68 / 110
第三章:王都学園編~初年度後期~
第6話:エルザとミッシェルとポーラ
しおりを挟む
あっ、固まっちゃった。
私が作ったコーヒー豆屋さんというか、一風変わった食品店で出会ったレイチェルのお姉さん。
ミッシェルさんに転生者かどうか尋ねた瞬間、凄い勢いでこっちを見て目を見開いた。
いやもう、首がグキィッて鳴るんじゃないかって勢いで。
口も開いてるし。
絶世の美女が台無しだよね。
あっ、動いた。
口がゆっくりと閉じていく。
それから、笑ってるけど笑ってない感じの顔に。
なんか、焦っているような……
「オホホホ、何を言ってるのかしらねぇこの子は」
そう言って、腕を掴まれて奥の棚の後ろに連れていかれた。
積極的だなぁ。
「そういうのは、思ってても人前で口にするもんじゃないよ。おかしな子と思われるわよ」
あら、心配してくれてるのか。
頭が、残念な子じゃないかと。
「まあ、確かに当たってるけど……ということは、エルザ様も?」
あっさりと認めてくれてよかった。
確信をもって確かめたわけじゃなくて、もしかしてと思ってつい口から出ただけだ。
そして、棚の奥からこちらを覗く影が。
ミッシェルさんに転生してるか確認した時に、もう一人ほど反応した子が店内に居たんだよね。
私たちと同じくらいの子。
どこかで見たことがあるような気がするんだけど。
「まあ、そうですねぇ……やっぱり、日本人?」
「ピンポイントでそこを聞くのはどうかと思うけど……他の世界の可能性もあれば、欧米人や東南アジア系の可能性とかもあるじゃない……あってるけど」
あー……確かに。
日本語翻訳されてるから、スッとそう思えたけど。
ラッシーなんて店を作るくらいだから、おフランス人の可能性もあったか。
あってるんなら、良いか。
「うわぁ、嬉しい! 私以外にもいたんだぁ」
「声が大きい! 誰かに聞かれたらどうするの!」
つい声が弾んでしまった。
ミッシェルさんが慌てて、口を押えてきたけど。
「えっ? さっきから、そこに耳をそばだててる子がいるけど?」
「はっ? えっ? あっ……どうしたのかしら? 迷子かな?」
棚の陰から覗いていた子を指さすと、ミッシェルさんが表情を変えて声を掛け始めた。
「ふふ、お母さんを一緒に探してあげるから、ここで聞いたことは「私も、混ぜてください!」」
そそくさと追い払おうとしたミッシェルさんを真剣に見つめて、少女が頼み込んで来た。
茶髪でサラサラヘアの可愛らしい少女だけれども、なんか見たことがある……
「好奇心猫をも殺すって言うでしょ? 余計なことに、首を突っ込まない方が良いわよ」
怖いよ、ミッシェルさん。
ていうか、その言葉こっちの世界でも通じるのかな?
「イギリスの諺ですよね?」
「えっ?」
その少女の口からついて出た言葉に、ミッシェルさんが動きを止める。
それから、ギギギと音が鳴りそうなゆっくりとした動きで、首だけをこっちに向けてきた。
「私もなんです」
「はあ? そんなことってある? あるの? いや、あるからあるのか」
「ちょっと、何言ってるかわかんないっすね」
「いや、えええええ?」
ミッシェルは混乱している。
そう表現できるほどに美女が取り乱している姿は、珍しくてちょっと楽しいかも。
少女の方は、ややひいてる感じだけどね。
「てか、声でかいよ」
「あっ、ごめん」
私の突っ込みに、ミッシェルさんが正気に戻ってくれた。
良かった、良かった。
いや、良くない。
ミッシェルさんが転生者で日本人と分かって、さあこれからというところに三番目の自称転生者。
もしかして、このお店が転生者ホイホイなのかな?
「というか、誰?」
「えっ?」
まずは誰何してみたところ、今度は少女の方が固まってしまった。
そんなに驚くような質問だったかな?
「分からないの?」
「うん」
「うわぁ……」
少女の質問に素直に応えたら、無いわぁって顔された。
凄い変な顔だけど、見覚えがあるような無いような。
「本当に眼中に無かったんだ……それはそれで、なんというか。安心というか、屈辱というか……複雑ですね」
いや、良いから質問に答えてよ。
誰なのさ、あんたは。
「ポーラです。ほら、ポーラ・フォン・ピーキー!」
「ポーラ?」
「本当に分かんないの? 向こうは、かなりエルザのことを知ってる感じだけど? 薄情ね」
あっ、日本人同士って分かったからか、遠慮がない。
いや、最初から態度に遠慮は無かったけど。
違った意味で遠慮がない。
名前も、呼び捨てだし。
ポーラ……分からん。
ピーキーってのは、聞いたことがある。
どこで聞いたんだっけ?
「ほらっ、ダリウス殿下の! 王城の学生の舞踏会! ほらっ!」
「あー! あぁ? あれっ? あの時のピーキーさんとこのご令嬢は、髪の毛が青かったような」
「染髪ですよ! 学校が始まったのに、そのままなわけないでしょう!」
「なるほど!」
あのハイパーポジティブ青髪お嬢ちゃんか。
こんなところで会うとは。
というか、一人で来たのかな?
「で、誰なの?」
「えっ? ああ、ダリウス殿下に恋する乙女ですよ! 熱烈にアピって、ダンスに誘ってました」
「婚約者の前で? 凄い子ね……この世界を知ってる転生者なら、さもありなんか」
「違います! あれは、ダリウスが私を雑に扱うから、ついムキになって……最後は縁を繋ぐとか、恋仲になるとかじゃなく、なんとかして踊ってやるに目的も変わってまして……その、あの……すいませんでした」
そうだったのか。
別に、ダリウスと本気でどうこうなりたかったわけじゃないのか。
何もしてないのに振られたっぽいダリウスさん、南無~。
「それはそれで……でも、凄いね。感心するわ! 封建制度が色濃いこの世界で、貴族社会のトップに真っ向から喧嘩売るとか」
「色恋沙汰だけに?」
あっ、茶化したらミッシェルさんに黙って睨まれた。
というか、黙れって睨まれたのか?
まあ、確かにすげーやつが現れたって、心底感心したのは事実だし。
動機は思ったのと違ったけど。
「で、なんで盗み聞きなんて?」
あっ、転生者云々より、そっちが気になるんだ。
「そりゃ、気になりますよ! エルザさんが来たんだから! もし見つかって、舞踏会の時の報復をされたら怖いじゃないですか! 取り巻きも皆さん、揃ってる状態で! だから、見つからないようにかつ視界の中に入れておけるように、微妙な距離感で息を潜めてやり過ごそうとしてたら……気になる会話が聞こえて来て」
「なるほど……分かってるなら、なおさら凄いわね。普通なら、さっさと店から逃げ……あぁ」
ミッシェルさんが何かに気付いて、言葉を途中で止めていた。
その視線の先を、私も目で追う。
「あぁ……そんなにカゴいっぱいに物を入れてたら、置いて出るのも忍びなかったと」
「えぁ、まあ……はい。あの時は、変なテンションで突っ走りましたが。実は、こう見えて小心者なんです」
「の割には、よく話しかけてこれたわね」
ミッシェルさん、少し彼女に対して当たりが強くないですか?
何か、気に入らないことでもあるのかな?
「とりあえず、仕方ないから三人でまた日を改めてじっくり話しましょう」
「はい」
「ええ? いま、ここじゃダメなの?」
すっごく気になるのに、先延ばしにするなんてひどいよ。
せっかく会えた、他の転生者なのに。
他にも転生者がいたことに、びっくりだけど。
どういう基準で、選ばれてるんだろう?
「そんなにすぐ終わる話でもないでしょう。それに、エルザにはじっくりと聞きたいこともあるし。レイチェルのこととか、レイチェルのこととか、あとレイチェルのこととか」
「全部、レイチェルのことじゃん! 私も、ミッシェルに聞きたいことあるし。レイチェルのこととか、レイチェルのこととか、あとはレイチェルのこととかかな?」
家でのレイチェルの様子や、小さい時の話も聞けたらいいな。
けっこう、盛り上がる気がする。
やっぱり、ミッシェルさんはレイチェルが大好きなんだろう。
思いがすれ違ってるけど。
「いいけど、長くなるわよ?」
「奇遇ね。私も、長くなるよ」
これは、良い好敵手を見つけたかもしれない。
お互い見つめ合って、ニヤリと笑う。
「ここでも、また無視されてる……」
あっ、ピーキー令嬢がガチ凹みしてる。
しかし、いまここでレイチェルの昔話以上に大事なことなんてないし。
「ほら、ポーラも誘ってあげるから。レイチェルって本当に可愛いんだよ」
「違う……転生と前世について、話すんじゃなかったのですか?」
「はっ!」
「あっ!」
ピーキー令嬢に突っ込まれて、思い出した。
そうだった。
私たち転生者同士の情報交換を行うのが、先だった。
いや、後でもよくないかな?
商談とか交渉って、まずは他愛無い世間話から始めるもんだし。
「まあ、その話はおいおい」
「ええ? そっちがメインですよね」
ミッシェルの言葉に、ポーラが心底驚いた様子で突っ込んでいた。
うーん、どっちもメインかな?
「流石に、これ以上離れてたら他の子たちが心配するでしょう。今度、私から二人に招待状を送るから。外に音が漏れない部屋も、用意してあるわよ」
おお、ミッシェルさん頼りになる。
「そこで、私を亡き者にしたりしないですよね? 特に、エルザ様」
「ええ? するわけないじゃん。転生者かもしれないけど、私は可愛い子みんなの味方だよ」
「この国でも最高峰の美女二人に囲まれてて、そのうちの一人にそんなことを言われるとなんだかモヤっとしますけど……信じます」
やだなぁ、私がこの国でも指折りの美女だって?
知ってた。
でも、皆も同じくらい可愛いと思ってるんだけどね。
本当にもう少し幼い時は、私を含めてみんな天使ちゃんだったもんね。
「それよりも、もし前世での死亡時の年齢を基準にしたら……見た目通りの年齢じゃないってことですよね?」
ポーラの突っ込みに、ついミッシェルと見合ってしまった。
そっか……見た目で、ミッシェルの方が年上だと思ってたけど。
そうじゃない可能性もあるのか。
なんなら、ポーラが一番年上だったり。
それから、少しだけ情報交換して別れることに。
「では、エルザさん、また招待させてもらいますね」
結果として、ミッシェルが自然に私に敬語を使うようになった。
「ポーラちゃんも、またね! 美味しいお菓子とお茶も、用意しとくよ! ジュースが良かったら、そっちでも良いよ! 炭酸飲料とか作れるし」
「た……楽しみにさせてもらいます」
そして、ポーラがミッシェルに子ども扱いされるようになった。
……まあ、身分や今の年齢を考えたら普通のやり取りに見えなくもないか。
いや、私も彼女には優しくしてあげたいと思ったよ。
ちょっと、若すぎるというか……涙無くしては、語れなさそうな事情がありそうだったし。
「学校でも声を掛けて良いよ! 皆には、上手いこと説明しとくから!」
「いや、それ無理です。もともと、男爵家と公爵家じゃ身分が違いすぎますし。あんな無礼を働いたうえに、馴れ馴れしく声を掛けるとか。調子に乗ってると思われて、干されちゃいます」
「そんなやつは、私が干しちゃうから大丈夫」
「物理的にというか、魔法でリアルにやりそうなんで遠慮します」
そしてポーラは私に対して、余計に遠慮するようになってしまった。
一番おばさんで、悪かったね!
ギリ二十代だったんだから、若いでしょ!
ミッシェルさんより、二つ上ってだけだけど……なんか、勝ち誇った顔をされた。
されたけど、私でさえ若くしてと思ったのに、それより若かったんだから勝ち誇ってる場合じゃないよね?
もう少し、悲観してもいいんじゃないかな?
「若くして死んだのは残念だけど、転生できたから人生勝ち組よ!」
あら、やだミッシェルさん男前……逞しすぎて、最初の印象と全然違うんですけど。
あっ、あとポーラさん、たくさんお買い上げありがとうございます。
ちょうど商会長来てるから、口を利いて目いっぱい割引させとくよ。
私が作ったコーヒー豆屋さんというか、一風変わった食品店で出会ったレイチェルのお姉さん。
ミッシェルさんに転生者かどうか尋ねた瞬間、凄い勢いでこっちを見て目を見開いた。
いやもう、首がグキィッて鳴るんじゃないかって勢いで。
口も開いてるし。
絶世の美女が台無しだよね。
あっ、動いた。
口がゆっくりと閉じていく。
それから、笑ってるけど笑ってない感じの顔に。
なんか、焦っているような……
「オホホホ、何を言ってるのかしらねぇこの子は」
そう言って、腕を掴まれて奥の棚の後ろに連れていかれた。
積極的だなぁ。
「そういうのは、思ってても人前で口にするもんじゃないよ。おかしな子と思われるわよ」
あら、心配してくれてるのか。
頭が、残念な子じゃないかと。
「まあ、確かに当たってるけど……ということは、エルザ様も?」
あっさりと認めてくれてよかった。
確信をもって確かめたわけじゃなくて、もしかしてと思ってつい口から出ただけだ。
そして、棚の奥からこちらを覗く影が。
ミッシェルさんに転生してるか確認した時に、もう一人ほど反応した子が店内に居たんだよね。
私たちと同じくらいの子。
どこかで見たことがあるような気がするんだけど。
「まあ、そうですねぇ……やっぱり、日本人?」
「ピンポイントでそこを聞くのはどうかと思うけど……他の世界の可能性もあれば、欧米人や東南アジア系の可能性とかもあるじゃない……あってるけど」
あー……確かに。
日本語翻訳されてるから、スッとそう思えたけど。
ラッシーなんて店を作るくらいだから、おフランス人の可能性もあったか。
あってるんなら、良いか。
「うわぁ、嬉しい! 私以外にもいたんだぁ」
「声が大きい! 誰かに聞かれたらどうするの!」
つい声が弾んでしまった。
ミッシェルさんが慌てて、口を押えてきたけど。
「えっ? さっきから、そこに耳をそばだててる子がいるけど?」
「はっ? えっ? あっ……どうしたのかしら? 迷子かな?」
棚の陰から覗いていた子を指さすと、ミッシェルさんが表情を変えて声を掛け始めた。
「ふふ、お母さんを一緒に探してあげるから、ここで聞いたことは「私も、混ぜてください!」」
そそくさと追い払おうとしたミッシェルさんを真剣に見つめて、少女が頼み込んで来た。
茶髪でサラサラヘアの可愛らしい少女だけれども、なんか見たことがある……
「好奇心猫をも殺すって言うでしょ? 余計なことに、首を突っ込まない方が良いわよ」
怖いよ、ミッシェルさん。
ていうか、その言葉こっちの世界でも通じるのかな?
「イギリスの諺ですよね?」
「えっ?」
その少女の口からついて出た言葉に、ミッシェルさんが動きを止める。
それから、ギギギと音が鳴りそうなゆっくりとした動きで、首だけをこっちに向けてきた。
「私もなんです」
「はあ? そんなことってある? あるの? いや、あるからあるのか」
「ちょっと、何言ってるかわかんないっすね」
「いや、えええええ?」
ミッシェルは混乱している。
そう表現できるほどに美女が取り乱している姿は、珍しくてちょっと楽しいかも。
少女の方は、ややひいてる感じだけどね。
「てか、声でかいよ」
「あっ、ごめん」
私の突っ込みに、ミッシェルさんが正気に戻ってくれた。
良かった、良かった。
いや、良くない。
ミッシェルさんが転生者で日本人と分かって、さあこれからというところに三番目の自称転生者。
もしかして、このお店が転生者ホイホイなのかな?
「というか、誰?」
「えっ?」
まずは誰何してみたところ、今度は少女の方が固まってしまった。
そんなに驚くような質問だったかな?
「分からないの?」
「うん」
「うわぁ……」
少女の質問に素直に応えたら、無いわぁって顔された。
凄い変な顔だけど、見覚えがあるような無いような。
「本当に眼中に無かったんだ……それはそれで、なんというか。安心というか、屈辱というか……複雑ですね」
いや、良いから質問に答えてよ。
誰なのさ、あんたは。
「ポーラです。ほら、ポーラ・フォン・ピーキー!」
「ポーラ?」
「本当に分かんないの? 向こうは、かなりエルザのことを知ってる感じだけど? 薄情ね」
あっ、日本人同士って分かったからか、遠慮がない。
いや、最初から態度に遠慮は無かったけど。
違った意味で遠慮がない。
名前も、呼び捨てだし。
ポーラ……分からん。
ピーキーってのは、聞いたことがある。
どこで聞いたんだっけ?
「ほらっ、ダリウス殿下の! 王城の学生の舞踏会! ほらっ!」
「あー! あぁ? あれっ? あの時のピーキーさんとこのご令嬢は、髪の毛が青かったような」
「染髪ですよ! 学校が始まったのに、そのままなわけないでしょう!」
「なるほど!」
あのハイパーポジティブ青髪お嬢ちゃんか。
こんなところで会うとは。
というか、一人で来たのかな?
「で、誰なの?」
「えっ? ああ、ダリウス殿下に恋する乙女ですよ! 熱烈にアピって、ダンスに誘ってました」
「婚約者の前で? 凄い子ね……この世界を知ってる転生者なら、さもありなんか」
「違います! あれは、ダリウスが私を雑に扱うから、ついムキになって……最後は縁を繋ぐとか、恋仲になるとかじゃなく、なんとかして踊ってやるに目的も変わってまして……その、あの……すいませんでした」
そうだったのか。
別に、ダリウスと本気でどうこうなりたかったわけじゃないのか。
何もしてないのに振られたっぽいダリウスさん、南無~。
「それはそれで……でも、凄いね。感心するわ! 封建制度が色濃いこの世界で、貴族社会のトップに真っ向から喧嘩売るとか」
「色恋沙汰だけに?」
あっ、茶化したらミッシェルさんに黙って睨まれた。
というか、黙れって睨まれたのか?
まあ、確かにすげーやつが現れたって、心底感心したのは事実だし。
動機は思ったのと違ったけど。
「で、なんで盗み聞きなんて?」
あっ、転生者云々より、そっちが気になるんだ。
「そりゃ、気になりますよ! エルザさんが来たんだから! もし見つかって、舞踏会の時の報復をされたら怖いじゃないですか! 取り巻きも皆さん、揃ってる状態で! だから、見つからないようにかつ視界の中に入れておけるように、微妙な距離感で息を潜めてやり過ごそうとしてたら……気になる会話が聞こえて来て」
「なるほど……分かってるなら、なおさら凄いわね。普通なら、さっさと店から逃げ……あぁ」
ミッシェルさんが何かに気付いて、言葉を途中で止めていた。
その視線の先を、私も目で追う。
「あぁ……そんなにカゴいっぱいに物を入れてたら、置いて出るのも忍びなかったと」
「えぁ、まあ……はい。あの時は、変なテンションで突っ走りましたが。実は、こう見えて小心者なんです」
「の割には、よく話しかけてこれたわね」
ミッシェルさん、少し彼女に対して当たりが強くないですか?
何か、気に入らないことでもあるのかな?
「とりあえず、仕方ないから三人でまた日を改めてじっくり話しましょう」
「はい」
「ええ? いま、ここじゃダメなの?」
すっごく気になるのに、先延ばしにするなんてひどいよ。
せっかく会えた、他の転生者なのに。
他にも転生者がいたことに、びっくりだけど。
どういう基準で、選ばれてるんだろう?
「そんなにすぐ終わる話でもないでしょう。それに、エルザにはじっくりと聞きたいこともあるし。レイチェルのこととか、レイチェルのこととか、あとレイチェルのこととか」
「全部、レイチェルのことじゃん! 私も、ミッシェルに聞きたいことあるし。レイチェルのこととか、レイチェルのこととか、あとはレイチェルのこととかかな?」
家でのレイチェルの様子や、小さい時の話も聞けたらいいな。
けっこう、盛り上がる気がする。
やっぱり、ミッシェルさんはレイチェルが大好きなんだろう。
思いがすれ違ってるけど。
「いいけど、長くなるわよ?」
「奇遇ね。私も、長くなるよ」
これは、良い好敵手を見つけたかもしれない。
お互い見つめ合って、ニヤリと笑う。
「ここでも、また無視されてる……」
あっ、ピーキー令嬢がガチ凹みしてる。
しかし、いまここでレイチェルの昔話以上に大事なことなんてないし。
「ほら、ポーラも誘ってあげるから。レイチェルって本当に可愛いんだよ」
「違う……転生と前世について、話すんじゃなかったのですか?」
「はっ!」
「あっ!」
ピーキー令嬢に突っ込まれて、思い出した。
そうだった。
私たち転生者同士の情報交換を行うのが、先だった。
いや、後でもよくないかな?
商談とか交渉って、まずは他愛無い世間話から始めるもんだし。
「まあ、その話はおいおい」
「ええ? そっちがメインですよね」
ミッシェルの言葉に、ポーラが心底驚いた様子で突っ込んでいた。
うーん、どっちもメインかな?
「流石に、これ以上離れてたら他の子たちが心配するでしょう。今度、私から二人に招待状を送るから。外に音が漏れない部屋も、用意してあるわよ」
おお、ミッシェルさん頼りになる。
「そこで、私を亡き者にしたりしないですよね? 特に、エルザ様」
「ええ? するわけないじゃん。転生者かもしれないけど、私は可愛い子みんなの味方だよ」
「この国でも最高峰の美女二人に囲まれてて、そのうちの一人にそんなことを言われるとなんだかモヤっとしますけど……信じます」
やだなぁ、私がこの国でも指折りの美女だって?
知ってた。
でも、皆も同じくらい可愛いと思ってるんだけどね。
本当にもう少し幼い時は、私を含めてみんな天使ちゃんだったもんね。
「それよりも、もし前世での死亡時の年齢を基準にしたら……見た目通りの年齢じゃないってことですよね?」
ポーラの突っ込みに、ついミッシェルと見合ってしまった。
そっか……見た目で、ミッシェルの方が年上だと思ってたけど。
そうじゃない可能性もあるのか。
なんなら、ポーラが一番年上だったり。
それから、少しだけ情報交換して別れることに。
「では、エルザさん、また招待させてもらいますね」
結果として、ミッシェルが自然に私に敬語を使うようになった。
「ポーラちゃんも、またね! 美味しいお菓子とお茶も、用意しとくよ! ジュースが良かったら、そっちでも良いよ! 炭酸飲料とか作れるし」
「た……楽しみにさせてもらいます」
そして、ポーラがミッシェルに子ども扱いされるようになった。
……まあ、身分や今の年齢を考えたら普通のやり取りに見えなくもないか。
いや、私も彼女には優しくしてあげたいと思ったよ。
ちょっと、若すぎるというか……涙無くしては、語れなさそうな事情がありそうだったし。
「学校でも声を掛けて良いよ! 皆には、上手いこと説明しとくから!」
「いや、それ無理です。もともと、男爵家と公爵家じゃ身分が違いすぎますし。あんな無礼を働いたうえに、馴れ馴れしく声を掛けるとか。調子に乗ってると思われて、干されちゃいます」
「そんなやつは、私が干しちゃうから大丈夫」
「物理的にというか、魔法でリアルにやりそうなんで遠慮します」
そしてポーラは私に対して、余計に遠慮するようになってしまった。
一番おばさんで、悪かったね!
ギリ二十代だったんだから、若いでしょ!
ミッシェルさんより、二つ上ってだけだけど……なんか、勝ち誇った顔をされた。
されたけど、私でさえ若くしてと思ったのに、それより若かったんだから勝ち誇ってる場合じゃないよね?
もう少し、悲観してもいいんじゃないかな?
「若くして死んだのは残念だけど、転生できたから人生勝ち組よ!」
あら、やだミッシェルさん男前……逞しすぎて、最初の印象と全然違うんですけど。
あっ、あとポーラさん、たくさんお買い上げありがとうございます。
ちょうど商会長来てるから、口を利いて目いっぱい割引させとくよ。
430
お気に入りに追加
2,334
あなたにおすすめの小説
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?
りーさん
恋愛
気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?
こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。
他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。
もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!
そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……?
※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。
1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる