公爵家御令嬢に転生?転生先の努力が報われる世界で可愛いもののために本気出します「えっ?私悪役令嬢なんですか?」

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第三章:王都学園編~初年度後期~

第6話:エルザとミッシェルとポーラ

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 あっ、固まっちゃった。
 私が作ったコーヒー豆屋さんというか、一風変わった食品店で出会ったレイチェルのお姉さん。
 ミッシェルさんに転生者かどうか尋ねた瞬間、凄い勢いでこっちを見て目を見開いた。
 いやもう、首がグキィッて鳴るんじゃないかって勢いで。

 口も開いてるし。
 絶世の美女が台無しだよね。

 あっ、動いた。
 口がゆっくりと閉じていく。
 それから、笑ってるけど笑ってない感じの顔に。
 なんか、焦っているような……

「オホホホ、何を言ってるのかしらねぇこの子は」

 そう言って、腕を掴まれて奥の棚の後ろに連れていかれた。
 積極的だなぁ。

「そういうのは、思ってても人前で口にするもんじゃないよ。おかしな子と思われるわよ」

 あら、心配してくれてるのか。
 頭が、残念な子じゃないかと。

「まあ、確かに当たってるけど……ということは、エルザ様も?」

 あっさりと認めてくれてよかった。
 確信をもって確かめたわけじゃなくて、もしかしてと思ってつい口から出ただけだ。
 そして、棚の奥からこちらを覗く影が。

 ミッシェルさんに転生してるか確認した時に、もう一人ほど反応した子が店内に居たんだよね。
 私たちと同じくらいの子。
 どこかで見たことがあるような気がするんだけど。

「まあ、そうですねぇ……やっぱり、日本人?」
「ピンポイントでそこを聞くのはどうかと思うけど……他の世界の可能性もあれば、欧米人や東南アジア系の可能性とかもあるじゃない……あってるけど」

 あー……確かに。
 日本語翻訳されてるから、スッとそう思えたけど。
 ラッシーなんて店を作るくらいだから、おフランス人の可能性もあったか。
 あってるんなら、良いか。

「うわぁ、嬉しい! 私以外にもいたんだぁ」
「声が大きい! 誰かに聞かれたらどうするの!」

 つい声が弾んでしまった。
 ミッシェルさんが慌てて、口を押えてきたけど。
 
「えっ? さっきから、そこに耳をそばだててる子がいるけど?」
「はっ? えっ? あっ……どうしたのかしら? 迷子かな?」

 棚の陰から覗いていた子を指さすと、ミッシェルさんが表情を変えて声を掛け始めた。

「ふふ、お母さんを一緒に探してあげるから、ここで聞いたことは「私も、混ぜてください!」」

 そそくさと追い払おうとしたミッシェルさんを真剣に見つめて、少女が頼み込んで来た。
 茶髪でサラサラヘアの可愛らしい少女だけれども、なんか見たことがある……

「好奇心猫をも殺すって言うでしょ? 余計なことに、首を突っ込まない方が良いわよ」

 怖いよ、ミッシェルさん。
 ていうか、その言葉こっちの世界でも通じるのかな?

「イギリスの諺ですよね?」
「えっ?」

 その少女の口からついて出た言葉に、ミッシェルさんが動きを止める。
 それから、ギギギと音が鳴りそうなゆっくりとした動きで、首だけをこっちに向けてきた。

「私もなんです」
「はあ? そんなことってある? あるの? いや、あるからあるのか」
「ちょっと、何言ってるかわかんないっすね」
「いや、えええええ?」

 ミッシェルは混乱している。
 そう表現できるほどに美女が取り乱している姿は、珍しくてちょっと楽しいかも。
 少女の方は、ややひいてる感じだけどね。
 
「てか、声でかいよ」
「あっ、ごめん」

 私の突っ込みに、ミッシェルさんが正気に戻ってくれた。
 良かった、良かった。
 いや、良くない。
 ミッシェルさんが転生者で日本人と分かって、さあこれからというところに三番目の自称転生者。
 もしかして、このお店が転生者ホイホイなのかな?

「というか、誰?」
「えっ?」

 まずは誰何してみたところ、今度は少女の方が固まってしまった。
 そんなに驚くような質問だったかな?

