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第一章:お嬢様爆誕

閑話5:悪党達の狂乱

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「金と荷物を置いて行ったら、命だけは助けてやろう」

 陳腐なセリフだが、要求は単刀直入に。
 仕事は手早く片付け、そして撤収までが仕事だからな。

 俺の名前は、フリーガン。
 この小鬼盗賊団の頭領だ。
 メンバーは、戦闘要員が20人。
 ねぐらには、生活補助要員が15人いる。
 そして、被保護者も8人。
 かなりの大所帯だ。
 ここらへんだと、最大規模じゃないかな……荷物がだいぶいるが。

 勿論、女もいる……が、そんな酷い扱いはしてねぇ。
 補充が大変だからな。
 使い潰したり、使い捨てたりできるもんじゃねぇし。

 嘘だ……いや、扱いに関してじゃない。
 この盗賊団の団内だと、やや女性共の方が立場が強い。
 無論、連れてきたばかりの頃は、打ちひしがれて泣いたり錯乱したりと大変なんだがな。
 諦めて、慣れてくると……

 分かってる……悪いのは俺だ。
 俺がカカアに頭が上がらないから。
 そして、団員たちもカカアのことを、ビッグマムと呼んで従順な態度を示している。
 うん、俺よりもカカアの命令を優先するのはどうかと思うが、カカアに睨まれたら俺も何も言えないからな。
 部下を責めることはできん。

 そして、連れて来られた女どもは、全員が俺の嫁の派閥に入る……誰も、手が出せるわけがない。

 だからまあ、ポジション的には家事手伝い。
 団内は自由恋愛だから、そっちの方は各自の判断に任せている。
 純愛ならば、カカアも文句は言わない。
 ただ、一言……

「泣かしたら、一生使えなくしてやるからね!」

 と、股間を見ながら、言うだけ……
 うん、女性優位になるのは、当然だな。
 仕方ない。

 それと女を攫う時は、慎重にだ。
 下手な女に手を出したら、こっちが潰されちまうからな。
 関係者か……当人に。

 ちなみに生活要員の中には、色々なやつがいる。
 怪我をして、村から追い出されたやつ。
 年老いて、村から追い出されたやつ。
 そいつらを養っていくには、やっぱりこうやってあるところから奪うのが一番なんだよな。
 野菜とかは……年寄り連中が育ててくれてたりもするが。

 だから、行商人や旅人を襲っている。
 殺しは最終手段だ。
 それをやっちまうと、官吏や領主様が本気を出しちまうからな。
 許容できる被害で、運が悪かったで済む程度が一番だ。

 たまに、全力で反撃してくる奴らもいる。
 後がないやつらと、ちょっと齧った程度のくせにいきがった連中。
 
 そう、兵士見習いや新米冒険者。

 ある程度の経験を積んだ連中は大丈夫だ。
 
 奴らが素直に従えば、仕事はすぐに終わる。
 奴らが剣を握れば、俺たちはすぐに逃げる。
 プロ連中が剣を握るってことは、自信があるってことだからな。
 間違えることは、ほぼ無いだろうし。
 
 後がない場合は……死兵と化した連中は、こっちに甚大な被害を与えてくる。
 まあ、本当に数人だから、投擲武具で無力化すれば終わるが。


 目の前の行商人は、どっちだろうな?
 護衛の冒険者達が、顔を見合わせている。
 勝てるかどうかの算段か?
 検討するってことは、新米じゃない。
 そりゃそうだ……大事な荷物をペーペーに任せるのは、金をけちるような連中だけだ。
 目の前の荷馬車はかなり立派だし、金は持ってそうだ。
 護衛が三人だから、いけると思ったが。
 少し、嫌な予感がする。

 どうも、俺たちと似たような匂いがする……
 もしかして、同業者お仲間か?
 護衛を受けたフリをして、森で商人と御者を亡き者にして荷物を奪うパターン。
 冒険者証は盗品か?
 それとも、ギルド内部に内通者がいるパターン。
 どっちにしろ、俺たちより悪い連中だな。
 俺たちより強いとは言わんが。
 
 それから、連中が笛を吹く。
 ……ヤバイ!

 こいつら、森に仲間を潜ませてるパターンだ!
 行商人を確実に処分するためか、はたまた本当に盗賊に襲われた形にするためか。
 であれば、敢えて目撃者のいる場で襲わせて証言させれば、本当に冒険者ギルドに登録してても問題ない。
 何度も襲われたら怪しいから、他にも数組ギルドに潜り込ませてる可能性も。
 てことは、相当でかい集団だ!
 うちとは規模が違う、50人規模以上の大盗賊団の可能性が……高い!

