの世界にもあるのでしょうか? だとしたら一度、是非行ってみたいですね? そう思いませんか?」
「そうだねー」
「公爵家の力を使えば、行けるんじゃないですか?」
「そうかもねー」
「紅茶を飲んでる時だけは、あっちに居る時と変わらないような気持で過ごせるんです。エルザ様もですよね?」
「どうかなー」
凄い喋るじゃん、この子。
というか、よく考えればこういう子だった。
妙に押しが強いと言うか。
ダリウスに、グイグイいってたのを思い出してきた。
それも、なかなかに手強いポジティブさを発揮して。
「茶器にも色々と……あっ! ボーンチャイナ! あった! まだ、誰もやってない内政チート! そうでした! ボーンチャイナだったらいけるかも」
「へぇ、骨中国? なんか凄そうだね、中国の武器か何かかな?」
「食器ですよ。それと、中国じゃなくてロンドンで発明された磁器です」
「なんで、チャイナ?」
「当時は、磁器といえばチャイナだからです」
よく分からないけど、なんか良いものなのだろうきっと。
ボーンの意味が分からないけど。
「作り方は分かるの?」
「材料は分かりますけど……」
「じゃあ、委託しないといけないんだ。私のとこの研究者使う? 利益は8対2で」
「えっ……それは、ちょっと酷くないですか?」
「ええ? じゃあ、9対1?」
「なんで、もっと条件が悪くなるんですか!」
「ん?」
「ん?」
いや、もしかして私が取り分8って思われた?
私って、そんなにあくどく思われてるの?
なんか、かなりショックなんだけど。
「いや、そっちが8割で、こっちが2割だったんだけど?」
「はあ? 私は情報を出すだけで、研究から製造までエルザさんがやられるのに? それは貰いすぎですし、だったらもう5対5で良いですよ」
「いや、別にいいよ。私はお金なら腐るほどあるし」
「……やばいレベルのブルジョワが居る。私も言ってみたい」
事実だからしょうがない。
「嘘でしょう!」
「本当だと思うがな……まあ、主神のやつに直接聞いたのだが、信用は出来んな。一応、神であるから心を読むこともできぬし。やろうと思えば出来るが、確たる証拠も無くやるわけにはいかんのだ」
えっ?
なんか、向こうで気になる展開を迎えてるっぽいんだけど。
「お茶の方面から攻めれば、私でもお金を集める方法が見つかるかも」
「あっ、うん……頑張って」
もう、あれだ。
解散したあとで、ゆっくりとサガラさんに聞こう。
こうなったら、全力でポーラと話をすることにしよう。
383
お気に入りに追加
2,334
あなたにおすすめの小説
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる