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第三章:王都学園編~初年度後期~

第7話:光明

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 私はいま、王城でダリウスとお茶を飲んでいる。
 このあとリチャード陛下と、ミレニア王妃との謁見が控えているからだ。
 といっても、今回は呼び出しじゃない。
 こちらから、お願いをした次第。
 だから、しばらく掛かるかなと思っていた。

 具体的には、ダリウスに打診して一週間は掛かるかなと。
 休日の闇の日に、呼び出しになるかもと思っていた。

 実際には、火の日にお願いをして翌日……水の日には、もう呼び出された。
 
 今回の目的は、陳情かな?
 やっぱり、ジェシカをどうにかしてあげたいという思いが残ってたからね。
 別にそんなに親しいわけでもなければ、迷惑を掛けられた側なんだけど。
 実際には、何も被害が出ていないわけだし。
 むしろ魔物が間引けて、しばらくは森が安全になったまである。
 確かに重罪ではあるけどね。

 レイチェルの姉のミッシェルさんと、少しだけ距離が近くなったおかげで妙案が浮かびあがったのだ。
 後日また会う約束をしたけど、その日の夕方に会ったのだ。
 ミッシェルさんにだけ。
 呼び出された形だけど、公爵家令嬢をお気楽に呼びつけるなんて。
 凄いと思うよ。
 ズールアーク子爵が胃を痛そうに押さえながら、出迎え対応してくれたよ。
 呼びだした本人は、部屋から顔だけ出して手招きしてた。

「あっ、来たの? ちょっと、こっち来て」

 って、本当に気楽な感じで。
 子爵の顔色が凄いことになっていたよ。

 話の主題は、ポーラのことだった。
 彼女に関して、無条件で信用していいのかという。
 私は問題ないと思うけど、ミッシェルさんは違うようだ。

「いや、あの子……迂闊だし、ちょっとおつむが弱そうじゃん? それと、ムキになったら周りが見えてないみたいだし。彼女に渡す情報は、精査した方がいいと思うっすよ。パイセン!」

 ぐぬぬ……ちょっと年下って分かったからって、そんなに露骨に態度に出さなくても。
 それに、こっちでの年齢を合わせたらそっちのが年上だし。

「いやあ、私って記憶が生えたの3歳だし。そっちは0歳からでしょ? まあ実際には1歳私の方が精神年齢上にならないといけないと思うでしょ? 違うっすよー!」

 くっ、少しこちらを小ばかにした様子で指を振りながら、チッチッチと言われてしまった。

「3歳から6歳の三年間の精神的な成長と、27歳から29歳への精神的な成長が一緒なわけないでしょう。大人の三年は実務的な経験が殆どを占めるんだから、幼少期の3年が増えたくらいじゃ精神年齢の差は縮まらないと思うっすよ」
「その喋り方、やめい!」

 思わず、後輩っぽいしゃべりかたにイラっとして突っ込んでしまった。
 にやにやとした笑みを浮かべているけど、頬っぺたをつねってやりたい。
 というか。以前と印象が違いすぎてどう扱ったらいいものか。

「まあ、冗談はさておき。エルザと彼女を見て分かったけど、この世界には他にも転生者がいると考えて行動した方が良い。そして、その転生者同士がすでに手を組んでいる可能性もある」
「へぇ……そんなことって、ある?」
「そうねぇ……クロスオーバー的な要素が多分に含まれてそうな印象は受けたわよ。私とエルザとポーラに一貫性がないところを含めて。で、もしポーラが他の転生者と先に接触済みで、いろいろと良からぬことを考えていたら」
「良からぬこと?」
「まあ、転生者同士で利害が一致したものが手を組んで、自分たちの理想の世界の邪魔になる障害を排除するように動いてたらってことね」

 なるほど……なるほど?

「この場合の障害ってのは、他の転生者よ。正直、知識量によってはアドバンテージを取られることもあるだろうし……彼女が怪しいと思ったのは、私たちの話を聞いてすぐに接触してきたところね。最初から私とエルザにヤマを張って、見張っていた可能性があるわ」
「んな、馬鹿な。彼女、どう見ても頭悪そうじゃん」
「貴女には、言われたくないでしょうね」

 なんて、失礼な。
 これでも、満点で学年トップだぞ!

 というか考えすぎじゃないかな?
 石橋を叩いたうえで、先に他の人に渡らせるタイプだな。
 で、自分は渡らないタイプと見た。

「まあ、だから最初はある程度様子を見て、情報は小出しにした方がいいわね。もちろん、エルザも信用したわけじゃないから、私もあなたに全部を伝える気はないし」
「なんで?」
「と思ったけど、ここで話してて疑念は晴れたからポーラの居ない日でも、一度話し合う日を用意しよう」

 いや、いまここで良いんじゃないかな?
 といっても、結構遅い時間になってきたし。
 うん、子供が出歩いて良い時間じゃないってことか。
 くぅ、明日が休みならお泊りだってできたかもしれない。

 それから、合宿での話になった時に彼女が呆れたように言ってきたのだ。

「それで、スタンピードの脅威から教師と生徒を守り、近隣の町や村を守った貴女はどんな報酬をもらったのかな?」
「えっ? えっと……」
「学園側は隠したいようだけど、多くの貴族が知ってるんだから意味ないし。それに、それらは学園側の責任であってエルザには何の関りもないことじゃない? だったら、貴女は周囲の危険を一切の被害を出さずに除いた正当な報酬を求める権利があると思うんだけど?」

 そうか……言われてみたらそうだ。
 あまりにも簡単に対処できることすぎて、これがそんなに大した手柄だと思ってなかった。
 あと、子供たちの賞賛と羨望いうご褒美をすでに貰ったから、満足してしまっていた。

「これを引き合いに出せばジェシカを「馬鹿なの? そんなことしたら、貴女がジェシカを利用して自身の名声をあげようとしたと思われる可能性もあるけど?」」
 
 むぅ……確かに。
 言われてみたら、マッチポンプのありがちな手段の一つじゃん。

「他にも、いろんな生徒が彼女の退学の事情を知ってるのに、そんな状況で復学なんて修道院送りよりも酷い罰だと思うけど」
「そこは、私が全力で守れば」
「そこまでの、価値ある?」
「可愛いは、正義!」

 私の回答に、ミッシェルが盛大に溜息を吐いていた。
 いや、でも間違ったことは言ってない。

「権力は何のためにあると思う?」
「はぁ?」
「使うためにあるのだよ」
「公爵家でも司法に従う義務はあるわよ? あと、陛下の裁定を覆す権力は無いわよ?」

 むぅ……じゃあ、どうしろと。
 普通の報酬とか、あまりいらないよね?
 お金とかもらっても、現時点で使いきれないくらい稼いでるし。
 ダリウスに嫁いだら、夫婦の共有財産になるだろうし。

「ならないわよ! ちゃんと王妃にも予算という名の年金が支給されるし。前世でも、結婚前の資産は夫婦の共有財産に含まないってきちんと法に記してあるし」
「えっ? でも、うちのお母さん、お父さんの独身時代の貯金勝手に全部使ったらしいよ」
「なんて、悪妻」
「なんか、私が高校の時にお母さんがお父さんにおばあさんって言われて、一ヶ月くらい家出してた時期があってさ。聞いたらお父さんのお金でエステに通って、韓国でプチ整形して戻ってきたらしいよ」
「どうでも良い話をありがとう」

 しかし、お金はいらないなぁ。
 いや、いるけど。
 褒美で貰うほど、困ってないって意味で。

「とりあえず、ジェシカが不幸にならなければいいんでしょ? まあ、修道女になるのが不幸かどうかは分からないけど。エルザの家で、侍女にしたらいいんじゃない? そのくらいの我儘なら、話の持って行き方でどうにかなると思うけど」
「ええ? 同級生を侍女にするのって、なんか罪悪感が」
「表舞台への復帰は絶対に、無理だからね。ただ、公爵家の侍女だとステータスでしかないからねぇ……男爵家あたりの使用人が妥当なんだけど」

 確かに……うちの執事や使用人、侍女の大半が貴族出身者だし。
 喜んで仕えてくれてるし。
 罰という意味合いは、薄いか。

「ただ、エルザの侍女に収まれば、もし今後本当にダリウスと結婚した時には恩赦が与えられるでしょうね」
「それは、頑張って彼女を手に入れないと」

 というような話をして、今に至る。
 さて、陛下に対してどのように話をもっていくべきか?
 この話をしたとき、ダリウスはかなり不機嫌になってたっけ。
 なんで、私に害をなそうとした相手を助けるんだって。

 今更だよ……
 うちの領地を見てみ。
 犯罪者や野盗だった者たちだって、真面目に働いてるんだよ?
 犯罪をしないといけない理由を取り除いてやれば、大体の人が普通の人なんだ。

 そりゃ気が短いだとか、手が早いだとか、手癖が悪いとかのどうしようもない理由もあるけどさ。
 裏を返せば、余裕と自信が無いだけだ。
 そこさえ満たしてれば、多少は人に寛容になる。
 もしくは仕事以外する気力が湧かないくらいに、こき使うか。
 他にも蠱毒じみた方法とか、色々とあるけどね。
 
「悪いことをさせないようにするのも、統治者の務めですよ。犯罪を取り締まる前に、犯罪を起こさせないようにすることが大事なのです」
「ふぅ……私は、そういう理想論を語るエルザを好ましく思ってるよ。でも……流石に……も、ないか。現にレオハート領の治安は、相当に良いと聞いているし」

 私に何か言いかけたダリウスだけど、すぐに首を横に振ってしまった。
 さて、勝利条件はジェシカをゲットすることだ。
 妥協点で、私の知り合い……私の目の届く範囲に移動かな?

「しかし、なんでそんなにその子のために動けるんだ?」
「なんで? そんなこと考えたことも無いよ。ただ、反省してやり直す機会を与えたいだけ……そして、人並みの幸せな生活をおくってもらいたい」
「あれほどの、迷惑を掛けられたのに?」
「それがですね……あの程度のこと、本当になんとも無いんですよ。たかが、この辺りの弱い魔物がいくら群れたところで、息をするように対処できますし。子供の浅知恵程度で考えうる嫌がらせなんて、本当に可愛いものでしかないですし」
「しかし、なかなかに悪辣な計画だったと」
「男の子が一緒に寝ただけで、スキャンダルになるような年齢でもないですしね……」
「なるような身分だけどね」
「なったらなったで、私は自分で自分のことが分かっていれば問題ありません。一人でも、なんとでもなりますし」

 私の言葉に、ダリウスが嫌そうな顔をしていた。
 
「レオハート公とエルザが本気になれば、静観するよりほかないからなぁ……」

 そして、陛下に直談判した結果! 
 普通に、却下された。

 理由は、早すぎるとのこと。
 修道女になって一ヶ月も経ってないのに、反省したとしても周囲がそれを絶対に認めないってさ。
 くっ……正論過ぎる。

 まあ、陛下も王妃もジェシカは反省はともかく、間違いなく後悔はしているだろうってさ。
 その後悔した姿を見て、私が反省してると思ってもらっても困るって言われた。
 後悔にも色々とあって、自分の行いの不道徳さを嘆いているならともかく、失敗したことを後悔してるかもしれないのに早々に罪を軽くなんてできないってね。
 
 いちいちごもっともすぎるよ。
 将来の嫁の我がままとして受け入れてもらえないかと聞いたけど、将来の国母として厳しさを学ぶようにと返されてしまった。
 ぐぬぬ……手ごわい。

 私の夢が決まったよ。
 全てを許す、王妃になることだね!
 子供達限定だけど。
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