 しかも、今回は俺たちの死体を使えば、ある程度は抵抗したともギルドに報告できる。
 だからなんとでも、言い訳が……えっ?

 気が付けば、冒険者達に囲まれていた。

「お前は、どこの団だ?」
「あー……えっと、やっぱり同業か?」
「元……な」

 元?
 ということは、足を洗ったということか?
 足を洗った先が冒険者?

 あんまり俺たちと変わらない、やくざな商売だと思うが。
 足枷が無くなったのか?
 部下がいなくなったとか、街で働けないなんらかの制約が取れたとか。

「俺たちはな、みんなお嬢に救われたんだ。いまじゃ、ほとんどの連中がまっとうな稼ぎを手にしてる」

 唐突に何を……

「お前も、こっちに来ないか?」
「はん、馬鹿なことを! そう言って無傷で捉えて、少しでも高く売ろうってのか?」

 未遂とはいえ、余罪はある。
 どうせ、犯罪奴隷として重労働をさせられるくらいなら、少しでも助かる可能性に掛けるしかねぇだろう。
 ねぐらで待ってる連中のためにも。

 
「抵抗しても無駄だぞ? お嬢が冒険者ギルドに依頼を出したからな」
「ああん?」
「悪い奴らを積極採用するから、片っ端から捕まえてくれってな」

 意味が分からない。
 あれか?

 そのお嬢ってのはゴッドマザーか何かか?
 マジもんの、悪の反社会組織を作ろうとしてるってのか?

 だったら、俺たちもワンチャン……

「何か勘違いしているようだが、お嬢はここの領主の孫娘さんだからな?」
「え? えっと……」
「レオハート公爵の孫ってことだ」

 レオハート?
 あちゃぁ……最近、ねぐらを変えたんだが、まさかのレオハート領に入ってたのか。
 いや、ねぐらの場所は、アーチ伯爵領だったはずだ。
 てことは、森の街道沿いに来た途中で、領地が変わったってことか?
 関所なんか見当たらなかったが。

「噂くらいは知ってそうだな」
「まあな。出鱈目に強い領主様と、その姫の話はな。そして、同じように化物じみた騎士団の話もな」
「そういうことだ。俺たちが相手をしているってのは、まだ穏便に済まそうってわけさ」

 思わず身震いした。
 冒険者相手だからまだいいが、これが正規兵相手だったらと思うと……

 そして、気が付いたらレオハートの騎士団に入っていた。
 
 ねぐらにいた連中も、全員召し抱えてもらった。
 と言ったら、語弊があるな。
 就職先を世話してもらった。
 怪我をした連中は、それでも働ける場所があった。
 腕が一本しかなかったり、目が潰れてたやつらでも。

 ……一年間頑張って真面目に仕事したら、腕が生えたり、目玉が生えたりしてたが。

 お嬢が魔法で治したと……

 うちの団に居た連中は、お嬢に忠誠を誓って命を捧げている。
 いや、もはや崇拝しているってレベルか?
 狂信者のようにも見えるくらいには。

 ちなみに、お嬢に直接スカウトされた奴が、いまこの騎士団の指導員を務めている。
 団長じゃなくて、教官だ。

 教官の話を聞いたが、元同類の冒険者が相手で本当に良かったと思った。
 うん、本当にね……
 ちなみに、聞くだけであちらこちらが痛くなりそうな話を、キラキラした目で満面の笑みを浮かべながら語ってくるんだ。
 うん、語ってくるといよりも、自慢してくるんだ。
 いかにヤベー話かってのが、これだけで伝わると思う。

 その教官だが……お嬢が直属に鍛えた騎士の一人だけあって、出鱈目に強い。
 その出鱈目に強い奴が、出鱈目に強いって紹介してくれたのがこの屋敷の執事とメイド長だ。
 そして、その二人が出鱈目に強いって自慢しているのが、領主様とエルザ様だ。
 はは……頂が見えない。

 そんなわけだから、みんな必死だ。
 先人に追いつくために。
 だから訓練も真面目にやる。

 あとは、盗賊の掟を守っていたこともよかった。
 殺しは最終手段。
 だから、手が汚れているやつが少なかった。
 俺も殺しはやったことがあるが、相手が全力で抵抗をしてきたからな。
 殺らなきゃ、殺られてた。
 俺が言うのもおかしいが、馬鹿なやつだった。
 抵抗しなければ、怪我することなく帰れたのに。

 現に、そいつが護衛していた行商人も、無抵抗だった。
 そいつの仲間も。
 そいつだけが、何故か勝手に暴走……そいつの仲間に聞いたら、家族を野盗に殺されたやつだった。
 しかも降伏して、無抵抗だったにも関わらず。
 やりきれんと思ったよ。
 最初に悪い奴に当たったのが不運だな。

 知ってたら、生かしておいたか……いや、手加減できるような相手じゃなかったから、仕方ない。
 本来は装備品も一部徴収するのだが、その時はそいつの持ち物は身体ごと渡してやった。
 連れて帰れるように、馬にも馬車にも手は出さなかったよ。
 適当に運べるだけの荷物だけを貰ったが。

 そういう事情だったからか、お嬢はかなり悩んだが許してくれた。
 野盗撲滅キャンペーンを真剣にやることと、これからは人を救い続けることを条件に。
 そして、お嬢のお抱えの騎士団に入れられた。

 ……えっ?
 そんな好待遇で良いのですか?

 思わずそう言って周囲を見たら、凄く可哀そうなものを見る目で見られていた。
 嫌な予感しかしない……

 ああ、社会復帰の一環で、矯正施設みたいなもの?

 そう説明されたが……意味が分からなかった。
 入ったら、意味が分かった。

 お嬢様が直接指導するグループらしい。
 訓練のこと以外考えられないような、拷問に近い特訓の日々。
 寝る間も惜しんでの。
 身体? 回復魔法で治してもらえるよ。
 眠気ごと……
 脳が焼き切れるような思いで、座学を受けさせられる。
 これが唯一の、身体を休める時間だ。
 内容は一般教養から、専門知識まで幅広く。
 ほぼ、24時間体制で、訓練と勉強をさせられる。
 
 なんでも見ごたえのあるやつと、情状酌量の余地のない殺しをやったやつが送り込まれるらしい。
 かなり悩んで許されなかったのか……だから、許すためにここに送り込まれたと。

 周囲を見渡す。
 そしてなるほど……悪いやつらばかりが、揃っている。
 ただ俺と違ってきちんと筋の通った悪いやつらが、結構いるな。
 仁義とか言っちゃいそうな連中。

 あれ?

「せ……隻眼のガルガンチュアさんですよね?」
「その名は当に捨てたよ。お嬢に、目を治してもらった時にね」

 国内でもトップクラスの盗賊団の頭領が、小隊長だった。
 意外と一般人からも人気がある盗賊団。
 
 悪い噂の絶えない領主邸を襲い、財産を奪う集団。
 そして、その奪った金を他の領地でばらまいてたとか、なんとか。
 実際は、大盤振る舞いで遊び回ってただけらしいが。

 気前が良いから、すれ違っただけの孤児にも食い物や金を渡してたらしいし。

 金をバラまく際に他の領地に移動するのは逃げるためじゃないらしい。
 そこで使ったら、領主が取り返そうと無茶を言うだろうと考えてのことらしい。
 本当だろうか?

 なんか、捕まったときのための事前の言い訳や、イメージ戦略のように思えなくもない。
 確かに俺たちだって捕まった時に少しでも減刑されるように、多少は善行も積んできたからな。
 打算込みで。
 子供を連れた行商人相手には、多めに物資を残してやったりとか……
 数件に一件はこっちに余裕があって相手が訳ありな奴なら。特別感を出して見逃してやったりとか……

 根っからの救いようのない悪党は……お嬢の性格からして、無理矢理矯正されるか……有効活用されているのだろう。

 現に愉快犯的な猟奇殺人鬼とかは……死にたくなるような目に合ってるらしい。
 ということは、殺されてないってことか。
 しかもきっちりと生産的な活動を行わされながらの、苦行の日々だとか。
 甘いのか、厳しいのか。

「死ななければ、治せる人材がいるからねぇ……」

 ガルガンチュアさんの話を聞いて、思わず身震いした。
 なるほど、死と隣り合わせどころか、怪我前提の職場に送り込まれるのか……

「殺した数の倍だけ、瀕死の重傷を負うような仕事をやらされるらしい……」

 坑道のカナリアのようなことまで……全然甘くねぇ!
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