「分からないの?」
「うん」
「うわぁ……」

 少女の質問に素直に応えたら、無いわぁって顔された。
 凄い変な顔だけど、見覚えがあるような無いような。

「本当に眼中に無かったんだ……それはそれで、なんというか。安心というか、屈辱というか……複雑ですね」

 いや、良いから質問に答えてよ。
 誰なのさ、あんたは。

「ポーラです。ほら、ポーラ・フォン・ピーキー!」
「ポーラ?」
「本当に分かんないの? 向こうは、かなりエルザのことを知ってる感じだけど? 薄情ね」

 あっ、日本人同士って分かったからか、遠慮がない。
 いや、最初から態度に遠慮は無かったけど。
 違った意味で遠慮がない。
 名前も、呼び捨てだし。

 ポーラ……分からん。
 ピーキーってのは、聞いたことがある。
 どこで聞いたんだっけ?

「ほらっ、ダリウス殿下の! 王城の学生の舞踏会! ほらっ!」
「あー! あぁ? あれっ? あの時のピーキーさんとこのご令嬢は、髪の毛が青かったような」
「染髪ですよ! 学校が始まったのに、そのままなわけないでしょう!」
「なるほど!」

 あのハイパーポジティブ青髪お嬢ちゃんか。
 こんなところで会うとは。
 というか、一人で来たのかな?

「で、誰なの?」
「えっ? ああ、ダリウス殿下に恋する乙女ですよ! 熱烈にアピって、ダンスに誘ってました」
「婚約者の前で? 凄い子ね……この世界を知ってる転生者なら、さもありなんか」
「違います! あれは、ダリウスが私を雑に扱うから、ついムキになって……最後は縁を繋ぐとか、恋仲になるとかじゃなく、なんとかして踊ってやるに目的も変わってまして……その、あの……すいませんでした」

 そうだったのか。
 別に、ダリウスと本気でどうこうなりたかったわけじゃないのか。
 何もしてないのに振られたっぽいダリウスさん、南無~。

「それはそれで……でも、凄いね。感心するわ! 封建制度が色濃いこの世界で、貴族社会のトップに真っ向から喧嘩売るとか」
「色恋沙汰だけに?」

 あっ、茶化したらミッシェルさんに黙って睨まれた。
 というか、黙れって睨まれたのか?
 まあ、確かにすげーやつが現れたって、心底感心したのは事実だし。
 動機は思ったのと違ったけど。

「で、なんで盗み聞きなんて?」

 あっ、転生者云々より、そっちが気になるんだ。

「そりゃ、気になりますよ! エルザさんが来たんだから! もし見つかって、舞踏会の時の報復をされたら怖いじゃないですか! 取り巻きも皆さん、揃ってる状態で! だから、見つからないようにかつ視界の中に入れておけるように、微妙な距離感で息を潜めてやり過ごそうとしてたら……気になる会話が聞こえて来て」
「なるほど……分かってるなら、なおさら凄いわね。普通なら、さっさと店から逃げ……あぁ」

 ミッシェルさんが何かに気付いて、言葉を途中で止めていた。
 その視線の先を、私も目で追う。

「あぁ……そんなにカゴいっぱいに物を入れてたら、置いて出るのも忍びなかったと」
「えぁ、まあ……はい。あの時は、変なテンションで突っ走りましたが。実は、こう見えて小心者なんです」
「の割には、よく話しかけてこれたわね」

 ミッシェルさん、少し彼女に対して当たりが強くないですか?
 何か、気に入らないことでもあるのかな?

「とりあえず、仕方ないから三人でまた日を改めてじっくり話しましょう」
「はい」
「ええ? いま、ここじゃダメなの?」

 すっごく気になるのに、先延ばしにするなんてひどいよ。
 せっかく会えた、他の転生者なのに。
 他にも転生者がいたことに、びっくりだけど。
 どういう基準で、選ばれてるんだろう?

「そんなにすぐ終わる話でもないでしょう。それに、エルザにはじっくりと聞きたいこともあるし。レイチェルのこととか、レイチェルのこととか、あとレイチェルのこととか」
「全部、レイチェルのことじゃん! 私も、ミッシェルに聞きたいことあるし。レイチェルのこととか、レイチェルのこととか、あとはレイチェルのこととかかな?」

 家でのレイチェルの様子や、小さい時の話も聞けたらいいな。
 けっこう、盛り上がる気がする。
 やっぱり、ミッシェルさんはレイチェルが大好きなんだろう。
 思いがすれ違ってるけど。

「いいけど、長くなるわよ?」
「奇遇ね。私も、長くなるよ」

 これは、良い好敵手を見つけたかもしれない。
 お互い見つめ合って、ニヤリと笑う。

「ここでも、また無視されてる……」

 あっ、ピーキー令嬢がガチ凹みしてる。
 しかし、いまここでレイチェルの昔話以上に大事なことなんてないし。

「ほら、ポーラも誘ってあげるから。レイチェルって本当に可愛いんだよ」
「違う……転生と前世について、話すんじゃなかったのですか?」
「はっ!」
「あっ!」

 ピーキー令嬢に突っ込まれて、思い出した。
 そうだった。
 私たち転生者同士の情報交換を行うのが、先だった。
 いや、後でもよくないかな?
 商談とか交渉って、まずは他愛無い世間話から始めるもんだし。

「まあ、その話はおいおい」
「ええ? そっちがメインですよね」

 ミッシェルの言葉に、ポーラが心底驚いた様子で突っ込んでいた。
 うーん、どっちもメインかな?

「流石に、これ以上離れてたら他の子たちが心配するでしょう。今度、私から二人に招待状を送るから。外に音が漏れない部屋も、用意してあるわよ」

 おお、ミッシェルさん頼りになる。

「そこで、私を亡き者にしたりしないですよね? 特に、エルザ様」
「ええ? するわけないじゃん。転生者かもしれないけど、私は可愛い子みんなの味方だよ」
「この国でも最高峰の美女二人に囲まれてて、そのうちの一人にそんなことを言われるとなんだかモヤっとしますけど……信じます」

 やだなぁ、私がこの国でも指折りの美女だって?
 知ってた。
 でも、皆も同じくらい可愛いと思ってるんだけどね。
 本当にもう少し幼い時は、私を含めてみんな天使ちゃんだったもんね。

「それよりも、もし前世での死亡時の年齢を基準にしたら……見た目通りの年齢じゃないってことですよね?」

 ポーラの突っ込みに、ついミッシェルと見合ってしまった。
 そっか……見た目で、ミッシェルの方が年上だと思ってたけど。
 そうじゃない可能性もあるのか。
 なんなら、ポーラが一番年上だったり。

 それから、少しだけ情報交換して別れることに。

「では、エルザさん、また招待させてもらいますね」

 結果として、ミッシェルが自然に私に敬語を使うようになった。

「ポーラちゃんも、またね! 美味しいお菓子とお茶も、用意しとくよ! ジュースが良かったら、そっちでも良いよ! 炭酸飲料とか作れるし」
「た……楽しみにさせてもらいます」

 そして、ポーラがミッシェルに子ども扱いされるようになった。
 
 ……まあ、身分や今の年齢を考えたら普通のやり取りに見えなくもないか。
 いや、私も彼女には優しくしてあげたいと思ったよ。
 ちょっと、若すぎるというか……涙無くしては、語れなさそうな事情がありそうだったし。

「学校でも声を掛けて良いよ! 皆には、上手いこと説明しとくから!」
「いや、それ無理です。もともと、男爵家と公爵家じゃ身分が違いすぎますし。あんな無礼を働いたうえに、馴れ馴れしく声を掛けるとか。調子に乗ってると思われて、干されちゃいます」
「そんなやつは、私が干しちゃうから大丈夫」
「物理的にというか、魔法でリアルにやりそうなんで遠慮します」

 そしてポーラは私に対して、余計に遠慮するようになってしまった。
 一番おばさんで、悪かったね! 
 ギリ二十代だったんだから、若いでしょ!

 ミッシェルさんより、二つ上ってだけだけど……なんか、勝ち誇った顔をされた。
 されたけど、私でさえ若くしてと思ったのに、それより若かったんだから勝ち誇ってる場合じゃないよね?
 もう少し、悲観してもいいんじゃないかな?

「若くして死んだのは残念だけど、転生できたから人生勝ち組よ!」

 あら、やだミッシェルさん男前……逞しすぎて、最初の印象と全然違うんですけど。

 あっ、あとポーラさん、たくさんお買い上げありがとうございます。
 ちょうど商会長来てるから、口を利いて目いっぱい割引させとくよ。
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