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第三章:王都学園編~初年度後期~

第12話:転生者会議

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 ミッシェルとポーラを呼んでの、お茶会の日。
 私は彼女たちを、まず庭に呼んだ。

「こんなところで、何をするつもり?」
「えっと……外で、お茶ですか? 会話が、丸聞こえでは?」

 二人が訝し気にしているけど、私は特に気にしない。 
 きっと、二人にとっても手助けになると思うし。
 うん、場所を変えるだけのつもりだから。

「ん? 知り合いのところに移動しようと思って」
「通りじゃなくて、庭から移動? どうするつもり?」
「そろそろ、迎えが来ると思うよ」

 私の言葉に、二人が首を傾げている。
 理解が追い付かないのかな?

「大丈夫、サガラさんていって、私たちと同じようなものだから」
「相良? まさか、転生じゃなくて転移者? もしくは召喚者?」
「呼ばれたって言ってたから、後者かな? あっ、来た」

 私が二人に向かってそれだけ言うと、すぐに足元に魔法陣が現れる。
 この世界の魔法陣と違って、東洋っぽい。
 中心に太陰太極図が現れ、周囲に四角を基調とした幾何学模様が立ち上がる。
 東西南北の文字が記され、梵字のようなものまで刻まれていく。

「サンスクリット語に漢字にと、忙しい魔法陣ね。てか、なにこの馬鹿げたオーラは。魔力とも違うみたいだし」
「うーん、いろんな国にいた人? だからかなぁ? あと魔法じゃなくて、神通力の類って言ってたよ」
「はっ? 神通力?」

 ミッシェルの言葉の途中で魔法陣が輝き始める。
 すぐに眩い赤い光が立ち上がり私たちを包みこむと、見慣れた景色が現れる。
 いつもの倉庫だ。
 そして、いつものサガラさんが横になっている。
 片目だけあけると、こっちに視線を向けて鼻で笑う。

「よくもまあ、揃いも揃ったものだな」

 サガラさんは満足そうにしているけど、ミッシェルとポーラが固まってる。
 大丈夫かな?
 初対面だと、確かにびっくりするよね?
 でも、良い人だよ。

「だっ、騙したの? こ……こんな、強力な竜が居る場所に連れてくるなんて」
「ひゃああああああ!」

 ひゃああああ! ってポーラさん、なんて叫び声だよ。
 まるで、村人Aみたいだ。

 それよりも、ミッシェルさんが凄い勢いで距離を取って、鞄からハルバートのようなものを取り出していた。
 刃の中心には魔石のようなものまで埋め込まれている。
 安定のマジックバックですか。
 凄い物騒なものが出てきた。

「貴方だって転移ができるくせに、こんな回りくどいことまでして何が目的なの? もしかして、私たちを殺そうと」
「うそでしょ? エルザ様のこと信じてたのに」
「ええ? 友達を紹介するだけだよ! あと、彼に覚えてもらっておいた方が後々、悪いようにはならないだろうし」

 何故、今回私の転移魔法で移動しなかったかというと。
 この倉庫には結界が張ってあって、サガラさんが許可した人しか入れないからだ。
 だから二人を連れて来ても、途中で弾かれて落っこちてしまう。
 転移魔法の失敗は、時として取り返しのつかない事態になることもあるし。
 地中に頭からはまったり、壁にはまったり。
 空間を繋いで転移する魔法だと、あまり起き得ない事故だけどね。
 座標指定で跳ぶタイプだと、そういったこともあるらしい。

「それじゃあ、改めて紹介するね。私の友達のサガラさん」
「ふむ、先に紹介しよう。我が名は沙掲羅だ。この世界に呼ばれて、色々と手伝っておる。エルザとは長い付き合いだな……人にとってはだが」
「サガラ……サカラ……竜……サーガラ……竜王サーガラ! 八大竜王! エルザ、あんた! この方が誰かが知らないの?」
「えっ? サガラさんだよ」

 さっきから、何度も名前を教えているのに。
 ミッシェルさんって、意外と人の話を聞かないタイプなのかな?

「どなたですか? 二人ともご存知の方みたいですけど」
「竜宮の王よ! 乙姫様の御父君ごふくんと言えば伝わる?」
「ほえー……乙姫様ってあの?」
「どの?」
「浦島太郎の?」
「そうよ!」

 ポーラとミッシェルの間で勝手に話が進んで行ってるけど、そうだったのか。
 サガラさん、本当は凄い竜だったんだね。
 知ってた……私やおじいさまよりは強いってことは。

 しかし、二人ともキャラが崩れ過ぎではないだろうか?
 とくに、ポーラ。
 凄く、間抜けに見える。
 でも、実年齢を聞いたらさもありなんって感じだもんね。

「そろそろ、良いか? 今回の話の趣旨は、何にも聞いておらんが……」
「はっ?」

 あっ、凄い顔でミッシェルさんに睨まれてしまった。
 でも以前と違って、距離感が近くなったというか。
 こちらを拒絶するように睨んできた時とは、かなり印象が違う。
 
「今日はお茶を飲みながら、色々と情報交換をしようと思って」
「なるほど……であれば、我も少しは役に立つか」

 サガラさんが奥に視線を向けると、ティーポットがひとりでに飛んできた。
 それから自分で水の魔法を使って中を満たすと、今度は火の魔法で水を温め始める。
 凄いなぁ。
 便利なポットがあるもんだ。

「これを作ったのは、お前だろう……魔法瓶の代わりに、時間を停止させるポットを作ろうとして失敗したと聞いたぞ?」

 そうだった……これ、魔力を込めすぎて変質して魔物化したポットだ。
 どっちかっていうと精霊や、もしくは魔法のファンタジー映画に出てきそうな小道具みたいだけど。

 お湯が沸くくらいのタイミングで、茶葉が列を作って行進しながらやってきた。
 うん、これでも私の魔法の失敗作だ。
 ポットがひとりでに蓋を開けると、茶葉たちが空に飛びあがる。
 そして、巻き起こる風の魔法。
 
「あっ」
「えっ?」

 うん、かまいたちというか、ウィンドカッターだね。
 自分たちが切り刻まれてるけど、木の葉乱舞とかって言いたくなる光景だ。
 ミッシェルとポーラが口を押えて、引いたような表情をしているけど。
 そして細かくなった茶葉が、まるで意思をもったかのようにポットの中に落ちていく。

「私たち、あれを飲まないといけないのですか?」
「えっと……遠慮したいかな?」

 二人が嫌そうにしているけど、その言葉を聞いたティーポットが臍を曲げて拗ねてしまった。
 うん、注ぎ口が横にぐにゃって曲がってて、拗ねてるのがあからさまだ。
 
 さらにちょと離れたところから、食器の割れる音が。
 見ると、こちらに向かっていたであろうティーカップとソーサが、床に落ちていって割れていた。

「あーあ、可哀そう。お茶差別するから」
「はあ? 私が、悪いの? あんな、気色悪いもの飲めるわけ「ミッシェルさん!」」

 追い打ちをかけるなんて、酷いよね。
 ティーポットがゆでだこみたいに真っ赤になってる。
 きっと、腸がグツグツと煮えくり返る思いだろうね。
 中身は、お湯だけど。

「安心するといい。茶葉自体は、上等なアッサムだ。ミルクと砂糖を入れて飲むと、美味しいぞ」
「あっ……はい」

 サガラさんに言われたら引き下がるしかないのか、ミッシェルさんが頬を引き攣らせながら黙ってしまった。
 ポーラが助けを求めるようにミッシェルの方を見ているけど、ミッシェルは目を合わせようとしない。
 一蓮托生。
 死なばもろともって覚悟なのかもしれないけど、本当に普通に普通のお茶が出来上がるんだけどね。

「百聞は一見に如かず。試してみることだな」

 サガラさんが顎をしゃくると、渋々ティーポットがお茶を注ぎ始める。
 中のお茶まで渋くなってないといいけど。

 そして注がれたのは、割れたはずのティーカップ。
 今は元通りになってるから、問題ないけど。
 サガラさんがふざけすぎだと軽く睨んだら、慌てて自分たちに回復魔法掛けてたもんね。
 てか、回復魔法で治るんだ。
 割れたのって。
 ショックで心が砕け散ったのを表現しただけって?
 ガラスの心臓?
 いや、陶器の心臓だとは思うけどさ。
 立ち直りが早いから、粘土みたいなものかな?

 それから、三人と一柱で美味しくお茶を頂く。
 見るとポットの口から、まるで風呂からあがるように茶葉が固まって出て来ていた。
 集合して引っ付いて、身体を作ったのか。
 そして、風魔法で自分の身体を乾燥させると、また回復魔法でそれぞれが一枚の葉っぱに戻ってた。
 うーん……複雑。

「なんか、魔法の学校の映画に出そうな場所ですね」
「そう? 私は鏡の国の方をイメージしたけど」

 二人が遠い目をしながらお茶をすするの見て、笑顔で応えておく。
 この倉庫には、私の失敗作がたくさんいるからね。
 森から、こっちに移動した子たちが。
 といっても、森にいる子たちの一部だけど。
 どれだけ、時空魔法の習得に失敗したんだって話だけど。
 それだけ、時間停止の魔法は難しいんだよ。

「サガラ様は、この世界のこと詳しいのですか?」
「まあ、ここの神が生まれた時から知っておるからのう。分体としてわしが送り込まれ、この世界の成り立ちと共に過ごしたからな」
「はぁ……本当に、凄い神様なのですね」

 ポーラが感心しているけど、たしかに人格者ではあると思うよ。 
 優しいし。
 大きいし。
 夏場はひんやりしてて、気持ちいいし。

「まあ、その方ら二人は望んで来たようなものじゃから、そこまで気に掛けるつもりはないが。知り合った以上、助けを求められれば多少は応えよう」
「えーっと、別に私は転生したいなんて望んでないですよ?」

 サガラさんの言葉にミッシェルが不思議そうにしている。
 その横で、ポーラは首を傾げているが。
 思い当たる節はあるのか、頷いて……また首を傾げて、ミッシェルの方を見ていた。

「はぁ……現実から逃げ出したいとずっと願い続けて、ゲームの世界に逃げ込んで没頭しておったくせに。あげく、仕事との両立が出来ずに過労死したのは、その方だろう。最後にスマホなる薄い板でやっていたゲームが、この世界ではないか。そして、何者にもとらわれず自由に研究がしたいだのなんだの……何よりも、文明が未発達な国で研究を重ねて、内政チートで周囲からちやほや、財産ガッポガッポ「ごめんなさい……心当たりがありすぎました」」
 
 なんて、欲望駄々洩れだったんだろう。
 それで、本当に転生まで果たすなんて。
 よほどの、執念だな。

「私は良いです。ただたんに、貴族の恋愛に憧れてただけなので。悪役令嬢ものだとか、聖女ものが大好きだったし」
「主人公になることは、望まなかったみたいだがな」
「はい、私のことは良いですよね?」
「ふむ……どうせ、主人公は一人しか選べないし、メインは王子さまだから……手ごろな優良物件を狙うなら「すみません。王妃とか大変そうだから嫌なんです。でも、ゲームの攻略対象みたいな、ロマンチックで優しくて経済力のある彼氏は欲しかったです」」
 
 どっちも、欲深いな。
 そして、興味深くもある。

「というか、サガラ様の話をお伺いするに。エルザは違うのですか?」
「まさかの、巻き込まれ召喚?」

 おおう、私に矛先が。
 ……うん、確かに。
 なんで、私はここに居るんだろう?
 サガラさんの話だと、願望の力が左右するっぽいんだけど?

「まあ、召喚ではないがある意味では巻き込まれたともいえるか……」

 そういって、こっちをジッと見つめるサガラさんの瞳の奥が、どこか不憫なものを見るように不安定に揺れているように感じた。
 えっと……結構、楽しんでるからそんな目を向けられるのは、不本意なんだけど?

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